《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第九話
朝食を終え、後片付けは瑛彥が引きけたので彼に任せてL字型のソファーに僕と沙羅が隣に座り、橫側に旋彌さんが座った。
「さて、こうして俺は來たわけだが……ぶっちゃけ、話すことはない。花見でも行くか?」
「お義父さん、雑過ぎ……」
話を切り出したかと思えば、話すことはないらしい。
うーん、なんだかなぁ……。
「私は良いわよ? 家にいるだけっていうのも退屈だしね」
「じゃあ決まりな。瑞揶、用意して」
「え? 僕、レジャーシートすら持ってないよ?」
「……じゃあ川辺を歩くだけにするか。それでもいいだろ」
「そうね。魔界の花はギラギラっててしいけど、人間界はひらひらしててしいでしょ? 早く見たいわ」
「沙羅、その表現わかりにくいよ……」
わからないと言いつつ、僕は魔界の花をテレビで見たことがある。
花びらが全部くて、頭に當たるからみんな特殊な傘をさすんだ。
花見なんてとても出來ないみたい……。
「じゃ、各々準備してくれ。俺はテレビでも見て待ってるから」
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お義父さんが指示を出し、僕と沙羅は自室へと向かった。
瑛彥は準備の必要もないし、彼もリビングで寛いでいるらしい。
瑛彥がいてもお義父さんは何も言わなかったが、それは昔から瑛彥の話をお義父さんにしているからだろう。
僕は友達がたくさんいるけど、瑛彥よりも仲のいい人はいないから。
一リビングで、彼らはどんな話をしてるやら……。
廊下を歩く瑞揶はそんな事を思う。
彼らがただテレビをボケッと見てただけとも知らずに。
◇
家を出て暫くは歩道も車道もない開いた道が続いた。
無論、僕たちは4人橫に並ぶなんて事はなく、前を沙羅とお義父さんが歩き、僕と瑛彥が後ろに並んで歩いた。
近くの桜並木がある川辺まではおよそ15分、その間にお義父さんは沙羅の格とか癖を見抜くだろう。
その事はいいんだけど、僕がその間、瑛彥の相手をしなきゃならないのが大変だ。
……別に、嫌というわけではないが。
「瑞っちさぁ、春休みは何してるの?」
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當たり障りない質問を瑛彥がぶつけてくる。
毎年聞かれることだし、わかってるとは思うが……。
「僕は勉強と家事して終わりかなぁ……」
「やっぱ相変わらずかよ。沙羅っちもいんだろ? 家事分擔してゆっくりすれば?」
「うーん、僕はやりたくてやってるから、分擔しなくてもいいんだけど……」
「……うーん。あ、暇なら俺と遊ぼうぜ? カラオケとかボーリングとか、いいだろ?」
「僕、歌はちょっともなぁ……」
僕は楽は弾けるけど、歌はてんでダメだった。
カラオケ……前世で行ったけど、28點くらいかな。
吹部の部長なのにと、笑われたのが懐かしい。
「んー、あー、でも瑞っちに現代的な遊びって似合わねぇよなぁ……絵本とか描いてそうだし」
「あのね、僕だってゲームセンターとか行くよ?」
「本當か?」
「……い、行ったよ? 2年ぐらい前に……」
「…………」
「……え?な、なに?」
「……俺が悪かった。今度一緒に絵本でも作ろうぜ」
何故か途轍もなく哀れんだ目で見られ、かつポンポンと肩を叩かれる。
……何か悪かったんだろうか?
「ま、春休みもいいけどさ、前の2人が何話してるか気にならねぇ?」
「僕は別に。お義父さんの事だから、沙羅の格を識別してるんだと思うよ」
「……は? なんで? 親戚なんだから、格なんざ知ってるだろ?」
「えっ? え、ああ〜、うんっ! 知ってるよ! お義父さんもわかってる!」
「…………」
瑛彥の目が細くなり、薄笑いを浮かべる。
……しまった、墓を掘ってしまった。
「……何か事があんだなぁ〜。俺には言えないわけ?」
「い、いやぁ、それはプライバシーと言うかその――」
「白狀しろよぉ。おいおい、俺に言えないなんてあんまりじゃないかよ〜?」
「うう〜……ちょ、ちょっと待ってね……」
渋々と僕は小走りで前を歩く沙羅に追いつき、の上を瑛彥に話す事になりそうな旨を告げた。
「……瑞揶が信用してる男なら、話してもいいわ」
そんなありがたいようなありがたくないような返答を殘し、お義父さんに並んで沙羅は先に進んで行った。
……信用、信用?
瑛彥はぜっったい口が軽い。
僕の能力を喋ったりはしないけど、男と男の約束だとか言われて3回も僕のをバラした男だ。
沙羅にとっては重大なだし、ここは話さない方がいいのかな?
瑛彥の元へ戻ると、すぐに彼は返事を求めた。
「沙羅っちはなんだって?」
「えっ? ああっ、ちょっと、瑛彥は無理かなって……」
「へぇ〜……そんなに深刻な容なのか?」
「……深刻って言えばそうだけど、もう解決したよ。1つだけ教えるなら、彼も家族関係なんだ。あんまり言わないでよ?」
「……へぇ。了解っ。教えてくれねぇなら聞かねぇさ」
「うん……」
でも、この先に高校を一緒に過ごすから知る機會はあるかもしれない。
その時は、沙羅から瑛彥に話すだろう。
まぁ、瑛彥に話したところでどうということもないしね……。
「……瑞揶、今失禮なこと考えなかったか?」
「え〜、そんな事ないよ〜?」
「……。ま、もうちょいで川辺に著くぞ。ゆっくり桜でも堪能しようや」
「うん……」
堪能できるかどうかは定かではないけど、薫風にじった桜の花びらの中へ、僕達は向かって行った。
◇
私がなんでこんな中年のおっさんと並んで歩かなきゃいけないのか。
とはいえ、瑞揶は1人でほわほわしてるだけだし、瑛彥はナンパ口調で話しにならない。
この配置に納得できるとはいえ、瑞揶の義父にあたる男。
警部である事からも、何を話してくるかはわからない。
家を出てすぐから、私は一瞬たりとも警戒を解かなかった。
「沙羅ちゃんは、瑞揶と生活しててどうだ? 仲良くできそうか?」
「……ええ、瑞揶の醸し出す空気に順応できそうよ」
家を出てからまだ曲がり角を1つ曲がったところ、最初の質問はこれだった。
笑顔で尋ねられると、それが余計警戒に繋がる。
私が1番信用できてないのは、瑞揶の義父だから、という所だ。
瑞揶の力が強力であることは誰にでも明白。
もしも本當に全知全能とでも言うのなら、3つの世界を掌握することすらできてしまう。
その子の義父なのだ。
あわよくば、私を暗殺するとかもあるかもしれない。
まぁ――この私が暗殺されるわけないんだけど。
「そっか……瑞揶アイツは、昔っからあんなじだよ。なんて言うか、朗らかで優しい」
「見てれば分かるわ。瑞揶は素直で優しい子だってね」
「……そう、優しい。けど、瑞揶あのこも寂しいんだ。優しいだけじゃ寂しさは消えない。大、あの歳で家に1人っていうのは――」
「?」
旋彌さんが言い掛けて口を噤んだ。
何かを悩むように眉を顰めるも歩調はさずに歩いた。
「……どうしたのよ?」
「……いや。寂しいっていうのは思い違いだったのかもと思ってな。瑞揶はいつまでも神が長していない。だからといって、歳を取らないわけじゃないもんな」
「當たり前なことを言わないでよ……」
人は時間を使って歳を取る。
神はどうしたら歳を取るか知らないけど、は間違いなく老けるでしょう。
「なに? 瑞揶が子供だって言いたいわけ?」
「……まぁ、そうなるかな。瑞揶は長しない。どうにもまだ、足枷が外れないようだからな……」
「……足枷?」
足枷――足を拘束する道。
瑞揶は神にそれが付いてると言いたいのだろう。
普通に考えてみれば、このおっさんは警部だし、瑞揶が過去に何があったのか知ってるのよね。
「瑞揶に何があったの?あの子のする悲しい目はなに?」
「……あぁ、アレか。なんというか、そう……に取り憑かれてるんだよ」
「……?」
あっけなく答えてくれたかと思えば、中々難しい比喩だった。
に取り憑かれる。
それはどういうことなんだろうか――?
いや、瑞揶は関連の話であの暗い目をするらしい。
だったら、昔に関連で何かあったのね。
「……あんまり、俺の口からは言いたくない。俺が話しても信憑無いしな。話が聞きたかったら、直接瑞揶に聞いてくれ」
「……聞いて大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃないだろうな。最悪、瑞揶が姿をくらましてもおかしくない」
「……そこまでの話なの?」
「瑞揶アイツは心が弱い。自分が発狂しても制できるよう、自分に超能力も掛けている程にな」
ふと、旋彌さんが立ち止まる。
彼が後ろを振り返るのを見て私も振り返ると、なんだか瑛彥がニヤニヤして瑞揶に話し掛けていた。
瑞揶は冷や汗をかきながらしどろもどろな口調でけ答えをしている。
「……哀れなもんだよ。本當に」
旋彌さんがポツリと呟いた。
聲のトーンが低く、哀悼の意を捧げるような聲。
その一言にどれだけの想いが詰まってたのかは、私にはわからない。
ただ――
「アンタ、いい父親ね」
「……ん?」
「なんでもないわ」
ちょっと軽はずみな発言だったかもしれない。
だが、うまく聞き取れなかったらしいので良しとしよう。
その直後に瑞揶からバカな質問をされたけども、気分が気分だからテキトーなけ答えをしてしまった。
ちょっと反省しつつも、取り敢えずは全員信用したし、花見を満喫するとしましょうか
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