《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第四話
の匂いがする。
それに気付いたのと部屋の半分が吹っ飛んだのはほぼ同時だった。
「ツッ――!?」
轟音をあげ、塵を撒き散らして家が半分崩れる。
なんとか私のいるベッドは無事なようで、風で私が飛ばされそうになった以外は特に被害はない。
誰が――そんな事は考える必要もない。
外に居たのはナエトだろう。
ならばナエトが瑞揶を気絶させたか殺したかで家を壊したのだろう。
瑞揶の結界がどういう構造なのかは知らないけど、側から壊す事は可能らしい。
「はーっ……」
ため息、もしくは息吹。
私は一呼吸で対魔の著と刀を顕現させた。
瑞揶が一瞬で倒されたけど、とうせ不死だから心配はしない。
人を倒された怒りはあるけど、まだ彼の事を知らないから怒るかは保留。
「……ひとまず、話をさせる狀態にしないとね」
私は立ち上がり、ピンクの振り袖を振った。
手を振った、それだけの事でも衝撃波を生み、目の前の土埃が晴れる。
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それと同時に下からジャンプする様な、バキンッと床板を織る音が聞こえた。
次の瞬間には、目の前にナエトが立っていた。
牛の頭蓋骨を額に付け、黒い羽を肩から腕に掛けてのように纏い、黒い著にを包んでいる。
彼なりの対魔の著なんだろう。
「……サィファルゥ」
「……まったく、何を怒ってんのかしらね」
彼は敵意向きしだった。
犬馬をむき出しにして、まるで狼が獲を食いかからんとする瞳のよう。
見られる側としては気味が悪い。
「……僕は悟ったんだ。やはり貴様を野放しにしておくべきではなかった!!」
「……今更なに? どうしてそんなこと言うのかしら? 私がなんかした?」
「レリが死んだ」
「…………」
彼の一言で大の事を察した。
レリは昨日とても狂っていたし、おそらく自殺でもしたのだろう。
その事に対して驚きはない。
私とこれからも爭い続けるかそれとも諦めるか、それだけの話。
ただ、自殺までするのは予想外だったけど――。
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「ま、私が居なけりゃ瑞揶はレリのものだったかもね。けどそれで私を恨むのは逆恨みよ」
「違う、貴様は何も知らないからそんな事が言えるんだ!」
「……なに?」
「貴様さえ居なければ、全て平和に収まったんだ!! 死ね、サィファル!!!」
「ッ――」
ナエトがその場で刀を振るう。
刀を振るった衝撃に黒い魔力が乗った攻撃が私に向かって直進した。
風を斬る魔力が襲いくる中、私は手を前に翳かざす。
「【百智の盾モモゲード】」
ばした手から四方にびる黒い十字架が生み出された。
次の一瞬が訪れると、衝撃波と私の魔法がぶつかり合う。
しかし、衝突することはなかった。
【百智の盾モモゲード】、それは魔法を打ち消す十字架なのだ。
吸収されるように斬撃は消え去り、それを見てナエトは再三刀を振るう。
彼の作る魔法の衝撃波は、全てこの十字架に無力化された。
「無駄……って言ってもわからないかしら。よくわからないことばかり言って、いい迷ね」
「ッラァァアアア!!!!」
「げっ!」
余裕をかましているとナエトは踏み込み、こちらに飛んできた。
一瞬で詰められる距離、彼は十字架を毆りつけて私もろとも吹っ飛ばした。
家の壁を破壊し、外に投げ出される。
空中で勢を立て直し、夕暮れの空に向かって魔法で飛んだ。
「ツゥ――ったく! いいわよ! やるってんならやってやるわよ!」
空高く飛び、およそ地上からは點にしか見えないだろうと思える所で止まり、すぐにナエトもやってきた。
暗い顔でブツブツと何かを言っているが、そんな事は知ったこっちゃない。
「【無法結界ヨール・アスア】」
広範囲の【無法結界ヨール・アスア】を発する。
この結界で起きた事は外に知られないようにするために。
詰まる所――殺す可能もあるわけだ。
「【白明の槍ライジャスティーグ】――」
白き槍を現化させ、右手でキュッと摑む。
敵は殺すと面倒な相手ではあるが、手を抜けるかどうかは定かではない。
しかし、彼は魔力だけなら一級品、ならば全力を持って打ち倒そう。
「來なさい――相手になるわ」
「見下すなぁあ―――ッ!!!」
ナエトが空を蹴る。
ブオンという風をが吹っ飛ぶ音が耳にるも私は彼の姿から目を離さない。
きは速い、さすがと魔王の子と言えるほどに。
しかし――それだけでは、私には勝てない。
ナエトが刀を振り上げる。
怒りに任せ、型などなく両手を振り上げ、がガラ空きになった。
「――【第一撃ネイジェ】!」
彼が飛び掛っているのに合わせ、槍を突く。
白刃の切っ先を持つ槍は見事に彼のを捉えた。
「――【空転移】!!!」
「なっ!?」
槍は文字通りナエトを貫通した。
當然を貫くでもなく、ただすり抜けるだけ。
勢いのままに私をもすり抜け、私は前に飛んだ。
【空転移】からの、後ろからの奇襲。
それはよく私が使う手でもあり、私をすり抜けたところから予想できた。
後ろを向けば私の目と一寸の隙間を開けて刀が素通りする所だった。
避けていなければ頭が真っ二つで気持ち悪いことになっていただろう。
「サイファルゥウウウ―――!!」
「【第二撃ヨゥジェ】!!!」
ぶ男に向けて2発目の突きを放つ。
突くと同時にカマイタチが発生し、目に見えぬ風の猛攻がナエトに迫る。
「【魔の魔砲ギスティ・セアーガ】!!」
彼は片腕を私に向け、腕全から黒いの塊を放出した。
太い魔力の線は軽々とカマイタチを飲み込み、私をも食らわんとする。
「やっ、ば……」
砲撃は遅い、しかし広範囲すぎた。
私の視界を埋め盡くす黒に顔を引きつらせる。
「……【羽天技】――」
考えた結果、この技に頼ることにした。
【百智の盾モモゲード】で魔力を吸収するにしても吸収量をオーバーしてるから私が飲み込まれるのはすぐだし。
吸収できないなら砲撃を止めるしかない――!
「【二千桜壁にせんおうへき】!!!」
技名を告げると共に、私の視界は桃に塗り替えられる。
範囲を指定できるピンクの防壁は薄くても全てを通さぬ鉄壁を誇っている。
ズゥウウンと砲撃が桜の壁に衝突する。
ゆっくり、ゆっくりと壁を押そうとしてくる黒の塊。
食らってたまるかと、私はさらに魔力を乗せる。
「うぅぅうううう、りゃぁぁああああああ!!!」
押し返した。
押し返し切った。
それと同時に盾と黒は弾け飛び、季節外れにも関わらず黒とピンクの桜が空を舞う。
「ハッ……ハッ……ハァッ……」
「どう、よ? ハァ……しは、落ち著いた?」
お互いに息が上がっている。
普段は使わない大魔力を消費する魔法を連続で使って、魔力はまだまだあってもが追いつかないのだ。
「……っ……僕は……お前を、殺す!!」
「……はぁ、そうっ。もうっ、疲れるわねぇ……」
まだ手に持っている槍を構えると、ナエトも刀を構えた。
距離は十分離れているにも関わらず、気迫が私まで伝わってくる。
痛いほどの覇気をじるのは久々で、これからの戦闘が死闘であるのも理解できた。
「……やるしかないようね」
「貴様を逃がすつもりは無い。ここで死ね」
「それは聞き飽きたわ。ま――私に楯突いたことを、あの世で後悔することね!」
「ほざけっ!!」
両者共に空を駆ける。
風を纏って槍と剣を振りかざし、ぶつけ合った。
風が唸うなる。
鳴らされた金屬同士の音がキィインと響くも、私はを回転させて槍の柄でナエトを叩いた。
「グッ――!」
ミシッ、という鈍い音がナエトの右肩から聞こえた。
攻撃が命中し、ダメージを殘した証である。
この機を逃すわけにはいかない。
「【終撃センジェ】ェエエエ――!!!」
「グウッ!!?」
そのまま私は槍を振り抜き、切っ先より黒い魔力を打ち出した。
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