《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第七話
響川瑞揶のに包まれ、僕は景がガラリと変わった。
「……ここは」
そこは響川家のリビングだった。
明かりもつけず、外から差し込むだけで十分に視界を確保でき、靜寂に包まれたこの場所は穏やかった。
無人のリビングに立たされたというもの、これは幻覚だと理解する。
僕は響川瑞揶に心への干渉を許した。
だからこそ、このような幻覚が通じている。
「さーらっ」
不意に聞こえた聲は自分のクローンのもの。
聞こえてきた臺所に目をやると、そこには寢間著姿の響川沙羅と、そのの橫でフライパンを握る、制服姿の響川瑞揶が立っていた。
「こらー、つまみ食いしないのっ」
「良いじゃない、減るもんじゃないし」
「減るよ……食べたら減るよ……」
「むーっ」
箸とフライパンで両手のふさがった瑞揶の頬を、沙羅が容赦なく引っ張る。
「痛い〜……」
「ケチなのが悪いわ」
「ふにゅう……ごめんなさい」
結局瑞揶が謝り、沙羅の方が上機嫌につまみ食いを続行する。
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「太っても知らないからねー?」
「太らないわよー」
そんな問答を行い、2人は笑い合う。
無邪気な笑顔で、優しい笑みで。
何気ない、日常のように思える場面。
なのに何故……こんなに暖かい。
「なーに寢っ転がってんのよ」
今度は後ろから聲が聞こえ、振り向く。
そこには床にうつ伏せで引っ付いた瑞揶と、そこに馬乗りになる沙羅が居た。
「く、苦しい〜……」
「フフッ、背中がガラ空きね。どうしてくれようかしら?」
「何もしないでーっ……」
ぐふーっと息を吐き、力なく倒れる瑞揶。
2人のじゃれ合う姿。
かたちはちがえど、それは――
(アキュー、また論文ばっかり見て……)
(セイ……頭にを乗せるな。それならませろ)
(堂々とセクハラ言わないでよ……)
…………。
はるか昔の景を思い描く。
じゃれ合う姿がまるで、昔の僕とセイみたいだ。
あの頃の僕は、セイとの戯れを楽しんでいた。
もう遠い、昔の話……なのに。
思い出す。
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深い記憶の底にある暖かさは、今でもそのぬくもりは変わらない。
「沙羅……」
「瑞揶……」
また振り返ると、そこには瑞揶と沙羅がいて、抱きしめ合いながら微笑みあっている。
僕にはあのような笑顔を作ることはできない。
だけれど――響川沙羅の姿には、セイが重ねて見えた。
もしも僕とセイが、あんな風に笑いあえたら――。
「――アキュー」
「ッ――」
聞き覚えのある聲が木霊する。
また振り返ると、響川の家は消え、そこには黒髪の見知ったが1人、優しく微笑んで立っていた。
これは幻覚、偽。
なのに、かつてと変わらない姿の彼を見ると言葉が詰まり、手が震えた。
再びその笑みを向けられるとは、思ってなかったから――。
「アキュー、貴方……」
ポツリと彼の口元から言葉が落ちる。
その艶めかしい聲は優しく、暖かさがあった。
「……なん、だ?」
かろうじてから出た返事。
けない聲だったと思う。
けれど彼は嬉しそうに微笑み、僕に尋ねた。
「長い空白の時間があったけれど、もしももう一度……2人でやり直せるなら、どうする?」
小首を傾げ、薄く笑って尋ねてきた。
訪れる無音、悸する心臓がうるさくじるほど靜かになる。
なんて応えれば――否、どう応えていいのか――。
僕にもう一度、君と一緒にいる権利があるだろうか。
死んだことすら知らなかった僕が……そんなことをする権利があるだろうか。
でも、本當にもう一度、セイが許してくれるなら、
「やり直したい。本來僕達が得るべきだった時間を、取り戻したい……」
それが本心だった。
お互いにあの頃とは違うし、見てきたものもじてきたものも違うかもしれない。
だけれど、あの頃の気持ちを思い出すと、今でも僕はが熱くなる。
好きだった。
あんな別れをしたのは、何かの間違いだった。
だから、時間を戻すことを許されるなら、僕は……。
「……それだけ聞けたら、満足かな」
「……?」
不意に、セイの姿が朧げになる。
過しいくからは、小さな実態のが現れる。
桃の髪を持ち、5重の羽をに付けた。
昔と姿は変われど、その心は変わっていない。
「……師匠」
「やほ、きゅーくん。なんとか君も、に向き合えそうだね。それはとても人間らしいと思うよ」
にぱにぱとい笑みを見せては話す。
この人は……まさか……。
「ここまでのこと、仕組んでたのかい?」
「いや、まったくの偶然だよ? こうなったらいいなとは思ってたけどね。君に似た顔で転生したのは良かったけど、瑞揶くんにをあげちゃったから、今更これほどの展開になるとは思わなかったよ」
「…………」
どこか寂しそうに笑う師匠は僕から視線を逸らし、空を見た。
本當のことを言っているのかは定かではない、しかし噓をつく理由もないだろう。
「ただ別に、今私がここに來たからって、瑞揶くんとの戦いに干渉する気はないよ?」
「ああ、それはもう決著が著いた。気にしなくていい」
「……そっか」
僕の言葉を聞いて、師匠は安心するように微笑んだ。
もうこの先、戦う必要はないだろう。
あの年を見ていて、妬み、襲い、殺そうとした。
でも、彼を見たおかげで気付いた。
いや、気付かされた。
「ねぇ、きゅーくん?」
「ん……?」
「って、素敵でしょっ?」
はにかんで笑いかけてくるの言葉に、僕は短く頷いた。
もはやを遠巻きにする必要もない。
セイを取り戻す。
嫌われている? そんなことは問題じゃない。
むしろ、手にりにくいからこそ面白い――!
「……僕は戻る。君も瑞揶の元へ戻るといい」
「そうだねーっ……。またお別れだぁ」
「いつでも會えるさ。瑞揶は生かす、たまに會いに行くからいろいろ教えてくれ」
「…………」
目の前のは閉口した。
僕は首を傾げ、殘念そうな顔をした師匠に問う。
「どうした?」
「……私は、この件できゅーくんも瑞揶くんも、助けてあげる気はないよ」
「…………?」
意味がありそうな言葉を放ってまた口を閉じる師匠。
僕にも響川瑞揶にも、何かしら危険があるようだ。
今近にいて、僕らにとって脅威になりうる存在がいるなら、それは――
「……今後の展開、わかるでしょ?」
「ああ、なるほどね。虛無か」
「……そ。きゅーくんが瑞揶くんを殺さなくても、世界にとって邪魔なセイちゃんを排除するため、むーちゃんが攻撃する」
「…………」
言われて合點がいったが、だからといってどうすることもできない。
戦う他に……ないだろうね。
「……あとは君がどうするかだよ、きゅーくん」
「…………」
が僕の橫を通り過ぎる。
僕が振り返れば、もうの姿は見えなかった。
…………。
……言うことはないらしい。
それもそうだ、僕がやる事は僕が決める。
さぁ、行こう……。
「よし――」
一息吐き、手をばす。
まっすぐ前にばした手から、加減なく【悠由覧】を使ってこの幻覚に干渉を始める。
【悠由覧】は概念であり、覆せるものではない。
だが、僕と瑞揶では能力の差がある。
瑞揶は能力の全部を理解して使ってるわけではなく、僕が押し破ろうと思えば彼の技は破れる。
そこは30何億年という歳月をかけて得た力だ、簡単に全力で使われるようではいけない。
――パキン
空間にヒビがる。
それはガラスに亀裂ができるように。
――パキン
干渉が進み、さらにヒビが広がる。
僕は目を細め、さらに力を強めた。
ばした手を、グッと強く握る。
――パリィン
何もない世界が割れた。
世界だった欠片はガラスの破片のようにキラキラとって落ちてゆく。
割れた世界の外は荒廃しきった都市の上空で、響川瑞揶が僕の前に立っていて、その先には響川沙羅と虛無がいる。
夢は終わりだ。
僕がどうするか――師匠は見ているだろう。
まぁ、する事は変わらないが――。
「――響川瑞揶」
「…………」
年の名を呼ぶも、返事はなかった。
彼の口は固く閉ざされ、悲しみの眼差しで僕を見據えている。
僕にの素晴らしさを教えようとした年。
師匠との會話まで聞いてたかは知らないが、僕がどうするかはわかってるはずだろう。
彼が言うことは何もない、全ては僕が起こしたことだから。
自分がをしないからと、酷い八つ當たりをしたものだ。
それも、もう終わろう。
「僕の負けだ」
優しく呟くように、僕は敗北を宣言した。
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