《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第三十話
5月もそろそろ終わりかという頃、中間考査の前に育祭なるものが待ち伏せしている。
これは中學も高校もそうだけど、天使と魔人と人間は別々で行われる。
そのため、練習も別だし、減った分クラスの人數がなくなるから、どこかのクラスと合同になる。
1組と2組が合同だから、番號順の編だろうと予想がつく。
僕は2組の人間に知り合いはいないけれど、瑛彥には友人が多くらしく、僕は浮いてることが多かった。
高校で新しくクラスで仲良い人作りたいと願いつつも、自分の趣味や価値観では難しいと判斷するのだった。
(沙羅は今頃どうしてるかな〜……)
練習の間、自分のことよりも家族の事に意識を向けてしまい、あまり集中できないのだった。
◇
「いい!? 私が育祭実行委員であるからには、一切手を抜くことは許さないわ! 練習であっても一致団結し、優勝をもぎ取って団結力を見せつけるのよ!!」
『はいっ!!!』
「じゃあ全員走り込み20本!! 500mで12秒下回ったらもう1セットやりなさい!」
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『はいっ!!』
ヤプレータ高校第3グラウンド(魔人用)にて、私の號令に従って1組と2組の魔人が男問わず走り込みを始める。
私は500m走7.2秒というタイムで最速を出しており、走る必要は今の所皆無なので監督の如く周りの様子を見ている。
「沙羅は本気だねー」
やる気に満ち満ちていた私に、そんなけったいそうな聲が掛かる。
聲の主を見ると、上下ジャージだからか、惜しげもなく地面に座って半目を開いた怠け者のがいた。
「……環奈、アンタも走りなさいよ」
「ウチは7.4秒で沙羅に次いで速いし、別にいいでしょ?」
指摘をするも、速いらしいので言う文句もなくなる。
私は彼の方に向き直り、下を向く彼を見下ろした。
「……へぇ、そうなの。意外と速いのね。部活とかやってたの?」
「やってないよ。まぁちょっと、この世界じゃないんだけど、いろいろあってね……運には多自信があるんだよん」
「……へぇー」
彼の言うことは私にも當てはまった。
私も魔界での戦闘のおかげで能力が常人よりも高スペックだから。
私にも家がないけど、環奈も家出なんだっけ?
私とは別の事で何かやってたのかしらね……?
「……環奈、聞いてもいい?」
「なんでも聞いてよ。沙羅はウチの友達だしね。……あぁ、うん。この友達って響きはいいなぁ」
「…………」
友達というものが懐かしいかのような、そんな聲。
これは本當に何があったのか気になるわね。
「環奈の昔について聞きたいわ。どうして家出なんかしたのか、ね。嫌なら聞かないけど……」
「ウチには嫌なことなんかないよ。不便だと思うだけ。どうせ暇だし、聞きたいなら言うよ」
「……そう」
だいぶさっばりとした様子で彼は顔を上げる。
その脳天気そうな目で私の瞳を覗き込んだ。
風が吹く、一瞬の靜寂がし、長くじられた。
「……ウチさぁ、実はねぇ――」
隨分遠い昔のような話を聞かせてくれた。
短くまとめられたけど、想いは多く乗った過去の語。
それから先に聞いた事は、私はきっと口外しないだろう。
彼には総じて、約80年分の記憶があるという事を。
◇
沙羅にし、昔の事を話した。
60年ぐらい生きた前世の記憶が今のウチには継続で付與されていて、頭がおかしいかおかしくないか悩ましい所がある。
けどまぁ、ウチは今も昔も脳天気に生きているし、それでいいだろう。
親が勘當したのも、この世界の親を親と思えずに反発しまくったからであり、向こうも娘のを悪魔に乗っ取られただの言ってたから、これでいいはず。
人生いろいろだ、本當に。
前世では【悪幻種】っていう不老の種族になったのに、この“ヤプタレア”では400年の壽命を持つ魔族に生まれ変わった。
どーして自分はいつも長生きな種族になるのか不思議で仕方ない。
世界は複數ある。
それはこの自由の“第2”世界という名前からもわかっている。
神様ってのもたくさんいるんだろう。
だったらこうしてウチが別世界にいても、なんらおかしくはないわけだね。
だけど、なんの因果かな。
前世では、ウチは音楽が好きだった。
歌うのも作詞作曲もお手の、かなり腕のある作詞家だったと思う。
この世界で言うシンガーソングライターってやつ?
自分で好きに歌詞書いて歌って、それってかなり気持ち良いことだよ。
そしてこの世界でも、のほほんとした音楽家の卵達と戯れている。
趣味ってのは死んでも変わらないから、當然だろう。
だけど、この世界は著作権ってのが幅広くあるんだね。
自由の世界とか言う割には統制があるし、よくわからん。
どっちにしたって、今は今、昔は昔。
そう割り切らないと、やっていけないよね。
著作権ってのが怖いし、作詞活は休止中だけど、大暇なときは適當に考えたりしてる。
自分の頭の中で考える分には、誰も文句は言わないだろう。
他にはこれといって、この世界での楽しみもない。
前世では彼氏が早死にしちゃって寂しい思いしたけど、どうにもこの世界で彼氏作る気は起きないしね。
なんだろ、熱與えてくれる相手でも居てくれれば良いんだけど……近な人じゃ無理かな。
まぁ自由奔放も悪くないし、ウチは今のままでいいのだろうね。
「ねーねー、環奈」
「んー?」
授業間の短い休み、自分の機に座ってボケーっとしていると、瑞揶が話しかけてきた。
いつも金銭面や料理面でお世話になってる優しい人。
いつか恩返ししなきゃなーと思いつつ、恩返ししようとしても笑顔で斷られそうだ。
そんな彼は今、ちょっと困り顔をしていた。
「前から思ってたんだけど、環奈って大人びてるよね?」
「そう? ウチは普通だよ?」
「うーん、なんて言うかな……こう、何事にもじないというか、自分を保ってるというか……大人っぽいよ〜」
「……じゃあ大人っぽいって事でいいけど、それがどうしたの?」
瑞揶は言うのがこそばゆいのか、頬をかきながらし控えめにお願いしてきた。
「えっと、大人っぽくなる訣とかないかな……? 僕も大人っぽくなりたいよ〜っ」
「……瑞揶はそのままが一番素敵だと思うけどね」
「子供っぽいって沙羅と瑛彥にめられたんだよ〜っ。助けて〜っ」
「……えー?」
これは中々厄介な問題だった。
いやはや、この子はこの子供っぽさや々しさがあるからキャラがり立ってるわけで、ワイルドな瑞揶なんて想像もつかない。
「とりあえず、制服をビシッと著て、歩く時もビシッとして、一人稱は『わたくし』にしてみたら? 立派なリーマンに見えるはずだよ、きっと」
「ふむふむ、そっか〜。よしっ! 僕――じゃなかった。わたくし、エリートなリーマンになりきります!タイムカードも時間ぴったりに切ります!」
「うんうん、大人っぽい。じゃ、早速沙羅達に見せてあげてきなさいな」
「うんっ!ありがとうねっ」
可らしい笑顔で謝してくる。
そもそも顔立ちが子供っぽいとかは言わないでおこう。
ぎこちない足取りで瑞揶が去るのをウチは見送り、ため息を一息つく。
後できっと、沙羅とかが「瑞揶に変なアドバイスしないであげて」とか説教しにくるだろう。
それでまた瑞揶が弄られて、きっとそうなるはず。
なんだかんだ言って、この毎日も悪くはない。
もうすぐ育祭もある、どうか今の生活が変わらずあり続けますようにと、柄にもなく、細やかに願ってみるのだった。
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