真っ白な空間がひたすらに続く。

進んでいるのか後退しているのかもわからない、ただの白い場所が続いている。

トントン

「……？」

沙羅が僕のを突っつき、一度飛行を止めて止まった。

だからと言って視界は変わらず、止まった実もないが。

「どうしたの、沙羅？」

「いや、進んでると聲も聞こえないでしょう？　何とかしてしいわ」

「え？　……ああ、ごめんね？　超能力でなんとかしたから、次からは聞くよ」

「そ。……なら、行って」

「うん……」

再び僕らは飛行を始めた。

前を見る僕の髪はずっと逆立ち、服はずっとに引っ付いている。

(転移で行けないかなぁ……)

そんな安易な考えをしていると、の方から沙羅の聲が聞こえた。

「私、力不足ね……」

「え？　なんで？」

「……私なんかじゃ戦えないでしょう？」

「…………」

抱きついてくる腕の力が強まる。

僕とアキューの戦い、沙羅にはが飛びうだけに見えたと思う。

の速さでく相手と戦うなんて、沙羅にはできないだろう。

「僕は……沙羅に戦ってしくないよ。今回の件は僕がアキューのクローンだから起きたんだし、沙羅はなんにも悪くないでしょ？」

「……でも、瑞揶が戦うなんて考えられないもの。いつも優しくて、笑ってて、怒ったって拗ねるだけのアンタが戦うなんて……」

「僕だってやるときはやるよ……」

戦うときは戦うし、手段も問わない。

ただ、できる限り殺さないのはそうだし、さっきの戦いでも、アキューを殺す気なんて微塵もなかった。

「ともかくさ、アキューが虛無を撤退させる事を信じよう」

「って言っても、私はあの男が瑞揶に寢返った理由知らないんだけど？」

「あはは……時間があれば話すよ」

「はあ、そう……」

呆れてしまい、沙羅は視線を僕から逸らした。

僕も、あんなに簡単に寢返るとは思わなかったけど、そこはやっぱり自由だから。

「ともかく、自由の第一世界に行こう。どんなとこだろうね？」

「……楽しみなの？」

「しね……。素敵な所だと良いなぁ……」

「アンタ、狀況わかってないでしょ。私もよくわかってないけど」

「あはは……」

僕にだって、虛無がどれほどの脅威かはわからないし、アキューが追い払ってくれるなら萬々歳だ。

僕らが恐れることが起こっているというのは考えにくいし、むしろこの白い空間をずっと行く方が不安に――

「あ――」

その時、視界にがついた。

暗い暗い闇の、それは夜の証。

宇宙ではなく、どこかの星の中だろう。

移を止め、空中に停滯する。

上空で呼吸が苦しいとか、そんな事はもう考えなくとも平気だった。

「……これは」

「……凄いところ、ね」

圧巻、その一言に盡きる景が広がっていた。

優しい緑にる山脈が広がり、空には水にる月が有って、星々は數多のに煌めいている。

だけど、この星の空にあるのは月だけではなかった。

空に浮遊する大地がポツポツと浮かんでおり、雲に並んで移している。

下は土の、上は木々の黃緑がらかく発していた。

空は暗い闇だけで終わらず、地平線の向こうには灼熱の赤いが銀河のように渦巻いて輝いている。

神的な空間だ。

自然に溢れ、優しい夜が世界を満たしている。

これが、自由の第一世界……。

「沙羅……っ！？」

隣のに聲を掛けたところで、沙羅のが薄く発しているのに気付く。

この世界にある木々のように、緑なら緑、金の髪を持つ彼なら金にっていた。

「なによ……って瑞揶、なんかってるわよ？」

「沙羅もってるよ。なんだか妖さんみたいっ」

「妖って何よ。いいから、隠れ場所を探すわよ」

「はーいっ……」

靜かに降下し、し高めの場所から飛んで住めそうな場所を探した。

ここは山だし、窟なんかがあればいいなと空を2人でうろうろとする。

「瑞揶、あそこ見て」

「んー……？」

沙羅に呼ばれ、彼が指差す方を見る。

木々を割さいて巖の間にポッカリとの空いた場所があった。

窟だ、丁度僕らが通れるぐらいの大きさだろう。

雨風がしのげれば、それでいい。

「行こう、沙羅」

「ええ」

手を繋ぎ、2人で窟の中へと降りて行った。

の中には月がないのに、矢張りほのかに土がっていて視界が困るほどではなかった。

思ったよりもらかい土を踏み、奧へと進む。

「窟って、自然にできるのかなぁ？」

「知らないわよ。何かここを掘った生きがいるって言いたいの？」

「うん……」

進みながら考える。

もしここに何か住んでたら、どうしよう。

話が通じればいいけどなぁ……。

「ま、何が出てきても私がやっつけてあげるわ。瑞揶はのんびり構えてればいいのよ」

「あはは、頼もしいなぁ……」

「頼もしいなら、頼りなさい。まったく……」

ため息を吐いて呆れる沙羅。

……そうだなぁ、普段はテレビ見てるだけの彼にも、しは働いてもらおう。

と、思っていた矢先のこと。

僕らは立ち止まり、目の前に広がる巖を見つめてキョトンとした。

「行き止まりね」

端的に沙羅が言うと、僕は短く頷く、

優しくる土に道を閉ざされ、この先は進めないらしい。

「ここまで足跡とか生きの通った痕跡もなかったし、音一つしなかった。何も住んでないと思うわ」

「そ、そこまで見てたの？」

「當然でしょ？」

「…………」

さも當然と言うように言ってくるあたり、さすがは魔界の裏方で仕事をしてきた人だ。

沙羅には勝てないなぁ……。

「…………」

沙羅が無言で攜帯を取り出し、すくにまた仕舞う。

時間を確認しただけのようだ。

「……まだ寢るには早いわね」

「え……寢るの？」

「そりゃ寢るわよ。今日一日、いろいろあり過ぎて疲れたわ」

「……確かに今までにないくらい濃な1日だったね」

沙羅が捕まって、助けに行って、レリを蘇生し、ヤプタレアを出た。

そしたらアキューと戦って……知らない世界にやってきた。

僕が明日を生きられるかはわからない、だけど……そうだね、睡眠ぐらいはしっかり取りたい。

「寢ないにしても、とりあえず座りましょ。なんか敷くもん出しなさい」

「出すというより、作る、だね……」

沙羅に言われた通りに僕はビニールシートを作って2人で敷いた。

外で座るなら、ビニールシートだよね。

「……靴履いてくればよかったね？」

「今更言わないでよ……」

沙羅はガックリと項垂れてしまう。

リビングから出てきたから當然僕らは靴下で、沙羅はむくれながら土だらけのソックスをいでいる。

地面がぬかるんでなかったから踏み心地が悪かったわけじゃないけど、汚れるのは嫌だしね。

「…………」

じーっと、ソックスをいでいる沙羅が僕を見てくる。

わざわざ足をばしてゆっくりといで、そこにある意図が読めない。

「……ねぇ、瑞揶」

「うん」

「私、今著てるの制服なのよ？」

「うん……」

「こんなにスカート短いのよ？」

「そうだね？」

「……なんでパンツに目がいかないの？」

「そ、そう言われても……」

「……はぁーっ」

大きくため息を吐いて呆れる沙羅はさっさとソックスをいでビニールシートに寢そべり、ふてくされてしまった。

どうしてそんなことで怒るかなぁ……。

「沙羅、寢ちゃうの？」

「そうするわ。どうせすることもないし、瑞揶は甲斐なしだしね」

「甲斐なし……。確かにそうだけどなぁ……」

と、そう呟いた時には既に沙羅は寢息を立てていた。

寢るのが早いし、枕も敷き布団も無いと風邪を引いてしまう。

「やれやれ……」

肩を竦めながらも、いつも通り気丈な沙羅の姿に安堵する。

彼のために掛け布団を創造し、枕もそっと頭の下にれて、僕は立ち上がった。

らかく、し冷たい土を踏んで再び外に出る。

綺麗な星、それに月。

浮遊する島々、この幻想的な風景は言葉に言い表せない。

ただ、僕が凄い・・と思えた。

僕の視覚からなるはちゃんのせいで抑えられてるはずなのに、それでも凄いと思えたこの景。

世界が違えば、こんなこともあるんだなって、しみじみと痛した。

「――結界」

そして、この夜空に結界を張り巡らせる。

この星に誰かが來たら、それを知する結界。

もちろん、結界を張っていればこの世界に來た人が僕の存在を知するけど、居場所までは知られないだろうから逃げればいい。

沙羅を、最の人を巻き込んでしまった。

だから、どうしても守りたい。

そして、2人で一緒に生きていきたいと思う。

星に願いを込めて、僕は空を見上げ続けた。