《高校ラブコメから始める社長育計畫。》06.てかてか
初出勤も無事終わり、著替えを済ませる俺。
「ご苦労様でした、百瀬君」
院長も早々に著替えを済ませている。
「院長も忙しそうでしたねー。ご苦労様です」
と言うと、いきなりエリカにポカっと頭を毆られた。
「バーカ、ご苦労様って何様よ!」
どうやら『ご苦労様』という言葉は、目上の人やお金を払う側の人が部下や業者に対して言う言葉らしく、上司に対しては言っていけないワードだったそうで。
「あはは、まあ僕は気にしないですけど、知っていて損はないですからどんどん覚えていけばいいですよ」
「あざっす……」
「ありがとうございますと言いなさいバカ!」
エリカ先輩は手厳しいな。
まあ、患者さんと接しているエリカは、言葉遣いも丁寧だったしうまくコミュニケーションをとっていた。
こいつも々勉強したんだろうなとじた今日の初出勤。
「ところで今週の土曜日はお二人とも空いてますか?」
「はい」
「俺はいつでもフリーっす」
院長の問いかけに即答する俺たち。
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「百瀬君の歓迎會も兼ねて、四人で食事にでもいきませんか?」
俺の歓迎會か。
なんかこっぱずかしいじもするが。
四人というのは、院長の奧さんを含めたメンバーだ。
特に用事もない俺たちは、土曜の夜に隣町まで食事へ連れて行ってもらうことになった――
歓迎會では特に難しい話をするわけでもなく、院長の學生時代の失敗談に俺は笑したり、奧さんとの馴れ初めにエリカが頬を赤らめたりと、楽しい時間を過ごさせてもらった。
歓迎會の後、院長は奧さんと呑みなおすからと、現地で解散。
「では、お疲れ様でした」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様っした」
俺はエリカと帰路につく。
こうして電車に二人で乗るのも二回目だな。
前はカップルと間違えられたり、エリカが半べそかいたり、々あったな。
「何ニヤけてんのよ、気持ちが悪いわ」
「そうですよね!」
早く一人でニヤける癖を直さねばならぬ。
「で、どうなのよ?」
「どうとは?」
「働いてみてどうだった?」
今日は土曜、初出勤から左も右もわからないまま、もう三日も経っていた。
「うーん、正直張することばっかりだったな。しかも機械とか勝手にったらヤバそうなのいっぱいあるし。気を使って結構くたくただな……」
「しんどい?」
「あー、しんどくないって言ったら噓になるけど、わくわくすることのほうが多いかな。楽しいってゆーか、俺もしは人の役に立てるかも、とかさ」
「だよね! ありがとうって言われると本當に嬉しいわよね」
ぱあっと明るい顔で俯きながらニヤけるエリカ。
エリカがニヤけるのは可いのに、俺がニヤけると犯罪者みたいになるのはなぜだろう。
「研究によるとね、ありがとうって言葉を言われたときって、セロトニンってゆう快質が出るんだって」
「快質?」
「そう、ストレスを軽減させたりするやつ。つまりあたしたちは毎日毎日、患者さんから幸せを貰ってるんだよ」
そうだったのか。
確かに患者さんからありがとうを言われると、俺も犯罪者顔になっていたな。
あ、ニヤけたって意味ね。
「それは知らなかったぜ。俺ももっと患者さんに対して々出來るようになって、ありがとうを言われたいな」
「いいんじゃない。そろそろストレッチ以外も練習させてもらったら? あんたがストレッチした患者さん、喜んでたわよ」
「まじかっ……」
それは嬉しいな、嬉しすぎるな。
もう次のステップいっちゃっていいんですかね。
今はまだストレッチしかできないのだが、院長にはゆくゆくテーピングとかも覚えていきましょうとは言われている。
そこで俺は勇気を振り絞ってエリカに問いかけてみる。
「俺と契約してテーピングの練習臺になってよ」
「いいわよ」
「うぇい」
すんなりオーケーでました!
二人っきりの時間がもっと作れるかも。
うひひひひ。
「あんた、犯罪者顔ね……」
「はい、すいません……」
平然を裝うも顔に出てしまう自分が恥ずかしい。
そういや前に院長から教えてもらった、良い笑顔になれるよう口筋を鍛えるやつ頑張らないといけないな。
「そっちはどうなんだよ? 學校生活も順調かね」
「ひみつ」
「か、彼氏とか、出來てないですよね?」
白石先生の披宴フラッシュモブからは、學校ではほとんど會ってないから変な蟲が付いてないか心配だ。
アメイジンググレイスを歌った後の、あんな可い上原スマイルを見た男たちもいるわけで、才川や吹奏楽部の男子に狙われてねーだろうか。
「あー、そういえば報告があるんだけど」
「ええ!? なななんですか!?」
張で聲と表が強張《こわば》る俺。
「実は私は……」
來た!
ヒル○ライムが頭ん中で流れ出す。
「実はね、こないだのフラッシュモブから友達ができたの」
「まじか! 友達ができたか!? 友達だよな!?」
頬がぴくぴくくのを覚える。
「なに興してんのよ。うん、ほらフラッシュモブの時にダンスをしてくれた先輩。なんか化粧教えてって言ってくれてね。してあげたらすっごく喜んでくれてね、それでそれで、あたしもすっごく嬉しくて!」
エリカは零れるような笑顔でそう話した。
「そうか……ふう。良かったじゃねえか!」
「うん! ……ありがと」
「いやいや、俺も嬉しいよ」
エリカのことはまだまだ知らないことが多いが、一人より二人のほうがきっと楽しい學生生活になる。
俺も箕面がいなかったら全然違っただろうし。
だからエリカにも友達ができるのは本當に嬉しい。
ちなみに俺は、友達じゃなくて人になりたいけどな!
「でね……なんか々お世話になったから……はいこれ」
「ん?」
そこへエリカはカバンから小さな箱を取り出し、俺に差し出した。
「お返しってゆーか……いらなかったら使わなくていいから!」
「ん?」
「男の子は何をもらったら嬉しいかとかよくわからないから、悩んだんだけど」
「ん!?」
エリカが俺に、プレゼントだと……!?
地球ジエンドか!?
「タイピンなんだけど……いらない?」
「タタタタ、タイピン! 雨城の稱で呼ばれる人口二十萬人ぐらいのマレーシアの都市! ではなく、ネクタイピン!!! うおー!!! わおー!!!」
「ちょ、うるさい……」
電車だが人目憚ひとめはばからずびながらプレゼントを開ける俺。
「タイピンとか古いかなとは思ったんだけど、お父さんに相談したらこれがいいんじゃないかってことになって」
「まじかまじかまじか、お父さん公認か!? 高いんじゃねえのかこれ!」
ぶるべりーぶらっくらべる?
とかなんとか書いてある。
なんかやっぱ高そうだよ。
俺ってば、引き合わせただけで何にもしてないのに。
しかも俺の宿題のためにやった企畫でもあるのに。
「うちのお父さん、輸系のお仕事なんで々とコネがあるらしくて、安く手にるのよ」
コネか。
やはりコネはどこでも大事なんだな。
「本當にもらっていいのか? 俺みたいなゴミ蟲がエリカ様のお父様が選んでくださった高貴な品を付けるなどというまさに豚に真珠、貓に小判、馬の耳に念仏、犬に論語、兎に祭文……」
「もう、うるさいわね、いるの? いらないの!?」
エリカに箱ごと奪われる。
「いります! ください! 家寶にして先代まで引き継ぎます!」
「よし!」
大きく頷きながら箱を返してくれるエリカ。
ああ、エリカ様が返してくれたよ。
無事でよかった俺のマイスイートタイピン。
「本當に嬉しいんだが! ありがとう!」
「ほんのお禮だから、気にしないで」
「ありがとう! ありがとう!」
「どういたしまして……」
せめてエリカのセロトニンを出しまくってやろうと俺は謝の言葉を何度も述べたのだった。
episode『てかてか』end...
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