「起きて……起きて……！」

天使の聲が聞こえてきた。

あー、確か俺は階段から落ちて死んだんだっけ。

「起きてってば！」

ああ神様もうしだけ……

「ほら！　起きなさいよ！」

うーん。

俺はゆっくりと、瞼まぶたを薄く開ける。

「え、上原！？」

髪を結びポニーテールになった上原がいた。

俺が片思い中の上原だ。

「ほらそこに座って！」

「ここは？」

「ほ・け・ん・し・つ！　あんたが転んで意識失うから二人で運んできてあげたのよ！」

あれ？

俺は死んだんじゃ。

瞼まぶた同様ゆっくりと、頭で狀況を整理する。

そうだった。

辿り著いた結論は、俺のおたまじゃくちたんが何匹か逝っただけだったということ。

思い出したように下腹部が疼うずく。

くそっ、にはわからねえんだよなこの激痛。

ちなみに運んでくれたもう一人はあのヤンキーくんらしい。

子に金蹴りされると男子の同を得られる。

これＷｉｋｉに載せといて。

ちなみにヤンキーくんはもう帰ったそうな。

「足出して」

「足？」

「早く、右足！」

足？

おや？

右足が痛てえ。

「右足が痛てえ！！！」

「うるっさい」

俺は言われるがままに右足を茶の臺に乗せた。

どうやら捻挫したようだ。

階段でグネったな。

「けっこう酷いわね……」

まじだ。

なんか足首が青紫なんですけど。

折れてんのかね。

骨折とかしたことないんですけど。

「こんぐらい大丈夫だろ」

余裕をかましてみる。

「じゃあ、歩いてみたら？」

言われてすくっと立ち上がってみた。

が、バキューン！！！！

激痛じゃん。

崩れ落ちる俺。

「ほら見なさい！」

痛いよイタイヨー。

上原がいなかったら泣いてるヨー。

冷や汗が出てきた。

「とりあえずアイシングね！　あーでも先に固定かな。どうしよ……」

彼はワタワタしながら、保健室にある冷凍庫から氷を取り出し袋に詰める。

しかし上原かわいいな。

しゃべると思ったよりキツい印象だけど。

し鼻にかかった聲も俺好みだ。

「これ、足首に當てときなさい！」

氷のった袋を俺にズイっと突き出す。

「こ、こうか？」

「そ、そうね。あとなんだっけ？」

けっこう冷たいじょ。

「もういいか？」

「いいわけないでしょ！　だいたい二十分ぐらいは當てるのよ！」

二十分もかよ。

なげーな。

凍るぞ俺の足。

「それと圧迫よ！　そうよ紐で縛るわよ！」

言われるがままに俺の右足冷凍計畫は進んでいく。

いや意味わからんだろ。

つか、圧倒されっぱなしなんだけど。

俺の前にしゃがみこみ、『こうかな、こっちかな？』と呟きながら何やら手當てしてくれている。

まあ、なんだ。

かわいいから許す。

「なんか、々スマンな」

「怪我してるからしょうがなくよ！　あたしヤンキーとか嫌いなんだからね！」

いやいやボクはヤンキージャナイヨ。

そうじゃなくて。

「手當てしてくれた事もだけど、とっさに支えてくれた事とかさ」

覚えている。

足を踏み外したとき、避けるではなく俺を支えようとしてくれた。

上原はにしては背が高いほうだとは思うが、それでも明らかに俺より小さい。

はデカい。

おっとそれは今は関係ねえ。

優しいんだなこの子。

「べっ、べつに普通じゃん！！！」

上原の顔が赤くなっている。

なんか一生懸命に手當てしてくれてたっす。

好きとか置いといても純粋に嬉しかったっす。

ま、俺の息子を蹴った罪悪があるからだろうけど。

「と、とにかく！」

上原は自分のカバンをゴソゴソして、何か小さい紙を取り出す。

「はい、これ」

名刺？

まさかの連絡先換イベント発生！？

俺はありがたくけ取り、紙を見つめる。

「紹介カード……？」

おや、上原の連絡先なんてどこにも書いてない。

彼を見ると、仁王立ちで不敵な笑みを浮かべていた。

外科でもなく、ましてカフェの名刺でもなく。

これは……

「ここへ行けってこと？」

「そうよ」

「今から？」

「そうよ！」

そう言って彼は松葉杖を渡してきた。

「使い方わかんねえし」

ぽかんとしていると、箕面が保健室へ飛び込んできた。

「ゆーま、大丈夫！？」

「おー。面談終わったのか？　」

そんなこんなで、箕面にいきさつを話し、上原には松葉杖の使い方もきちんと教えてもらった放課後。

どうやら松葉杖ってのは怪我したほうと逆の手に持つらしい。

左腕に松葉杖を持って――

松葉杖、ケガした右足、正常な左足。

いち、にっ、さん。

腕が疲れるな。

「じゃ、あたし行くから」

上原はカバンを背負って、束ねた髪留めを外し、ばさっとロングヘアをあらわにする。

ほんと、天使だよ。

上原かわいいよ上原。

「あ、俺そういえば倒れた時に何か良いものを見たような……」

真っ白な思ひ出が甦る。

「しねっ！！！」

ガツコンッと、彼の肘が顔面に飛んできた。

そこ普通みぞおちで勘弁だろ。

こいつまじ容赦ねえな。

パンツのことは良き思い出としてしまっておこう。

彼は天使の顔をした悪魔。

監獄へ放り込まれるような學校じゃなかっただけ良かったよ。