《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第三十二話
誰かが転ぶ。
リレーにおいて、それは忌に等しい。
何故なら、立ち上がる間に抜かされてしまうから。
2組の子が1人、転倒してしまった。
距離の差は2位の5・6組と100m開いて最下位。
狀況は絶的だった。
「サイファル、この差は埋めようがない。諦めろ」
「ふんっ、ウチの強みはチームワークよ。こんなときこそ応援の力で他を圧倒させるわ」
ナエトの嫌味を聞き流し、私は殘った走者と走り終えた戦士に聲を掛ける。
「みんな! 全力を盡くす限り、勝機はあるわ! 応援の力でみんなをい立たせるのよ! ほらほら、座ってたら闘志も失せちゃうわ! 立ち上がりなさい!!」
『おーっ!!!』
私の呼びかけに応じて1・2組の魔人が皆立ち上がる。
聲を張り上げてみんなで応援した。
他のクラスの応援、その倍の聲量だろう。
距離の差は未だに変わらないが、大丈夫、あと走者は5人居る。
「無駄にうるさいクラスめ……サイファルが走る頃には僕がゴールを決めてやる」
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「…………」
もはやナエトの小言には反応しなかった。
目を向けるのは走者のみ。
トラックの半分を走り終え、バトンの換がある。
落とすことはない、助走も付けてジャストタイミングで次の走者はバトンをけ取る。
あと4人。
私が走る前の3人でどれだけ変わるかが問題――。
「気を張り過ぎだよ、沙羅」
私の前の走者、魔人だけでは人數がない事からアンカーの前もアンカー同様に一周しなくてはならないのだが、その走者が話し掛けてくる。
気楽そうながら、屈運をしてやる気がありそうな風の環奈だった。
「ウチが久々に本気で走って、差ぁ詰めてあげる」
「……頼りにしてるわよ」
「任せてよ。いつも瑞揶には世話になってるし、ここいらで沙羅のために頑張るとしようかね……」
最後から3番目の走者が反対側のトラックて走り出した。
1位の3・4組はもう既にアンカー前の走者が走っている。
距離はしまってはいるが、それでも勝機は薄い。
「じゃ、お互いがんばろ」
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「ええ……」
環奈にささやかな勵ましをけ、彼はトラックの上に立った。
學年2番と1番の速さを持った私と彼でどこまで巻き返せるか……。
2組の走者が環奈に近付いていく。
環奈は助走を付け始め、バトンをけ取った剎那、地を踏み込み、トラックを駆け出した。
風邪を切る音がここまで聞こえる。
ヒュウウと彼が立てる走りを見せながら、必死に足を回して2位との差をグングンめる。
周りから沸き起こる歓聲、半周先の向こう側で、環奈は2位だった男子を抜き去った。
「ぬぅぅう!!!」
憤りの表を見せる彼の魂の聲が聞こえた。
いつものほほんとしている環奈が本気を見せている。
我がチームのために!
私もこの日の果を見せるわ!!
私もトラックの上に立った。
隣にはまだナエトが居る。
1位と環奈ではまだ差があって追いつけていない。
しかし、差は確実にまっており、あとは私とナエトの競り合い……。
「ふんっ、勝つのは僕だっ!!」
ナエトが先にバトンを貰い、走り出す。
その様子を目で追うことなく私は走ってくる環奈を見ていた。
もう20mもない、助走を付け始めて私は全力疾走する環奈からバトンをけ取った。
「ありがと」
その際、私はその言葉を殘した。
彼は短く「んっ」といて返し、私も走り出す。
地を踏み込み、ジャリか飛沫しぶきをあげるヒュウウという風邪を切る音、空気抵抗でが痛い。
それはあまりにも速すぎるから――。
「――――」
聲は出ない。
呼吸すらないかもしれない。
ただまっすぐと走るのみ!
ナエトは目の前に見えている。
彼の蹴ったジャリが私のももに當たる。
追いつける、追いつける。
そう信じて第二コーナーを曲がる。
あと半周、差はしずつ詰まっていた。
歯を食いしばり、全力で駆ける。
最後のカーブに差し掛かり、さらにを加速させる。
ナエトの後ろにピッタリと張り付いて最後、直線で追い抜く――!
傾斜は終わりを告げ、直線のみとなる。
たくさんの応援の聲が聞こえるが、頭の中にはってこない。
ここで抜き去る、その事だけに意識を集中する――!
「ッ――」
ナエトが私に抜かれまいとさらに加速しようとする。
だが、もう遅い。
私は彼の橫に並んだ。
私の方が速い!
抜ける!
僅かに私の方が前に出た。
これで終わりよ――!
パンッ!!
ゴール通過を知らせる銃聲が聞こえた。
私は足を止め、荒い息のままにフラフラと歩いていく。
隣にはナエトも続いた。
これは――?
続いて聴こえたアナウンスが、結果を教えてくれた。
《只今の1年生リレー、結果は1位、1・2組! 2位、3・4組! 3位、5・6組です!》
「いよっしゃぁぁぁぁああああ!!!」
途中のアクシデントはあれど、私達は1位をもぎ取った。
私が勝利の雄びをあげると同時に、1・2組の子が私の方に駆け寄って抱きついてくる。
「沙羅ちゃんありがとー!」
「1位だぁあ!!」
「こらこら、疲れたからしは休ませ――にゅわっ!?」
突然を持ち上げられて変な聲が出る。
それからしの間上げが起きた。
いや、まだ他にも競技あるんだから、こんな事で上げまでしなくてもいいじゃない。
とにかく、ナエトは下せたし、私は満足かな……。
殘る団種目もなんとかなればいいけど、うん……。
どことなくやりきったがでていて、私は半ば疲れ気味に上げをされ続けた。
◇
育祭が終わった。
僕たち人間部門は総合的に3・4組が優勝。
しかし、最優秀選手賞と応援優秀賞は瑛彥がもぎ取り、クラスの誇りとなったみたい。
それに対して僕は、競技の出場以外はずっと理優とお話ししてて、クラスの中でも空気だなーと思ったり思わなかったり。
この後、クラスで打ち上げがあるらしいけど、僕は行ってもなーと思い、理優と2人で帰ることに。
「瑞揶くんと一緒に帰るのって、初めてだな〜っ」
夕焼け空の下、小路を歩きながら理優が笑顔で言う。
僕はいつも沙羅や瑛彥と一緒だし、この組み合わせで帰ることもないね。
「理優はいつも誰と帰ってるの?」
「環奈ちゃんだよ〜。最初は話づらかったけど、環奈ちゃんって見かけはちょっと人を寄せ付けないじあるけど、結構冗談とか言うんだよ?」
「あはは、そうなんだ……」
環奈が冗談を言う。
俄にわかには信じがたいが、理優が噓をつく理由もないし、本當のはず。
環奈、いつもボーッとしてるか、のほほんとしてる印象の子なんだけどなぁ……。
「瑞揶くんは沙羅ちゃんとだよね?」
「そうだよ〜。思えば最近、ずっと一緒にいるかな〜?」
考えてみれば、日曜日以外はずっと一緒にいる。
それは家族だから當たり前なんだけど、僕なんかと一緒でいいのかとし悩ましい。
「2人は親戚なんだよね? 仲良くて羨ましいなぁ……私は親戚と全然會わないし……」
「……仲はいいけど、沙羅のお転婆がもうしマトモになってくれたらね……」
「フフッ、そこが沙羅ちゃんの良いところだよ〜」
「……そうかもね」
ガサツだけど何にでも正直なところが彼らしいというべきだろう。
「瑞揶くんってほのぼのとしてて沙羅ちゃんと合わなそうだけど、いつも一緒だし、相良いのかもね〜」
「あはは……僕が損していることが多いんだけどね……」
いらぬ暴力が飛んできたりするのは、特に重い損益だ。
もうちょっと丸くなってくれたらなぁと、いつも思っているけど、思っているだけじゃそろそろダメかな?
最近は育祭のおかげで落ち著いてるし、瑛彥の方が毆られてるけど……。
「家族なんだから、大切にしてあげてね……」
「……うん。それは……そうだね」
大切にしてあげている……というよりもキチンとした生活をさせて立派な大人になるよう仕向けているつもりはある。
夜はあまり遅くまで起きてないようにいつも言ってるし、家事もしだけ手伝ってもらってるし、勉強は元からできるとして、主もあるから立派になってしいなぁと思っている。
「……理優はどうなの? 家族と仲良くしてる?」
彼がしたものと同じ質問をすると、理優はし眉を顰めて答えに遅れた。
「……どうだろう、ね。私は仲良くしようとしてるよ……?」
「…………」
おずおずとした理優の反応に、僕は黙した。
どうやら、家族関係はうまくいってない模様。
それはなんだか寂しいけど、家の事は家の事、かなぁ……。
僕は理優の家族のことを何か知ってるわけでもないし、助けを求められない限りは干渉しない方がいいかな……。
能力もおおっぴらにひけらかせられないしね……。
今日うさぎとか出したのも、後から“僕の能力はテレポートだよー”と噓ついてしまったし……。
「何か困ってるなら、なんでも協力するよ? 沙羅みたいな凄い子も居るし、なんでも相談してね」
「ううん、そこまでのことじゃないよ……ありがとね」
「いや、大丈夫ならいいんだけどね……」
本人が大丈夫と言ううちは僕も何も言うことはない。
家族にまつわる話はこれで終わりとなり、また別の話題に切り替えて雑談しながら帰路に著いた。
理優とも別れ、家に著くと誰もいない。
あれだけ頑張って練習していた沙羅がそそくさと帰らないとはわかってはいたけれど、こうして1人で帰るのが、思えば久しぶりだった。
彼のチームは、きっと優勝している。
打ち上げとかあるかもしれないからなめだけど、僕は彼の勝利を祝うための料理を作り始めた。
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