《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十九話
「ズボンは履いたらがなくちゃな……」
「……瑛彥、いきなりどうしたの?」
隣でギターを持っていた瑛彥の発言を、僕は拾ってしまった。
今のは拾わなくても良かったのに、そんな後悔の念がなからずある。
「いいか、瑞っち。人はズボンを履く。しかし、またぐんだ。その繰り返しをするのは面倒だろう?」
「え? うん……まぁ、面倒……かな?」
彼は自分の履いている制服をパンパンと叩いて、これが面倒だとアピールする。
でも、履かないと変態だよね?
それに、パンツも履いたりいだりするから、ズボンも吐いたっていいじゃないか……。
視覚面がアレな僕でも、そのくらいはわかるよ。
「……ふぅ」
瑛彥は近な機の上にギターを置いた。
音に何人か部員がこっちを見たが、それだけ。
この視聴覚室で、このややこしい事を言う人から僕を助けてくれそうな人は居ない。
「……えーと、どうしたの?」
改めて聞き返す。
すると瑛彥は息吹を吐くように深く呼吸し、僕の目を見る。
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「……瑞っち」
「うん?」
「げ」
「…………」
言葉を失うとはこういうことだろうか。
いやいや、面倒なのは自分のはず。
なんで僕ががなくてはいけないのだろうか。
「……嫌だよ? さすがにちょっとね……」
「……そうか。それなら仕方ない」
「いっ、いやいやいやっ! 仕方なくないよっ!? というか、なんで僕が標的――」
「力付くだぁああああ!!!」
「ひゃあああああ!!!?」
突然襲って來た瑛彥から機の隙間を走って逃げる。
どこに逃げるといえば、それは廊下に決まっているけど、ドアを開ける前に瑛彥に捕まってしまう。
足の速さが違うー!
「観念しろ瑞っち!」
「観念するも何もないよっ!? なんで僕のズボンなのーっ!?」
「理由なんてねぇ!」
「酷いよっ!?」
「……なによなによ、うるさいわねー」
僕らの騒ぐ聲を聞いて、ふらふらと沙羅が現れる。
きゅっ、救世主!!
「沙羅っ! 助けてーっ!」
「ダメだ沙羅っち! 瑞っちを拘束しろ!」
「……アンタ達楽しそうねー」
カチャカチャと僕のベルトを弄る瑛彥は止まらず、沙羅はぼーっとしながら羊羹を口に含んでいた。
あれっ、僕達家族だよね!?
そんな呑気なことしないでよ〜!?
「うわぁ〜、瑞揶くんがめられてる……」
遠くからチラ見していた理優が呟く。
その隣にいる環奈が「んー」と唸り、彼に助言する。
「理優は純粋だからわからないんね? あれはじゃれ合ってるというか、スキンシップだから気にしなくていいよん」
「そ、そっか〜」
「スキンシップじゃないよっ! ズボンがすスキンシップなんてないよっ!助けて〜っ!」
「え、えーと……」
「このまま見てた方が面白そうね」
理優はおどおどし、環奈は助けるつもりはないらしい。
殘る頼みの綱であるナエトくんは興味もないのか、窓辺で本を読んでいた。
「っしゃああああああ!!!」
「!!?」
そして、いつの間にかベルトを奪い去られる。
ホックは外れ、あとはジッパーを下ろされてしまえばズボンはげるだろう。
そんな癡態は曬せないよっ!
「無駄な抵抗はやめろ瑞っち!」
「やめないよっ! 瑛彥こそこんなことはやめようよっ!?」
「ぬぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
「わぁぁああああ!!? ズボン裂けちゃうぅ!!?」
降ろそうとされるズボンを必死に上げているも、布が限界まで引っ張られて千切れそうだった。
千切れるのは勘弁だけど、ぐのはもっと勘弁!
そう思った瞬間だった。
「失禮しまーす。部希なんだけど〜……」
目の前の扉から水髪のが現れる。
そして目の前で戦闘を繰り広げる僕と瑛彥を見て絶句し、はてなを浮かべた。
なんでこんなタイミングで部希なんて――
ビリッ
「あっ」
一部が千切れ、驚きで僕の力は緩まった。
瞬間、ズボンが下ろされる。
「…………」
『…………』
誰もが絶句した。
さらけ出された僕の白な足に注目が集まる。
パンツがげなかったのは幸いなのだろうか、それよりも知らない人の前でこんな癡態を曬してしまい、言いようのない恥ずかしさに襲われる。
瑛彥だけはうんうんと頷きを繰り返しており、満足気であった。
「……なにこの部活?」
目の前の水ヘアのがそう口にしたのは、呆気から帰ってきてすぐだった。
◇
向こうの方で瑞揶が泣いているのを目に、私は部長として部希の子と機を向かい合わせにして座り、お話をしていた。
「私は部長の響川沙羅よ。正直、こんな部活にろうなんて奇人がいるとは思わなかったわ」
「アタシもさー、どうしよーか悩んでたのよねー。親が部活れってうるさいからさ、まったりとしてる部活にりたかったんだけど、よくわからないから。とりあえず、まったりしてそうな此処にしよっかな、って」
「……ふーん。まぁ、私の部は別に何か目的があるでもないし、居るだけで活になるから、それでいんじゃない?」
「ほーい! じゃ部するねー!」
「ええ……」
思ったよりも元気な子で、なんか瑛彥みたい。
ずっと笑顔だし、その點は瑞揶みたいな?
今はあの子泣いてるけどね。
「部屆けは書いてきたんだけど、渡すのは顧問の先生の方がいい?」
「いや、私でいいわ。後で會うしね」
「じゃ、はい」
部屆けの紙を渡される。
……凄く字が汚い。
油マジックで書かれてるし、次はぐねぐねだし……。
名前は……レリ・スイレン?
カタカナで単語2つは天界ではよくあるようたけど、出地かね?
「天界生まれなの?」
「そうそ。アタシ天使だよ! 人々を癒すよ!」
「……じゃーあそこで壁に向かって泣いてる子を元気にしてあげて。々可哀想だから」
「あっ、あの人前でズボンぐ変態くんね? いいよー!」
「……うん、まぁなんでもいいわ」
レリは長いしウェーブがかった髪を大きく揺らして瑞揶の元に駆け寄る。
こうして遠目に見ると、レリは背が高い。
170ぐらいはあるんじゃないかしら、瑞揶と大して変わんないわね。
「沙羅〜、あっという間に7人になったね」
「……うん? そうね」
いつの間にやら私の後ろに環奈が立ち、聲を掛けてくる。
私と瑞揶、瑛彥、環奈、それから理優にナエト、そしてレリ。
男比も良いじだけど、特に何かあるわけじゃないわね。
のほほんとしてるのが平和でいいわ。
「7人も居るけど、特に何をするでもないわ。ただこうしてゴロゴロしてるだけよ。環奈だってそうじゃない?」
「そうだね。ウチは何かしたいわけでもないし、今の生活が充実してると思ってるから何をするでもないかな〜」
「でしょ〜? ぐへっ……」
聞き返すと、彼は私の背中におぶさってくる。
……重い。
つーかこの子意外とあるわね。
なんかコンプレックスじるわ……。
「ただね、ウチは思うわけよ」
「何をよ?」
「なんかやらないと勿無い、ってね」
「……んまー、そうね」
折角人が集まっているのだから、何か目的意識を持ってやってもいいかもしれない。
だけど、何をするべきかしらね?
うちのメンツで新たにやること。
部活名からして音楽関連でいいとは思うけども……。
「そう言うって事は、環奈は何かしたいの?」
「別に、ウチはそんなに、かな? なんかやるならやるし、やらないならやらないでいいよ。ただダラダラ過ごすだけでも、ここに居るのは家に居るより楽しいしね」
「……そう」
という事はただ単に提案しただけという事らしい。
だったら別に、私もこれで良いのよね……。
ダラダラしてると言っても、瑛彥は煩うるさいし、瑞揶はあんなだし、他の連中もほのぼのしてるし……。
「……とりあえず、考えてみるわね」
「うん、お願いね〜」
ポンっと私の肩を叩いて環奈が理優の所に行く。
私に任せるってわけかしらね?
一存で決められる事でもないでしょうに。
帰り道でみんなに聞くことにしましょうかね……。
「沙羅ぁあ〜!!」
「……今度は何よ?」
誰かと思えば瑞揶が私の方に駆け寄って來て背中にしがみついてくる。
は? なに? どうしたの?
「……怯えるような事は言ってないんだけどなぁ〜」
ほどなくして歩いてきたレリが呟く。
あぁ、原因はアンタね。
「アンタ、瑞揶になんて言ったのよ?」
「やー、そういう癖の人も理解者がいるとか、自分をアピールするのは良いことだとか、そういう事かなー?」
「……瑞揶は自分でいだわけじゃないわよ」
「えっ!!? あっ、そうなんだ。それはごめんね。てっきり下半出したいけど、學校だから渋々ズボンまでで我慢してる変態かと……」
「……そりゃ余計傷つくわ」
変な勘違いされて余計なダメージを食らったわけね。
瑞揶は背中から離れてくれないし、なんか唸ってるし……でもなんだろう?し可いわね。
「……瑞揶は私がなんとかするから、アンタは他の連中に挨拶して來なさい」
「はいーん! わかったー!」
「……元気ね〜」
元気な彼の後ろ姿を見送り、私は一つ息を吐き出して瑞揶を引き剝がす。
「うぅ〜、いじめられた……」
「……アンタも男なら、しは涙を堪こらえなさい。シャキッとしてないとダメよ」
「むぅ……みんな酷いよぉ……」
「へこたれてても仕方ないでしょ? やさぐれても得るものはないわよ」
「……むぅう。沙羅がめてくれないぃ〜」
「……私、そういうキャラじゃないでしょうが」
「理優〜」
瑞揶は私の元を離れて理優と環奈の元へ行く。
環奈はボケーっと見ていたが、理優は優しく瑞揶を抱きとめてよしよしと頭をでていた。
……に顔埋もれてない、あれ?
……瑞揶だからいいのかしら?
その辺の基準がよくわからないわ……。
「うおー、瑞っち羨まし〜。沙羅っち、俺によしよししてくれ!」
「黙ってなさい元兇。そこに歯ぁ食いしばって正座するなら考慮してあげてもいいわ。抱きついた頃に塊になってなければいいわね」
「……なんか言われようがひでーなぁ」
とぼとぼと瑛彥は來ては去り、ギターを取る。
今日も今日で平和だし、私もそろそろフルートを取ることにしよう。
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