《高校ラブコメから始める社長育計畫。》26.背中が、むずがゆい。Ⅰ

エリカお姉さまとデートの翌日――

箕面と一緒に學校へ行く。

「ゆーま、髪型かえたの!? めちゃ似合ってるよ! 爽やかさ百パーセント!」

お前が言うなよ。

「昨日初めて容院なる所に行ったぜ」

容院? どこの?」

「わざわざ三駅向こうの街まで出た」

「そんなとこまで行ったの? 行くならってよー。ボクもついてくのに」

そうだな、いつも俺と一緒にいてくれる箕面。

ってやれば良かった。

「実はエリカに連れてってもらってよ」

「エリカって、上原……さん?」

こいつらもお互い知り合いだもんな。

「あいつ、ドSでよ、昨日だけで何回毆られたかっつーの。でも意外と良い奴なんだぜ」

「……そうなんだ」

寂しそうな顔で呟く箕面。

そんなに一緒に行きたかったのか。

ふむ、こいつになら打ち明けてもいいかもしれない。

応援してくれるだろう。

こいつは俺の大切な友達。

「……俺、エリカのことさ」

「そ、そういや、吹奏楽部の演奏會ね、明日の祝日もあるんだって!!!」

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「ああ?」

「さっそく行ってみよーよ!」

俺まだ話してんだけど。

まあ、いいか。

ゴールデンウィークは祝日が多いので、明後日の土曜日が接骨院に行く日だ。

早いところコネ作らねえといかんし。

演奏會か。

「おう。行くか」

そんな約束を箕面とわした日の夕方――

今日は妹りぃの路上ライブだ。

りぃと俺はいつもの位置で路上セットを用意する。

金をれてほしいわけではないが、ギターケースを開いて置いて置くのは、形からりたい俺の案だ。

譜面臺にいつものオリジナルノートを開き、チューニングを始める。

「歌、できたの」

「りぃさん怒濤の連続リリースですか!?」

歴代の倖○來未もびっくりだぞ。

「違うの。『地球なくなれ』の、歌詞なの」

なんだそっちか。

「聴かせてくれよ」

そういうとりぃはすくっと立ち上がり、弾き語り始めた。

「夢は葉わないものなら 永遠に眠らせて 傷つかぬように…… 嗚呼、哀しみや寂しさが 付き纏まとうなんていらない……」

「……」

まあ、なんだ、妹よ……

「早まるな! 學校か!? ジャ○アン的な奴がいるのか!? やっつけに行ってやるぞ!」

「兄ぃ、これはただの歌詞なの」

「そ、そうだが、お前……」

「妄想とリアルをごっちゃにしちゃ、ダメだと思うの」

りぃはいたずらっ子のような笑顔でそんなセリフを吐いた。

最近どこかで言われたようなセリフだ。

俺はいつもお前の味方なんだからな。

なんかあったら本當に言ってくれよ。

その時、ギャル三人組が俺たちに近寄ってきた。

二人はこないだの先輩方だ。

ただもうひとり、明らかに目を引くがいる。

それは外國人かハーフかに見える整った顔立ちのせいもあるだろうが、黒いパンツにチェックのコートを羽織り、ピアスだらけの耳とゴリゴリのシルバーアクセ。

そして何より、金髪で先が赤

こんな地味な街には場違いな人を見て、りぃは呟く。

「カッコいいの……」

ダメですりぃさん!

絶対に異世界の人ではないです!

「りぃちゃん、やっぱ良い聲だよねー」

「ね? ナオミ、すごくない? こうゆうの好きでしょー」

ギャルたちがはしゃいでいる。

そして異世界の人は口を開いた。

「薄紫な聲。良いなあ、凄く良いぞ。歌詞も最高ではないか!」

そうなのか?

地球なくなりますよ?

「最近の歌はな、なんつーか、繋いだ手離さな過ぎだろ?」

「……うん、あの頃に戻りた過ぎ、なの」

「そうなのだ! 眠れぬ夜多過ぎでなあ!」

すほうへ向かい過ぎ、なの」

「わかってるなキミ! これは運命だな! 私と供に世の中を破壊に変えないか!?」

「……うん、なの」

「待って待って、お兄ちゃん意味分からない。りぃの返事も意味分からないから」

なんだこれ。

なんの話?

つか、誰ね?

「嗚呼、私は魔に出逢ってしまったようだ!」

「うむ。りぃたちでこの世界を消し去るの!」

「ハハー! この朽ち果てるまで、どこまでもお供しますぞ! アッハッハッ」

あっけにとられている俺に、一緒にいたギャルが話し出す。

「あー、彼はナオミ、RAGERAVEレイジレイブってバンドのボーカルなんだよ。ちょっと変わってるけど、歌は上手いんだよー」

ちょっとどころか、ぶっ飛んでそうだぞ。

しかし、りぃが人見知りなく話しているのは初めて見たな。

それは嬉しいことだが、俺のスカウターによると赤信號オーラ満開なんだ。

ハナレロと。

「りぃとやら。私と一緒に歌ってくれまいか?」

「なに、歌うの?」

「そうだな……」

ナオミと呼ばれる人がスコアブックをパラパラとめくりだす。

「これなんかどうだ? 街ゆく奴らを一瞬にして私たちの虜とりこにしてやれるぞ」

「……すごい選曲なの」

「だろ!? そのギター、しチューニングを変えてもよいか?」

りぃはコクリと頷く。

「ダウンチューニングでマイナーアレンジしたほうがもっと雰囲気が出るのだ」

「へえ……なの」

「私はここから歌うから、りぃはこことここと……ここは一緒にな」

そうして、ナオミはアルペジオでギターを弾き始めた――

「これは……」

ナオミが選んだのは流行りの曲ではなく、りぃの好む知る人ぞ知るって曲でもなく。

『Silent Night』

有名なクリスマスキャロルであり、日本で言う『きよしこの夜』の原曲だ。

おいおい、今は五月だぞ。

「Silen night, Holy night、All is calm, All is bright……」

りぃがギターに合わせて歌い出す。

やはりのある綺麗な歌聲。

だが、マイナーアレンジとやらのせいか、とてもホラーな雰囲気。

ウィスパーボイスがそれこそ本の幽霊聲だ。

「Round yon Virgin Mother and Child、Holy infant so tender and mild、Sleep in heavenly peace……」

ナオミは太くハスキーな聲で歌う。

男顔負けのカッコいい聲だ。

そして二人で合唱する。

「Sleep in heavenly peace……」

りぃとナオミは相反する世界観。

二人の聲は決してわらない。

例えるならば、大地と夜空。

その二人が奏でる歌は、一瞬にして俺たちを十二月へと連れ去る。

五月の空に、雪でも降りそうな寒気が襲う。

いや、これは二人の歌聲による震いか。

道行く人たちも立ち止まり、二人の演奏に見っている。

そりゃそうだ、春にクリスマスキャロルだぞ。

いや、だからこそ、か。

これも狙ったナオミの選曲なのだろう。

面白い人間だ。

「りぃ!」

歌い終えたナオミは、りぃにハイタッチを求める。

「なおたん!」

りぃはそれに応えて手を弾く。

なおたんて。

お前そんなキャラだったか……

こうして、りぃに分かり合える仲間が出來た……ようだ。

お兄ちゃんは心配だけどね!

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