一つ、『嫌われないよう空気を読んで努力すること』

そしてもう一つは、『そもそも人に深く関わらないこと』らしい。

「空気を読むとかそんなのわかんないよ！」

友関係のないボクができる訳がない。

「じゃあ、人に関わらないように人生送ればいいじゃねえか」

彼は、さらりとそんな事を言う。

こっちはせっかく高校だけでも途中で転校せずに通わせてもらえることになったのに、友達もいっぱい作りたい。

「やだよ！　嫌われるのも！」

「お前わがままだなあ。なにかを犠牲にして生きてんだよ、オ・ト・ナは」

さっぱりわからない。

ボクはいわゆる、覚でくタイプなんだ。

考えるのは苦手。

「だからー、正義もわかるけど、あそこは見て見ぬふりをだなあ」

「ゴミをポイ捨てしていいわけないよ！」

「や、そうなんだが、そうじゃなくて、それじゃ上手くやっていけないっつーか、考えてけよバカっつーか」

「もうほっといてください！」

ボクはもう頭いっぱいで、目に涙が溜まってきた。

彼の手を振り切って帰ろうとする。

「おいおい、俺がいじめてるみてーじゃねえか！　なんでわかんねーんだよ！　バカなのか？　そうなのか？　こらまてよ！」

「だって……わかんないんだもん！」

ボクは続ける。

「友達だってほしいけど、悪いことしてる人たちとなんか仲良くなりたくないし！　でも今度こそって意気込んでたところにこれだし！　引っ越してきて慣れてないとこなのに、なんか今も目つき悪い人に絡まれてるし、ボクはただお婆ちゃんに褒められる子でいたいだけなのに、空気読むとかわかんないし、吸うしかできないし、バカだし、ドジだし……ウワァァァーン！！！」

目に溜めておける水量も限界に達して、ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝ってくる。

「あー、えーと、その、だな……」

その人は、あたふたとしながら頭をポリポリと掻き、急にボクの肩を摑んだ。

ぎゅっ。

気づくとボクは彼のの中にいた。

頭をヨシヨシとでられる。

立ち盡くすボク。

「ごめんな、ボーズ。お前も頑張ってんだよな」

張の糸が切れたように、涙はとめどなく流れる。

泣き続けるボクに彼は言う。

「よし！わかった、にいちゃんが三つ目の方法を教えてやろう！」

「……ひっく、人に嫌われない方法の……？」

目つきの悪い彼は、人に嫌われない三つ目の方法を教えてくれるようだ。

「そうだ。誰にも言うなよ。俺たちだけのだぞ？」

という言葉にときめくボク。

彼は続ける。

「それはな、必殺『裏工作して良い奴と思わせる』だ！」

「そんなの！　道徳に反するよ！」

ボクはすかさず反論した。

ビックリした様子で彼は言う。

「お、お前難しい言葉知ってるな……ま、そうくるわな。今の流れからいくとお前は、正義に溢れてる風紀委員タイプで」

いきなりキャラ付けされたけど、黙って耳を傾けてみる。

「そこでだ、『悪者』の役を俺様がやってやる！　どうだ？　いいだろ？」

「でも、騙すのは悪いことだよ！」

「じゃあお前は、お婆ちゃんに褒められるために生きてんの？　友達しいんじゃねーの？　なにが一番の願いなの？」

ボクは別に警察になりたいわけじゃないし、ただただ友達と楽しい高校生活を送ってみたい。

「……楽しく學校に行きたい」

「じゃあ、決まりだな！　お前はお前が正しいと思うことをやればいい。俺は不良だからな！　そんな俺を、止めりゃいいさ！」

「悪者をやっつける役……？」

「ああ。俺は知ってる。お前が一生懸命生きてることを知ってる。善でも悪でも、どんな理不盡なことでも俺が味方してやるよ。俺はよ、そんなお前に嫌われないならそれでいいから」

「味方……」

完全にボクのこと子供扱いしてるようだけれど、嬉しい言葉だ。

「……どうだ、今のセリフかっこいいよな？」

「はぁ」

と、今ので臺無しになったわけだけど。

「俺の名前は、ゆーま！　明日からそこの月高校に通うから、何かあったらいつでも來い！　次會うときまでに作戦を考えておいてやるよ！　大丈夫。なぜなら俺は子供の味方だからだ！」

そうして翌日、學式を迎えた――

そこでゆーまを見つけてボクは駆け寄る。

ビックリするかな？

実は同い年のの子だったなんて。

友達になってくれるかな？

ふふふ。

「おはよう！」

ボクは挨拶をする。

ゆーまは一言。

「え、おま、なんで裝……ひくわ」

その後しばらく口きいてあげませんでした。

今考えると顔を覚えてくれてただけでも嬉しかったんだけど。