《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十八話

それはお晝休みのことだった。

いつもの屋上で瑛彥が僕の前に仁王立ちしており、僕は正座して彼の顔を見つめている。

沙羅、環奈、理優、それにナエトくんは僕達の様子をぼけーっと眺めていた。

「いいか瑞っち!?」

「はいっ! 師匠!」

「男らしいっつーのはな……ズバリ、モテる事だ!」

「押忍っ!!」

「そのためなら俺のような快活さを持ったり、ナエトみたいにクールな立ち振る舞いをしようが、とにかくモテりゃあいい! それが男だぁあああ!!!」

「押ぉぉおおおお忍っ!!」

「……アンタ別にモテてないでしょうが」

瑛彥の言葉に、怠そうな態度で沙羅がツッコミをれる。

瑛彥は眉を潛ませ、ビシッと沙羅に指を向けた。

「否!沙羅っちはわかってない! 俺は実はモテるんだ。いや、萬一モテてないとしても、一年全クラスに行ってほとんどの奴と話して友達にはなってる! 毎日話しかけられそうなもんだが、俺のホームはここだからな、敬遠されて話されないだけだ!」

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「そうだよ沙羅? 中學の頃は僕と瑛彥はいつも2人だったけど、瑛彥はわりとモテてたからね。僕も何度か男を磨かせてもらおうとしたんだけど、ダメで……」

「今回で“モテたい道場”は第12回目だ。今回も瑞っちの男らしさを磨いていくぜ」

「……死ぬほどくだらないわね」

沙羅はそう言って弁當をつつき、僕達から目線を外した。

瑛彥も僕の方に向き直って話を戻す。

「おほん。とりあえず、なんか男らしいイメージが瑞っちには必要だな。筋でもつけたらどうだ?」

「師匠、それは6回目の道場でやったけど、3ヶ月鍛えても効果なかったよね?」

「ダンベル軽過ぎんだよ。5kgぐらい持て、5kgぐらい」

「えー、1kgが限界だよ〜……」

「……まぁ、無理はさせねーけどよー。そうだ、ナエトはなんか意見あるか?」

「……急に呼ぶな、アホめ」

そう言いつつこの話題に興味があるのか、ナエトくんはすぐに立ち上がって僕の前までやってきた。

ジロジロと僕の顔を見て手を顎に當てて考えている。

「そうだな……髪を短くしたらどうだ?今の長さだと、子と見間違うこともありえるぞ?」

「あー。それは無理だな。瑞っちに他の髪型は似合わん」

「いろいろ試したけど、僕の顔には似合わないんだって〜」

「……それもそうだな」

髪については昔に試した事があったりする。

ワックスベタベタ塗っていろんな髪型にしたけど、どれもパッとしないそうで……。

僕は目が大きめだし、いつもニコニコ笑うから、そもそも男っぽい髪型が似合わないとかなんとか言われたかな……。

「外見を変えられないなら、やはり格だな。ま、瑞揶が僕みたいになれるとは思わぬが……」

「確かに、僕にナエトくんみたいなハッキリした格は難しいね」

「當然だ。それに、格は真似るものじゃないしな」

ナエトくんが説得力のある言葉で助言をくれる。

いろいろ勉強になるなぁ、さすがは魔界の王子様。

「なんにせよ、とりあえず口説けりゃあ良いんだ」

瑛彥が最終的な目標を言うと、みんなで彼を白い目で見る。

ここまで堂々としてると、寧ろ清々しいね。

「……お前ら、その目はなんだ。とにかく、手本を見せてやるから理優っち、こっち來て」

「え、え? うん……」

瑛彥に呼ばれ、理優が立ち上がって瑛彥の前へと移する。

瑛彥は顎に手を當てながら理優を隅々まで観察し、うんうんと頷いたり、小さく驚嘆したりした。

「……ふむ、よし」

「えっ、と……な、なにかな?」

「理優っちはなんで髪が短めなんだ?」

瑛彥が質問する。

確かに、沙羅や環奈は腰まである長い髪だけど、理優は肩にかかる程度の髪だった。

「あっ、うん……これはね、1番似合う髪型だからだよ?それに、長いと重いし……」

「なるほどね。確かに、よく似合ってて可いぜ」

「えっ!!? あっ、う、うん……ありがとう……」

瑛彥が褒めると、理優は全真っ赤になって煙が出そうだった。

理優は照れ屋だから、直接褒めたらしどろもどろになるのは目に見えてるよね。

「そうやって慌ててる姿も可くて良いな。なんかこう、男心くすぐられてグッと來るぜ」

「あ、あわわっ、その、ど、どうも……」

「それに、長も良いじだよな。俺ぐらいの奴が抱きしめたらすっぽりりそうだ」

「抱きっ!? ひうぅ……」

『理優ー!!?』

理優は突然倒れ、目を回していた。

みんなで駆け寄ったけど、特に怪我とかはなさそう。

「あー、ちょっと、言い過ぎちまったかな? まぁ事実しか言ってねーんだけど……」

「瑛彥! アンタねぇ、理優は褒められ慣れてないんだから、手加減しなさいよ!」

沙羅の非難が瑛彥に飛ぶと、彼も反省したように目を伏せる。

「悪かったって。けど、環奈っちも沙羅っちも、口説いたって微塵も反応しねぇだろ?」

『まぁね』

「……なんだかんだ、一番傷つく返事を普通にしてくるあたりが流石としか言えねぇ」

ガックリと瑛彥は項垂れるが、ふと環奈と僕の目が合った。

そして思いついたかのように、彼は人差し指を立てて思ったことを告げる。

「けどウチ、瑞揶に口説かれたらどうなるかわからないかも。他の男とは違う口説きなのは間違いないじゃん?」

「……えー、僕が?」

「そうそう。ちょっとウチを口説いてみてよ」

「……うーん。まぁ、やるだけなら……」

僕も環奈も立ち上がり、他の観衆はみんな座る。

なんだか、この組み合わせは珍しいなぁ……。

「えっと、何から言えばいいかな……?」

「それはウチに聞かず、自分で考えてよ」

「そ、そうだよね……」

心を落ち著かせ、まずはどう行くかを考える。

うん、まずは瑛彥みたいに、何か質問しよう。

「昨日は何してたの?」

「昨日は朝からバイト行って、夕方帰ってご飯作ってラジオ聴きながら家でのんびり歌ってたかな」

「そうなんだ〜。なんだかほのぼのとしてるね〜」

「バイトで疲れてたし、のんびりもしたくなるよ」

「いつも大変だもんね……もうちょっと最低賃金が上がればいいのに……」

「ウチのバイト先、時給1100円だからさ、今のままでいいわ」

「そうなの? じゃあ、昇給とかあるといいね」

「それはウチの働き次第かなぁ〜。もうし本気出そうかね〜?」

「働くならちゃんとね? でも、は壊さないようにね? バイト先でお友達作って、辛い日はバイト代わってもらうようにしてね?」

「はは、ありがとっ」

環奈は笑って謝辭の句を述べた。

淡々と続いた會話のキャッチボールに僕も笑みを浮かべる。

「って、おバカ」

「いたっ……」

軽く頭を叩かれる。

むぅ、なにか悪いことした?

「ウチを口説くんじゃないの?」

「あっ、そっか……」

すっかり本來の目的を忘れていた。

しかし、今から口説こうにも時間が無く、すぐさま予鈴のチャイムが鳴る。

「……あー、鳴っちゃった」

「ま、瑞揶が口説けるとは思ってなかったから大丈夫だよ。それに、今のほのぼのとした所が瑞揶の長所だと思うし、無理に男らしくならなくていんじゃない?」

「……みんなそう言うけど、僕は男らしくなりたいんだよなぁ……」

「家じゃ沙羅と二人なんでしょ? のんびり練習させてもらいなさい」

「ふむ……」

確かに、家だと沙羅と2人きり。

ドラマをよく見てるし、良い批評をしてくれるかもしれない。

「なるほど。ありがとね、環奈」

「いいよいいよ、いつもお弁當作ってもらってるし。んじゃ、戻ろ」

「うん」

それから各々教室へと戻り、午後の授業をけて、のんびりと部活をこなして、いつものように帰宅した。

沙羅と2人で夕食を作って、お風呂掃除と洗濯畳みを分擔、その後は互にお風呂にり、2人でリビングにいる。

まだ21時臺で、めぼしい番組もないのか、テレビはどうでもいい番組がずっと付いていた。

沙羅がちょうどボケっとしてたから、今日かんなが言っていた事をお願いしてみる。

「ねぇ、沙羅? 口説く練習付き合ってもらえないかな?」

「……は? 私が? いいけど、アンタに口説くとかできるの?」

「できるよーっ……多分」

「……先が思いやられるわね。とりあえず、聞いてあげるからやってみなさい」

「……うん」

沙羅と正面から向かい合う。

今の彼は寢巻きであり、お風呂の後で髪が濡れている。

いつも彼のトレードマークは二本の覚みたいなアホなんだけど、今は萎しおれている。

なんかいつもと違う點もなく、思うことは特にない。

うーん、何て言おう?

「沙羅って、いつも可いよね」

何気なく思ったことを呟いてみる。

すると沙羅の顔はみるみる赤くなり、細めで睨んできた。

「……あん?」

「……え、嫌だった?」

「……違うわよ。嫌じゃない……けど、そのね……アンタが可いとか言うと、不意打ちなのよ……」

「不意打ち? どういう事?」

「……もういいわ。兎に角、今のは武になるかもしれないわ。環奈に、やってみなさい」

「うん……」

どうやら合格點に達したらしいが、それからは沙羅が部屋にこもってしまったために僕らは床に著くことになった。

そして翌日

「環奈〜。環奈って可いよね?」

「ウチってどっちかっていうと綺麗系じゃない?」

「……あれ?」

結局、環奈に通用しなかったのは余談であった。

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