《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第十四話
僕は部屋に戻り、一息つく。
學校には晝から行く事にし、朝から疲れたのか、僕はベッドに寢そべって目を閉じた。
暖かなが瞼に乗り、まどろみの中からそっと目覚める。
起きるとそこは、様々なハートの浮かんだ空間。
ちゃんの場所だった。
「君はその道を選んだんだね、瑞揶くん……」
「…………」
仰向けから起き上がると、目の前には小學生ぐらいのの子が居た。
ピンクの髪を持ち、5重の羽をまとったは見間違うことなく僕の前世。
ちゃんは寂しそうな目を僕に向け、凜然と佇んでいる。
「あんなに平和な日常を求めていた君が、日常を捨てる。瑞揶くん、沙羅ちゃんに辛くないか尋ねてたよね? 本當は自分が一番苦しいのに……」
「……瑛彥や環奈とは、これからも一緒に居たいよ。けど、僕がこの世界にいたら彼らにも迷を掛けるかもしれない。だから……行かなくちゃ」
「……確かに、他の人に迷を掛けないためには世界を出るしかない。けど君がそこまでする必要は……」
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「大丈夫だよ、ちゃん。沙羅と一緒なら、僕はなんでもいいから……」
「…………」
僕の言葉にちゃんは目を丸くし、そして微笑む。
「沙羅ちゃんのこと、好き?」
「僕の心にいるんでしょ? 知ってる癖に……」
「ちゃんと言葉にして? ね?」
「……好きだよ。誰よりも好き」
「……そっか」
僕の言葉を聞いて、ちゃんは目を伏せた。
すり足で歩み寄ってきて、トンッと僕のに手をかざす。
「瑞揶くん、私はこの先の結末が見えてる。けど、手は貸さないよ」
「うん……自分1人でやるさ」
「……虛無律司神も來る」
「……虛無?」
新しい律司神の名前に僕は首を傾げる。
ちゃんはしだけ説明してくれた。
「虛無、それは“無い事を憂う”思いのこと。彼は無をることができる、けど何もなくなると寂しくなる。なのに、が無いから寂しさの正がわからない、可哀想な神様。彼がむなら、私は彼に全てを與えたい。その時には、瑞揶くんともお別れ、かな……」
「……お別れ、かぁ」
まだ見ぬ律司神の話、そしてちゃんの言う別れの意。
僕たちもお別れか……。
たった數回しか會ってない筈なのに、この子と別れるのは寂しくじる……。
それは彼が僕の前世だからか、もしくは霧代との事を謝してるからか――。
「……瑞揶くん。私は30年以上君を見てきた。それこそ、君が泣くことしかできない赤ん坊の時からずっと。君にとって私は小さな存在かもしれない。だけど、私にとっては……を分けたパートナーだからね。お別れは寂しいよ」
「……僕も寂しいよ」
「でも私が居なくなれば、君は男らしくなれるかもしれない」
「えっ……」
驚きの一言だった。
今まで僕はずっとホワホワとしていた。
それが嫌だと思ったことはないけれど、男らしくなれる可能が――?
いや、それも然りだ。
ちゃんが原因で男らしくなれないのに、ちゃんが居なくなって男らしくなれないわけがないから。
「けどそれは、諸刃の剣でもあるの」
「え、なんで……?」
「私が居なくなれば、君は無條件でされるというものがなくなる。もしかしたら、今君を好きな人が――君を嫌いになるかもしれない」
「――――」
彼の真摯な眼差しに、僕はたじろぐ。
そうか……僕はちゃんの能力だけで好かれてる可能がある。
僕自を嫌いなのに、能力で好きだとじている人がいるかもしれない。
それは近な人間にだって當てはまるわけで――
「……沙羅は」
「……?」
「沙羅は……能力で僕を好きに思ってるとか、じゃないよね?」
恐る恐る尋ねる。
沙羅が僕を好きなんじゃなく、能力で好きに見えてるだけなら、僕は耐えられない。
そんな不安とは裏腹に、ちゃんはため息を吐いた。
「瑞揶くん……それは本人に聞いたら? まぁビンタされるとは思うけどーっ」
「えっ、でも……」
「私はだいぶ力を抑えたって、前に言わなかったかなぁ……? 私の力は靜電気みたいに微弱なものだよ。沙羅ちゃんの持つ膨大なの前にはチリみたいなもの。私の影響が無くたって、沙羅ちゃんは今と全く変わらないと思うよ」
「……。そっか……」
その言葉を聞いてホッとする。
沙羅は僕を、嫌いになったりしないよね……。
「……ただ、ね」
「ん?」
「霧代ちゃんが瑞揶くんに付きまとい出したのは、私の影響だよ」
「……そうなんだ」
「でもその後に君と付き合い始めたのは、私の力じゃない。私の影響なんてなくても……君にはいいところがたくさんあるよ」
僕の顔を見上げて、ふふっと笑うちゃん。
……霧代が聲を掛けてくれたきっかけは君のおかげだったんだね。
「ありがとう、ちゃん」
「……ありがとう? なんで?」
「君が居たから今の僕があるんでしょ? 霧代と出會って転生しなければ、沙羅とも會うことがなかった。だから、ね?」
「…………」
じろーっ、と僕を見つめてくるちゃん。
な、なんですかにゃ?
「……瑞揶くん、ホントに変わったね?」
「……そうかな?」
「うん。だけど、その分安心だよ。じゃあね、瑞揶くん。また會えることを祈ってるよ――」
「……うん」
それだけ言い殘して彼は僕に背を向け、言葉とともに消え去った。
僕の意識も虛うつろになり始めて――
「――あれ?」
ふと気が付けば、僕は天井を見ていた。
それが自分の部屋のものだとわかると、起き上がって時計を見る。
11時をすでに回り、晝時と言える時間だった。
「……ん」
機の上に置いてある攜帯の端が明滅しているのを見つけ、攜帯を手に取る。
瑛彥からメールが來ていて、心配するような一文が載っていた。
〈大丈夫か? 熱出たなら連絡しろよ〉
「……熱、か」
僕はが弱い。
調を崩したと勘違いしたみたいだ。
…………。
……返信、しようか。
〈心配させてごめん。事があって朝は行けなかった。お晝には行くから、大丈夫だよ〉
「…………」
何てことはない返信容だと思う。
僕はこのまま送信した。
攜帯をポケットにれてリビングに向かうと、瀬羅の姿は見えなかった。
代わりにテーブルの上に1枚の紙が置いてあり、拾い上げる。
〈瑞揶くんへ。今朝の件で警察の方が來たため、ちょっと警察署に行って來ます。お晝は食べて帰るから、作らなくていいよ。沙羅ちゃんと行くときは呼んでね。瀬羅〉
簡潔に容をまとめた紙を僕はたたみ、テーブルの上に戻す。
すると同時に、また攜帯にメールがあった。
送信者は瑛彥、今は授業のはずなんだけど……。
僕は呆れながらメールの本文を拝見した。
メールにはたった一行だけ、質問が1つあるだけだった。
〈何かあったのか?〉
「…………」
〈どうしてそう思うの?〉
僕も一行で返信を返す。
するとまたすぐに返信が來た。
〈瑞っちの文章に顔文字や絵文字がないとか、ありえねーから。普通気付くだろ〉
「……そうだっけ?」
メールの中は、僕としては疑わしいものだった。
咄嗟に攜帯の送信済みメッセージ一覧を見る。
「……あぁ、ホントだ」
自分の普段送ってるメールはにゃーとかうーとか書いてあって、挨拶とかの後には顔文字がっている。
……そうだったっけ、茫然自失として忘れていた。
しかしこういう時、親友はホント鋭いと思う。
いつもはバカやってる瑛彥なのに……。
…………。
〈學校に著いたら話すよ〉
スクリーンをタッチして文字を打ち込み、メールを送信した。
返信はなく、攜帯をポケットに戻す。
もともと著替えてはいた、今すぐからでも學校には行ける。
だけどおなかすいたしなぁ……。
「……沙羅はお腹空かしたりしてないかなぁ」
ふと人の空腹が気になる。
……元が軍人だから平気……かなぁ?
◇
一方その頃、魔王城の牢屋にて。
魔法の使えぬ薄暗い牢屋にボリボリという音が響いていた。
「……まぁ捕まるのが前提だったわけだし、戸棚に隠してたお菓子持ってきて正解だったわね」
隠し持ったクッキーをむぐむぐ食べながら、沙羅はしてやったりと微笑んでいるのを瑞揶は知る由もない。
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