《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第十九話

4時半を過ぎ、部活のみんなが集まった。

この中には3人のメンバーが欠けているけど、うち2人とは既に別れた。

「おー、旋彌さんもいるじゃん。ちゃーっす」

テーブルの前で料理を見つめるお義父さんを瑛彥が見つけ、挨拶する。

「よー瑛彥、元気そうだな。なんだ瑞揶、3人しかこないのにこんなご馳走作ったのか?」

「なんでもいいでしょ。お義父さんは座ってて」

「つめてぇ息子だな……」

やれやれと肩を竦ませながらソファーに座るお義父さん。

その隣には沙羅が居て、さらにその隣は理優が座っている。

「……マシュマロ?」

「瑞揶が作ったのよ。レメンゲをゼリーで固めたらできるのね。私も知らなかったわ」

味しそう〜っ」

理優がにこにこ笑いながら料理を眺め、沙羅はオレンジジュースのったコップをストローでかき回している。

「最後なのにパーティーってどうなんだろうね、あねさん?」

「……あねぇー……さん?」

環奈がクッキーを頬張りながら瀬羅に話しかけるも、ぼーっとして復唱するしか瀬羅はできず、環奈はまたむしゃむしゃと食べる。

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ソファーが埋まって別席、急遽出した椅子2つには瑛彥が座り、1つは空席。

「はい、瑛彥」

「おー……」

元気のない瑛彥にオレンジジュースの注がれたコップを渡す。

なんだか、しおれた花みたいに萎えてるけど……。

僕はお盆を片付け、空いた瑛彥の隣に座って用意を終える。

「えっと……今日はみんな來てくれてありがとう。お義父さんは予想外だったけど……とにかくみんな、僕と沙羅に今できることをいっぱいしてください! 乾杯!!」

「……そういう雰囲気じゃないでしょーが!」

「にゃー!?」

沙羅からクッキーを投げ飛ばされ、頭に直撃して倒れる。

別れの席は笑顔ですよぅ、笑顔ですよぅ。

「じゃあいろいろ聞きたいんだけど」

「わっ!? 環奈いつのまにっ!」

倒れた僕に環奈の影が覆いかぶさる。

パキンと歯で割られるクッキーの欠片が僕の顔に落ちてきた。

フフンと得意げに鼻を鳴らし、環奈は僕を起き上がらせる。

「まぁ座んなよ」

「は、はぁ……」

環奈に促され、椅子に座りなおす。

チラリとソファーの方を見ると、沙羅にはお義父さんが質問していて理優と瑛彥は何か話していた。

瀬羅は泣きながらご飯をもぐもぐ食べている。

……酷い始まり方だったけど、パーティーは始まっているようだ。

「でさぁ、ナエトはどうしたん?」

「……あぁ、魔界にいるよ。レリを蘇生……って言ったら蘇生かな。蘇生して、今頃魔界でレリの柄をどうするか検討し終えたところ、かなぁ……」

「対立してたんしょ? それでよかったの?」

「……よかったつもりだよ。僕らはもう居なくなるし、ね……」

「あーそ……ならいいけどさ」

ふいっとそっぽを向いて環奈は僕の橫に腰を下ろす。

椅子ではなくフローリングにちょこんと座る彼の姿を見るのは新鮮だ。

「藪から棒で悪いけどさ……友達っていいと思わない?」

「……うん? そうだね……」

突然振られた疑問を肯定する。

友達がいるから家にこんなに人が居るんだし、別れを惜しんでくれる顔が僕には嬉しいもの。

友達が悪いわけがない……。

僕が賛して満足したのか、環奈はあどけなく笑って言葉を続けた。

「出會いと別れはセットで付いてくるもんさ。永遠に一緒ってのは無理だしね。……ウチらの出會いはしょーもない所から始まったけど、友達でいられて嬉しかったし、願わくばずっと仲良く一緒に過ごしたかったよ」

「……あはは、ありがとう。僕だってね、環奈がひもじい思いをしないか心配だよ」

「じゃあお金ちょーだい」

「……なんの戸いもなく頼まれるのは、なんかなぁ……」

「あっはっはっは」

カラカラと環奈が笑ってオレンジジュースを口に含む。

ったは笑みを保ったままで、彼は立ち上がった。

「ま、頑張りなさいな」

「あはは……うん」

ポンポンと僕の頭を叩いて環奈は後ろ側を回って沙羅の方に向かっていった。

離れてく彼を目で追っていると、後ろからポンっと肩に手を置かれる。

「瑞揶くん……お話、いいかな?」

「もちろんだよ……。隣座って、瀬羅」

その相手は家族の1人である瀬羅で、みんなと同じオレンジジュースを右手に持っていた。

瑛彥は席を離れたため、空いた隣に瀬羅が座る。

「…………」

「…………。……瀬羅」

「……ん?」

「……お腹いっぱい食べた?」

「えっ」

座っても黙ったままだったからからかってみると、面白いぐらい顔を真っ赤にした。

食べたんだなぁと激しつつ、プシューと音を立てて崩れる瀬羅を見つめた。

「ううぅ……もう瑞揶くんの料理が食べれなくなるなんて、あんまりだよ……」

「……王影隊ベスギュリオスって、自炊出來るんじゃないっけ?」

「できるよぅ……。できるけど……うう……何もしなくてもケーキが出てきたのに……」

「姉さんは僕をどういう風に見てるのさ……」

とっさに口から姉さんと出てしまったけど、ぐすんと鼻をすすって泣く瀬羅は気にしてない模様。

僕からしたら本當にお姉さんみたいなものだしね、うん。

「それで、話は?」

「あ、うん。あのね、訊きたいんだけど――」

即座に立ち直って質問を口にする。

なんですかにゃー?

「私がまだ瑞揶くんを好きって言ったら……どうする?」

「…………」

が固まった。

手に何か持っていたらきっと落としてたに違いない。

それほどにインパクトのある言葉だった。

瀬羅がまだ僕を好き、その可能を否定するものは全然ないし、むしろ1ヶ月で好きな気持ちが薄れるほど瀬羅は不誠実じゃない。

普段から見ても、瀬羅が僕を嫌いになる事はほぼほぼあり得ないだろう。

しかし、僕にはもう沙羅がいる。

瀬羅の妹で顔立ちも髪も(2本のアホとか)似ているが、僕だって2人のするような人間じゃない。

どうすると言われたって、どうしようもないが結論となる……けど……。

「うーん、うーん……」

「……瑞揶くん、そんなに悩まなくてもいいよ?」

「でも〜っ……うーん、うーん……」

好きと言われたら嬉しくて抱きつく……うん、そうだよね。

僕は好きって言われたら「僕も好き」って返すだろう。

「僕も好きって言って、抱きつくよ!」

「それ、好きは好きでも違う好きだよね……」

「ううっ……。にゃーにはこれ以上の答えがわかりませんよぅ……」

「よしよし、ねこさん頑張ったねっ」

「うう〜……」

瀬羅にぎゅーっと抱きしめられる。

あったかいですにゃ〜……。

閑話休題、僕は離されて話は元に戻る。

「なんで意地悪な質問したのーっ……」

「だって……今でも好きだよ? 瑞揶くんのこと」

「……うーっ。申し訳なくて泣きそうですよぅ……」

「わーっ、泣かないでーっ!」

ちょっと泣いてまたまた閑話休題。

「今でもね、さーちゃんと私が反対だったら、って思うの……。私が最初にこの家に來ていたら、瑞揶くんと霧代ちゃんの問題に私が立ち向かって、ナエトくんとの事にも私と瑞揶くんで解決させて……これから2人だけで別の世界に行ったら、ってさ……」

「……僕のは2人にならないよ。2つになっていいでもない。僕みたいな能力を持った人が増えたら、世界はめちゃくちゃになる」

「……瑞揶くんが2人いても、どうにもならなさそうだけどね」

「…………」

が2つあれば。

それでも僕は別世界に行くだろう。

なぜ自由律司神が僕らを狙ってるかはわからないけれど、僕が瀬羅を好きになっててもこうなっていたように思うから。

「けど、瑞揶くんが沙羅ちゃんを好きになってないなんて、そっちの変だよ」

「……え?」

その言葉はどういう意味なのだろうか。

僕が沙羅を好きじゃないと、変……?

「……さーちゃんはさ、私より良いところがたくさんあるよ。だから私なんかじゃ、瑞揶くんを虜.とりこにできない。なのに瑞揶くんが私に振り向いてくれたら、とっても変な事。……瑞揶くんはこのままでいい。さーちゃんと幸せであってほしい。君のことは好きだけど、これが私の願いだよ」

「瀬羅……」

「ごめんね、嫌な話して。けどこれが最後なら、素直な気持ちを話したかったの……」

「聞けてよかったよ……。もちろん僕は、沙羅と幸せになるさ。瀬羅も……王子様が見つかるといいね」

「……うん」

話すほど寂しくなり、口を噤んでしまう。

2人して黙っているのも何かと違和があって、僕は瀬羅の顔を見た。

も僕を見ていて視線が差する。

「……えーと」

「あの……」

「…………」

「…………」

そしてお互いにまた黙って俯いた。

何をしてるんだろうなぁ……これで最後なのに。

僕が好きと言われると、余計に何を話したらいいかわかんなくなっちゃうよ……。

「お、話してねぇのかよ瑞っち?」

「え、うん……」

席を離れていた瑛彥が戻ってきて、無防備な僕の背中をポンと叩いた。

瀬羅も僕も顔を上げて瑛彥の顔を覗き込む。

「アンタは瀬羅……だったな? ちょっと変わってくれよ」

「あ、はい……どうぞ」

瀬羅はこまって足早に席を空けた。

また彼は定位置に戻り、悲しそうな顔をしながら料理を食べている。

僕の隣にはまた瑛彥が座った。

「ふぅ……さて、瑞っち」

「うん……?」

「最後に頼みがあるんだ」

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