3時間前――。

「……はぁ」

ほうっと大きな息を吐き出すがいた。

あたり一面は灰であり、次元をも無に塗り替えていた彼は今、無傷で目の前に漂う殘骸を見ていた。

それはアキューのにつけていたマントの破片、生み出された巖石や星の欠片。

殆どは無に帰しても、殘ってしまうものがあったのだ。

彼は、アキューを負かした。

あらゆるものを無にできる彼と自由を司る年の戦いは、普通に考えれば終わるものではない。

全てを無にする絶対の力。

全ての束縛をけない力。

“管理”によって調整された互いの力は、微小なら干渉し合えるが、基本的に、お互いにお互いの力を及ぼしあえない。

それでもアキューが負けたのは、戦歴の差だった。

アキューも虛無も、ふらっと歩いて星を見て滅ぼしたりするが、それ自は大した戦いでもない。

瑞揶のような強大な力を使える敵との戦いは、2人の神にとって戦い・・だった。

虛無はあらゆる世界に出向いてはミスで世界を消滅させたり、何かと他の律司神とモメることがあった。

アキューもモメるが、戦うほどでもなく、一応彼は分を弁えている所がある。

そこの差が遙かな年月で力の差となり、倒されたのだ。

「……時間の無駄」

“管理”によって與えられた僅かなで、退屈な思いを口にする。

2人の目的は半端次元神という、次元を彷徨う強い力を持った存在の1人を討つことだった。

そのためにはかなり遠回りをしているが――虛無1人でも、事足りる。

「…………」

ふと、は自由の付けていたマントの破けたものに手をばした。

このマントをにつけていた年はが無くなり死亡、その魂は今頃閻魔のところにあるだろう。

律司神は消えたり死んだりすると、全ての律司神が困るのだ。

律司神は自分の専門しか分からず、自由のことは自由に聞くから、自由が欠けるのは困るのだ。

無論、アキューの代わりぐらいならいくらでもいるのだが。

とはいえ、存在の消滅は管理律司神によって不可とされ、アキューは魂を閻魔の元に送られ、そのうち復活するのである。

彼の作っていたクローンにその魂がるのは、もうしかかる。

「……行こう」

一言呟いてはマントの生地を無に帰す。

彼は年・瑞揶を探さなくてはならない。

半端次元神、セイ・ヌメラナス・フラムナルを倒すために――。

◇

「――沙羅！！！」

「っ！！？」

虛無の手が僕にれる直前に、僕は沙羅の後ろに転移してするを抱きしめ、また転移した。

パァッパァッと音がして、気がつくと草原の上。

同じ世界、同じ星のどこかなのは確かだけど、まったく知らないところに來た。

くるぶしに屆くかというほどの草がずっと生えている草原には木も見えず、薄黃の空だけが広がっている。

「もう……逃げても……無駄」

「…………」

瞬間移しても、その先には白い布をに纏ったがいた。

全てのものが薄くるこの世界でも彼は輝きを持たず、悲しみに満ちた顔を続けている。

悲しみたいのはこっちだというのに……。

「結界を張ってたのに、どうやってったの？」

「……私は……存在を、認識されない。……無だから。普通にってきたよ」

さも當然というように答えるは、一歩、また一歩と僕の方へ歩み寄る。

ゆっくり、ゆっくりと、拙つたない足どりで。

「……アキューは？」

「自由……？　……彼は……を消した。……魂は、閻魔の所」

「…………」

つまりは殺したということだろう。

どんな戦いをしたのかは想像もつかないが――この子が僕のオリジナルアキューよりも強いのは確か、か。

だとすると、僕はこの子に勝てないだろう。

「……見逃してくれないかな？」

「……無理」

「だよね……」

渉を試みようにも表を変えることなく突っぱねられた。

……まぁ、やることは1つ。

「それでも逃げるよ！」

「…………」

僕は沙羅を抱きしめたまま地面を蹴った。

よりも早く逃げる、それが僕に取れる手段だった。

一瞬のうちにこの星を出て宇宙へと飛び立つ。

隕石を避けながら、永遠に続く黒い空間を突き進む。

「――あれ？」

星々を見る間もなく通過していたのに、急に周りの石が止まって見えた。

違う、止まったのは僕の方だ。

急に、どうして……。

「……無駄って、言った」

逃げたはずなのに、そんな事などなかったかのように、のない聲が聞こえた。

距離にして10m、僕らの前には再び虛無がいた。

「……君の速さを、無くした。……自由の力のせいかな？　しは……けるんだね」

「…………」

速さをなくした……ということは、ここから逃げることができなくなったということ。

だとしても……。

「転移……」

速さの関係ない移ならば、逃げられる。

だから僕は転移を発した。

「…………」

しかし、景は変わることなく、広大な宇宙の中のまま。

「どうして……」

「……もう、貴方の能力の無効化……始めた。能力は、使えなくなる……」

「なっ……」

「【悠由覧ゆうゆうらんらん】……貴方のそれは、所詮模造品……貧弱過ぎる……」

驚愕せざるを得なかった。

僕の能力を、無くし始めているという。

だったらもう逃げることもできない。

それどころか、能力が切れれば宇宙にいること自が危ない。

絶的な狀況だった。

くこともできず、能力も封じられる。

あとどのくらい能力が切れずに居られるか……。

「……瑞揶」

ポツリと、沙羅のささやきが耳にる。

僕にしか聞こえないような聲量で話しかけてきた。

「私はまだ早くけるわよね？」

「う、うん……」

「なら、手を離して。その瞬間にアンタを蹴って飛んで、私がアイツをブッ殺す」

「え……」

ダメだ――。

咄嗟に出かかったその言葉をなんとか飲み込んだ。

律司神は、何億何兆という時間を生きた生命たちだろう。

速を超えた速さでの一撃を行ったとしても、防がれる可能が高い。

それはあまりにもリスクが高過ぎる。

だけど――

「……一緒に生きるんでしょ？」

「…………」

確認を取る沙羅の言葉。

そうだ、そう約束した。

ここで2人で死ぬなんて、そんなのは嫌だ……。

「アンタがやるより私がやる方がいいわ。幸い、虛無はく気がないみたいだし……」

「……うん。わかった、任せるよ」

「虛無がよそ見をしたタイミングで行くわ。意識を集中させて……お腹破れないようにして……」

「…………」

の速さで蹴られてもが無事でいるよう【確立結果】をかけ、2人で虛無の様子を伺う。

彼はずっとこっちを見ていた。

空虛な瞳で、無表のその顔で。

視線をそらすことはないように思えた、だが――

瞬きをした。

一瞬閉じられるその瞳。

完全に閉じられた剎那、沙羅がき出す――。

時間がゆっくりにじる。

沙羅は僕の手をし、足を畳んで僕の腹部に靴を押し付けた。

僕の腹を蹴り、沙羅が飛び出す。

虛無の瞳はまだ閉じている。

沙羅は瞬時にその手に刀を顕現させ、まっすぐ前へとばした。

まだ虛無の目は開かない。

いけるか――いや、わからない。

だけど、もしかしたらこのまま――。

沙羅の飛ぶ姿は目で追うことこそできても、速すぎて音すら発生しなかった。

雷の如く彼の軀が虛無を貫かんとした。

その時、僅かに虛無の瞳が開いた。

だが1mmも開いてない様子で、沙羅を視認することは不可能だ。

そのまま突き進め――。

パシッ

実にゆったりとした音が響いて世界が速さを取り戻す。

目の前で起こった景は異様だった。

沙羅の持っていた刀は虛無のを正確に捉えていた。

しかし、刀は虛無のにれるや否や、瞬く間に飲み込まれてしまう。

否、消されてしまった。

無機だけを飲み込むのか、の速さであったにも関わらず沙羅のをけ止め、その肩を摑んでいる。

「邪魔するなら……消していい、よね？」

「ッ！？」

「沙羅！！！」

沙羅が振り向き、僕へと手をばす。

必死の表で、まっすぐと僕へ。

僕も彼の手を摑むべく、手をばした。

する彼が消される――そんなのは、絶対に嫌だから。

だから……。

しかし、その手で何も摑むことはできなかった。

フッと消滅した沙羅の面影は、この宇宙から跡形もなく消えたのだから。