《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第六話
槍が砕け散り、両手が空いた。
右手に殘るパラパラとした覚だけが殘り戦いの終わりをじた。
【終撃センジェ】を撃ったことで目の前には黒煙が広まっている。
一応手は抜いたが、大発を直にけたはず。
ただでは済んでいないであろうが――
「――しぶといわね」
黒煙が薄れ、ナエトの姿が現れる。
右腕の袖部分は消え去り、頭からはが流れて右目に垂れている。
しかし、損傷はその程度だ。
「――フゥ……フゥ……」
「もう諦めたら? 平和に生きてた王子が私に勝とうなんて無理なのよ」
「そうは……フゥ……いかない……」
「……そ。なら戦闘不能になるまでボコボコにしてあげるわ」
手を抜いたのが間違いだったと後悔する。
もう面倒くさいから倒してあげよう。
むしろ、今気がかりなのは――。
「……姉さん、帰ってこないわね」
ポツリと呟く。
これだけ時間が経っても瀬羅は帰ってこない。
上空とはいえ、この街で広範囲の結界を張っているのだ。
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これだけ広い範囲に異常をじて私の結界に気付くはず。
そうすればナエトを倒すのは楽になるのに――。
「……フッ、姉を待っているのか」
「……あん?」
私の呟きが聞こえたのか、ナエトが鼻で笑って返した。
しかしおかしい。
彼に、瀬羅の存在を教えていたかしら――?
「それなら無駄さ。アイツは、帰ってこない――」
「……なんですって?」
「奴は……僕が殺したからな」
「――――」
言葉を失った。
いや、噓だ、ハッタリだとしか思えない。
私相手に苦戦している奴が、私とほぼ同等の力を持つ姉さんに勝てるはずがない。
それはわかっている。
だから余裕を持って、笑って返した。
「どういうことかしら?」
「どういうことも……なにもない。アイツは……レリを殺した……」
「なんですって……?」
驚いた。
どうして姉さんがレリを――。
「教えてやる……。お前の姉の、最後をな……」
そしてナエトは語り出した――。
◇
ドサリ、と落とされたのはレリの死だった。
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ただの死ならば良かった。
しかし、中にを開けられ、頭も貫通して絶命している。
「レリ――!!!」
僕は彼だったに駆け寄り、抱きしめた。
おかしい――こんな事になるはずじゃなかった。
なんでレリが死ななければならない。
こんな事で、何故――。
「貴方の探していたはソレだったみたいね」
「……誰だ?」
涙の出る顔で辺りを見渡す。
誰もいなかったが、空からゆっくりと降りてくる人影が見えた。
黃緑のセミロング、同の著にを包んだ1人のだ。
2本のアホがサイファルを思い起こさせる。
「初めまして、第五王子殿。私は響川瀬羅です」
「……響川?」
それは瑞揶と同じ苗字だった。
瑞揶の家に行ったのはサイファルだけではなかったのか――!
「妹を傷付け、瑞揶くんをも苦しめるため排除しました。ご了承ください」
「何が排除だ!! こんな姿にして……貴様は、貴様は許さない!!!」
「ならば戦いを。私も、家族を傷つける奴らは許さない!!」
お互いに武裝を展開する。
刀と著だけに大袈裟ではあるが、これが魔人の武裝だ。
「うぉぉおおおおおお!!!!」
「はぁっ!!」
互いに刀を振るい、衝撃波と共に生み出された黒い魔力がぶつかり合う。
木々を飲み込み視界を覆うも、連ねて僕は刀を振るった。
「うぉおおおお!!!」
 力任せに刀を薙いだ。
豪風と魔力の塊が一となり、重ねて目の前を振り払う。
「何をしているのですか?」
「ッ――!?」
不意に背後から聞こえた聲に、咄嗟になって刀を振るう。
背後に持っていった刀は空を斬り、代わりに右足に斬撃をける。
「なっ――!?」
「遅い。加えて攻撃も単調。そんな事で私に勝てるなどとお思いなさらないでください」
「グッ……舐めたことを――!」
パックリと裂けての吹き出る足に即座に回復魔法をかけて止する。
隙を見せているのに攻撃してこないとは、つくづく舐められている。
それがまた怒りを掻き立てた。
しかし、なんとかこの間に冷靜さを取り戻した。
落ち著け、相手は戦闘が極端に強いと自分に言い聞かせる。
近接戦は勝ち目が皆無、ならば遠距離からの砲撃で倒すしかない。
「くっ……」
「……あらら、どこに行くのですか?」
僕は跳躍し、そのまま魔法で飛行する。
彼も追ってくるが、黒い砲撃で牽制する。
當たらない――全て紙一重に避けられる。
しかし、スピードに差はない。
このまま遠距離戦に持ち込む!
「……魔弾の撃ち合いですか、王子様? 魔弾はね、先読みして當てるんだよ」
響川のもまた魔弾を手のに作り出した。
それも僕の砲撃を躱しながら――。
彼はニヤリと笑い、僕に向けて魔弾を弾く。
速い――が、方向は今僕が居る軌道にある。
上下に飛行すれば避けられる……僕は上に飛んだ。
しかし――。
「なにっ!?」
魔弾は僕の飛ぶ方向を予期したかのように上に曲がり、僕に迫った。
避けている時間は最早ない、刀を振るって魔力の乗った衝撃波を打ち出す。
目の前で発が起き、をよろめかせる。
クソッ、なんだって僕のきを……!
「1発で終わりじゃないですよ」
「なっ――」
その言葉が聞こえるや否や、空から黒いの雨が降り注いだ――。
「この街から出て行ってください。そうすれば今回の事は見逃して差し上げます」
紅葉の溜まった木にもたれかかる僕に向け、彼は刀を向けながらそう宣言する。
敗北、その2文字と、完敗、この2文字が互に頭によぎる。
こんな奴が世界にいて、魔界を支えていたなんて思いもよらなかった。
満創痍、この言葉が今の自に當てはまる。
本來なら必殺だったであろうの雨は僕を貫くことはなかったが、出させるには十分だった。
きっとレリも、同じようにしてやられたのだろう。
「…………」
「まだ喋る力はあるでしょう。答えなさい。あと10秒以に返事を返さなければ殺します。10……」
「ッ……」
とことん腹の立つ奴だ。
10秒で考えろ、だと?
ふざけてる、コイツは僕に選択させる気なんて無いじゃないか。
「9……」
もうここは降參するしか無いのだろうか。
ここで諦めるべきなのだろうか。
レリは、死んでしまったというのに――。
…………。
違う、諦めていいわけがない。
僕は――。
「……死んでもお前を殺す!」
「……そうですか。では死――」
「【魔の魔絶ギスティ・セルギース】!!」
「! その魔法は――!」
魔王の直屬でも稀の系統、魔ギスティ。
その中でも最高威力を発揮する技の名を告げる。
僕のは黒いに包まれ、闇は瞬く間に広がった。
全てを飲み込む漆黒の黒、破壊の限りを盡くす最強の魔法。
自が中心に発するため、どの程度広がったのかわからない。
ただ、奴は確実に絶命したはずだ。
僕と奴の距離は1m程度、あの至近距離で避けられるものではない。
終わった。
仇は取ったぞ、レリ――。
「……停止」
ポツリと呟く。
シュウウと音を立てて魔力の発散が起き、次にじたのは浮遊だった。
が落ちる、地面だった部分がえぐり取られたのだろう。
僕は飛行魔法で降下した。
それと同時に落下するものが目に付いた。
黃緑の著を著た、手足と顔の無いモノだった。
は著のおかげで殘ったのだろう。
どっちにしてもだらけで気味が悪い。
僕は目を伏せて降りるのを止めた。
終わりか――もう疲れた。
しかし、もう1人殺さなきゃいけない奴がいる。
「……サイファル」
アイツが居なければレリは律司神から命令をけることもなかった。
アイツが居なければレリが死ぬこともなかった。
僕がレリとサイファル、瑞揶の事に口を挾む権利はないかもしれない。
だけど、レリは僕にとって大切な存在だった。
面倒で晝飯ばかりたかる奴だが、明るくて、僕を振り回す。
そんな日々は奪われてしまったのだ。
八つ當たり、それもいいだろう。
前は瑞揶の聲にわされた。
たった一人のが幸せになる権利、それを奪う事をしていいわけがない。
だが、もう既に死人が出ている。
後戻りする事はないだろう――。
寢不足で力もなく、戦闘で幾つか消耗した。
だけど――僕は立ち止まらない。
「……待っていろサイファル。待っていろ……」
そして僕は山の下山を始めた。
虛ろでまどろみを含んだ瞳で、クレーターの広がる地上を歩いて――。
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