《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十五話

沙羅に連れ出されてやってきたのは屋上だった。

屋上に著くなり、彼は床に手をついて倒れる。

「さっ、沙羅!?」

「……今更だけど、蹴っちゃった罪悪が來たわ。いやそれより瑞揶、私のこと嫌いになった?」

「いやいや……。沙羅は僕のためを思ってしてくれたんだから、そんな事ないよ……」

「……そう」

安堵するように沙羅がため息を吐く。

本當なら、僕自がするべきなんだ。

僕には沙羅がいるんだから、レリに抱きつかれてたら弾かないと……。

その役割を沙羅にさせてしまったのだから、僕は不甲斐ない。

「沙羅……ごめんね。僕がもっとちゃんとしてればいいのに……」

「いいのよ、アンタはそういう奴だってわかってるし。それより、レリは異常よ。アイツ何かに取り憑かれてるんじゃない?」

「それは言い過ぎだと思うけど……」

立ち上がって両手に腰を當てる沙羅は面倒くさいという態度でいた。

僕が苦笑を返すと、沙羅は怪訝そうに僕を見る。

「……もしかして、レリに手を出そうとか考えてないわよね?」

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「そんなのあり得ないよ……。ただ、悪いな、とは思うけどね……」

「悪いも何もないわ。瑞揶は1人しかいない。世の中は早いもん勝ちで、私が瑞揶を取った。そんだけの話よ」

「……そう、か」

沙羅の言う事は最もだろう。

しかし、それでも僕は悪いと思ってしまう。

好きだという想いに応こたえてあげられないのは酷いだろう。

「……どうしたもんかしらねぇ。いっそ、あれこれやって退部に追いやってみる?」

「それなら僕が抜けるよ……。やめさせるなんて出來ない」

「だったら私も抜ける……ってわけにもいかないか。ま、瑞揶は家事も忙しいんだからそれが妥當ね」

剎那、沙羅がぎゅっと抱きしめてきた。

らかい、それでいて力強い抱擁をしてくる。

は僕の顔を見上げながら、儚げな表で呟いた。

「……部活帰りの時、私のこと出迎えてくれないと許さないからっ」

頬を赤らめて沙羅は僕のに顔をうずめる。

……まったく、なんて事を言うのさ。

これは毎日、味しい晩飯を作って待ってないといけない。

大変だなぁと思いつつ、僕はその日に退部屆を提出した――。

瑞揶の退部屆を一緒に提出したこの日、部活はあくまで平常だった。

瑞揶が退部したのに瑛彥、理優、環奈は憾そうだったけど、レリとナエトはいつも通りでいた。

ナエトは相変わらず本を読んでるし、レリは瑞揶が居なきゃ居ないでベースを弄っている。

それからは特に練習というわけでもなく、雑談したり、ときたま演奏したりして過ごす。

だけど、ナエトとレリが話し合うということはもう完全になくなっていた。

前までは仲が良かったのに、何があったのか……?

私はナエトに直談判したけど、特に何も答えてくれるようなことはなかった。

私とは犬猿の仲だから仕方ないとしても――ナエトは私にすら興味を見せてないような、無関心な反応ばかりだった。

なんでこんなにも変わるのか。

瑞揶の言っていた、日常がしいという言葉。

今ならその意味もわかる。

突然訪れた異常は、とても気持ち悪いから――。

家に著くと、瑞揶は豪勢な料理と抱擁をもって出迎えてくれた。

それだけでどんな醫療法をも超越した癒しを私に與える。

今日の疲れも忘れて、明日また頑張ろうと、思うため――。

「……って、思ってたのに」

「にゃーです?」

私はまたイラついていた。

目の前にいる人は瑞揶ではなく、ちっちゃいピンクの著を著た

なんでか知らないけど、私は白紙の紙に取り取りのハートをり付けたような場所に居た。

……コイツ、確か瑞揶の前世の?

なんか凄く面倒くさい事が起きそうで気がならず、私はその場で頭を抱えた。

「にゃ、にゃーです! 沙羅ちゃん、別に変なことしないから元気出してーっ!」

「変な事しかしないんじゃないの? まぁいいわ、何の用?」

率直に用件を聞いた。

確か私は、今日もベッドで瑞揶と一緒に寢た筈だ。

だからパジャマを著てるしね。

疲れてるし、現実に戻って寢たい……。

しかし、彼は私が用件を聞くとニヤリと笑った。

長くなりそうね……。

「ふっふっふーっ。沙羅ちゃんにお願いがあって呼んだのです」

「お願いぃ〜?」

「そうなのですっ! 瑞揶くんは最近、あまり音楽を聴いてないの。前世では音楽が彼の喜びだったのに、最近は聴けてないからにゃーなんだよっ!?」

「……ふぅーん」

適當に返事を返すとはにゃーにゃー鳴いて怒る。

音楽ねぇ……。

瑞揶は前世でもヴァイオリンが上手かったのだろう。

そして音楽もいろいろ聴いていた。

そういう事?

彼が家で音楽を聴いてるところなんて、全然見ないけど――。

…………ん?

「……私のせい?」

「うんっ!」

「…………」

ズバッと言われ、私はその場に膝をつき、前に倒れて手もつく。

クッ……なかなかダメージがっ……。

でも、そうよね、私が見てないって事は私が家に來る前は聴いてたってことだもの。

瑞揶、イヤホンは持ってるし……。

「そう落ち込まないで? 聴いてなかった分は今から聴けばいい。それに、音楽は癒しだから、瑞揶くんを癒してあげられるはず」

「……今更?」

「今更とか言わないっ。瑞揶くんも貴あなたも疲れてるでしょう? 音楽ぐらい聴く暇はあるはずだから、しっかりね?」

「……はい」

思わず肯定してしまう。

見た目は年下なくせして中は長壽だからか、彼の言葉には謂いわれのない威圧があった。

「それとね、瑞揶くんが一番好きな歌って知ってる?」

「……いや、知らないわ」

「…………」

「……な、なによ?」

「本當に瑞揶くんの彼さん?」

「ツッ……!」

グサッと見えない剣が私の心を貫く。

いや、もう一刀両斷ぐらいされる勢いだ。

「あっ! ごっ、ごめん! 知ってて當たり前だと思ったから、つい……」

「い、いいわよ……。どうせ私は、瑞揶の好きなものなんてわかんないわよ!」

「瑞揶くんの1番好きなは?」

「……きりん」

「わかってるじゃないのっ」

パシーンとに頭を叩かれる。

瑞揶はよく召喚するし、その際たまたま聞いただけなんだけどね……。

まぁよかったわ、なんとか自信を持てそう。

「教えちゃうけど、瑞揶くんの1番好きな歌は“Calm Song”。學園祭で環奈ちゃんが歌ったでしょ?」

「……ああ〜」

言われて思い出す。

あぁ、あの歌か。

確か、環奈が作ったっていう……。

「……なんか、環奈に負けた気分だわ」

「ふふ。じゃあ沙羅ちゃんが曲作る?」

「いやいや、無理でしょ。奏者として、歌を作るのにはセンスがいるってわかってるもの」

「そう? 殘念だなぁ~?」

「今の瑞揶が1番好きな歌を聴かせれば、それでいいじゃない」

「確かにね。けど、聴かせるのは貴の聲でお願いしたいな」

「……え?」

あんだって?私が歌う?

「……何で私なのよ?普通にCD聴かせればいいじゃない」

「そういうことじゃないでしょ〜? 瑞揶くんの1番好きな聲は貴の聲、その聲で瑞揶くんを喜ばせてあげてしいの」

「…………」

1番好きな聲。

そう聞くと、なんだか照れくさい。

しかし、好きな人の聲が1番好きというのは、考えてみれば當たり前だ。

「……気乗りはしないけど、やってみるわ」

「うんっ! お願いねっ!」

ニコニコと笑いかけてくる。

瑞揶と似た顔や顔立ちだからか、不覚にもし、ドキッとしてしまった。

「……じゃ、さっさと帰して」

「えーっ!? 沙羅にゃーは遊んでいかないの!?」

「いや、私は……」

「にゃーを召喚! うささんも! 突撃ぃいい!!!」

「ッ!!!?」

次の瞬間には大量のねことうさぎに飛びつかれ、私はもふもふされてしまうのだった。

コイツ……やっぱり厄介。

「おはよー沙羅。……あれ? なんか疲れてる?」

「……なんでもないわ」

起きてから瑞揶に心配されたのは余談である。

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