《高校ラブコメから始める社長育計畫。》03.鋭
そして別の日。
今日はバンド練習見學、メンバーとの初顔合わせの日だ。
音楽スタジオは一駅向こうにある。
めったに降りることの無い駅だが、こないだ院長に俺の歓迎會を開いてもらった店がある駅だ。
いわゆる呑み屋が多い駅前。
奇抜な格好の姉ちゃんたちがウロウロしていて正直ビビる。
「おっ、來たな! おーい! こっちだ!」
「言われなくても見えてるっつーの……」
そんな街で、特に目立っているが俺たちに手を振っている。
彼がバンドのボーカル、ナオミだ。
俺たちは――というか主に妹のりぃがそのバンドに勧されており、今日初めてスタジオ見學するため、この街へ來た。
「どきどきするの……」
「大丈夫、俺がついてるからよ」
ぽんぽんと頭をでてやり、妹を落ち著かせる俺。
ナオミにスタジオへ案され、付で見學會員登録の手続きを済ませる。
そこへツーブロックのパーマで茶髪の顎鬚兄ちゃんと、デカい図の男、そして細くて綺麗な銀髪の……年? らしき人がやってきた。
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「あ、こないだの容師さん!?」
「おっ、こないだのお客さん!」
俺は顎鬚さんを見て聲を上げた。
そう、以前エリカと一緒に行った容院で、俺がカットしてもらった人だったのだ。
新谷さんと言う名前の容師さん。
衝撃的な験だったから、帰りに貰った名刺は今でも財布にっている。
「そかそかー、新メンバーはエリカちゃんの友達だったかー」
「あ、加予定なのは俺の妹で……」
「ほう、ナオミ、この子か?」
「ああ、このがりぃだ。歌聲聞いたら、お前らぶったまげるぞ」
「よろしくりぃちゃん。可いね」
すっと手を差し出したのは銀髪年。
思わず俺の後ろに隠れるりぃ。
「あらら、逃げられちゃった。シャイだね。僕はベース擔當の啄木たくぼくだよ。よろしくね」
「あ、どうも、俺はこいつの兄で百瀬ゆーまと言います」
「啄木は兄貴くんと同い年だ。仲良くしてやってくれ」
「そうなんですか、よろしくです」
「うん。敬語はいいよ。よろしくねー」
しかし年だな。良い人そうだし。
「ちなみにすぐにちょっかいかけるのが、こいつ啄木の悪い癖なんだが」
良い人じゃなかった!
ササっと妹を守るように両手を広げる俺。
「あは、大丈夫だよゆーまくん。メンバーとファンには絶対手を出さないから」
「は、はあ……」
「このデカくて大人しい奴がドラムの丈太じょうた」
「ふぬっ」
「んで、オレが新谷ヒロ! ギター擔當で一応リーダーやらせてもらってる! よろしくな!」
「ども……よろしくです。ほら、りいも」
「……よろしく……なの」
ぺこりと頭を下げ、また俺の後ろに隠れる妹。
やはり俺がついてきてよかった。
一気にんな人が出てきて、人見知りな妹にとっては困しているのだろう。
そんな俺もがバクバクいってんだけどな。
タバコの匂いが充満するスタジオのフロア。
異世界へ迷い込んだ俺たちは、魔王のようなボーカルさんと、剣士みたいなギターさん、オークのようなドラムさんに、エルフみたいなベースさんの仲間になったのだった。
「それじゃあ、いきなりだが合わせてみっか」
「おう、『哀憐あいれん』だな?」
「おっけー。打ち合わせ通りでね」
「ふぬっ」
スタジオにる俺たち。
りぃのオリジナル曲を、ナオミたちが楽譜に起こして編曲してくれたらしい。
し音合わせをした後、早速披してくれることになった。
「りぃもほれ、こっちで歌うんだ」
「うん……」
十畳ぐらいの狹いスタジオ。
防音扉をガチッと閉め、隅っこのパイプ椅子で見學する。
なんか俺、前にもこんな定位置に座って見學してたような。
あれは確か、アホの才川の――ま、いいか。
「ワンツースリー……」
ダダッダダッ。
ドラムのカウントの後、激しくギターとベースが揃ってカッティング。
ちらっとギターをかじったことのある俺から言わせてもらうと、プロが弾いてるDVDでも見てるような卓越した指さばきだ。上手い。
ズッズッタンツカ――迫力のあるドラム。
これがスタジオ練習か。耳が痛てーぜ。音だな。
「……」
RAGERAVEによる哀憐。
りぃの作ったその曲は、バンドのアレンジによって凄まじいものになっていた。
例えるならそうだな……もともと吹雪のような曲に、さらに曇天の雷が加わり、たちが一斉に逃げ出す破壊の詠唱になった、と言ったようなじか。
中に突き刺さるような曲だった。
「どうだっ!?」
「すごいの……」
「ああ……」
「おお! 良かった良かった! 嬉しいなあみんな!」
「ふぬっ!」
りぃも目をキラキラとらせている。
生で聴いたからっていう裝飾はあるだろうけれども、普通に売れんじゃねーか?
「これ、CDにしたら売れんじゃねーっすか?」
「だろお!? 私たちはこの曲を引っ提げて、今度のロックフェスに參戦すんだよ!」
「ロックフェス?」
「ああ、予選を勝ち抜けば海岸の野外ステージでライブできんだよ」
「あ、それ知ってるかも」
「テレビで見たことあるの……」
「そうだろうな! どうだ? わくわくしねーか?」
「あのステージに妹が立つ……?」
「ああ、見てみたいだろう?」
りぃが海辺のステージで歌う……だと!?
……可いだろうなあ。
りぃは地上に降り立った天使だからなあ。
一人でも多くの人に聴いてもらいたい。
俺はそんな可い妹の兄貴だからな。
悪いなみんな、帰ったら家では獨り占めできんだぜ。
「ぐへへ」
「にぃ……?」
おっと、夏香みたいな変態聲が出てしまったわ。
「そりゃ、見てみたいさ。りぃの歌聲を、歌う姿を。お茶の間の皆さんに見てもらいたいぞ!」
「よし! 兄貴の許可も出たが、りぃはどうなんだ?」
ナオミはりぃに問いかける。
そうだ、こればっかりは、りぃ自がやりたいかどうかだ。
妹の気持ちを尊重してやりたい。
今のストリートライブでも十分頑張ってるし、楽しそうにやっている。
俺はその姿を見るだけでもかなり満足していた。
だから、無理にバンドにってもらいたいわけではないし、ここからはりぃのやりたいようにやらせたい。
「兄ちゃんはりぃの味方だからな、りぃが決めたらいい」
「…………たい」
「ん?」
「うたい……たいの!」
「よっしゃあ! 決まりだな!!」
「あは、よろしくね、りぃちゃん」
「よろしくなー!」
「ふぬっ」
こうして俺たちは正式にバンドに加することとなった。
りぃはボーカル、俺はあくまで保護者として――じゃなかった、エグゼクティブプロデューサーとして。
バイトにトレーナーにと、さらに忙しい毎日になるが、りぃが幸せなら俺も幸せ。
りぃより大事なものなんか無いからな。
ま……最近は同じぐらい大切なものが増えていってるけど。
何とは言わねーぞ、恥ずいから。
「よし! 兄貴くんも手伝え! さっそくフェスに合わせてスケジュール組んでくぞ! まずは――」
無邪気な笑顔で語り出すナオミ。表のかな人だ。が全に表れるタイプというのか。アーティストってじだ。
そして、ロックフェスの予選か。
なんかこないだの陸上の大會みたいだな。
「しっかりプロデュースしてくれよ! 百瀬P!」
「いや……俺……やっぱただのマネージャーからにしてくれませんかね……」
プロデューサーという大義名分のプレッシャーを、今更ながらじ始める俺だった――
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