《連奏歌〜惜のレクイエム〜》最終話:惜を超えし
自由世界の神別小隔研究中界――アキューの研究室とも言える、神の世界にある部屋。
そこは機が立ち並び、幾多の空間モニターが立ち並んでいた。
「再會したばかりで悪いが、しここに居てくれ。30分もすれば戻る」
アキューは黒髪のにそう告げ、右手で彼の左に育ったそれをむんずと摑む。
もちろんその手はすぐに振り払われ、ため息混じりにセイは言葉を返した。
「悪いわね。私が響川瑞揶を転生させなければ、こんなことにならなかったのに……」
「別に、僕は構わんさ。響川瑞揶は辛いだろうが、あの2人のは強力だからすぐに見つかるだろう」
「……だといいわね」
2人の姿に希を乗せる。
響川瑞揶はの後世、響川沙羅は人の背中を押す。
優しい2人が次の世界で、巡り合うことを祈る――。
「行ってくる」
「気を付けてね……」
アキューは転移で自由世界の次元の狹間に移する。
その後ろ姿を、セイは見送ったのだった。
◇
眠りから覚めるように、私の意識は唐突に目覚めた。
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薄眼を開けて、瞳に映ったのはしい人の顔――だが、その姿は彼のものではない。
世界は一面白く、瑞揶と飛び回った次元の間みたいなもの。
ここはどこで、どうして私はアキューの前に……?
「やぁ、目覚めはいかがかね?」
「ふんっ!!」
「ぐはっ!!?」
とりあえず腹に一発、膝を叩き込んでやった。
コイツのせいで散々な目にあわされたし、というか死んだし。
どのツラ下げて私に顔見せてんだってじ。
「こっ……これは酷い挨拶だな」
膝を曲げてうずくまる律司神。
この世の最上位存在にも、膝蹴りが効くなんて変な話ね。
「ほら、立ちなさい。もう何発かかましてやりたいけど、勘弁してやるから」
「君なぁ……僕の方が強いんだぞ? よく迷いなく攻撃できるもんだね」
「私はに素直なのよ。ったく……それより、瑞揶はどこなの? 答えによってはもう1発……」
「あーうん、その件で君に會いに來たんだ」
「…………」
なんだかめんどくさそうな展開っぽい。
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これはもう1発毆るのは確定として、話を聞くことにする。
「用件があるなら早く言いなさい」
「ああ……。まず、響川瑞揶だが……セイによって転生させられた」
「…………」
転生させられた。
その言葉を聞いても私はピンとこなかった。
しかし、アキューの真摯な目を見たら事の重大さはなんとなくわかった。
「それはどこなの?」
「善悪の第二世界【サウドラシア】。僕もし知っているが、なかなか面白い世界だよ。善と悪……それが世界全で半分ずつ存在するんだ。馬鹿な話だよな、善悪なんてただの妄想を、妄執として世界に蔓延させてるんだから」
「託はいいわ。瑞揶が転生したなら私も転生する。できるわよね?」
「もちろんできる……が、転生する場所によっては生まれて3日で死ぬぞ? それでもいいか?」
「…………」
心配するような聲を出す自由律司神に、私は呆れた。
生まれ変わってまた死ぬかもしれない、苦しいかもしれない。
それがなに?
瑞揶と會えるなら、私はなんでもいいのよ――。
「構わないわ! さっさと転生させなさい!!」
「……。迷いもなしか。わかった、すぐに手配しよう」
「頼むわね」
アキューはこくりと頷くと、空間モニターをいくつか呼び寄せて見る。
押すこともなく、れることもなく、ただ見ていた。
「――響川瑞揶は、フラクリスラルという國の、シュテルロードという貴族の家に生まれたらしい。ミズヤ・シュテルロード。その名を聞いたら、そこに向かえ」
「ええ、わかったわ」
話を聞いて薄く微笑む。
貴族……あの瑞揶が貴族。
きっと、いろんな人を困らせて、ねこさんねこさん言ってる可いお坊ちゃまになるに違いない。
家名はシュテルロード、覚えたわ。
「君の転移先は……その容姿を保つには……ここしかないな……」
「私はどこでもいいわ。早くしなさい」
「はいはい、わかったよ。じゃあ決めたからな」
ブゥンと音を立ててモニターが全て消える。
すると、私の足が謂いわれのない浮遊を覚えた。
すぐに足元を見ると、足首から先がけていて、転生が始まるんだとわかった。
「君の記憶は維持されるが、響川瑞揶の記憶は維持されていない。ヤプタレアでの記憶は完全に抜け落ちている」
「……は?」
急にまた話し出したと思ったら、めっちゃ重要なことだった。
「なんでそんなことになってんのよ!」
「それはセイがやったことだ。僕に言われても困る」
「はぁっ……? ……萎えるわ」
「代わりに君にはこれを持たせる。に押し込んどくから、來るときにはこれを渡せ」
そう言って彼はの玉を手のひらに出し、私のに投げれる。
ってきたものが何かはわからないけれど、溫かいものだった。
「……今のはなに?」
「響川瑞揶の、ヤプタレアでの記憶だ。僕の世界からバックアップを取って作ったものだが、君へのも変わらない記憶だ。向こうで“響川瑞揶”と言うと、から出てくる。ミズヤに會ったら、どこでもいいからぶつけろ」
「……はーいっ」
面倒だけど、やるしかなさそう。
私の記憶がない瑞揶と會っても、虛しいだけだもの。
それでももちろん、私は彼を振り向かせるけど。
もう下半はけきり、から上が殘っている。
もうし時間がかかりそうね。
「最後に、君の能力は魔人のそれと同じにしておく。向こうは世界も小さく、魔人も居ない。だから、なるべく力は隠せ」
「はー、そう。【確立結果】とかくれないの?」
「……そんなにほいほい渡せる能力だと思うか?」
「ま、そうよね」
そしたら一瞬で瑞揶も見つけられるのに、と思ったけどダメっぽい。
ま、運命の赤い糸を信じて、のんびり構えてるとしましょう。
「じゃあな。いろいろ迷をかけたのを、今一度詫びる」
「過ぎたことはいいわよ。でも今度アンタに會ったら、グーで毆ってやるわ。膝よりいいでしょ?」
「どっちも勘弁してほしいものだな……」
そう言って自由律司神も踵を返した。
あとは私が消えるのを待つだけのよう。
私は目を閉じ、した年の姿を思い浮かべる。
出會ったときから、ずっとけない男だった。
それでいていつも優しくて、自分をないがしろにしていて。
姉さんの事や、理優の事があって、それでも貴方は私と一緒になんとかしようと頑張った。
そして貴方の笑顔を好きに思った。
言われてなかった前世の事、聞かされたときはびっくりしたけれど、過去の清算ができたこと、2人で一緒になれたこと、私はここまでの道のりが間違いじゃないと思った。
だって私は貴方を、こんなにしてるんですもの。
1人で転生?
ふざけんじゃないわ、私も行くわよ。
貴方を失うなんて、私には考えられないんだから!
こうして、響川沙羅は転生した。
再び年と出會う希をに、する彼のいる世界へと旅立つ――。
◇
◇
◇
「――様」
うるさわしい聲がする。
男の聲だ、中年に差し掛かる男の聲。
「――ラ様」
二度目、私はようやく薄眼を開いた。
目に映ったのは、全に銀の鎧をまとった甲冑姿の男。
鼻下に髭を生やし、むさ苦しさが滲み出ている。
「――サラ様!!」
顔をズイッと押し寄せられ、私は気持ち悪さから目を見開いて男を片手で吹っ飛ばす!
「顔近づけんなぁあああ!!!」
「なぁぁああ!!?」
吹っ飛ばされた騎士の男は赤い絨毯の上を転げ回り、倒れる。
しかし、さすがは騎士というところか頑丈で、すぐに立ち上がる。
「サラ様! 本日は貴様が5歳の生誕式ですぞ! 早く宮にお戻りになってお著替えを――!!」
おっさんは懲りずに何か話しかけているけれど、私は無視した。
そう――もう5年も経つのね。
がいせいか、はそんなに時間が経ってないように思える。
だけど、まぁうん、私も忙しいもの。
上を見れば高い高い天井があり、橫を見れば長いガラス窓からが注いでいる。
目の前にあるのは赤い絨毯で、私は黃金の椅子に座っていて……。
また私は寢落ちしたらしい。
よく、前世・・の夢を見るけれど……
「ほんっと、あり得ないわ……」
思わずごちる。
小さなか弱い手が震えた。
自分のにつけているドレス、そして頭につけた寶石のついたっか。
なんだか王家に代々伝わるだかよくわからないけどねぇ――!
「なんっで私が、王なのよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」
アルトリーユ王國王、サラ・ユイス・アルトリーユの絶は城全に響き渡るのだった。
「うがぁぁあああああああああ!!!!!」
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