《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第十話

「――ハァッ……ハァ……」

「…………」

瑞揶達の逃走から7時間後、自由世界の狹間では新たな大地が形されていた。

草木なき巖の塊のみでできた山がいくつも並び、そのいくつかは大陸として浮遊していた。

しかし、虛無の周辺には巖らしきものは何もない。

代わりに、彼の背後には幾つもの砲臺が円を描くように並べられ、その周りには灰の瘴気が渦巻いている。

砲臺の中央に凜然と佇むと違い、自由は息が荒かった。

彼の姿はあまり代わり映えないが、全から汗を掻いている。

頭につける半月を描くような冠、ワイシャツの上からつけた肩章に羽、草摺は依然として姿を保っている。

しかし、右腕が違う。

肘から先の右腕が無くなっていた。

虛無の全てを無に帰す砲撃の雨を、腕に掠った結果だった。

右腕の存在が消され、そのではもう右腕の再生は不可能となる。

「…………弱くなった」

ポツリと虛無が言葉をらす。

そこには悲しみの表があった。

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「……以前戦った時……この結果になるの、32日かかったのに……」

「ハァ……ハ……いつの話だ……ハァ……」

「2億7千年ぐらい、前……かな……」

「あぁ、そんなこともあったか……?」

アキューが疑問符を浮かべると、虛無はこくりと頷く。

「あの時は……45日……それで、決著……」

「……そうだ、っけ? まぁいい、今から勝つのは僕だ。負ける気はない!」

「……死んで、閻魔に絞られておいで」

剎那、大陸と無數の砲撃が激突した。

ペチペチ

「……むぅーっ」

むにむに

「……ふぬーっ」

バチン!

「痛いっ!?」

突然ほっぺにじた痛みで僕は跳ね起きる。

と、目に映ったのはジト目になった沙羅の姿だった。

「痛いよ沙羅……なにするのーっ」

「なかなか起きないからほっぺで遊んでたのよ。さすがに起きるのね」

「起きるよっ!!」

叩かれたら起きるよーっ。

ほっぺ、赤くなってたらやだなぁ〜……。

「それにしても暇よね。なんとかならないの?」

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「僕に言われましても……」

僕だって初めて來る場所だし、どうしようもない。

アキューか虛無が訪れるまですることが無いし、どうしようか……。

「……よし、探検するわよ」

「……え?」

急に立ち上がって宣言する沙羅。

この思い立ちの良さは素晴らしい。

燃え盡きるのも早いと定評があるけど。

「……外に出てていいのかな?」

「大丈夫よ。見つかる時は見つかるし、気にしてても仕方ないわ」

「えーっ……」

腕を摑まれ、ぐいっと引っ張られる。

無理やり立たされてしまい、もう斷る気もなくなってしまった。

「ほら、靴を出す!」

「わ、わかったよぅ……」

超能力で靴を取り寄せ、シートの外に置いた。

市販のスニーカーだけど、こんなやまを歩くならローファーとかよりは良いだろう。

沙羅が何の遠慮もなしに靴に足をれ、僕に見向きもせず窟の外へ歩いていく。

どれだけ退屈だったんだ……。

呆れつつ、僕も靴を履いて追い掛けた。

のそのそと歩いて窟の外に出ると、沙羅が立ち止まっていた。

迎えれる暖かい、それは紫で、世界全に淡く降り注いでいる。

これがこの世界の朝……薄黃の空はどこまでも続き、白い雲が漂っている。

夜とは違って明るいけれど、まばゆい太はこの世界でも変わらないらしい。

「……素敵なものね」

小鳥の囀りが似合う朝の風景に、沙羅はうっとりして呟く。

夜も朝も景しい世界、それはわかったけど……これが自由世界というのは、よくわからない。

自由律司神は、何を思ってこの世界を作ったのだろう?

……いや、それを散策するのが探検だ。

「瑞揶、行くわよ」

「うん」

沙羅の手を取り、2人で森の中へと足を踏みれる。

木々の発は朝でも変わらず、木からしこむと優しいに照らされて歩いた。

渦巻狀の草や虹の湧き水、の咲く花、灰の木には癒すように緑の蔓つるが巡っている。

とても自由律司神が作ったとは思えぬ優しい場所だった。

「……自然もいいわね」

「靜かだし、心地いいねーっ」

休憩がてら、偶然見つけた切り株に座って周りを見渡す。

これまで生きには1匹も會ってないし、蟲も鳥も居ないらしい。

だけの空間……世界に2人きりになったように思えてくる。

…………。

「……瑞揶?」

「……えっ? な、なに?」

「何を赤くなってんのよ?」

「赤くなってないよっ!!?」

「……? まぁいいけど、それよりお腹すいたわ。何か食べたいんだけど」

「あ、朝食食べてないもんね。食べ……えーと、なんでもいいよね……」

沙羅の注文を聞いて、いつも學校で使っているお弁當箱を生み出した。

メニューは朝ということもあって軽めのもの。

鮭の塩焼きをメインに、キャベツやアボカドのサラダとおやニンジンを詰めたオムレツ、それにご飯。

か同じ、だけど弁當箱のは違う2つの箱が僕と沙羅の膝元に出る。

が僕、ピンクが沙羅の

お茶のった水筒も切り株に出して、

「いただきますっ」

「いただきまーす」

僕は両手を合わせて、沙羅は何も気にせず蓋を開けてパクパクとお弁當を食べる。

今更ながら、本當に僕の能力って便利だなぁと思い知った。

「ねぇ、このオムレツ……」

「ニンジンとおだよー?」

「…………」

「無言で僕の方に移さないのっ」

キチンと食べて~っと説得すると、渋々沙羅はオムレツを口に運んだ。

ニンジン嫌い、直らないかなぁ……。

「……めっちゃ呑気よねぇ」

「探検しようって言い出したの、沙羅でしょ?」

「そうだけど……呑気よね」

膝に肘ついてため息を吐く沙羅。

ふむぅ、鮭さんの骨がコリコリするぅ。

「もし瑞揶のオリジナルが負けたら、あの虛無ってちびっ子が瑞揶を殺しにくるのよね。私は神でもなんでもないし、どうしようもできないけど……って、聞いてんの瑞揶?」

「にゃー、お魚くわえたねこしゃんはこんな気持ちなのですかにゃー……?」

「…………」

バチンっと痛いビンタをいただいた。

弁當箱を置かされ、地べたに正座させられて改めて話を聞く。

……僕のヒエラルキーって、こんなに低くていいのかな。

「ほら、こっちを向く」

「はいっ……」

「いい? アンタ死ぬかもしれないのよ? 私まで殺すかは定かじゃない、だけど……」

――死ぬときは一緒よ。

の呟いた言葉に、僕は目を見開いた。

改めて見た彼の顔には、今の言葉を言った迷いはどこにもなく、真摯な瞳が僕に向けられる。

「……狙われてるのは僕だよ。沙羅まで死ぬ必要はないさ」

だからこそ、僕も真剣な眼差しで斷った。

沙羅が死ぬ必要はないし、死んでほしくない。

には生きててほしい。

この広い世界で、もっと素敵なものをじて、れ合ってほしい。

たとえ僕が死んでも……。

「……死ぬ必要ならあるわ」

「……なんで?」

「もし瑞揶が死んだら、私も死ぬのよ。そうじゃなきゃいけない。だって……貴方が居ない所で生きることなんて、私にはできないもの。瑞揶をしく思い続けて生きていくなんて、辛いだけだわ……」

「…………」

肩が下がり、沙羅は背中を丸めた。

泡沫のように、れば壊れてしまいそうな儚さを出す

……好きな人に寂しそうな顔をさせるなんて、彼氏失格だな。

「……これは、絶対死ねないな」

死ぬかもしれないから不安になる。

だったら死ななければいい。

逃げるときは逃げるし、戦うときは戦う。

だけど、命だけは絶対に落とさない。

沙羅の命がかかってるなら、必ず生き延びる。

「それに、僕だって死ぬ気は無いんだ。沙羅と一緒に生きていきたい」

「……そうよ、死ななきゃいいのよ。そしたら、2人で幸せに……」

「……沙羅」

顔を赤くして俯く沙羅に、なんと聲を掛けたものかと名前を呼ぶしかできなかった。

この先、元の世界に戻る事はない。

別れを告げて、また戻るなんてことは、ね。

だから、これからは2人でいろいろな世界を行きたい。

そう言って僕たちはヤプタレアを出たんだ。

2人きり、これからは2人だけ。

どんな世界に行ってもずっと2人。

そう考えるとが熱くなって、どこかこそばゆい。

「……そう」

呟かれる小さな言葉。

のないの聲は聞きなれた金髪ののものではなく――。

「…………ごめんね」

気付けば僕の橫に立っていた、白いのものだった。

の手が僕の頭へとびる――。

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