「で、來週誕生日なんだけど、家族でお祝いできるのも最後かなって発しちゃうわけ」

上原はそう言った。

し寂しそうな、また優しい顔で。

たくさん思い出作ってきたんだろうな。

俺の知らない上原エリカ。

「おめでとう……だよな。寂しくなるな」

の結婚だ。

とりあえずおめでとうだよな。

「あ、ありがと……」

どこか大きな瞳を潤ませているようにも見える上原は、そう呟いた。

なんだこの気持ちは。

頭をわしゃわしゃとでてやりたい。

「彼氏かと思ったじゃねーか」

「いらないわよ、そんなもの」

いないじゃなくて、いらないかよ。

「友達といたらバナとかすんじゃねーの？　しくなったりしねーの？」

「さあ？　あたし付き合ったことないし、本気で人を好きになったことないから」

そうだったんだな。

意外っちゃ意外だ。

こんな人、誰もほっとかないだろうに。

「じゃああの階段で俺としたのは、お前もファーストキス……いでっ！！」

言った瞬間に上原のカバンが俺の頭に飛んできた。

「言わないで！！！　なかったことにしてたのに！！　あーもうあたしの黒歴史よ……絶対に許さないんだからね！」

そうか、そうか、そうだったのか！

いや、すまんが嬉しいわ。

初めて同士だったとは。

事故だもん。

わざとじゃないもん。

「……それに友達なんて、面倒くさい」

そういえば、こいつが他の子といる所はあまり見たことがないかもしれない。

なんかあったのか？

その言葉を放つ勇気が出ず、無言のまま時は過ぎた――

そしてその後、帰りの電車の出來事。

それが俺たちの関係をし変えたんだ――

電車で上原の中學時代の同級生らしき男子達と乗り合わせた。

「あれ、上原じゃね？　やっぱ男といるよ」

「あいつ、男漁りしすぎて周りの子にハブられたんだろ？」

「高校でもまた男に目使ってんじゃね？」

「とっかえひっかえって噂だしな」

「今日もお盛んなことで。あはは」

うぜえ。

なんだこいつら。

中學のことは全く知らねえが、上原はどっちかっつーと男の免疫なさそうな奴だ。

男漁りってなんだよ。

聞こえるように言ってんじゃねーか。

上原を見ると、俯うつむいてじっと黙っている。

だが、明らかに目が潤んでいるのがわかる。

さっきの叔母さんの話とは違う目だ。

涙をためている。

「おい、お前ら！！」

「……え？」

「言いたいことあんならコソコソしゃべってんじゃねーよ！　みっともねーな！」

俺は怒鳴った。

周りの奴らが俺を見る。

相手の高校生よりむしろ上原のほうが驚いた顔をしている。

「なんだお前……やんのか？　あ？」

睨みながら近づいてくる男。

ああ、俺はこんな奴じゃなかったのに。

知らない奴とは関わりたくないのに。

でもよ、こいつが涙を溜めてんだ。

肩ふるわせてんだ。

上辺で繋がりを増やして行く中で、本當に信頼できる三割、その中に上原エリカをれたい。

上原の大切な人に、俺も加えられたい。

惚れただ。

俺だってやるときはやってやる。

「いいから……！」

上原がんだ。

俺の袖をつまんで肩を震わせている。

「でもよ、お前泣いてんじゃん。許せねーだろ」

「いいから！　いいから……百瀬は黙って」

プシュー――

電車が俺たちの地元に著いた。

上原は俺の手を取り電車を降りた。

急ぎ足で改札まで引っ張られる。

「ハア、ハア……」

「……なんだったんだよ、あいつら」

「中學の時、あたしがフッた奴よ！」

「フッたって、お前……」

話を聞くとこうだ。

中學の頃からメイクやファッションに興味を持っていた上原は、派手な容姿から軽いだと見られ、男子からよく聲をかけられていたそうな。

そう言うと悪く聞こえるが、つまりはモテてたってことなんだろう。

それでも仲良しの友達もいたし、趣味のオシャレが楽しいから、特に気にしていなかった。

そんな中、さっきの男子にもいきなり告られたらしい。

上原はもちろん斷る。

今はなんて興味ないからと。

しかしあの男子は、當時一番仲が良かった友達の好きな人だったらしく、上原に取られたと勘違いされた。

ま、逆恨みだろうな……

不憫な奴。

それから友達からもハブられるようになり、誰も信用できなくなった。

……友達なんて面倒くさい、に至るわけだ。

だが、今だからわかるけど上原も悪いんじゃねーの。

基本近いよ。

スキンシップやばいよ。

可いうえにそんなんされたら誰だって勘違いするじゃねーか。

これが噂に聞く、無意識な天然小悪魔ってやつなのか？

絶対気付かずやってるもんな。

こっちはドキドキだっつーの。

今度パーソナルスペースについて講義してやろう。

俺は特に警戒心が強いんだかんね！

「ま、お前もそん時は運が無かっただけと割り切って、新しい縁を作ったらいいと思うぞ？　きっといつか、心から分かってくれる奴が現れると思うからよ」

俺には幸い、箕面やりぃがいる。

それがどれだけ救いだったか、それがどれだけ心の支えになるか、強がりなコイツだからこそ、知ってしいと思う。

「……うん」

もちろん俺が、上原の大切な人になれたら最高だけどな。

「あの……々……あ……ありがと」

上原は俯きながら、目を合わせずそう言った。

「や、俺のほうこそ勝手に生意気なこと……スマン」

「それから――」

今度は向き直ってビシッと言い放つ。

「の子を『お前』って呼ぶな」

「すんません……」

そうだよな。

しゅんとなる俺。

「エリカでいいわよ」

上原は顔を赤らめながら言った。

「は？」

「何度も言わせないで！　もう！　エリカさんか、エリカ様か、エリカお姉さまか！　どれにするのよ！」

下の名前で呼んでいいぞって言いたいのか。

「エリカお姉さまて。自分で言ってて恥ずかしくないのか……エ、エリカ」

「ふんっ！」

プンスカして膨れたほっぺが、赤くて可い。

だが今は言うまい。

「じゃあ俺はゆーま」

「卻下」

「なんでえ！？」

「あんたはあ・ん・た。名前はまだ無い」

「は？　ひどくね！？　俺は貓か！？　この悪魔！　ドＳ！！　ツンデ——うぶしぇ！」

結局グーパン……ご馳走さまでした。

episode 『大切な人』 end...