《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第一話
もう嫌だな――。
友達を欺いて、苦しめようとして、嫌な役を演じて、する人にも敬遠されて。
あたしは心のままにけない。
いろんな人に迷を掛けて、どんどんみんなが遠くなっていく。
でも後戻りもできないし、あたしはやるしかない。
ごめんね――。
ごめんね、みんな――。
◇
今日も部活が終わった。
家に帰ったら、きっと瑞揶が味しい晩飯を用意してくれている。
そんな期待をに、私は環奈や瑛彥と別れて1人、帰路を歩いた。
夜の小道、人通りは全くと言っていいほどない。
こっちの道は駅とは逆方向の道だからそれが通りなのだろう。
しかし、私は電信柱に1人分の影を見つけた。
「やーはははっ、沙羅ぁー?」
「……あぁ、また來たのね」
そこには街燈の白いに照らされたレリが立っていた。
あどけない笑顔でカラカラと笑っている。
「……何の用かしら? また私に槍でも投げる? 避けるけどね」
「あはははははっ! そうそう、勝てないのはわかってるんだよねぇ〜。でもどうしても沙羅には瑞揶から離れてもらわないと困るしぃ?」
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「……そっ。それで? どうするの?」
「とりあえず、正攻法で行こうかなぁーと思ってね。試合えよ、沙羅!!!」
「…………」
レリが踏み込む。
水の髪をなびかせ、風を切って迫ってきた。
しかし遅い、目で捉えられる。
「……はぁ」
私はため息をついた。
その間にもレリは私の懐に潛り込み、いつの間にやら顕現させた水に輝く鋼鉄の槍を私に向けて突き出す。
「【空転移からてんい】」
殺意の篭った槍は私に突き出され、見事に穿った。
だが、穿たれたはほどもじない。
【空転移からてんい】――それはを過させる魔法。
この魔法で私自を過させたのだから――。
過の切れるタイミングは発の5秒後。
私はスーッと前を歩き、レリのを通過した。
「ツッ!?」
レリの驚愕の聲をじる。
自分のを通り抜けられて驚かぬ者は居ないだろう。
だが、その驚愕は油斷でもある。
「――5秒」
呟くとともに、私は手に刀を顕現させた。
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魔法によって編み出された鈍の刀、その刀を見ることなく私は後方に向けて振るう。
キィインという鉄のぶつかる音がする。
レリは刀を防いでいた。
冷や汗をかきながら、私を殺さんと睨みを利かせて――。
「……死ぬ?」
私は問うと共に、思いっきり刀を振り抜いた。
「ア"ァッ!!?」
槍が回転しながら吹き飛び、レリもひれ伏した。
私の力の前ではどこぞの天使の力なぞ非力なのだ。
腕が折れたのか指が飛んだのか知らないが、レリは痛みを堪えてうずくまっていた。
立てないほど強烈にはしなかったつもりだが、まぁどっちでもいい。
殺そうとしてきた相手を甘やかす意味はないもの。
「ねぇ、どうするの? 死ぬの? それとも生かしといてしい? 早く選びなさい」
「うっ……くっ……沙羅ぁ……っ……!」
「……苦しそうね。いっそ殺した方がいい? あまり騒ぐと警察とか來そうで嫌なのよね」
「沙羅ぁぁあああああ!!!!」
必死の形相で怒號を発する。
しかし私は恐れなどしない。
コイツは害だ。
ただ、それだけ――。
「……【無法結界ヨールアスア】」
呟くように魔法を発する。
これは結界と外界を切り離す魔法。
白い格子で出來た箱が私達を包み、正常に発されてるのを確認すると、私は刀を振り上げる。
「……のよしみよ。楽に逝かせてあげる」
「ツッ……ご、ろ……っ!」
「…………」
剣を振り下ろすか戸ってしまう。
眼下に居るのは床を這いずる死にかけのような。
殺ろうと思えばいつでもやれるような狀態だ。
しかし――人を殺したら、彼は私を嫌いになるだろうか――?
そんな不安が脳裏によぎる。
彼はきっと、私を怒るし、私を嫌に思うだろう。
振り下ろせない。
振り下ろせばこの先は楽になるのに、それができない。
【無法結界ヨールアスア】、ここで起きた事は現実とは別なのだから結界を解けばレリの死は殘らない。
なのに――なんで――。
――ドッ
「げふっ……」
それは不意打ちだった。
レリの手からは新たに生された槍がび、目の前に立つ私の腹部に突き刺さる。
制服にが染みる。
痛い、こんな失態をしたのは初めてだ。
「ぐっ……つう……」
「あっ……あはっ、あはははははっ!」
痛みから刀を落としてしまう。
しかし、レリはぐりぐりと槍を押し出してくる。
視界が歪む、こんな痛いのは初めてだ。
「……ばーか。ばーか! さっさと死んじゃえ!! そして瑞揶は私のものだ!!!」
「……こっ……のぉおっ!!」
槍を抜こうと矛先を摑む。
しかし、力が思うようにらず抜けない。
意識が朦朧とする、視界も霞んできた。
こんな事は初めてだ。
――ザシュッ
――びちゃびちゃ
槍が抜かれた。
痛い、今飛び出したのは私のか?
赤くぶちまけられた水たまりは鮮やかで、けれど見ていて吐きそうになる。
いや、そうでなくても口からが出ていた――。
「形逆転……ひひっ、早く殺せばいいものを、のこのこ近付いてきて何を戸ったんだか」
レリが立ち上がる。
街頭に照らされる赤い槍の矛先が眩しい。
私は後ずさった。
が言うことを聞かない。
なすが、ない……。
どうやら、私がレリに負わせた傷なんて軽傷だったようだ。
急に落ちたからが圧迫されて苦しんだだけ?
普通に槍を持ってるじゃないの――。
「……死んじゃえ。死んじゃえ、沙羅!!」
「……っ」
レリが槍を突く構えを取った。
ああ、あの子にけなどという言葉はないのだろう。
私は死ぬのか。
足がもつれ、壁を背にして落ちる。
逃げようもない、この狀況ではもう逆転も葉わない、か――。
瑞揶は私を、生き返らせてくれるかな――。
そんな呑気なことを頭に思い描き、槍を見つめる。
「死ねぇ!!!」
槍が突き出された。
私の頭に向けてまっすぐと飛んでくる。
どうにも避けられそうにはない。
……ああ、こんな風に友達に裏切られるのも――
私は初めてだな――。
頭が吹き飛ぶだろうと思った。
潔く目をつむった。
しかし、攻撃は一向に私の頭を砕く気配はない。
……何が起きたのかと、私は目を開けた。
そこでは瑞揶がレリの首を摑み上げ、ナエトが瑞揶に銃口を向けていた――。
◇
最後まで黙って見ているつもりだった。
レリからは僕に、今回の件についてれるなと言われていたのだから。
魔王の第五子である僕が関わって、何かあれば嫌だという事。
加えて、僕が関わればそれはレリが苦しむだけというのが告げられていたから。
本當なら、レリが吹き飛ばされた時點で僕が出向いていればよかった。
そうすれば、こんな化けが出てくることもなかったのに――。
「……レリを離せ」
瑞揶の頭に護用に持たされていた銃の先を押し付け、命令する。
レリは首を締め上げられ、両手で瑞揶に反抗しても解放される様子はなかった。
ここは僕がなんとかするしかないが、返事はわかっている。
こんな狀況で笑っているコイツは、どんな命令にも聞くはずが無いと――。
「……ナエトくん? 僕にそんな怖いもの突きつけないでよ。嫌だなぁ、僕はレリを殺すつもりなんてないのに。あはははは」
「そのままにしていても死んでしまうだろう!!」
「大丈夫だよ? ちゃんと加減してるもの。それに、殺すとしたら楽には殺さないから――」
「ッ――!」
僕は待てず、引き金を引いた。
すぐさまパァンという乾いた音が響いた。
瑞揶は不死だと聞いている、こんな事はどうってことないだろう。
しかし、それは思い過ごしだった――。
「いったぁ……。何するの、ナエトくんっ?」
「……なんだとっ!?」
瑞揶は傷一つ負っていなかった。
頭に向けて、ゼロ距離から放った銃弾を凌いだのだ。
あり得ない――否、違う。
瑞揶が普段は普通な人間だからそう思っていただけで、本當のコイツは異質なのだ――。
「――はぁっ」
瑞揶はため息を吐いて、レリを投げた。
軽々と、ゴミをポイッと捨てるかのように。
サイファルの生み出した結界に衝突し、レリは落ちた。
瑞揶は首を回して僕を見る。
僕は再び銃を構えるが、彼は苦笑してやめてと言った。
いつもの溫厚な瑞揶のようで、僕はしだけ銃を下げる。
「まぁ落ち著いてよナエトくん。僕はレリを殺したいぐらいだけど、今がどうなってるのか、しはわかってるから」
「……しは、だと?」
「うん。多分、レリは自由律司神にかされてるんでしょ?」
「――――」
瑞揶の言った言葉は、レリが僕に言った事と同じだった。
彼は自由律司神にられている。
だから、今回のことが終わるまで、あたしに関わらないでと僕は言われた。
「レリの本心がどうかはわからない。ただ、僕はレリを殺そうとは思わないし、というか僕は直接人を殺そうだなんて思いたくないよ。だから、今日は沙羅を連れて、もう帰る」
「……だが、それではまた同じ事を繰り返すだけだ。瑞揶、貴様は凄いんだろう? なんとかしろ」
「もちろん。だから今、僕はレリに能力を使った。僕と沙羅に、金際顔合わせできなくするように、ね……」
「…………」
それならばきっと、レリも問題を起こすことはないだろう。
彼が自由律司神に施された使命は、瑞揶の心を奪うことであり、邪魔するもの――つまりは沙羅を排除することなのだから。
瑞揶や沙羅と會えさえしなければ問題は無いんだ。
「……助かる。が、もっと早くできなかったのか?」
「僕だってレリたちとは仲良くしたかったもの。友達なんだから、一緒にいられないのは嫌だし……」
「……そうか」
そこまで聞いて、僕はいよいよ銃を下ろした。
コイツは信用に足る男だ、噓を吐いてるわけでもないだろう。
「……じゃ、僕は行くね。ナエトくん、レリをお願い」
「ああ」
瑞揶は踵を返し、サイファルの零したを消して歩いていく。
「あっ、気絶してる。今なら何してもいいですかにゃー?」
そんな聲が聞こえたが、隨分と余裕がありそうだし、サイファルは大丈夫だろう。
僕もレリを抱えるべく、彼の方へ目を向ける。
「――ぐっ、ツゥウウウッ!!!」
「……レリ」
しかし、レリは自分で起き上がっていた。
貓が逆立つかのように髪を逆立たせ、怒りを向けている。
痛々しい姿だ。
こんな彼はこれ以上見たくない。
「ぎゅっ、ぐりゅうううううう!!??」
「……レリ?」
「ぎゃ、ひゃふ? あっ、あうううええいあっ、ああっ……がっ」
壊れた機械のように謎の言葉を発し、をひねるレリ。
なんだ……?
とても奇妙で、おかしい――。
「あっ、あぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「! レリッ!!」
レリは翼を広げ、サイファルの作った結界をいとも容易くブチ破り、夜の中へと飛んで行った。
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