《高校ラブコメから始める社長育計畫。》10.豪傑

「あんな奴知るか!」

ナオミは強がったが、その後のスタジオ練習はグダグダだった。

素人の俺にとっちゃ、ギターの音が無いだけでも全く違った曲にじる。

なんの曲だったか分からなくなるほどに。

りぃやナオミの聲にも華が無くなったようにサビの盛り上がりがじない。

これはヒロがいないことによる彼たちの気持ちの問題もあるのかもしれないが。

その後この日はミーティングもせず、暗い雰囲気のまま解散した。

それから數日後、ヒロさんから連絡があった俺達はまたスタジオへ集合した。

ナオミなんかはかなり早くに來ていたようで、ニマニマとニヤけながら文句を言っている。

「こないだはヒロの奴、なんだったんだよなあ! びっくりさせやがって」

「ふぬっ」

「僕も。いきなり解散とか言い出したらどうしようかと思ったよ」

啄木のそんな発言に、りぃは俺に泣きそうな顔を向ける。

でも大丈夫だ。

ヒロさんがスタジオの予約をしてくれてるってことは、それはない。

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それが分かってるからナオミも穏やかなのだ。

そっと髪をでてやる。

「けど、ヒロさん遅いっすね。もうすぐ時間っすよ」

「渋滯でもしてんじゃないか? ま、先にセッティングしとこう」

こうして予約されていた部屋へとり、各々準備する。

ベースの啄木はエフェクターを繋ぎ、ピックや指で弦を弾いて調節を。

ドラムの丈太さんは自前のスネアドラムを取り付けたり他とのバランス調整を。

ボーカル二人はモニターの音量調節や録音機のセッティングなどをしている。

そして、俺も念りに調整する。

パイプ椅子の位置を。

そこへガチャリとドアが開いた。

ギターケースを抱えた男がってくる。

「おおっ、ヒロ! 遅かったじゃ――」

ナオミの表が固まる。

やってきたのはヒロさんではなかったのだ。

「あ、初めまして。ヒロくんに頼まれたサポートギターの者ですけど、RAGERAVEさんですよね?」

「はぁ……? そうですけど……」

「なんだ、良かった。そんなビックリされると間違えたのかと思ったよ。もらった音源でだいたいは練習してきてるんだけど、一応譜面臺置かせてねー。本番までには覚えるから」

ヒロさんよりもやや年上に見えるその人は、チャキチャキとセッティングを済ませていく。

メンバーの頭の上にはクエッチョンマークが出ている。

もちろん俺も。

ついにはナオミが尋ねる。

「すんません、ヒロの奴なんで來れないって?」

「え? 辭めたんでしょ?」

凍りつくメンバーたち……

話によると、つまりはこうゆうことらしい。

ヒロさんはRAGERAVEを続けられなくなった。

だから自分の代わりのギタリストを探している。

ヒロさんの先輩であるこの人は、正式メンバーが決まるまでのサポートを頼まれた。

おそらくロックフェスの決勝はこのメンバーでいくことになるだろうと。

とにかく、ヒロさんは來ないということだ。

それを聞いたナオミはしばらく呆然としていた。

が、マイクを握りしめモニターの確認を始め出した。

とうてい現狀をれているとは思えないが、そのままスタジオ練習を開始するということだろう。

その姿を見て、啄木や丈太さんも準備を再開する。

俺とりぃは顔を見合わせていたが、頷くように合図して、マイクのもとへ向かわせた。

二時間の練習は上手くいったと思う。

サポートのギターさんはめちゃめちゃ上手かった。

指のテクニックだけでない。

音作りもだ。

重たい音から空間系まで使いこなしていた。

耳がいいらしい。

音源は正確に耳コピされており、ヒロさんの癖までそのまま表現されていた。

それを踏まえた上で、ミスもなく正確に弾きこなす。

正直、俺が見た中で一番の出來なんじゃないだろうか。

いつ本番にんでも構わないほどに。

§

練習後のミーティングで啄木が聲を荒げる。

「凄いですね! 何年ぐらいされてるんですか?」

「ああ、そんな大した歴じゃないけど。一応プロ目指してるからね」

プロのギタリストか。

プロにもんな形がある。

バンドやソロミュージシャンとしてCDを出す人。

レコーディングやステージなどで他人のために楽演奏を行う人。

後者はスタジオミュージシャンとも呼ばれ、B’zの松本さんや坂本龍一さんなどもデビューする前はスタジオミュージシャンだったと聞いたことがある。

その練習にもなるからと引きけてくれたらしい。

経験はいくらあっても損はないと。

そりゃ上手いわけだ。

俺は気になったことを聞いてみた。

「じゃあ音のが見えたりもするんですか?」

「音の?」

「はい、ナオミ姐さんは音にがついて見えるって」

「あーいわゆる共覚きょうかんかくの一種かな。絶対音がある人にたまにあるやつだね。殘念だけど僕は持ってないな」

そうなのか。

本當に見えてるんだな。

そんな中、ナオミ姐さんは黙ったままじっと俯いている。

いつも怒ったり笑ったり喜怒哀楽の激しい人だが、こんな姿は初めて見た。

珍しく何を考えているのかわからない。

りぃはそんな彼を心配そうに見つめている。

「でもこれなら優勝もマジで狙えるかもね。そしたらデビューも夢じゃない。ね、丈さん」

「ふぬっ」

そんな二人の會話を聞いていたのか、急にナオミ姐さんは啄木を睨みつける。

そしてガタッと立ち上がった。

「そんな程度の仲間だったのか!? ヒロが作ったバンドじゃねーか!」

大聲を上げるナオミ姐さん。

しかし啄木は冷たい口調で言い放つ。

「……そうだけど。僕もチャンスは逃したくないしね。高校卒業したら音楽は辭めろって言われているから。丈さんもプロ目指してるんだし。勝手に自分のバンド放り出したリーダーの事なんて――」

「っ……!」

バンとテーブルを両手で叩くナオミ姐さん。

「……しばらく、スタ練は無しだ!」

「いいよ僕は。すでに完度も高いし」

「ふぬ」

「……また連絡する」

それだけ言い殘し、ナオミ姐さんは去っていった。

「僕らの將來も、あの二人の完度次第……だね」

「ふぬっ」

こうして気まずい雰囲気の中、俺たちも解散した。

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