《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第十話

風に流れて花びらが舞い、ひらりひらりと地面に著く。

桜の花は満開で、しずつ花びらを落として行く様子を見せてくれていた。

連なる桜の木々が緩やかに流れる川を高所から見下している。

この辺りは手摺てすりで川が囲まれてて、しかも地上より川が低いんだよね。

冷たいステンレスの手摺からを乗り出して川の流れを見ると、所々散りばめられた桜が水面を泳ぎ、模様を一瞬一瞬変えていった。

あの水はどこに流れ著くのか知らないけれど、きっとその場所は桜の花びらが溜まっているに違いない。

「うおーっ、魚泳いでる。アイツ食えんのかな?」

隣に來た瑛彥が季節を無視したことを言い出し、僕はそれまで考えていたことを放棄した。

「……瑛彥、桜の花びらを見なよ」

「え? 瑞揶は魚見てたんじゃねーの?」

「お魚ならお店で見られるでしょ……」

「でも生きてるしよぉ……」

「水族館行きなよっ……」

どこまでもツッコミをれられる瑛彥の言語力というか、思考力には頭が上がらない。

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下げたくもない頭なんだけどね。

「こーら2人共、手摺は汚いぞ」

僕らが付いてこないのに気付いたのか、お義父さんが注意しに來る。

沙羅も呆れ顔でこちらを見ていた。

「手なんて、後で洗えば大丈夫だぜ!」

「僕も、帰ったらお風呂沸かすよ?」

「そういう問題か……。もう子供じゃないんだから、安易な真似はよしてくれよ」

「俺は子供だ」

『…………』

どうしようもない瑛彥の言葉に、お義父さんは眉間を摘んだ。

もう瑛彥も15歳なんだけどなぁ……。

……心は子供か。

僕もそうだしね。

「……じゃあそこの子供2人。金渡すから買い出しに行ってこい。俺はあっちにある公園で沙羅と待ってるから」

「なんだと旋彌さん! 沙羅っちみたいなちんちくりんがしゅm――」

「誰がちんちくりんじゃぁあ!!」

「ゴホッ!?」

沙羅の華麗な飛び蹴りを喰らい、瑛彥が桜の木に叩きつけられる。

……うわぁ、飛び蹴りなんてテレビ以外で初めて見た。

「いってぇ〜っ!! なにすんだよ沙羅っち!」

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「ふんっ! 瑞揶に対する侮辱は許すけど、私に対する侮辱は許さないわ!」

「……そこ逆じゃねぇのかよ」

呆れながら、腰を抑えて瑛彥が立ち上がる。

……沙羅、本人の僕が居る前でも遠慮ないんだなぁ。

まぁ、沙羅にとって僕がその程度の存在でも、僕はいいんだけども。

「お義父さん、お金は僕が出すからいいよ。行こうか、瑛彥」

「へいへーい……」

蹴られた事にご不満か、多怒気の篭った返事をしながら瑛彥が僕に付いてくる。

川から小道の方へ歩いていくが、瑛彥は立ち止まった。

「……どうしたの?」

「やっぱり俺は、あの2人の様子を見てくるぜ!」

「えっ?」

「瑞っち、買いは全部任せた! あっ、カレーパン買っとけよな〜!」

「…………」

それだけ言って彼は走り去って言った。

覗き行為に似た何かをするのは良くないこと……なんて、瑛彥に言っても仕方がないので僕は自分のすることをしよう。

コンビニでトイレを借り、そこできちんと手を洗ってから品々にり、おにぎりや菓子パン、500mlペッドボトルのお茶を4本と、大きなゴミが出ないものを幾つか買った。

チョコクリームをサンドしたクッキーも買ったけれど、これは自分用ということで……。

ありがとうございましたーとやる気のない聲を背中に掛けられながらコンビニを出て、ふと思う。

こんな買いでも5分ぐらいは経ってるし、5分もあれば人って以外と喋れるから次は4人でお喋りかな〜?

まだ話題とかあまり無いと思うけど、きっと楽しい會話ができるだろう……主に瑛彥がボケてくれるから。

そんなことを思い浮かべると、自然と笑顔になってレジ袋を大きく振った。

ガシッ!

「……え?」

振った買い袋は何かに摑まれた。

下を向くと、髪の長いが震えた手で摑んでいる。

服は埃まみれで黒髪も艶がない。

……歳は同じくらいに見えるんだけど、こんな朝方から何用でしょう?

「……えーと、その……何か用でしょうか?」

「……こっ、これは!?」

「えっ?」

「おにぎり!!?」

「は、はぁ……」

確かに中にはおにぎりもってるけどばなくても……。

は顔を上げ、僕に尋ねる。

「なんでもする! 幾つか頂戴! お願い! 後生!!」

「な、なんか言葉がおかしいよ? それより、別に食べてもいいけど落ち著いて?ね?」

「うおおぉぉーーー!」

どんな許可を得たと思ったのか、は僕から袋を奪い去り、中にある昆布りおにぎりの袋を一目散に開けた。

一口でおにぎりを口の中に押しれ、んぐんぐと嗚咽をらしながら頑張って飲み込んだ。

「……味」

「……丸呑みしてるように見えたけど、大丈夫?」

「あー、平気だよ。正気に戻ったし、普通に食べさせていただく」

「う、うん……」

続いて鮭おにぎりを手に取り、ビニールをゆっくりと破いていく。

それから一口、パサリと海苔の噛む音が綺麗に聞こえ、靜かに飲み込む。

……正気を失うのと保つのとでは、大分違うんだね。

「……ペッドボトルが4本。4人で行中? もしくはどっか買い出し中の方だった?」

「……お出かけ中だけど、気にしなくていいよ〜。買い出ししてたんだけど、みんな優しいから、遅れて戻っても大丈夫」

「なるほど。因みに、ウチは大して優しくないから遠慮せず食べちゃうよ?」

「あ、じゃあそれは全部あげるね。僕もまた買いに行った方が多分早いし、そっちの方が両得でしょ?」

「マジで?でもさすがにそれは……うーん……」

黒髪をくるくると指で捻ってが考え出す。

數秒も経たずに彼は袋から3つおにぎりとお茶を1本取り出し、殘りを僕に差し出してきた。

「これで花見にでも行ってきな」

「……元々僕が買ったものなんだけどなぁ」

「あ、あと住所教えて。近日中にお禮に行くから」

「……逆に、住所教えてよ。お禮に來る前に死んでそうだよ」

ちょっと失禮だったかもしれないけど住所を聞いてみる。

案外すんなりと教えてくれたので、それを攜帯のメモに書いておく。

は今書くものもないらしく、今度僕から行く旨を伝えた。

「いやはや、本當に命の恩人ってじだよ。ありがとね」

「あはは……というか、どうしてこんなことに?」

「いやぁね、今年から高校生だー!って1人暮らし始めてバイトも始めたんだけど、4月まで中學生なの知らなくて、バイトクビになって死にかけたっていう」

「……僕はもう數日、君の面倒を見る必要がありそうだなぁ」

1人暮らしで職もない……つまりは食料もなくてここで乞いをしてたということは容易に想像できる。

僕はといえば、無駄にお金があるから熱費や食費を出すことだってできるし、これはやってあげるべきだよね……。

と、いろいろと考えてはみたけれども、

「そもそも、親さんに助けを求めたら良いんじゃないかな?」

「……公衆電話ってなんであんなに高いのかしらね?」

「……100円くらいならあげるよ」

どうやら電話に必要な10円すらないらしく、100円を渡すとこれで延命したと騒ぎながらは去っていった。

何だったんだ……と思っている間に10分以上経ってるし、もう一度買い直してから川にある公園へと戻った。

こちら、羽村瑛彥隊員。

尾行というものは、気付かれないようにするのである。

といっても、観察対象はくわけでもないので尾行と呼ぶには些か及ばないのだ。

だからと言えど、気付かれるわけにもいかず、俺は自然と同調しなければならない。

沙羅っちと旋彌さんの座るベンチの背後にある草花、その奧の柵で、俺は這いつくばりながらうっすら2人の様子を伺っていた。

「アイツの過去については、俺からは何も言えない。プライバシーに関わることだし、本人に聞いてくれ」

現在、沙羅っちが旋彌さんに瑞っちの過去を聞いたが、そのガードは堅く、聞くことはできなかった。

あわよくば俺も聴きたかったが、これは殘念。

「君にも事があるように、瑞揶にも事がある。瑞揶は多分、君の事を聞いているだろうが、それは解決されたんじゃないかい?」

「……そうね。十分、すっきりと解決したわ」

「だろう? なら君も、彼の問題が解決できる自信がないうちは、聞かない方がいい」

「……なによそれ。問題すらわからないのに、どうしろってのよ」

沙羅っちがごねるが、旋彌さんは微笑を浮かべ、沙羅っちの肩を叩く。

「瑞揶には、能力がある。その能力で解決できたが、君にはまだ、解決どころか問題も聞けてない。ならまずは、信頼することからスタートするべきじゃないか?」

「……ふむ」

「信頼っていうのは、たった二文字でも大切だ。一度した信頼を裏切るのは、自分を裏切るのと同義だからね。そして、互いに信頼することができれば、なんだって可能になる……なんて、おっさんの俺がカッコつけて言っても仕方ないけどな。長年刑事やってるんだ、許してくれ」

「いいえ、ためになったわ。まずは仲良くならなきゃダメよね」

「ははっ、その意気だ。瑞揶は優しいし、なよなよしてるが、意外と頼りになるんだ。是非そうしてくれ」

「無論よ。むしろ、瑞揶の方が仲良くなってくれなかったら意地でもならせてやるわ」

「……あまり無茶はしないでくれよ?」

「それについても、ぬかりないわよ……」

……なんだかいいじに會話が途絶える。

うっわ、盜み聞きしてる俺の方が罪悪じてきた。

ま、どんなに足掻こうと、俺より瑞っちと仲良くなんて無理だけどな、がっはっは。

「……それはそうと、瑞揶遅いわね。そんなにそのコンビニって遠いの?」

「いや、ここから4〜5分のはずだが……瑞揶の事だ、財布でも拾って屆けているんだろ」

なんてベタな展開を想定してるんだ……と思いながらも、瑞っちならありえなくもない。

なんでも良いが、アイツが帰ってきたら俺がいないのがバレる。

ここはもう合流した方がいいだろう。

コソコソとコンクリートの上を匍匐前進して移したのだった。

沙羅っちを疑ってた所も幾つかあるが、疚しい所は無いようで何よりだった。

……盜み聞きする俺の方が疚しい?

……うん? なんのことやら。

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