《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十四話

ナエトはずっと響川2人の後ろに付き、瑞揶と沙羅が別れるのを待っていた。

しかし、彼らは家が同じなのだから別れるはずがない。

その事をナエトは知らなかったのだ。

自己紹介のとき、瑞揶と沙羅のが響川である事など、とっくに頭から吹き飛び、沙羅の事は舊姓でしかないと思い込んでしまっていた。

(……隨分と長いが、この2人、付き合ってるのか? こっちの方面に駅はないし、電車というわけでもないだろう。帰り道がここまで一緒なのは偶然か……)

後ろから2人を眺め、ナエトはそんな事を考えていた。

対して、前を歩く2人は――

「ダメよ。今日はハンバーグ作らなかったら許さないわ」

「栄養価がちょっと偏っちゃうよーっ。沙羅は頭が良いんだから、お魚食べてもっと頭よくなるべきだと思うよ?」

「頭がいいって……いやまぁそうだけど……。ふふん、いいわ。魚で勘弁してあげる」

「わーっ、沙羅がお利口だ〜っ。嬉しい〜」

何も気にすることなく、夕飯について論議するのであった。

もうすぐ僕達の家、響川家に著く。

僕はさっきから後ろで黙って付いてくるナエトくんが気になり、沙羅の言う事があまり頭にってきて居なかった。

後ろで歩く彼はどこか神妙な顔つきをしており、話しかけにくい。

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なんでここまで付いてくるのか、疑問だった。

この辺の地理は大頭にっているけど、本屋さんならもっと近い道があるんだから、そこを通ればいいのに……とは言っても、ナエトくんが人間界に來て日が淺いか深いかわからないからなんとも言えないのだった。

ただ、この奇妙な空気はどうも気味が悪い。

「……ねぇ、沙羅」

「あん? 何よ」

ただ聲を掛けただけなのに不機嫌ですと自己主張したような返事が返ってくる。

もうこれも慣れ……いや、まだちょっと怖いかも。

「もしかしてだけどさぁ、ナエトくん――」

「ええ、バレてるわね」

あっけらかんと沙羅は答えた。

やっぱりバレてるみたい。

僕の能力で“サラ”の記録は世界から消えてるのに、自力で思い出した様だ。

だとすると監視か、あわよくば殺そうとしてるのかな?

「どうしようか?」

「魔界の王子だろうと、襲ってきたら殺すわ。このままで居てくれるなら、別にどうする事もないわね。私は今の平穏を守れるならなんでもいいし、いざって時はアンタが守ってくれるんでしょ?」

「うん……だけど、あまり殺したくはないかな。記憶を改竄……はダメだよね。また思い出すし……」

し思い悩む。

もぅ、なんで魔王の子には効かないんだろう……。

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ややこしいなぁ……。

「……黙っててもらうしかないよね?」

「説得できんの?」

「わからないけど……とにかく、向こうが何かしてくるまでは現狀維持だね」

「……そうね」

現狀維持という言葉に沙羅も頷き、この話は終わりとなる。

もう僕らの家は目前まで迫ってきていた。

「……ねぇ、ナエトくん」

「む?」

後方であごにてをあてて何かを考えていたナエトくんに聲を掛ける。

「僕らの家、もうすぐそこなんだけど……」

「僕らの?お前達は一緒に住んでいるのか?」

「私たちは従兄弟いとこよ。瑞揶の家が高校から近いから、下宿してるのよ」

「……ほう。そうか、る程な」

彼のした質問は沙羅が答え、なんの合點がいったのか、納得したように目を閉じ、頭を掻いていた。

「……まぁ、良い。帰るというならここらで別れるとしようか」

「……そうね。というか、アンタ居ても居なくても変わらなかったわよ?」

「うるさいなっ! 別に僕の勝手だろ!」

「……そんな怒らないでよ。ほんっと短気なんだから」

沙羅が「ねぇ?」と僕に同意を求めてくる。

沙羅も沙羅で十分短気だから、僕はうーんと首を捻ってわからないと言うように仕草を返した。

「……まぁいい。じゃあな、2人とも」

「ええ、またね」

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「ナエトくん、またね〜」

ナエトくんはろくに振り返らず、そのまま去っていく。

結局、付いてきただけで何もなかった。

僕と沙羅は顔を見合わせてもう大丈夫とで下ろす。

「なんか疲れるわね……」

「そうだね〜……ドキドキして心臓に悪いかも」

「……アンタ、自分の発言が気楽だって気付かないわけ?」

「え? なんで??」

「……もう話す気も失せたわ。ほら、帰りましょ」

「うん……お家に帰ったらご飯作らなきゃ〜」

「手伝うわよ。何かしてないと落ち著かないわ」

「え、じゃあ沙羅はお風呂掃除お願い」

「わかったわ」

家に帰ってからする事を決め、眠気からか軽くびをして僕は踵を返した。

「死ね」

直後に聞こえたそんな聲と、鉄と鉄がぶつかる金屬音が聞こえたのはほぼ同時だった――。

私が正をバレてないと油斷しているならば、そこを突いて奇襲を仕掛けてくるのはわかっていた。

だからこそいつでも武を出せるような用意をしていた。

結論として、音もなく斬りかかってきたナエトと刃をわし、1度振り払って後方に飛ぶ。

「……一筋縄にはいかないか」

「舐めないでくれる? 私は鋭兼斥候よ。工作員も兼ねていた私が気付かないわけないでしょうが」

ため息混じりに言ってみせる。

ぶっちゃけ、私は奇襲に引っかかることなんてありえないし、1対1なら負けはない。

引き分けはともかくとしても、ね。

魔界ではそうだった。

戦闘能力なら魔人、天使が同等らしいが、だったら魔人最強の私はその頂點なのではないかと、驕りでもなく言うことができる。

「……なるべく戦いたくはなかったな。僕はあまり、人を殺したことがないんだ。殺し損ねるかもしれない」

「あら、勝てると思ってるのかしら? 純粋な潛在能力ならアンタのが上でしょうけど、戦歴が違うわ。今なら降伏もれてあげるけど?」

「ふんっ、誰がっ!!」

ナエトは刀を振り上げ、一歩を踏み出す。

その一歩の勢いは凄まじく、私の元まで一直線にやってきた。

「わからない奴ねぇっ!!」

私は両手で刀を持ち、ナエトの振るった刀を迎え撃った。

鳴り響く金屬音と腕に來る重たい衝撃。

純粋に筋力では男のナエトの方が上、ならば――。

私は刀をけ流して前のめりになり、頭突きを食らわす。

「ツッ!?」

ナエトは後ろにたじろぎ、私から目を離さないまま片手で頭を抑えた。

「おらァッ! 痛がってんじゃないわよっ!」

「クッ、この石頭が!」

私は飛び、両腕で刀をナエトの脳天へと振り下ろす。

しかし、とっさに構えられた刀によって私の攻撃は遮られる。

私は不敵に笑い、握った刀を手離した。

「!?」

私の刀が吹き飛び、ナエトが驚く。

彼の強引に振るった刀を空中で躱し、空中で一回転して蹴りを放つ。

流石に今のは食らわず、ナエトはバックステップで避けていた。

私も著地し、刀を拾って距離を取る。

「やれやれ、近接戦は面白くないわね」

「……正気かサイファル。こんな住宅街で魔法を使えば、數千人が死ぬぞ?」

「それで私は困らないし、困るのはアンタだけじゃない? 魔人が人間界で暴れて人間界と魔界の信頼に亀裂が――なんて、面白いじゃない?」

「……貴様。矢張り殺しておくしかないようだな」

「その程度の実力で何を言ってるんだか……」

私は呆れてモノも言えないように肩を竦めた。

正直、殺そうと思えば初撃の時に頭突きなんてせずに魔法で終わりだったのだ。

意志反映とかいうよくわからん系統の魔法、その中で【龍天意】とか【死天意】とか、名前の時點でかなり危ない魔法を使えば勝てる。

めちゃくちゃ珍しい系統だから私以外は殆どこれらの魔法使えないし、ナエトは魔王系統だったか、そういう魔法使えるらしいけど、私には勝てないでしょ。

「んで、どうするの?続ける?」

「ここで切り上げて明日も學校で顔をあわせるのか?冗談じゃない!僕はお前を殺す!」

「……はぁ、仕方ないわねぇ」

私はけったいな態度で刀を構えた。

最早言葉をわす余地はない、この場で殺す……。

「ねぇねぇ、沙羅」

「……あん?」

集中しようと思っていた矢先、今まで蚊帳の外だった瑞揶が話し掛けてくる。

今更なんなのよ?

何て思っていると、彼は手に抱いたものを私に向けてきた。

「ほら見て、野良貓拾ってきちゃった! どうしよう!!?」

「……アンタ、今の狀況でよくそんなこと言えるわね」

彼は満面の笑みを見せながらの中にいる白とグレーのシマシマな貓を見せてくる。

コイツの頭ん中は一どうなってんのか教えてしいわ。

「あのね〜っ? 僕はどうしたら沙羅とナエトくんが仲良くなれるか考えてたんだよ? もちろん、沙羅に痛い思いしてしくないからそういう風にしといたから、沙羅は守ってるよ!」

「どの辺が守ってんのよ! 野良貓捕まえて笑ってるだけじゃないの!!」

「さっき頭突きしてたでしょ? 反作用ゼロにしましたっ」

「大した痛みじゃないから守らんでいいわぁっ!!」

「痛いっ!?」

瑞揶の頭をぶん毆る。

なんなのかしらコイツ、どこまで能天気なのよ。

頭の中ほのぼのしてるとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ。

「う〜っ、沙羅がめるよ〜っ……」

「全面的に悪いのはアンタでしょうが。ほら、ナエトも呆れて――」

と言いかけて、ナエトの姿を探すと彼は見當たらなかった。

……呆れ果てて帰ったのかしら?

「うわぁぁあ!!? あっ、貓がぁっ!!」

「!?」

次の瞬間には、背後から瑞揶のけない聲が聞こえて來た。

何事かと思って振り返ると彼の姿はなく、上を見上げると、ナエトに襟首摑まれて宙釣りにされていた。

しかもナエトはしっかりと私から距離を取っている。

「サイファル! お前の家族を殺されたくなければ武を捨てろ!」

「……はぁ、そう」

を捨てろと言われて、むしろ私は武を構えた。

いや、瑞揶のためを思うなら捨てないでもないけど、アイツ不死だし、このシリアスぶち壊した禮もしてやらなきゃだし、多痛い目にあっても問題ないというかね、うん……。

「!? サイファル、お前をひと月匿ってくれた家族だろう!? 見捨てる気か!?」

「ソイツの顔見てから言ってみなさい」

「……は?」

ナエトが瑞揶の様子を見ると、瑞揶は力が抜けきった様子で夜の街を眺めていた。

「わーっ、風が気持ちいい〜」

「…………」

「ソイツで脅したって、私は怯まないわ」

「いっ、いやっ! 殺すんだぞ!? おい瑞揶! お前今の狀況わかってるのか!?」

瑞揶を持ち上げて自分の顔の前に持ってくナエト。

瑞揶は「わぁー」とかけない聲を出していた。

「わぁー……ん? あ、うん。そろそろ晩ご飯の支度しなきゃだから帰らないと、って話だよね?」

「本當に殺すぞ貴様!?」

「えっ!? なんで!?」

「…………」

見ているこっちがアホくさくなってくる。

私は刀を消し、しゃがみこんだ。

「貴様……人間の分際で僕を愚弄しやがって、タダで済むと思うなよ!!」

「タダじゃだめ……お金払えば許してくれるの?」

「舐めてるのか貴様ぁああああ!!!?」

「えーーっ? というか、本當にもう帰らないといけないから、帰るね」

「はっ、帰れるとおも――」

「“停止”」

瑞揶が呟いた剎那、ナエトは口を開いたままかなくなる。

瑞揶が超能力できを完全に止めたんだろう。

まったく、おっかないわよね。

あんな風にされて、後は斬れば死ぬんでしょ?

恐ろしすぎるわ。

アイツの顔にはまったく似合わない能力なんだけどね。

瑞揶はナエトを持ってゆっくりと降下し、テレキネシスを使ってるようにナエトを遠くの道に置いて戻って來た。

「……アンタ、軽いわね」

「え、重?」

「いや、ノリが」

「?? よくわからないけど、重は44kgだよ?」

「……軽っ」

頭の中が軽いと思ったら理的にも軽い模様。

まぁ100kgだろーが私なら片手で持ち上げられるし、瑞揶の外見が豚みたいにならない限りは関係ないけどね。

「……なんかバカにされた気もするけど、とりあえず――“再開”」

瑞揶がナエトを指差してそう告げる。

途端にナエトはき出し、慌ててあたり一面を確認し出した。

私達の姿を見つけると、再び迫ってくる。

「貴様らぁぁあああ!!!」

「しつこいよ〜っ。僕は喧嘩なんてする気ないし、沙羅も殺したくないよね? 優しい子だもんね?」

「……まぁ、理由もなく殺したくはないわね」

「ほら〜、ナエトくんもそんな騒なはしまっ――」

「黙れぇええ!!!」

ナエトは私ではなく、瑞揶に向かって刀を振るった。

コケにされたことを怒り、我を失っている様子。

瑞揶が襲われてるにも関わらず、私はかないで靜観していた。

実際、刀は瑞揶に當たることはなかった。

彼に當たる直前に、砕け散ってしまったから――。

「――ッ!? 刀が――」

「いい加減にしてよ。僕怒るよ? 人に刀とか振るって楽しいの? 沙羅を殺す事はどうしても必要なことなの? 僕は沙羅の事が大好きだし、殺さないでしいんだ。そうお願いしないとダメなの?」

瑞揶にしては冷たい聲調でつらつらと言葉を綴る。

……なんか恥ずかしい言葉が聞こえた気もするけど、瑞揶の大好きって、園のパンダが好き!と同じレベルなんだろう。

あまり気にしたことじゃないわね。

「お願いだと? ソイツは魔界に害をした存在だ! 消すのが魔界の皇太子としての務めなんだよ!」

「そんな過去は、もうないよ。僕が消し去ったからね」

「何を言っている! 僕はしっかりと覚えている! ソイツは魔王城や他の政府機関や戦闘機関を壊しつつのこのこ人間界に出て行った奴だぞ!? 殺さないわけにはいかないんだよ!」

私の罪狀をわざわざ説明するナエト。

いやー、だって破壊しないとすぐ追手寄越すじゃない?

私は死にたくないし、政府機関とか戦闘機関壊さないで行くわけないでしょ。

多分死者は出してないからそんな事でギャーギャー言わないでほしいわね。

何てことを考えてため息を吐いていると、一瞬だけ瑞揶が私を見た。

なに、そのチラ見?

「……そっか。でも沙羅は沙羅で死にたくなかったから壊しただけみたい。追手が怖いからってね。沙羅はできるだけ殺さずに頑張って逃げた。なのにどうしてそんなに追いかけるの?そんなに1人のの子が自由になるのを遮る理由、あるなら聞かせてよ」

「…………」

瑞揶が言い切ると、ナエトはたじろいだ。

チラ見したのは私の過去を見たのね。

確かに、言われてみりゃあ1人相手に魔界総出ってじよね。

逃げたのは私だけじゃないからそうでもないかもしれないけど、人殺しとして生涯生きろ、従わなきゃ殺す、なんてやってられるわけないわ。

私のような存在を不憫だと、ナエトも思ってるんだろう。

だからこそたじろぎ、拳を握りしめていた。

「……もしも補修にかかる費用を要求するなら、何億円でも何兆円でも僕が出すよ。だから、沙羅の事は見逃して? ね?」

「……ダメだ、ソイツが魔界に復讐しに來ないとも限らない。反分子は殺す」

「私はもう、そこら辺にいる子高生の1人よ。なんで魔界なんかに行かなきゃいけないのよ?あんなキモいとこ、二度と行きたくないわ」

素をそのまま出して答えると、ナエトの額にある管が浮き出た。

ブチッて音したけど大丈夫かしら?

「貴様! 生まれ故郷をキモいと言うな! ええい、忌々しい! 矢張りここで殺す!」

「喧嘩するなら僕が相手になるよ?」

「ふんっ、貴様如き素手で十分だ! 死ね!」

「やだー」

ナエトのパンチを瑞揶は片手でけ止め、逆に自分の手をナエトの頭の上に手を置いてで回す。

……なにしてんの?

「良い子良い子したら良い子になるかな?」

「やめろ! 離せ! 僕にそんなことをするな!!」

「ほらほら、良い子良い子〜」

「コイツ魔人か!? なんでビクともしないっ!?」

瑞揶のわき腹にブローを叩き込むナエトだが、瑞揶は一切じずによしよしを続けた。

普通なら貫通してるけど、瑞揶は能力が能力だから何も言えないわ。

「……ダメだ〜、良い子にならないっ」

でるなっ! 頼むからもうやめてくれ! これ以上は勘弁してくれ!」

「えー? じゃあ沙羅の事は敵視しない? そう誓うなら約束するよ?」

「……誓う。わかった、僕はもう敵視しない。だからこの手をどけろ!」

「そう? じゃあ仲良くしてね?」

瑞揶が結局は丸く収めてしまい、どっと息を吐き出すナエトを置き去りにして私とともに帰路につくのだった。

やっぱり、なんでもできるコイツといるのが一番安全なのかもしれない。

しかも人を殺さずに解決したし、なんとなくではあるが、しは男として見てやる事にしてやるのだった。

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