《連奏歌〜惜のレクイエム〜》前編
「まったく、やっとの改変に功したよ……」
ふぅっと息を吐き出し、私は自分の背丈以上ある大きさのハートのクッションに倒れこむ。
優しくけ止めてくれたクッションに顔を埋め、ゴロゴロと転がってを落とした。
寢返りを打って空を見上げれば、とりどりのハートばかり。
正直見飽きたが、イメチェンというのもピンとこない。
結局このままにしたこの空間を見つめ、1人愚癡をこぼす。
「きゅーくん、こんな作れるようになってたんだなぁ……。やっと解析終わったし、これで瑞揶くんも……ふふふふっ」
これからのことを考えて、私は思わずにやける。
よかったね、瑞揶くん。
とはいえ、念のために制限かけたから中途半端な形だけど――
「……にゃーですよーっ」
彼の口癖の言葉を口ずさみ、私はそっと両目を閉じた。
が目元に差し込み、優しく私の瞼を開ける。
視界に移った景は薄くの差し込んだ瑞揶の室で、なんの音もしない靜かな場所。
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寢すぎてしまったのか、どうにも意識がはっきりしていた。
普段なら頭を打ち付けないとスッキリしてないというのに……。
布団から出て頭を掻く。
今日も彼は私より早く起きたらしく、既に部屋にはいなかった。
「朝食ぅ……」
けない聲が部屋で反響し、耳にる。
リビングに著けば瑞揶に洗顔するよう言われるか手伝いを頼まれるだろう。
うう、めんどくさい……。
……でも、彼の顔は見たい。
またいつもみたいに、鈴のなるような優しい聲で「あ、沙羅。おはよ〜っ」って言われたい……。
考えれば考えるほどがときめき、顔が熱くなるのをじながらリビングへと向かったのだった。
しかし、臺所に立っている瑞揶の姿はなかった。
……うん、なかった。
「あ、沙羅。おはよ〜っ」
私の存在に気付いたソレは、くるりとを180°回転させて振り向いた。
その手には彼の大きさぐらいのフライパンがあり、中は野菜炒めみたいなのがっている。
普通に聲をかけてくるあたり、彼は瑞揶なのかもしれない。
いや、考えなくても瑞揶だろう。
しかし、聲はいつものさじるものよりも高い聲でより子供らしく、それに加え
彼は二頭だった。
「……誰?」
「ひどいにゃー!?」
ガーンというように大口開けて驚く彼。
長は30cmぐらいで超能力を使ってるのか、宙に浮いてフライパンをコンロに置いている。
髪は瑞揶だし、顔立ちは丸くなってる以外は変わらない。
は頭の大きさほどしかなく、めっちゃ二頭だった。
頭からは黒い貓耳が、おからは尾が生えてぴょこぴょこいている。
なんなのこれは、幻覚?
それとも、ついに瑞揶がにゃーになっちゃったの?
いや、これは夢よ。
私はまだ寢てるのよ。
顔を洗って、水ぶっかけて確かめてこよう。
「……顔洗ってくるわ」
「行ってらっしゃいにゃーっ♪」
の長さと同じ長さの菜箸を振りながら私の後ろ姿に聲を投げかけてくる。
こんな夢……はやく覚まさないと……。
で、
覚めなかった。
「もしゃもしゃ〜っ」
「…………」
テーブルに顎肘ついて野菜炒めという、朝から重いものを食べる私。
それに対し、瑞揶はテーブルに座って人參をまるまる1本持ってかじり付いていた。
小さくなった瑞揶はテーブルに座っても全然違和がなく、むしろ私にとってはそれが違和だった。
「あっ、沙羅〜っ。肘ついて食べたらダメだよっ」
「うっさいわよ。それより、どうなってんのか説明しなさい」
「……にゃーです?」
「マジでぶっ飛ばすわよ?」
「にゃ、にゃー!? 怒らないでぇええっ」
ポンっという音と共に瑞揶(ねこ)が煙に包まれる。
その煙の中からいつもの瑞揶が現れて、フローリングの上に著地する。
「よっと……。あはは、驚かせちゃった?」
「彼氏がねことかあり得ないから。普通にしてなさいよ」
「えー……。折角変できるようになったから、もっとにゃーになりたいよ〜っ」
人參でお腹いっぱいだし〜、とかよくわからない言い訳を始める。
ねこが人參丸かじりってなんなのよ。
「それに! にゃーになった僕も可いはずだよ!」
「はぁ、そう」
「変!」
再び煙に包まれる瑞揶。
今度は煙から30cmサイズの瑞揶がねこ化して現れる。
よたよたとテーブルの上を歩き、アホみたいな顔をして私を見つめてくる。
じーっ
じーっ
「…………」
「…………」
アホみたいな顔で見つめてくる。
縦にびた貓目、若干紅く染まった頬、無邪気な笑みを浮かべた口。
……結構可い。
まぁ、それは認めよう。
だけど……
「瑞揶」
「……にゃー?」
「今のあなたには、まったくときめかないわ」
私の言葉に瑞揶が固まった。
瞬き1つせず、バカみたいな顔のまま私の事をまっすぐ見つめる。
だが、次第に彼の目元には涙が溜まり、泣き出してしまった。
「にゃーん、にゃーん!」
へなへなと座り込み、子供がうぇんうぇんと泣くように空を見ながら大泣きする。
不等號を向かい合わせたような目をして、にゃーにゃーと喚わめいた。
「……あのねぇ、そもそも今のアンタは人なのかわかんないのよ。なんなのよ、その姿は?」
「僕はにゃーだよーっ!」
「ねこと人間は人になんないわよ。それに、かっこいい要素が微塵も無いじゃない」
「にゃーっ!?」
ショックに打ちひしがれ、バタンと倒れ伏す瑞揶。
そりゃ優しいのは変わらないし、普段からかっこいい所なんて欠片もないけど……
目の前に居るのはちっちゃい生き。
多分、大人のうさぎといい勝負の大きさで、ペットか何かにしか思えない。
「ふにゅーっ……ダメですかにゃー?」
「ダメね」
「……むーっ。今日だけお願い〜っ」
「まぁ、それなら……」
1日ぐらいならちっこくても構わないだろう。
こんな姿でも家事ぐらいできるだろうし、外に出ない限りは構わない。
「いいわよ」
「やったーっ! 沙羅大好きーっ!」
「わっ」
瑞揶がぴょこんと私のに飛び込んできた。
が、咄嗟の事で私はけ止められず、瑞揶が私の太ももの上に落ちる。
「にゃっ」
顔面から落ちて悲鳴をあげた。
……可い。
「いたた……。沙羅のは摑むところがないですにゃー……」
「……あん?」
……なんだって?
ワタシノムネニ、ツカムトコロガナイ、デスッテ?
「にゃ、にゃー!!?」
「今なんて言ったのかしら? 私のが、なんですって?」
「む、が無いとは言ってないですにゃー!!!」
瑞揶の顔を鷲摑みにして持ち上げる。
ジタバタと彼の足がくが、そんな小さいでは逃げられない。
「い、痛いにゃー! ちょっ沙羅、死ぬ、死ぬから!!」
「不死でしょう? 1回――いや、10回ぐらい死んでみる?」
「にゃーーー!!!?」
大絶をあげ、力なくかなくなる。
こんなもんで死ぬとは思えないし、多分気絶だろう。
というか瑞揶の場合、死ぬも気絶も変わらないし。
「……なんか、小いじめてるみたいで嫌ね」
結局、10回殺すのはやめにして朝食を食べるのだった。
小さくなった瑞揶との1日は、まだまだ続く。
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