《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十八話

月曜日になっても瀬羅のやりたいことは決まらず、僕達は彼に學校へ送り出された。

「姉さんが帰ってきて、なんだか落ち著いてきたわね」

「そうだね〜っ。平和が1番だよ〜っ」

お日様の下で僕らは學校への道を歩いていた。

にゃほーん、にゃほーんと言うと、沙羅に頬を突かれる。

日曜があったとはいえ休日明けだからか、まだほのぼのとしたじが殘っていた。

「この時間からの登校だと、僕達2人っきりだね?」

「そうなるわね〜。……それで、なによ?」

「いっぱいぎゅーっしますっ!」

「……そう。いつもと変わらないじゃない」

最早朝のぎゅーっは恒例化しつつあるのだった。

俺の目の前に座る2人は、今日も抱きつきあっていた。

瑞揶の後ろの席に座る俺としては、この2人がいちゃつく様を見ていなくちゃならないのが定めだ。

ただ、幸せそうなのは良いことだと思うが――。

「いっつも良くやるよなぁ。なぁ、聖兎?」

「ん? ……あぁ、そうだな」

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ポケットに手を突っ込んだ瑛彥がやってきて、同意を求めてくる。

好きなもの同士なら、抱きつき會うのも良いんじゃないか?

俺としては、沙羅にしもなびかせられなかったのが殘念ではあるが……。

「なによ瑛彥。文句あるの?」

「怒んなよ沙羅っち……文句なんてねーよ」

「アンタには理優がいるでしょうが。ちゃんと付き合ってんの?」

「お前に心配されるまでもねーよ。お前らに比べたらいちゃいちゃには欠けるけどな」

「當たり前よ。私たちは世界一し合ってるわ。ねー、瑞揶?」

「あはは……どうかなぁ?」

瑞揶が曖昧に返事を返し、沙羅は不満げに瑞揶に抱きつき返した。

……なんだかな。

どうしてこうも、もどかしい――。

「……俺、ちょっとトイレ行ってくる」

「? おう」

俺は席を立ち、逃げるようにトイレに向かった。

……なぁ、神様。

俺がここに送られた理由ってのは、こういう事なのか――?

響川家に預かれってのも、こういうことのはず。

だったらアンタは、酷い奴だ――。

放課後になり、私は瑞揶と別れて部活に行こうとした。

今日は理優がかるかんという和菓子を持ってきてくれるそうで楽しみだ。

しかし、教室を出ようとして呼び止められる。

「沙羅。し、話いいか?」

話を持ちかけてきたのは聖兎で、何故か真剣な表持ちをしている。

クラス委員として、聞くぐらいはしてあげよう。

「いいけど、なに?」

「俺を部活にれてくれ」

「…………ん?」

あんだって?

……部活にれろですって?

「うちの部活は一部の特例を除いてのほほんとした奴限定なの。あと、楽できる奴。じゃないと許さないわ」

「……俺じゃダメなのか? 瑞揶が抜けたって聞いたし、1人足りないだろ?」

「……そりゃー、そうだけどねー」

「……ダメか?」

「…………」

ぶっちゃけ、廃部の危機と言えばそうだ。

というかもう廃部でもいい気がしないでもないけど、そしたら理優や環奈と話す機會も減ってしまう。

ナエトやレリはいいんだけど、みんなと會えないのはそれで困るわけで、ナエトとレリがセットで辭めても部を存続できるよう、1人ぐらいしい。

その點、聖兎なら私と瑛彥が知ってるし、環奈とも顔を合わせてる。

それなら他に幾らでも同級生がいるけど……うん、まぁいいや。

「採用で」

「……え?」

「さっさと部屆け書いてこいつってんのよ。顧問はわかるわね?ほら、行った行った」

「お、おう。すぐ書いてくるよ」

聖兎は笑顔を見せ、そそくさと廊下に飛び出していった。

……軽々しく許可してしまったけど、良かったのかしら。

ま、悪い事があったら即排除すればいいわね。

私も新部員の朗報を伝えるべく、部活に向かったのだった。

「って、事があったのよ」

夜に瑞揶と2人でベッドに座って寄り添いながら、今日あった出來事を話す。

瑞揶はさして気に留めてないようで、むしろ微笑んだ。

「そっか。僕の代わりがったなら安心だね。……って、聖兎くん、楽弾けたの?」

「全然弾けないわ。とりあえずヴァイオリンの練習からる事にしてる。ってわけでヴァイオリン貸しなさい」

「あ、うん……壊さないでね?」

「使うのは私じゃないし、保証に欠けるわね」

「……一応著があるし、壊されたくないなぁ」

しゅんとして背中を丸める瑞揶。

そんな姿も可くて、私は彼にべったりと寄り添った。

「……ちょっと、沙羅っ」

「なによ……?」

「……もうっ」

「やんっ」

瑞揶にベッドに押し倒されて変な聲が出た。

今のはかなり恥ずかしいけど、次には瑞揶がキスをしてきて、めちゃくちゃに抱きしめてきて、恥ずかしさはどんどん上乗せされていく。

「……沙羅、好き。ほんとに好きっ」

「私もよ……好き。瑞揶、もっと抱きしめて……」

「うんっ……ぎゅーっ」

「…………っ」

一杯彼に抱きしめられる。

れるパジャマがもどかしい。

やお腹に彼がぴっとりくっついてるのに、同士がぶつかってるわけではない。

でも、彼のの鼓じる。

自分の心臓もバクバク鳴ってるからきっとお互い様だろう。

「……瑞揶ぁ。私……もどかしいのっ……」

「そう? してしいの?」

「……いじわるっ」

「えーっ? なにがーっ?」

瑞揶が頭上にはてなを大量に浮かべる。

こんだけ著してるんだから、いろいろともどかしいのに……。

「瑞揶は男なのに、なんでもっとこう、ガッついてこないのよ?」

「……んー?」

ベッドの上で抱き合いながらゴロンゴロンと回る。

そのうち落ちそうだ、止めよう。

「まぁ瑞揶だしね。私はこれで十分だし、いっか」

「えーっ? なになにー?」

「なんでもないわよ……。それより、ちょっといいかしら」

「……?」

私は惜しくも瑞揶から離れ、一旦自室に戻った。

そして長い円筒のケースを持って、瑞揶の部屋に戻る。

私が帰ってくるのを待っていた瑞揶がベッドに座ってもじもじしていた。

「……フルート?」

「そうよ。フルート、聴かせたいと思ったの」

私はケースのファスナーを開け、獲を取り出した。

に輝くしい筒狀の楽

吹ける準備をするのを、瑞揶がそっと見ている。

「……何を吹くと思う?」

不敵に笑って瑞揶に尋ねてみる。

急に問われてもわからないのか、彼は頭をひねるだけだった。

私はクスクスと笑って、彼に答えを教える。

「“Clam Song”よ……」

「えっ……」

慌てて瑞揶が立ち上がる。

そんなに意外だったのかしら……。

「なによ、文化祭で弾いたじゃない。ま、この數日で環奈に全の吹き方教わったんだけど」

「えっ、でも……沙羅、どうして……?」

「……。……貴方に聴いてもらいたいからに、決まってるじゃない……」

わざわざこんなことを口で言わせるなんて、ほんとにいじわるだと思う。

でも、嫌いじゃない。

顔が赤くなるのも、恥ずかしくて照れてしまうのも、彼のせいだとわかると嬉しくて……。

「……沙羅」

「……ふふふっ。ご靜聴ください」

防音用の結界を張り、私はフルートを構えた。

リッププレートに口を付け、そっと息を吹きかける。

鋭い高音の笛の音が靜かな室に優しく木霊した。

指を変え、音を連ねる。

穏やかでしい音、リズムの刻まれた旋律がそっと流れていく――。

Clam Song、それは穏やかな音の意。

世界を靜寂に包むような、慈しみに溢れた曲だった――。

5分を超える、暖かな演奏を終える。

息は上がっていない、力には自信があるのだから。

「……どう、かしら?」

おそるおそる瑞揶に想を尋ねてみる。

上手く弾けた、リズムに間違いはなかったつもり。

その自信がまかり通ったのか、瑞揶は微笑んでいた。

「綺麗だった……。ありがとう、沙羅」

「あら、まだ謝するには早いわ」

「……え?」

「次は歌よ。この日のために覚えたんだからっ」

私はフルートをケースの上に置き、攜帯を取り出した。

こっちの方に音源がっている。

「……ねぇ、沙羅?」

「ん?」

再生ボタンを押す前に、瑞揶から聲が掛かる。

「なに?」

「どうして急に、演奏してくれたの?」

「…………」

どう言おうか悩み、首を傾かしげる。

なんだか、に唆されてやったと言うのは癪だ。

だから、ちょっと卑怯かもしれないけど、間違いではない答えを口にする。

「……休みがしいって言ってたから、休めるように、音楽を聴かせたかっただけよ。ふふふっ、私の歌聲に癒されるがいいわっ」

不敵に笑って宣言すると、瑞揶は驚いたように目を丸くして、また微笑んだ。

「……うん。聴かせて」

「ええ。じゃ、始めるわ」

そして私は、攜帯の再生ボタンを押した。

大切な人と、世界を想った歌、Calm Song。

私の想いが貴方の心に、屆きますように――。

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