《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第八話
不完全燃焼――その言葉が頭の中で反響する。
私は、ナエトの左腕を斬った。
あそこまでしたのなら、殺しても良かっただろう。
姉さんが、殺されたというのに……。
「……次會ったら絶対殺す」
肩を震わせながら地上に降り立つ。
家の前に立って、いつものように玄関を開こうとして止める。
もうこの家に、姉さんは帰ってこない。
そう思うと帰りたくなくなった。
扉の橫にそっとしゃがみこみ、ため息を吐く。
家は復元されてるし、家の中は瑞揶がいるだろう。
それでもりたくない。
彼に甘えたって……。
……ん?
あれ、瑞揶って……。
…………。
「……瑞揶ぁあああああ!!!!」
私はんだ。
アイツの能力、全能じゃない!!!
アホか私はぁあーー!?
「ただいまー! ちょっと來なさい瑞揶ぁああ!」
「あ、さーちゃんおかえりなさい」
「!!?」
瑞揶を読んだはずなのに、死んだと思っていた人がひょっこりリビングから出てきた。
何事かと私は玄関の戸にへばりついた。
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「……えっ、ちょっ、姉さん? アンタ、ナエトに殺されたんじゃ……」
「あ、知ってるんだ? さっき瑞揶くんが生き返らせてくれたよ?」
「……。あー、うん、そう……」
なんだかやるせなくなってしまって、私はガックリと項垂れた。
アホらし……全てがアホらしい。
「早く著替えて來てね〜っ」
いつものように言って姉さんはリビングに戻って行った。
それとれ替わるように、頭の上に金のうさぎを乗せた瑞揶が私の方に來る。
「おかえり〜っ。ナエトくんと戦ってたでしょ? 怪我とかしてない?」
「……ふんっ!!」
「いたぁっ!!?」
とりあえず、思いっきり腹パンしといた。
瑞揶に対しては人間並みの力しか出ないから思いっきりやっても大丈夫で、良いじにストレス発散になる。
しかし鳩尾みぞおちにでも當たったのか、彼は倒れて悶絶した。
「な、なんで……?」
「私の怒りを返しなさい、アホッ」
「えっ……意味が……ううっ」
ほどなくして瑞揶がうつ伏せでかなくなる。
チラッチラッと私を見てくるあたり、気絶はしてなさそう。
「……この金のうさぎは何?」
瑞揶が頭の上に乗せている謎のうさぎについて尋ねると、瑞揶は立ちあがてはきはきと答えた。
「聖兎くんですっ。反省中だよっ!」
「……はん……せい?」
よくわからん。
「とりあえず、瀬羅も無事だし沙羅も元気。これで我が家は安泰なのです〜っ」
「……そうね」
まぁ、本當にこれで済めばいいのだけれど――。
瑞揶の手を取って彼を起こしながら、私はそう考えるのであった。
「人の命を即座に蘇生! それが、レスキューにゃーです!」
「はいはい」
瑞揶の軽口を軽く流すと両手をブンブン振ってにゃーにゃー言ってくる。
まったく……いろいろと損した気分だわ。
「……あとで私をめなさいよ」
「……にゃーです!」
「それじゃわからんから……」
「よーしよし、沙羅はいいねこさんですにゃ〜っ」
「……そういうめじゃないというか、まぁいいけど」
子供をあやすように頭をでられる。
なんだかなぁと思いながらもでられて頬を綻ばすのであった。
◇
転移先は魔界、中心都市にある城の外。
急時のために転移付箋にこの場所を書いて靴の中にれておくのは魔王の一族としての習わしだった。
「クソッ……とりあえず止だ……」
魔法を使い、左腕の患部に右手で緑のを與える。
あまりにを流すと最悪死ぬだろう。
それでは終われない。
レリの仇を、なんとしても……。
さすがは城の外と言うか、人の姿はなかった。
城門の前にいるというわけでもないためそれも仕方ないのだが、人が居ないとなれば困る。
手負いであるため、自分でくのは々手間だ。
「……はあっ」
ため息が出る。
仇を取りに行ってこのザマでは格好がつかないし、きたくもないときた。
ふと、空を見上げる。
赤黒く、混沌とした空だ。
ああ、こんな景だったな、魔界は――。
どことなく懐かしい。
それが心をし安らげた。
傷も落ち著くと僕はようやく立ち上がる。
「……行こう」
僕は立ち上がり、よろめきながら城門を目指した。
止は済んたが、腕が戻るかはどこぞの超能力使いによるだろう。
とぼとぼと1人で城の周りを歩く。
ようやくたどり著いた先に居た2人の門兵の男達に聲を掛ける。
「おい、お前たち」
「ん? ――えっ、ナムラ様!!?」
「……あぁ」
そういえば、ナエトは通稱であってナムラが名前だったな。
あまりにも使わないから忘れていた。
「ナ、ナムラ様! 腕が!?」
「そんな事は後でいい。城の中にれろ。それと、父上は城にいるか?」
「は、はいっ! 本日は各國首脳を集めての會議で城をお使いになりますが……」
「そうか」
ならばいち早く報告すべきだろう。
僕の腕を斬り、過去に魔界で騒を起こした1人ののことを――。
サイファル……貴様はやはり、外に出るべきではなかった。
僕は必ず、貴様を……。
◇
「レリはね、蘇生できなかったんだ……」
沙羅のベッドの上で隣り合って座り、僕はポツリと呟いた。
沙羅は何も言わず、ちょんっと僕の頬を突っついてくる。
「ナエトくんのためには生き返らせるべきだった。なのに、レリには僕の能力が屆かない。きっときゅーくんがなんかして……むにゅー、沙羅の指がぁ、指が食い込むぅ……」
「彼の前で他のの話とは、瑞揶も大きく出たわね。私が矯正しなきゃダメかしら?」
「真面目な話だよぅ……」
僕の言葉など聞かず、ぷにぷにと突っついて遊ぶ沙羅。
にやにや笑ってて、なんだか遊ばれてる気がする。
それが悔しくて、抵抗のつもりでキスをした。
「……なんでもかんでもキスすりゃいいってもんじゃないでしょ」
「でも沙羅、顔真っ赤だよ〜っ。かわいい〜っ」
「ッ……ったくアンタは……」
ギュッと沙羅が腕に抱きついてくる。
こんなところ、1階に置いてきた聖兎くんと瀬羅には見せられないな……。
「……今日はいろいろあったけど、家では當たり前の日常があって、よかったわ」
「……でしょ?」
「家主が瑞揶だものね。変わるなんてあり得ない、かっ……」
「それ、どーいう意味〜っ……」
ぷーっと頬を膨らませるも、寧ろ沙羅は笑って僕を抱きしめてくる。
……喜んでいいのかなぁ。
「……やっぱり、家にいるのが一番落ち著くわ」
「でしょ? それに、こうして2人きりにもなれるし……」
「……何言ってんのよ、アホ」
「痛い痛い……」
腕を力一杯抱きしめられて痛いしの流れが悪くなるしで困った。
沙羅の照れてる顔は可いけど、照れ隠しは攻撃に移るから嫌だ……。
「……まぁそれはともかく、よ」
沙羅は僕から離れて立ち上がる。
足でフローリングをペタペタ踏んで僕の前に仁王立ちで立つ。
「……ナエトが逃げたわ。しかも、私を殺す気でいる。ということはどういう事か、わかるわね?」
「……ん?」
「こうしてらんないって事よ。ナエトが魔界に行って私の事を報告すれば魔王は私を思い出すだろうし、しかも、私はナエトの腕を斬った。指名手配レベルよね?」
「…………」
話はわかった。
……僕になんとかしろという事ですか。
「……話は察したよ。どう変えたらいい?」
「それは寧ろ瑞揶に聞きたいわ」
「……え?」
「アンタはどうしたいの?」
ぽんっと投げかけられた問い。
その問いの答えが定まらなくて、僕はけ取った問題をそっと見據える。
どうする――僕はどうするべきなのだろう。
ナエトくんと聖兎くん、そしてレリ。
聖兎くんとレリはどうすることもできないし、どうにもできない。
聖兎くんは今のままで大丈夫だし、レリは本當に何もできないから。
なら、あとはナエトくん。
彼にはまず、腕を戻すべきだろう。
他には沙羅と和解させること、だけど……これはどうしたらいいかな。
レリは蘇生ができなかった。
もう1人のレリを作ることもできなかった。
ナエトくんを鎮める手は彼の手しかないのに、その彼がいない。
なんでこうなったかな。
僕はただ、みんなで仲良くできたらよかっただけなのに……。
この願いを願って葉えたとしたらどうなるんだろうか。
みんなで仲良くする。
今からそれは可能なのだろうか。
1人欠けてるのに……。
「……もう失敗したんだ」
今更ながらに自覚した。
僕の最終目的は葉わない。
6%は葉わなかった。
突きつけられた現実は悲しいものだ。
でももう……過去には戻れない。
ゴツン
「いたっ……」
考え込んでいると、頭にゲンコツを食らう。
か細い腕から放たれたせいかあまり痛くはないが、顔を上げると顔を引きつらせて青筋立てた沙羅が立っていた。
「なんっにを暗い顔してんのよ! アホかっ! アホなのね!?」
「な、なんで……?」
「どうしたい、って訊いてんの。余計なことは考えなくていいからハッキリ答えなさい」
「…………」
沙羅に言われて我に帰る。
まったく、この子はいつも僕の決斷を手助けしてくれる……。
そうだ、葉う葉わないじゃない、自分のやりたい事を言うべきだ。
「僕はみんなと仲良く暮らしたい。それがたとえ葉わなかったとしても、沙羅とずっと一緒に居たい。僕のみはこれだけだよ」
「……ふふっ、そうなの? 私は死ぬまで離れないから安心なさい。みんなとは、これからよ」
「……うん」
みんなとはこれからだ。
ナエトくん、レリの2人。
そして、自由律司神。
――君はいろんな仲直りの現場を見てきた。そして今度は君の番。大丈夫、貴方ならきっと上手くいく。なんていっても、私の後世だからね。自分を信じて――。
ちゃんが言ってくれた言葉を思い出す。
霧代とは上手くいった。
もう一度、あの時の強さを僕に……。
…………。
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