《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第三十三話

それは育祭後の日曜日が過ぎ去り、振り替え休日の月曜日のこと。

「……この家は落ち著くね。まぁ瑞揶みずやの家だから當然か」

「……僕の事をどんな風に思ってるのさ」

突然來訪した環奈がリビングでお茶を啜っている。

私服姿を見るのは2回目だけど、前回の何があったかわからないボロボロな様子ではなく、汚れもなくふわっとした、白と黒の合わさったワンピースを著ている。

のあるものじゃなくてゴシックな所が大人っぽいとじた、

「それで、何か用事があるの?」

ソファに膝をつき、背もたれに腕を乗せて攜帯をる沙羅が尋ねる。

……人に何か聞く態度じゃないけど、沙羅だから何も言えない。

環奈も気にしてないようで、普通に答えた。

「特に用事はないよ。振り替え休日にシフトれてなかったから暇だっただけ」

「……まだ朝の8時だけどね。暇なんだね……」

時刻はまだ朝の8時。

ちょうど僕と沙羅が朝食の食を片付けた頃にやってきたのだ。

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「うちに來てもやる事ないわよ?」

どーでもよさげに沙羅が切り返し、攜帯から目を離してソファに座りなおす。

「……そーなの?」

「ええ。私はなんか持ってるわけじゃないし、瑞揶も漫畫や小説読まないでしょ?」

「す、推理小説なら何冊か……」

「……それは読まないわ」

ため息まじりに沙羅が拒否する。

……前世では小説とか読んでたんだけどね。

今世では読まないことに決めたせいでバリエーションが乏しく、悲しい。

「んまぁ、とりあえず瑞揶の部屋りたいんだけど、いい?」

僕の部屋への室許可を求める環奈。

「僕の部屋? いいけど、なんで?」

「なんか面白そうじゃない?」

「……なんかってなんだよぅ〜」

両手を上げて怒りをアピールするも、環奈はカラカラと笑うだけだった。

「あっはっは。そう怒らないで案してよ。それとも、やましいでもあるの?」

「むーっ、ないよーっ。そんなこと言う環奈の方がやましいよーっ!」

「おー、わかっちゃう? ウチ、実は結構エッチなことが――」

「え、ええっ! ?そうなのっ!?」

「好きじゃないんだなー、これが」

「……そのフリはなんなのさーっ!」

無駄に張させられてさらに怒りが増幅し、顔を真っ赤にして問いただす。

僕がこんなに怒っているのに、環奈は全く反省のも見せずにニヤニヤと笑った。

「ごめんごめん。瑞揶が可いからつい、ね」

「僕は男だよぉ……男らしくなるんだもんっ」

「……わかったわかった。そんな涙目されたら、何も言えないわ」

「……むぅ〜」

拗ねたように頬を膨らませると、その膨張部は沙羅に突かれてから空気が抜ける。

八つ當たり気味に彼を睨むと、沙羅はペチペチと僕の頭を叩く。

「瑞揶はいっそ、の子なら良かったのにね。まぁでなくても、今のままで良いと思うわ。男らしかったら私も安心して暮らせないでしょ?」

「あー、それもそうだね。ウチも、瑞揶は今のままが一番いいと思うよ」

「……そんな後付けで言われても、嬉しくないもんっ。いいもんっ、僕はいつか、君らを見返すぐらい男らしく、逞しく、威風堂々としたワイルドな男になるんだかりゃっ……」

「……。……萌えるわね」

「……うん」

「…………」

最後噛んだだけなのに、萌えられても困るのだった。

僕は男としての威厳は取り戻せるんだろうか?

「これは予想以上に――いや、なんでもない」

僕の部屋に著くなり環奈は何か言おうとしてやめる。

言いたいことはわかるけどね?

沙羅にあげたとはいえ、またぬいぐるみも作ったし、部屋も水とか薄黃とか、明るいものでカラフルだし……。

……部屋が暗いのが落ち著かないだけだけど、瑛彥あきひこの部屋とかは雑然としてるけど、が濃いしなぁ……。

僕はの薄いのが似合うと思うのに……うう。

「……環奈、あんまり言うと瑞揶が立ち直れなくなるからやめなさい」

「沙羅〜っ! ナイスフォローだよ〜っ!」

「引っ付くなっ! もう6月で暑いんだからっ!」

「うう〜っ」

半泣きで沙羅に抱きつくと突き飛ばされる。

……いつも通り、僕より沙羅の方が男らしいなぁ。

「どれ、タンスにスケベなっているか否か……」

「環奈、何しに來たの……」

「……瑞揶みたいな子でもがあったりするのか、の確認?」

「あはは。環奈、ここでその服ひん剝むいてで外に曬してあげようか?」

バキンッ、と何かが割れたような音がした。

今の音はなんだろう? よくわからないけど、僕もそろそろ有頂天だという警鐘だろう。

環奈も沙羅も、時が止まったようにかなくなって、この場は僕が完全に支配する形になってしまった。

「……い、いやー、冗談だよ瑞揶。やだなぁ、そんな怖い事言うなんて」

「そうだよねー、冗談だよねー? 本気だったら腕の1本や2本をなくしてもらうかもしれなかったよ」

「腕は2本しかないし、足も同様だから勘弁して……」

「また生えてくるでしょ? 魔族だもんね」

「……そんな特殊能力はないよ。というか、ホント悪かったからそろそろ落ち著いて、お願いだから」

「僕は落ち著いてるよ? あははっ、どうしたの環奈? 魔族は人間なんかより斷然強いんだからそんなに怯えなくてもいいのに」

「…………」

環奈は小刻みに震えてもはや口もかなくなる。

僕が本當に怖いんだろうね、だって彼かなくさせて聲も出させなくしたのも僕の能力だもの。

もうちょっと恐怖を植え付けようかな?

僕も週末だけとはいえ、々としてるから今更小娘1人ぐらいどうしようが問題ないわけだけど――。

「瑞揶」

々と考えている中、いつもより凜とした沙羅の聲が響いた。

僕の集中は途切れ、「あっ」と聲をらす。

さすがにこれはやり過ぎだし、友達にすることじゃない。

「ごめん環奈! 大丈夫!?」

「……あー、いや、うん。マジで死ぬかと思ったわ」

「そんなことしないよーっ! でも、環奈も自重してね?」

「……うん、ある程度はね」

やつれた環奈は僕のベッドの方へと歩き、倒れるようにベッドに寢転がった。

僕は彼が無事である事が確認できて安堵の息を吐き出す。

「沙羅、ありがとね。おかげで落ち著いたよ……」

「……いや、いいのよ。それより、アンタって怒ると怖いわね……」

「そう……? とりあえず問答無用で殺さないだけマシじゃないかなぁ……?」

「そもそも殺さないでしょ。どっか基準がズレてるわね……」

「えー……? 僕はこれで普通なんだけどなぁ……」

日曜日、たまに戦爭や紛爭地帯に行かされる。

そういうところだと、味方でもキレられて殺されそうになる事もあるんだけどね。

……あそこはみんな命懸けだから、當然と言えば當然なのかな?

「……ともかく、あんまり怒って能力使わないでよ? アンタの能力はおっかないんだから」

「う、うん。反省してます……」

「わかればよろしい。って、環奈は寢ちゃったかしら?」

沙羅が環奈の元へ歩み寄り、うつ伏せの彼の背中をバシンと叩く。

短い「痛っ」という悲鳴と共に、彼がピクリといた。

「……起きてるのね」

「そりゃ眠くはないからね。というか何、このベッド? フカフカ度合いが桁違いなんだけど」

環奈が寢転がって上を起こし、ベッドを押して反作用で優しく押し返されるのを楽しんでいた。

「そこまで言うほどかなぁ……? この前デパートで買ったやつだよ〜」

「へー。ベッド良いなぁ……バイト民のウチは布団から卻できん……」

「布団は布団で趣があって良さそうだけどね……」

「まぁね〜。落ちる心配もないし、気楽に寢れるかな」

「…………」

環奈の発言を聞いて、沙羅は肩を狹めて小さくなった。

落ちてる事、多いからね……。

「というか、本當に遊ぶものないんだね」

「トランプぐらいならあるよー? やる?」

「いいねー。じゃあ、負けたらを1つ暴しようか」

『…………』

「……ごめん、やっぱ罰ゲームとか無しにしようか」

『……うん』

僕も沙羅もがあるし、できるだけ暴は避けたい。

結局の所、普通にトランプで遊んで晝まで過ごした。

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