「うー……思ったより辛いわね」

「痛みやわらげる？」

「いや、耐えるわ」

ベッドを急遽仕舞い、今沙羅の部屋には布団が敷かれている。

その中で仰向けに寢そべる彼は僕の方を見ている。

本を読んでいるのに、そう見つめられるとページがめくれない……。

「……子供の教育と社會問題と産」

本のタイトルを読み上げられる。

エッセイなんて初めて読んだけど、結構面白いし、ためになるね。

「しっかりしたお父さんになりたいんだ〜っ♪」

「そうね〜……。私も人の親になるんだし、何か読みたいわ……」

「だめだよーっ。安靜にしてないと……ね？」

「……そうねー」

「…………」

寂しそうな顔をする沙羅を見て、僕は本を閉じて彼の頭をでた。

その手をほっぺまで回すと、彼は優しく頬りをする。

お互い微笑んで、それからしスキンシップを取ったりっ、雑炊を作って食べさせたり。

「むー……」

「……味しくなかった？」

「違うわよ……。なんか、こう……夫婦っぽいわよね、って」

「……そうだね」

こうやって篭った奧さんに盡くすのも、夫婦らしいと言えるだろう。

僕は殆ほとんど家に居るし、沙羅の要はなんでも葉えてあげられる。

それが嬉しい。

こうして沙羅が妊娠して暫くの間、ずっと2人きりで、もしくは時々やってくる友人たちと過ごした。

つわりが治おさまってくる頃には沙羅のお腹も膨らんで、沙羅も元気を取り戻した。

お腹の子のためか、ご飯もいっぱい食べるようになった。

変化は沙羅だけじゃなく、僕にもあった。

幾つか本を読んでいくと知識がについて子供が待ち遠しくなる。

名前をつけるのだってまだだけど、どうせなら2人の名前から文字を使って名付けたい。

その旨を沙羅に話すと、ベッドに橫たわりながら彼はうーんと唸る。

「の子なら、“さや”、かしらね？　沙揶？」

「“さや”、かぁ……。沙羅を呼ぶときと間違えないかな？」

「私の事はこれからお母さんって呼ぶんじゃない？」

「にゃー……。そしたら僕、お父さん！？」

「そうよ。パパのほうがいいかしら？　私はママって呼ばれるのはちょっと嫌なのよね、ママってじじゃないし」

「僕はお父さんでいいよーっ♪」

別に呼はれ方は気にしない。

お父さんとお母さんに決まり、再び名前を考えることに。

「“さや”がダメなら、“さあや”かしら？　それなら大丈夫じゃない？」

「……ふにゃー。さあや、さーや……響川さあや……」

「目がキラキラしてるわよ……。貓目になったり、アンタの目はどうなってんだか……」

沙羅の言葉も耳にらず、さあやさあやと頭の中でやまびこのように反芻する。

さあや……。

「……決定です！！！！」

「そ。漢字は……後でいいわね。男の子だったらどうする？」

「うーん……。“みずや”と“さら”で、男の子の名前かぁ……」

の子なら“みさ”とか、一文字加えて“みさき”とか“さやか”とか、いろいろ考えられるけど……。

「……男の子は無理だね！」

「無理ね。何か意味のある名前を考えましょ」

ということで、考えることに。

「幸せになってほしいよね〜っ？」

「なら幸せの字をれる？」

「……うーん、でも安直かなぁ？」

「そうは思わないけど……」

「男らしくなってほしーよねー？」

「男らしくないお父さんがそれを言うのはどうなの」

ごめんなさい、自粛します……。

そんなじに沙羅に呆れられながら名前を考える。

「私たちに共通する文字をれたいわね」

「……共通する。それなら――」

パッと思いつくのは音、優、、能力。

あとは家事、家庭、早起き……これらは共通といっても、日常的というか、うーん……。

思いついた文字をお互いにノートに書いて見ると、沙羅の方にはや世界、壽命なんてものがあった。

だいたい一緒な字が多いのは、同じ生活をしているから當然といえる。

「やは、男の子だとちょっとつけにくいかな？」

「こっから意味のある名前を考えるのよ。ももとっときなさい」

「は、はい……」

ぴしゃりと叱られ、肩を狹める。

うーんうーんと頭を悩ませるけど、考えるのは沙羅の方が得意だから彼をじーっと見つめた。

「……そんなすぐ決まるもんじゃないわよ」

しかし、沙羅も悩んでいるようで、僕も悩み続けた。

そして妊娠9ヶ月目のこと。

沙綾さあやと優生ゆうせいの名前を決め、10ヶ月目にると出産の日がやって來た。

◇

お父さんはここで待っていてくださいと分娩室から追い出されるも、を抗菌してから沙羅にだけ見えるようにして明化し、室に突。

陣痛を歯噛みをして耐える沙羅の腕を握り、ささやかながらにもエールを送った。

「……み、ずや？　くっ……っぅ……！」

僕の顔を見つけて不思議そうな顔をするも、すぐに痛みに堪える顔に戻る。

この痛みをやわらげるのは嫌だと最初から言われていたため、僕にはこれぐらいのことしかできなかった。

痛みに堪える沙羅の顔を見るのは初めてだったかもしれない。

苦しそうな顔とれる嗚咽が心臓を摑むようだった。

あとどのくらい続くのだろうと、沙羅の手を摑み、頭をでたり、応援したり、繰り返し続けた。

その時間も終わりが來る。

「産まれました……。可いの子ですよ」

大聲を出して泣く赤ん坊を、醫師の人が見せてくる。

僕と沙羅は一度目を合わせ、それから赤ん坊を見ると笑って泣いた。

「よかったわ……本當に、よかったわ……」

「無事に、産まれたねっ……」

の子だから、名前は沙綾。

諸々の処置をして、布に包まれた沙綾を沙羅が抱いた。

僕らも人の親になる。

いろんな人と出會い、別れを繰り返して來たけれど、ここにまた、大きな喜びが一つ産まれた――。

どうかこの子の人生にも出會いと別れがあり、やがては幸せに恵まれる事を、願います――。

◇

出産してからの1週間は、人生で1、2を爭うほど大変だった。

沙羅が授に四苦八苦し、トイレとかオムツとかで慌てたり、睡眠がうまく取れない日々が続いた。

こんな大変な事を全國のお母さん方は1人で験したのか、もしくは僕みたいに一緒に居られるお父さんや親族が居たか――ともかく尊敬せざるを得ない。

沙綾が夜泣きするし、なかなか寢付いてくれないし、子育てはこの頃から大変だ。

「でもお父さんの手に抱かれるとすぐ寢るわよね」

「…………？」

「いや、瑞揶の事なんだけど」

「あっ、僕か……」

というじに呼び方も変わってギクシャクしたり。

お父さん……お父さんだ。

新しい人生のスタートみたいなじ。

……えへへ。

産後3日で退院し、家ではそんなじに過ごす。

お互いに疲れていても、の力で乗り越えられそうですっ。

「さーやっ、さーや〜♪」

「嬉しそうね……。ま、私も嬉しいけど」

「えへへ、僕達の子供だもん〜♪」

産著を著た赤ん坊を抱きながら沙羅と笑い合う。

出生屆もしっかり出しました。

響川沙綾、ですにゃ〜♪

「……これからは3人だね、沙羅」

「お母さんでしょ？」

「ん、今は沙羅って呼びたい」

「……そ」

幸せいっぱいで、家族3人、新たなスタートを切るのだった。

異常のない安息の日々、揺るぎない幸せを伝い続けて――。