《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二話
ホントに珍しい組み合わせだと、自分でも思う。
否、部活では大抵一緒にお茶を飲んでゆっくりしているのだが、お茶が好きということ、のんびりしてたいという共通點があるだけで、特にそれ以外に一緒にいる理由もないからだ。
そんな工藤理優と一緒に買いという展開に、ウチこと千堂環奈は邂逅してしまったのだった。
事の経緯は何てことないもので、街を散歩していたら買い帰りの理優に偶然出くわしただけ。
そしたらいつの間にか、理優に一緒に買いをする話に持ってかれていて、そして今日に至る。
なんでこんな連日クソ暑い中出掛けなくちゃいけないのか。
そんな理由で斷ったりはしないから現在に至るわけだが。
それに、週4〜5でバイトしてるわけだから、ずっと外に出ているわけじゃなきゃ行ってもいい。
……うん、そういう事で待ち合わせなんだよね。
「……あっつぅ」
前世で「貴族たるもの、無為な出は避けるべし」との教訓のせいで夏でも長袖を著ていたが、今日に限っては襟の開いたシャツにショートパンツだ。
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なに、35℃超える気溫って。
暑過ぎる。
年々ヤプタレア溫暖化が進んでるとかなんとか言ってたけど、天界何とかしてよって思うのだった。
待ち合わせにしていた大して広くもない公園のベンチに座り、ピカァッ!とる太にを蝕まれる。
時折流れる風も溫風だし、このまま水癥狀で死ぬんじゃないかと疑念が殘る。
理優が早く來ないかと期待しても、もう15分は遅れているので期待はできない。
ぐぉぉおおお……。
「……ぐうっ、魔法練習しとけば良かった……」
今更ながらに魔法を練習してなかったことを後悔する。
魔人は生まれながらに魔力を有し、魔法が使える。
しかし、魔法は義務教育なんかじゃない。
塾はあるけどお金がかかるし、基本的には自宅で勝手に覚えやがれってスタイルだ。
魔界だとまた別なんだろうけどね、うん。
人間界の國によっても違うようだけど、どうにも科學を重んじられてるこの國では魔法の扱いがぞんざいだ。
そもそも、前世にも魔法はあった。
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ウチの前世の世界では誰でも魔法は使えたし、魔法による技が至寶だったんだけど、この世界じゃその魔法も使えないようで役に立たん。
詰まる所、この猛暑を凌ぐのは無理がある。
「……とりあえず、コンビニ行こうかな」
うん、待ち合わせ場所をコンビニにするのが大正解だろう。
理優に待ち合わせ場所変更を知らせるメールを送り、近くのコンビニにったのだった。
それから理優が來たのはさらに15分後の事。
「ごめん環奈ちゃんっ! 待たせちゃった?」
「1日の48分の1ぐらい待った。次こんなことがあったら2度と待ち合わせなんてしないからね」
「うぅ……気を付ける……」
叱咤するとシュンとしてしまう理優。
ここまで時間にルーズなのには今のうちから怒っておかないと直らないだろうし、忠告しておく。
格が格だし、言ってもすぐ忘れそうだけど。
だからあまり言っても仕方ないし、話を進める。
「それで、どこ行くんだっけ?」
「え? 言ってなかったっけ?」
「ウチは何も知らんよ。どこ行くのん?」
「お洋服見に行って、それから映畫も行きたいな〜。それが終わったら、どこか喫茶店ろ〜!」
「はーいっ」
普通に遊ぶのねー、なんて呑気なことを思いながら理優と足を揃えてコンビニから出る。
再び出た外は相変わらず太がこれでもかと言うぐらい本気で熱を浴びせてくる。
自分でよくわかっていることだが、ウチはあまりはしゃぐということはない。
無邪気に服を選んでキャーキャー言ったり、映畫見て凄くというのがないのだ。
歳をとると、あまりかじゃないんだなぁと勝手に実していたりする。
そんなウチも、無邪気でらしい理優を見ていると退屈しないものである。
服を見て映畫を見て、帰りに寄った喫茶店は洋風なもの。
ケーキが何個もショーケースに並べてあって、飲みと一緒にケーキを注文した。
「うぅ……やっぱり泣けるよぅ……」
「まだ言ってるの? 理優はホント、素直な子だねぇ」
「だってぇ……思い出したら涙がぁ……」
「泣くほどかいっ」
思わずツッコミをれてしまう。
確かに、先ほど見た映畫は青春を語るありふれたストーリーであり、泣く要素は2、3點あった。
だけど、ウチからすればかなり安っぽいもんなんだよね。
セリフが洗練されてるなぁと思う程度で思う所はあんまり無かった。
しかし、理優はかな子のようで、映畫の終わりには號泣して破顔してしまい、大変だった。
なんだかなぁ、ウチと居るより瑞揶と居た方が合うな、というのが本音である。
程なくして頼んだケーキも運ばれてくると、理優の涙は止まり、たちまち笑顔になってケーキを頬張った。
「ケーキ♪ ケーキ♪ 頂きま〜すっ♪」
「……テンション変わりすぎじゃない?」
「え? 何が?」
「いや、もうなんか、ツッコむ気も失せたや……」
かく言うウチも、運ばれてきたチョコレートケーキをフォークで小さく裂き、一部を口に運ぶ。
「おぉ、これは中々……」
甘みが口の中に広がって味しい。
いやぁ、矢張りチョコですなぁ。
だけど、スポンジ食べるとやっぱりが渇いてしまう。
どうせ食べ終わっても幾つか話をするから頼んだ紅茶を殘しておきたかったけど、多分飲み干してしまうだろう。
またまた冷靜にそんな事を考えながら、ケーキを食べ終えるのだった。
「ねぇねぇ、環奈ちゃん」
「んー?」
食べ終えてすぐ、空になってしまったカップを持ったままのウチに早速話かけてきた。
「あのね、今日は付き合ってくれてありがとうっ」
「いいのいいの。ウチ、バイトない時は暇人だから。彼氏んトコか響川家に暇つぶしに行くぐらいしかしないから」
「そうなの? それじゃあ、またっちゃおうかな〜」
「いいよー。ただし、あまり待たせないようにね」
「はぃ、反省してます……」
待ち合わせの件を掘り返した途端、理優の肩が小さくなる。
……本當に子供と話してるみたいだ。
親になるって、こんなじなんかね?
理優は良い子だから助かるなぁ、なんてね。
「それはそうと、理優とウチの組み合わせって、なんか珍しいね」
「そう……かな? 結構私達、一緒にいるよね?」
「まーねっ。けど、あまりお互いの事知らないでしょ?」
「え……あ、うん……そうだね……」
「……?」
またもや急に表が変わり、悲しみの表を出す理優。
理優は瑞揶と似ているからだろうか、その表が気になってしまう。
「なんか言えない過去があるじ?」
率直に尋ねた。
こういう事は早目に処理しておいた方が殘りの高校生活もスッキリするだろうから。
理優はウチの質問に、首を橫に振った。
「……言えない過去は、ないよ」
「そうは見えなかったんだけど?」
「だって……過去じゃなくて、現在進行形で言えないもの……」
「…………。そっか。ならこれ以上は訊かないよ」
理優の表を察して、ウチは追求を止めた。
理優の黒ずんだ瞳からは、瑞揶の見せた哀愁とは違う、罪の償いとは別の、嫌なじがしたから――。
「言わなくて、ごめんね……」
「いいや、別にいいよん。聞かないでおいた方が良いこともあるって、最近知ったし」
「え……?」
「や、こっちの話だよん」
「……そう」
理優はこの話を追求してこなかった。
ウチは瑞揶のを知って、追求し、問いただした。
その結果は見事失敗、やらなきゃよかったというもの。
節介が過ぎても、返って嫌な思いをするだけならしないさ。
お互いのためになるし、ね……。
「じゃあさー、理優はウチに何か聞きたいことある?」
この話題はもう橫に置いとくべきと判斷し、別の事を問うてみる。
理優はししてから反応を示し、普通な事を訊いてきた。
「え……じゃ、じゃあ、瑞揶くん達とは中學から一緒なの?」
「いや、違うよん。そういえば、瑞揶と出會ってもう3ヶ月なんだよねぇ。実家出て金欠だったところを助けてもらったのが出會いだなぁ〜」
「ほぇ〜……凄い出會いだったんだねぇ〜」
「うん、それは自分でも思うわ」
あの時、瑞揶と出會ってなかったら死んでたんじゃなかろうか。
知らない所に1人で居たのだって、しは怖かったしねぇ……。
「それからいつの間にか仲良くなって、瑛彥とも仲良くなって、部活って、かなぁ。みんなキャラ濃いし、ウチは流されてばっかだなぁ〜」
「……私からすると、環奈ちゃんもキャラ濃いよ?」
「……そうかねー?」
自分ではそんなことは全く思わない。
あまりの起伏もないし、落ち著いてお茶を飲んで部室に居るだけ。
……キャラ、濃い?
「いやー、それはないわ……」
「そうかなぁ……? 大人びてて人で、大人の人ってじがするのにぃ……」
「……よく言われるけど、なぜかあまり嬉しくないわ」
通年70年は生きてるウチが子供のようだったらどうだろう。
瑞揶は30年は生きててあんなだから、大丈夫?
なんでも構わないけど、ウチの取り柄って“大人っぽい”だけなんかね?
それはそれで悲しいわ……。
「ちなみに、環奈ちゃんをに例えると牛さんだよー、って瑞揶くんと結論を出しましたっ」
「アンタら人のことそんな風に思ってるんかっ」
豆知識だと言わんばかりに教える理優に思わずツッコむ。
なんで牛?
はまぁそれなりにデカいけど、そゆこと?
「なんで牛なの?」
「寡黙だから〜」
「…………」
尋ねてみると、わかりやすい回答が返ってきた。
うん、ウチは割と寡黙だね。
牛も牛とかはなんか、寡黙な印象あるからそういうことか。
「……若いっていいねぇ。発想がかだわ」
「フフッ、環奈ちゃんも同い年でしょ〜?」
「そーですねー」
「なに〜? その気の無い返事〜? あはは〜♪」
「……なんでもないっ」
同い年……それは聞き様によっては嫌味だなぁ、なんて思ったりはしていない、うん。
とりあえず、この話はこれで終わりになるようだ。
ずっと握っていたカップを置き、スタッフを呼ぶ。
久し振りにこんなに話して仲良くなったし、まだもうし、話すことがあるだろうから――。
バイトばかりの中、話ばかりのひょんな1日も、夜が訪れるまで続いたのだった。
こうして2人で話し合うのも、たまには悪くない。
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