《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第1話(※)

全てが終わった後、沙羅と過ごす日々――。

雙曲のパストラル、開幕――。

私は瑞揶のいる世界、【サウドラシア】に転生した。

として生まれたけど、ある程度頑張ったし、その後はいろんないざこざに巻き込まれて、國も守ったし、瑞揶とも巡り會えた。

全てを思い出した彼は、私に対する申し訳なさをじ、俯うつむいてしまったけれど――また私が彼の背中を叩いてやって、解決してやった。

そしてようやく、私は――私たちは――。

「帰ってきたのね……」

全てが終わり、【ヤプタレア】へと帰ってきた。

辿り著いた場所は代わり映えのない響川家のリビングで、瑞揶と並んで私たちは立っている。

燈りも付いてない、寂しいリビングには朝の日差しが差し込み、靜寂に包まれていた。

「……沙羅」

隣に立つ瑞揶が私を呼ぶ。

穏やかな彼の聲が私の耳にれてを熱くする。

何かしらと彼の顔を見れば、酸っぱいものでも食べたような顔をしていた。

「……どうしたのよ?」

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思わず尋ねてみる。

せっかく帰ってきたというのに、その顔は不適切なのだから。

「……改めてさ、謝りたかった。何年も探させて、本當にごめん。それで、ここまでしてくれて、本當にありがとう……」

不意に、ギュッと抱きしめられる。

痛いぐらいの抱擁だった。

強制的に彼のに顔を埋められ、ちょっと苦しい。

俯いて口を開ける隙間を作り、抱きしめ返して言葉も返す。

「いいのよ。私も、あの世界に行ってわかったもの。広い世界を見ても、瑞揶以上に素敵な人は、私には居ないって……」

「ッ……沙羅っ」

味しい料理は毎日タダで出てくるし、ダラダラしてても注意だけだし、お金は十分にあるし――」

「…………」

「冗談だから、そんな目しないでよ」

抱きしめる手を離されてジーッと見られるも、ビシンとおでこにデコピンすると痛そうにうずくまった。

……弱い。

「うぅー、痛いよぅ……」

「弱過ぎよアンタ……」

「生前の超能力が効いてないんだよう……。沙羅のデコピン、おでこ割れるかと思った……」

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「…………」

確かに、生まれ変わったら家にかけた超能力とかも無くなる……かもしれない。

というか今の瑞揶と私のはこの世界で生まれたものじゃないのよね。

それでもコイツは死んでないし、おでこ頑丈になったわね。

「ほら、立ちなさい」

「……むぅ〜」

「なに? さっきのは冗談なんだから、気にしないでよ」

「ぷくぷくねこさんだよーっ」

わけわからん。

いや、頬を膨らませて怒ったふうにしているらしい。

……はぁ。

いつまで経ってもコイツは、男らしくなれなさそうだ。

「そんな顔しないの。いいから、家の中見て回るわよ。変なところがあったら困るんだから」

「……はーいっ」

目を細めて渋々起き上がる瑞揶を見ながら、私は思う。

なんだかんだ言って、いつもの私達に戻ったのだと。

この世界を出る前の日常は、すぐそこに――。

ちゃんと呼んでいた存在は律司神へと戻り、瑞揶の中からは消えている。

そのせいで瑞揶はいろいろと制限が消えたわけで、例えば視覚的求なんかは一般男と変わらない。

そこで、今一度試したいことがあった。

「はぁ……」

久しぶりの我が家のお風呂から出て、タオルで髪をわしゃわしゃと拭く。

それでささっとを拭いて、下著だけをに付ける。

……うん。

……よし。

私は服を著ることなくリビングに向かった。

今の時間なら瑞揶もリビングの掃除をしているはず。

昔はよく、何も気にせずこの姿でリビングに行ったりしてた。

それは瑞揶が、私がどんな姿でも気にしなかったから。

けど、今は違う。

どんな反応をするのか見てみたい。

私は貧相なつきだし、期待以上のものは見られないかもしれないけど、瑞揶でも私のに興味があるのか、それを知りたい。

で飛び込むのはさすがに恥ずかしいし、瑞揶が叱るからやらないけれど、この姿でなら……。

……どっちにしろ叱られるか。

とりあえず、私はリビングに踏み込むことにした。

「お風呂でたわよー」

できるだけ平靜を裝ってリビングに聲を張り上げる。

キョロキョロと瑞揶の姿を探すと、すぐに彼は見つかった。

ハンドサイズのモップを手に持ち、食棚を拭いていた彼が私へと振り向く――。

「あ、沙羅――」

何気なく彼が振り返る。

と、すぐにその顔が真っ赤になった。

――おおっ!!?

「…………」

何も言わず、大口開けて固まる瑞揶。

これはかなり効果があったようだ。

り口付近に居る場合じゃない、もっと近付かないと。

「どうしたのよ?」

歩きながら彼の元へ歩み寄る。

聲を掛けられて瑞揶はやっとき出し、モップを両手に持って目を泳がせた。

「えっ、いやぁ、あのね? なっ、ななななんでもないよ? それより! ゆ、湯冷めしちゃうからさ! 服著てきたら!?」

なんか変なところで語気が強くなり、あたふたして面白い。

私もそれなりに魅力があるようね。

もうちょっと遊んでみようかしら。

「私が湯冷めなんてするわけないでしょ? それより、顔赤いわよ〜? 風邪でも引いた〜?」

「い、いいからこっち來ないでぇ〜!」

「えー? 別にいいじゃない」

「わーっ! 助けてーっ!!」

助けを呼ぶことなの?

そう思いながらも私は瑞揶に近付き、手をばせばれられる距離まで迫った。

その時――

ブシャァァァァアアア――!!!

瑞揶の鼻腔から、赤いが噴出された。

健康的な赤いが、私の白いを染める。

もちろん、長の関係から金髪も赤く染まっているだろう。

「…………」

「……はなぢねこさん」

瑞揶の頬は桃へと変わり、いつもの態度に戻ってねこさんと言う。

……なに、この量の鼻

びちゃびちゃになって、私はもう一度お風呂に行く事にした。

検証は功とも失敗とも言えぬ、微妙な結果だった。

「……もー、瑞揶がスケベなせいでもう一回って來ちゃったわ」

「沙羅があんな格好でくるからでしょーっ。まったくぅ……」

そして今、お風呂上がりにちゃんと寢巻きに著替えてソファーに座っている。

2人で座り、その間では手を繋いでいた。

私は空いた手でオレンジジュースのったコップを取り、手首を回して遊ばせている。

瑞揶は空いた手を使わず、むすーっとしていた。

でも肩と肩がつくぐらいにべったりとしている。

「私いつも肩とか出してるじゃない。足も結構出てるし、今更されてもねぇ……」

「……否定できないなぁ」

瑞揶の鼻に詰まった白い綿が何よりの証拠ね。

ありゃ今日は抜きそうにないかな。

「もしかして、向こうの世界で私以外にも目使ってないわよね?」

「覚えてないって……。あの世界の事は殆ど忘れてこっちに戻ってきたんだから」

「それもそうよね」

この世界に戻ってきた瑞揶は【サウドラシア】の記憶を殆ど覚えていない。

あの世界でどんなことがあって、どうして、今の現狀があるのか。

それを彼が知っているのは酷なことだったし、みんなで考えた結果、忘れてもらった。

……未練タラタラ、ってのも困るしね。

クオンや、霧代に……。

「瑞揶は私だけ見てればいいのよ……」

「えっ……どうしたの?」

「……。……なんでもないわ」

よくある言い回しだったかもしれないけど、私には彼しかいない。

他のを瑞揶が見るのは、嫌だ……。

「……さーらっ」

「むっ」

繋ぐ手が離され、覆いかぶさるように橫から抱きつかれる。

なんだか安心する抱き方だけど、コップが落ちた。

2つ分の落ちたコップはカーペットに落ちて中がこぼれた。

「……ちょっと、瑞揶」

してるよっ」

「…………」

急な告白に腰が抜けそうになった。

顔が凄く熱くなって瑞揶の顔を直視できない。

それでも彼はぎゅーっと抱きしめてきて、私の顔を覗き込んでくる。

「沙羅。僕を仕掛してこなくても、僕は沙羅のことしか見ないよ」

「……霧代の事は好きになったくせに」

「その時は沙羅のこと知らないでしょ……。屁理屈言わないでよ」

「…………」

確かにそうかもしれないけど、前に好きになった人の事が気になるのは仕方ない。

それに……どれだけ瑞揶が誠実であろうとしたかは、【サウドラシア】でも【ヤプタレア】でも理解している。

どっちの世界でも、霧代に會うまでは他のを作らなかったし、ずっと霧代をし続けていたから。

やっぱり、それは羨ましい。

自ら殺したわけじゃないのに、ずっと後悔していて、した人を想い続けて……。

が深いのはわかってるし、私がいる限りはよそ見をしないとは思う。

瑞揶の事だから、私を振ったりしないと思うし、私から振らない限りは一緒にいれるはず。

……でも、これから――。

「……あれ?」

ふと気付いた。

魔人の壽命は400年。

だけど、今の私は魔人のじゃない。

魔人の能力を持った、ただの人間に過ぎないのだ。

「……私、何年生きれるのかしら」

「……沙羅、それ今考えること?」

「気になるでしょーがっ!」

「いたっ!?」

「……あっ」

瑞揶を押しのけると、ソファーから転げ落ちた。

……転生前は家の中で力加減してなかったから、急なことになると加減ができないわね。

「瑞揶、大丈夫?」

「……にゃーは……」

「……ん?」

「にゃーは……しくしくねこさんだよーっ!」

「!?」

飛び起きたと思ったら瑞揶が2頭になって泣き出した。

めっちゃにゃーにゃー言いながら二つの滝がその目から流れ出る。

カーペットを汚したどころか、床全がビッチャビチャだ。

何故か知らんが、凄く悲しそうなのでフォローする。

「み、瑞揶? そんなに痛かったかしら?」

「うわーんっ! 心が痛いよーっ! にゃーんっ!」

「ええっ……」

理解できん……。

どんどん水かさが増してこのまま家が水だらけになるのは困るし、私はソファーの上から小さい瑞揶を抱き上げ、の中に包み込んだ。

「よしよし、泣かないの……」

「ううっ……僕は本當に沙羅のことしてるんだよーっ! ひーんっ……」

「…………」

の中で泣きじゃくりながら瑞揶が言葉をらし、そこで私はわかった。

私の方から瑞揶を試したのに、してると言ってくれた彼を無礙に扱ったから怒ってるんだ。

いや、瑞揶に怒るという概念はないに等しい。

拗ねる、泣くという行為に出てしまうから……。

「……瑞揶。私も、瑞揶のことしてるわよ。だから泣かないで」

「沙羅ぁあ……うぅぅ……」

なんとか泣き止んでくれたらしい。

でも寢巻きはぐしょぐしょで、著替えなきゃいけないかもしれない。

いや……瑞揶に頼んで部屋と一緒に綺麗にしてもらおう。

今はを貸してあげるけどね……。

「よしよし……落ち著いた?」

「うん……。沙羅にゃー、ありがとー!」

「なら、涙で濡らしたもん綺麗にしなさい。能力、使えるわね?」

「にゃーっ!」

テーブルの上にちび瑞揶を下ろしてやると、彼は両手を回して何か儀式みたいなことを始めた。

「ねこさん! ねこさん!」

またなんか言ってる。

「うぅーっ! 綺麗になれーっ!!」

そして両手を上げて振り下ろした。

すると、私の元や床がみるみる綺麗に。

なぜそうなるのかしらね……。

不思議で仕方ないわ……。

そんなこんなで、帰ってきて早々ほのぼのとした1日になった。

この先もきっと、こんなじで生きていくと思う。

でもまぁ……退屈はしないだろう。

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