《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十一話
タンスの中にある洋服を一部、それからヴァイオリン、あとはハンカチとティッシュとかの衛生用品。
旅行にでも行くかのようにカバンの中は埋まっていく。
ただ、もう戻ってこないから普段出さない寶なんかも持っていく。
前世の記憶をもとにして演奏したCD、霧代を映した前世の攜帯、そのくらいだ。
思ったより早く用意が済んで廊下に出ると、既に沙羅が扉を出ていた。
「沙羅……準備早いね」
「遠出は慣れてるわ。最低限のものさえあればいいもの」
そう言って掲げたのはちっちゃなポーチだった。
服すらいらないとは……下著とかだって、作るの僕なんだよ?
「沙羅、本當にそれでいいの?」
「アンタが居れば、私はなんでもいいのよ」
「……え? うわー、嬉しい、わーっ」
嬉しい言葉に頬を綻ばせてしまう。
僕も沙羅さえ居ればなんでもいいや……。
「変な顔してないで、下行くわよ?」
「うん」
荷を超能力で亜空間に保存し、2階から1階へと降りてリビングにる。
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「おー、戻ってきたか。何してたんだ?」
「荷整理よ。ほら、座ってなさい」
聲を掛けてきた瑛彥を沙羅は軽くあしらって、みんなにも同じように座ってもらう。
最後なのですにゃー。
みんなの視線が集まる。
どの顔も、僕の好きな人たちのものだ。
……まだお別れには早いかもしれない。
でも、決心を鈍らせるわけにもいかない。
重い空気が立ち込める中、僕は口を開いた。
「もうそろそろ、僕と沙羅は行くよ。最後にみんなには、それぞれ何かをあげようと思う」
「……おー」
僕の言葉に、瑛彥だけが素っ気ない返事を返した。
それでもいい、僕は口を止めないから。
「瑛彥から順に行くから、みんなは料理食べてて」
「……ん? 私は暇になるのね」
「……沙羅は僕の後から1人ずつ挨拶して。僕も挨拶しながら行くから……」
「……わかったわ」
沙羅も目を伏せて納得し、僕は回り始めた。
「まずは瑛彥ですにゃー」
「……何くれんだよ?」
「何がいいかなー? 考えてないよー?」
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「おいっ、それでいいのかよ!?」
「ふっふっふー、願いを言いなさいーっ」
瑛彥の目の前でにゃーの踴りを繰り広げると、隣の沙羅から頭をはたかれる。
にゃー!やられました!
「痛いよーっ……」
「痛くないでしょうが。真面目にやんなさい」
「あ、うん。じゃあ瑛彥には能力ね」
「おう?」
瑛彥がはてなを浮かべるも、僕は彼のおでこをツンっと突っついて能力を與える。
「今あげたのはね、いざってときに理優を守れるよう、瑛彥が危険を知れるようにしたの」
「ほー、それはなかなか使えるが……」
「が……?」
「……せめて頭をよくしてほしいぜ」
「頭のいい瑛彥なんて気持ち悪いよ……」
「なんで!?」
なんでもだよー。
夏休みの補習に全部引っかかったの、まだ覚えてるからね?
「あはは……。じゃ、ね」
「ああ。最後に握手してくれや」
「……うん」
瑛彥と握手をわす。
瑛彥の手は男らしく、太くてしい。
力強くても、痛くはなかった。
「瑞っちの手、相変わらずみてぇになげぇな」
「はいはいっ。じゃ、理優と頑張ってね」
「おう、任せとけ」
手を振り切って、僕は隣に移した。
「瀬羅にはこれ。はい」
「……え」
ぽんっと彼の腕に乗せたのは、白い耳がふわっとしたうささんだった。
「この子を見て、僕を思い出してね!」
「……えーと、なんでうささん?」
「だって瀬羅、しいのないでしょ? 何かある?」
「……うーん」
うささんを抱えてよそを見る瀬羅。
思い通りにしいものがないのか、なかなか返答はなかった。
だけど目線は僕に戻り、しいを言った。
「……人、とか?」
「そればっかりは自分で見つけてよ……」
「うーっ……」
しょんぼりと落ち込んでしまい、うささんがし苦しそうに悶えていた。
やれやれと言うように僕は肩を竦め、瀬羅の頭をでる。
「よしよし……。彼氏さんはあげられないけど、すぐに人が見つかるよう、超能力を掛けるから……」
「……むぅー。いいもんいいもん。自分で見つけるからーっ」
「……怒った?」
「ぷんぷんっ」
わざとらしく頬を膨らませる瀬羅。
まったく、しょうがない人だ……。
「貰えるものは貰ってよ……ね?」
「……むーっ」
うささんで口元を隠し、上目遣いで睨んでくる。
なんで怒るかなぁ……。
「……瑞揶くんっ」
「なに……?」
「……悔しいけど、さーちゃんと幸せにねっ」
「…………」
悔しい、その言葉は僕の事を想っているから出たのだろうか。
好いてる人に「新しい人を探せ」と言われるのは、いろいろ複雑なんだと今になって悟る。
「ご、ごめんね?」
「いーよ、別にっ。私も頑張って幸せになるもんっ」
「……頑張ってね」
「うん……」
その言葉を最後に、僕は次の人のところへ移る。
瀬羅の隣にいたのは環奈だった。
「環奈にはこれしかないね。はい」
「丸ごと貰って大丈夫なん?」
「いーよー? 僕の存在もこの世界から消すからね。戸籍とか殘しとくと面倒だし、政府からも僕が居なくなると何するか……。だから、一部の人以外の記憶も消すし、自由に使ってね」
「そっか……。うん、了解」
承諾して環奈は僕の通帳をポケットにしまった。
中の金額は確認しないようだけど、あとで驚くだろうなぁ……。
「豪遊したりしないでよ?」
「しないしない。お金なんてあっても使わないね。貧乏生活慣れ過ぎてるし」
「もう……ちゃんと栄養あるもの食べてね?」
「あっはっは。できるだけ頑張るさね」
「怪しいなぁ……」
いつものように気に笑う環奈。
こんな時でも元気な彼には本當に呆れさせられる。
「……じゃあね、環奈」
「んっ。じゃあね、また會えることを祈ってるよ」
環奈とも握手をわし、橫に移する。
次は理優、かぁ……。
「にゃーになる?」
「……戻れないなら、ならないよ」
「えーっ、殘念……」
にゃーにはなりませんでした。
「何がしい? 何がしい?」
「しいのなんてないよ……。ただね、今の私があるのは瑞揶くん達のおかげだから、本當にありがとう。瑞揶くん達が元気に暮らしてくれれば、それが私にとって、最高のプレゼントだよ」
「……ひゃーっ。理優がいい子過ぎて嬉しいよぅ。僕も沙羅も元気にやるから、心配しないでねっ」
「えへへ……。瑞揶くん、元気でね」
「…………」
笑顔で小さく手を振る理優。
……ダメだ、みんなには何かあげてるんだから、あげないのはいけない。
「やっぱり、能力を與えとくよ。不平等なのはよくないしね……」
「え……でも、なにを?」
「緒っ。でも、悪いものじゃないさ……」
「……なら、瑞揶くんを信じる」
「あはは……。……じゃあ、一応」
理優の頭をちょんちょんと指で叩き、能力を與えた。
理優には以前、人を幸せにする能力を與えた。
その効力は彼の発言を思うに、しっかり効いてるように思える。
でも、人を幸せにするだけじゃダメだろう。
だから僕は彼に與えた。
彼に幸せを呼ぶ能力を――。
「じゃあね、理優」
「うん……じゃあね、瑞揶くんっ」
手を振り合って理優と別れ、隣に移る。
最後の相手は、お義父さんだった。
「俺は子供から貰うものなんてないぞ……」
「えーっ、いらないの?」
「貰うにしても、なにをくれるんだ?」
「にゃーを1匹……」
「お前より飼育が大変そうだ……」
「そうだねー……」
僕は放し飼いでも大丈夫だったけど、ねこさんは餌も與えるしトイレも躾けないとどこでするかわからない。
僕の方が飼育……飼育?
……まぁいっか。
「言うなれば、1つだけ付け加えさせてくれ」
「にゃーです?」
「そういうのいいから」
「はーいっ……」
怒られてしまった。
ふざけてるというか、こういう分だから勘弁してほしい。
お義父さんは改まって1つ咳をして、僕を見つめた。
「長したな、瑞揶。明るくなったお前が見られて、よかった」
「…………」
お義父さんは僕の頭を優しくでた。
こんな風に頭をでてくれるなんて、今までに何度あっただろう。
その事を思い起こすとともに、この世界であった出來事を思い出す。
この世界に來て孤獨にあり、國の命令に従って生きてきた。
前世の記憶がある僕が小學校で生活できるか心配だったけど、瑛彥や他にもたくさんの友達がてきた。
中學校でもそうで、高校でもクラスに馴染み、友達に囲まれている。
いろんな事実を知って、霧代と向き合い、僕は長してきた。
その事を肯定する父親の言葉は、どんな激勵にも勝るものだろう。
「……えー……っと……」
「……なに泣いてんだ。こんな時に泣いても仕方ないだろ?」
「うっ、うるさいなぁ! もうっ、お義父さんのバカッ!」
「悪い悪い」
僕の頬に流れる雫を掬い、反対の手で僕の頭をポンポンと叩いてくる。
まったく、お義父さんはズルいよ。
「……達者でな」
「うん。お義父さんも、元気で」
「お前もな」
お義父さんとも握手をわし、全員との挨拶を終える。
お義父さんには何も僕から渡さないけれど、この家をお義父さんにあけ渡すからいいだろう。
僕の生活した家、全てが詰まった家。
寶とかは持って行くけれど……それでも、ここで生活した痕跡はずっと殘っている。
これで終わりだ。
この世界とも、もうお別れだ……。
「瑞揶、終わったわ」
「……そっか。じゃあ、最後に……」
沙羅の挨拶も終わり、僕は手を前にばした。
が収束し、人の大きさほどになり、形は男のもの。
「“Search”」
そしてにれる魂を探す。
大丈夫、これもすぐに見つかった。
「“insertion”」
そして魂をの中に挿する。
最後に制服を著せて終わり。
が収束し、金髪の年の姿になる。
「……ッ。ここ、は?」
「やぁ、聖兎くん」
「……瑞、揶?」
生き返った最後の友人は困していた。
新しいにもかかわらずきは軽く、僕の顔を覗いている。
「聖兎くん、僕と沙羅は別世界に行く。だから、沙羅のことは本當に諦めてね」
「えっ……ど、どういうことなんだ?」
「なんでもいいの。今はただ、見送ってね……」
「え、おい……」
聖兎くんが何かを言う前に彼から離れた。
彼が僕を刺したことを思い出すのはよろしくない。
僕はリビングに異次元へ続く道を開いた。
白い、ねじ曲がった丸いが僕の背丈ほどの大きさで開いた。
「……みんな、本當にありがとう。元気でね!」
「世話んなったわね。部活はみんなで頑張るのよ!」
沙羅と2人、改まってみんなに別れを告げる。
みんなから返ってくる別れの言葉、その中で僕は沙羅と手を繋ぐ。
「……行こう、沙羅」
「ええ」
短い言葉。
手を離してお互い周り、また手を繋いでの中へと歩き出した――。
ふと、沙羅と目が合った。
「……これからのこと、わかってるわね?」
沙羅が念を押すように確認してくる。
わかっている、この先のことは。
「大丈夫だよ、沙羅」
歩みを止める。
思ったよりも早い、やっぱり――
「もう來てるから」
待ち伏せてたか――。
「さぁ、響川瑞揶!!! 戦いだ! 粛清だ! 全てを賭せ! オリジナルの僕へと歯向かうがいい!!!」
真っ白なこの世界の中に響く聲。
僕たちよりも上空、正面。
そこには6枚の羽翼を広げた自由律司神が笑顔を浮かべ、佇んでいた――。
あれ、なんで俺こんなに女子から見られるの?
普通に高校生活をおくるはずだった男子高校生が・・・
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