《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第20話

テーマパークに行ってから1週間が経ち、また日曜日がやってくる。

「……朝からアンタが居ると、逆に変なじだわ」

朝食の席では沙羅にそんなことを言われ、僕は苦笑を浮かべる他なかった。

沙綾が生まれる前から日曜日の仕事は午前中に終わらせるようにしてるから、あまり変わらないと思うんだけどなぁ……。

朝食だって、今朝けさは沙羅が作ったものだし。

バター塗ったトーストが味しいですっ。

「さくっさく〜♪」

「こら沙綾、パンくず零れるから皿にけて食べなさい」

「お母さんが皿って……はっ!?」

「……。怒る気もしないわ。はむっ」

付け合せのスティックサラダから大を取って、ゴマダレに付けて沙羅がかじる。

ボリボリとサクサクですにゃー……。

「それでさ、沙綾」

「ん?」

僕が改まって沙綾を呼ぶと、沙綾は両手で持ったトーストを置いて顔を上げる。

「今日は沙綾にね、お留守番してしいの」

「え? お父さんとお母さん、どこか行くの? もしかして選挙?」

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「違うわよ。デートすんの、デート」

「なんだ、そういうこと〜♪ ……え?」

沙羅の言葉を聞いて、遅れながらに沙綾は固まった。

ガタンと勢いよく立ち上がり、テーブルに手を叩きつける。

「で、デートォ!!? お父さんもお母さんもそういう歳じゃ――」

「なんですって?」

「――歳とか関係ないね、うん! 2人とも、家は私に任せて楽しんできてね!」

「…………」

沙羅の視線が怖くて一瞬にして言葉を切り返す沙綾。

お母さんは娘の扱いが上手いというか、なんというか……。

朝食の席もほどほどに、食べ終えたらすぐに準備に移るのだった。

今回は特に待ち合わせを決めるでもなく、普通にリビングに集合。

僕は自室に戻って著替えを済ませ、沙羅が來るのを待った。

ソファーで背中を丸めて座っていると、娘がひょっこり背後から顔を覗かせる。

「お父さん、張してる?」

「ま、まぁまぁね」

「まぁまぁ? そこはしじゃない?」

「あ、あぁいやその、張して間違えたとかじゃないから……あははははっ」

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「…………」

沙綾のジト目が突き刺さる。

やめてよもう……ただでさえ膝が震えてるんだからぁ。

「あら、やっぱり瑞揶が早いわね」

「あっ、沙羅……」

そこに沙羅もやってくる。

一目見れば、言葉を失ってしまう。

先週は薄いでコーディネートしていたが、今回は黒を多めに取っている。

ショートパンツとパーカーはそうだが、中シャツは白い。

ただ、頭に被っている帽子は――。

「……気になる?」

いたずらっぽい笑みを浮かべ、彼は帽子をいだ。

その帽子は白い。

ただ、形には思いれがあった。

あんな奇抜なデザインで頭に重そうな帽子、この世界に作る人がいるものかと思っていた。

だけど、そうか……。

「……作ったの?」

「ええ。霧代が付けてたなら私もって思ったのよ」

「……そっか」

それは僕がまだ転生を経験する前、霧代に買ってあげた帽子に似ていた。

白いまんまる帽子に楕円型のクッションを付けたようなキャスケット。

それを沙羅が付けているのは、いろいろと思うものがある。

ただ、言うなれば――

「ほんっと、沙羅は負けず嫌いなんだから」

“可い”という言葉よりも、こんな事を口にする僕は弱いと思う。

でも、本當に懐かしいものを見た。

再び彼は帽子をかぶり直す。

そのは初ではなく、今最もする人。

違和はあるけれど、今日はデートを楽しもう。

「それじゃ、行きましょ?」

「うん……」

「2人とも、行ってらっしゃーいっ!」

沙綾に見送られ、僕達は家を出た。

予定とかは特に立てず、賑やかで遊べる街まで電車で移する。

10代の頃にできなかったこと……映畫見に行ったりとか、ボウリングに行ったりとか、カラオケに行ったりとか。

そういう事をしたいねと話してビル街の街に著く。

6階建ての駅を出て青空が見えてくる。

雑踏の中から抜け出し、人通りのない路地で立ち止まる。

「それで、どこに行こうかっ?」

「男がエスコートしていいわよ? ふふっ、どこに行くか楽しみだわっ」

聲を弾ませてぎゅっと僕の腕に抱きついてくる沙羅。

2人きりになって甘えてくるようになった。

その様子にドキドキしながらも、これから行く場所を考える。

「じゃ、じゃあその……映畫、見に行こうか。ちょうどその、大ヒットしてるのがやってるらしいから……」

「ええ、わかったわ。大ヒットだろうが何でもいいから行きましょ」

「え? う、うん……」

沙羅の言葉の意味もわからず、映畫館へる。

目的の映畫にはありつけるようで、當日券だけ買って劇場にった。

「…………」

沙羅が手を繋いでくる。

ぎゅっと握って、スクリーンに反するだけでも彼の顔が赤いのがわかって、潤んだ瞳で僕を見てくる。

そんな風にされたら、映畫なんて観てられないし、音だって聴こえない。

結局、繋がった手に意識が集中してしまって映畫に目を向けることもなかった。

映畫だったのに……人と來たのに……。

何しに來たんだろうと思いつつ映畫館を出て、その近くにあったゲームセンターに沙羅が小走りにっていった。

何か見つけたのか、僕も後を追って中にる。

僕はゲームセンターなんて滅多に來ない。

騒音ばかりで耳が痛くなるからという事と、クレーンゲーム関連のせいで超能力が使えなくなるから(【悠由覧ゆうゆうらんらん】があるから関係ないんだけど)。

ともあれ、中で沙羅を探すとすぐに見つかった。

クレーンゲームの前でじーっとケースを見ていていない。

「……しいのあった?」

「ええ。ほら、この河。テレビで見るでしょ?」

「……ああ」

沙羅を前にするクレーンゲームには2頭の河のぬいぐるみが2本のポールに挾まれていた。

これを上から持ち上げるか下に落とすかすればいいらしい。

チラリと沙羅が僕の顔を見る。

それからもう一度、今度はじーっと見つめてくる。

「……ふっ」

そして鼻で笑った。

コイツなんかじゃ取れないわねという事だと思う。

……お察しの通りだけど、腹が立ってきた。

「沙羅、ここは僕がやるから!」

「いや、無理でしょ。私なら3回以で取れるわ」

「い・い・の! 僕にやらせないと怒るからね!」

「……そんなにムキにならなくてもいいのに。ま、好きにしなさい」

「ふんっ。僕の力を見せてやるのだ!」

早速100円を投する。

ガチャンと100円をれた。

「……あれ?」

ボタンがらない、なんでだろう。

そんなことを思っていたら、沙羅が一言。

「それ1回200円だから」

「わ、わかってるよぅ!」

チャリンともう1枚100円を投する。

橫に移するボタンがって思いっきり押した。

「もうちょい右よ、右……あー、これはもう……」

沙羅が隣で何か言ってるけど、僕は無視した。

次に縦移

ガーッとアームがいていき、人形の下へ。

しかし――アームが開き、完全に狙いの人形を外した。

そのままアームだけが帰還し、200円は戻ってこない。

「あーあー、見てらんないわ。ほら、代わりなさい」

「まだ1回目だよ! 勝負はここから! 絶対僕が取ってやるんだからーっ!」

「……なら気が済むまでやりなさい」

呆れ気味ながらやっていい許可をもらい、僕は再度200円を注ぎ込む。

……外す。

3回目、4回目、回を重ねるごとにお金が気になり出すも、どうせ幾らでもあるからいいやと開き直ってやり続けた。

沙羅は僕の様子をずっと見ていたけど、だんだん足が震え始め、そして――

「100回目よ、代わりなさい!」

「痛いっ!?」

太ももに強烈なローキックを食らわせてきた。

気が付けば2萬円も使っていたらしい。

しかし、依然として可い河の人形はポールに挾まったまま。

悔しい、悔し過ぎる。

けどこれ以上無駄遣いしたくないため、沙羅に代わった。

「はいっ、終わり」

そして、沙羅は1回で景品をゲットしていた。

あまりの事に膝をついて倒れる。

「ぐっ……! なんで僕は、取れないんだ……!」

「手先は用だけど、作とかは下手なのね。ま、橫でアームの強度とか研究させてもらったからいいわ」

「うえーん沙羅ぁあ〜……だらしなくてごめんなさいぃぃ」

「あーもう泣きつかないでよ。ほら、立ちなさい」

「ううっ……」

立たせられ、涙を拭ってくれる。

泣いてちゃダメだよね……いい所見せないと!

「ねぇ瑞揶、あれやりましょ?」

「……え?」

次に沙羅が指差したのはレースゲームの筐だった。

ハンドルとギア、アクセルにブレーキを駆使して早さを競うゲーム。

優しいコースなら僕でもできるかな。

「ゴールできるか不安だけど、沙羅が言うならやってみよう!」

「……ゴールぐらいできると思うけど」

2臺を使い、お金を投

対戦を選択したけど、まず勝つことはないだろう。

車は適當に選んでコースは1番簡単なものにした。

チェックポイント4箇所とゴール。

「よっしゃー! 行くわよ!」

「にゃー!」

3、2、1で走り出す。

あ、これアクセルじゃなかった。

スタートダッシュに失敗し、序盤から遅れながらにスタート。

壁にぶつかりながら進んでいき、頑張ったけど第三チェックポイントでタイムオーバーに。

「……僕って、何ができるんだろう」

「さぁ……?」

隣の沙羅はきっちりゴールしていた。

もうゲームセンターなんて絶対こないもん……。

「……瑞揶、アレならできるんじゃない?」

「今度は何さぁ〜っ……」

ゲームセンターを散策し、ボタンが8個ある筐がある。

なんだろうと思って畫面を見ていると、るバーが落ちてきていた。

バーのは8で、8個のボタンも同じ

つまり、タイミングよく押せばいいらしい。

「……ボタン8個って、難易度高いよぅ」

「そう? 音に合わせて押せばいいんじゃない?」

「むぅぅ……」

今までのじだと、できそうな気がしない。

しかし沙羅は問答無用で100円をれた。

パッとゲーム機の畫面が変わって1人プレイか2人プレイかの選択になる。

そこで僕に作を変わられ、渋々1人プレイを選択した。

曲は簡単なの……とは思ったけど、簡単過ぎたら沙羅も関心しないだろうし、ノーマルの難易度で曲を選んだ。

畫面が変わり、ゲームが始まる。

……いきなり目には15以上のるバーが映った。

ちょっと待って、これノーマル?

などと思いつつも、ボタンを押していった。

曲が耳にる、その音に合わせてボタンを押すだけだ。

パンパンとボタンを叩く。

パーフェクトが連続で流れた。

またボタンを押す、曲に合わせて叩く。

すると、なんだかわかってきた。

これはこういう楽なんだ、って。

そこから先はゲームとしてではなく、曲に合わせて演奏する奏者としてプレイした。

神経を研ぎ澄ませ、タンタンとボタンを押していく。

「えへへっ」

1曲、しかも1番だけなのだからすぐに終わった。

結果の表示畫面を見て僕は笑う。

「沙羅。僕にも遊べるもの、あったよっ」

聲を弾ませて告げると、彼も微笑んだ。

ゲームの結果畫面には、ノーミス、ハイスコアの文字があったから。

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