「――だから、りぃをくれっつってんだろ！」

「あんたに娘はやれん！」

「いや妹だろ……」

「りぃをどうする気だ。いくら可いからといえ、魔にされては、兄貴として黙っておれんのだ！」

「まぁ、あながち魔になってもらうというのは間違ってはいないのだが」

「ほれみてみ！」

「頼む！　うちのバンドに新しいをれたいんだ！」

ナオミはバンドのボーカルだ。

バンド名は『ＲＡＧＥレイジ　ＲＡＶＥレイヴ』と言ったか。

りぃがこないだ自慢げに俺に話してきたな。

ＲＡＧＥは憤怒や渇などを意味する英語。

ＲＡＶＥは荒れ狂うとか、うわごとを言うといった意味の英語。

さらに『０時０分れいじ　れいぶ』を文字ってるそうで、全ての始まりの時を表しているという、廚二病が好きそうなネーミングセンスだ。

――すなわち俺も嫌いではないわけだが。

ちなみに結婚式フラッシュモブのアイデアを出してくれたのも、このナオミだ。

五月の空の下、クリスマスキャロルを歌いだした衝撃は忘れない。

アイデア力に富んでいる人間のようだ。

「しかし、いきなりっすね……」

「あっそうだよな！　これ、やる！　手土産だ！」

手に持っていた紙袋を俺のに突き出すナオミ。

中を見ると菓子折りらしきものがっている。

こんな時間に尋ねて來たくせに、ずぼらなのか律儀なのかよくわからんだ……

「まあ、とりあえずあがってくださいよ……」

「おう、邪魔するぞ！」

「なおたん！」

ブーツをいで、上がり框へ足をかけるナオミのもとへ走り寄るりぃ。

この夏場にブーツて……そして相変わらず金髪に先が赤、ごりごりのシルバーアクセ。異世界ハンパねえ。

なんか俺の頭には心配しか過らないんだが大丈夫か……？

「――つまり、りぃをバンドのボーカルとして迎えたいと……」

「そうだ。りぃと私でツインボーカルとしてやっていきたいんだ」

「しかし姐《ねえ》さんよぉ、りぃはまだ中學生ですぜ」

「だから手土産持ってきたじゃねーか！　責任者を出せ！　責任者を！」

「どこのクレーマーだよ」

「じゃあ兄貴くん、あんたも憑いてきていいぞ！」

「どこの霊だよ」

「そうだ、マネージャーにしてやろう！」

「マネージャーねー。そんな肩書きあってもなあ……」

「ふむ。肩書きがしいのか？」

「ああ、俺は將來、社長になる男だもんで」

「ふむ……」

ナオミは顎に手をやり、ニヤリとほくそ笑む。

肩書きを得るように院長から言われている俺だが、変なのはいらないぞ。

「では兄貴、あんたを我がバンドのプロデューサーにしてやろう！」

「プロデューサー……悪くない響きだ……」

「それも、エグゼクティブプロデューサーだ！」

「エグゼクティ……よくわからんが強そうな響きだ……」

「だろう？　映畫とかのクレジットでいえば、『製作総指揮』だ！」

「……！」

「製作総指揮だ！」

「……！！」

「宮○駿だ！」

「やります」

思わず了承してしまう俺。

音楽界の○崎駿になる男か。

悪くない……ぐふふっ。

「……兄ぃ？」

「よし、次のバンド練習から參加な！」

「りぃは、見てから考えたいの……」

俺の裾をぎゅっと摑み、呟くりぃ。

「そ、そうだよな！　すまんりぃ、勝手に決めちまって」

「兄貴くんはもう加決定だからな！」

「ええ！？」

「もう……兄ぃったら軽いの……」

心配そうな目で俺を見る妹をよそに、その肩書きの響きに心を奪われた俺は、エグなんとかを引きけてしまった。

ここのとこ々と好奇心の向くままにいてきたから、変な積極がについてしまっているのだろうか。

これが俺の人生に、また一波を起こすことになるとはまだ知らなかったのだ――

「で、何をすればいいんだ？」

「そうだな……特にないけどな」

「は……？」

「しいて言うなら……予算調達や管理、人事とか販の管理とかだな」

「ほほう。人事か！　トレーナーの時みたいにうまく纏めてやるぜ！　なんでも來い」

やったるでーと意気込みながら、グーサインを天に突き立てる俺。

「なおたん、それってマネージャーさんとどう違うの？」

「りぃ、あまり突っ込むな。考える隙を與えるな」

「……わかったの」

「ん？　どうした？」

「なんでもねえよ！　頼むぜ百瀬Ｐプロデューサー！」

こうして百瀬りぃと百瀬ぴぃは、バンドの道へ足を踏みれることとなった――