《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》48話「弟子のような存在ができました」
よく小説で主人公が呟く臺詞だが、まさかこのセリフを自分が使うようになるとは思わなかった。
……どうしてこうなった?
今生でこの言葉を使うのはたぶん二回目だ。一回目は確か、バイレウス辺境伯がマルベルト領に視察に來た時、なぜか辺境伯と模擬戦をすることになった時だったはず。
そして、今目の前には自分よりも年上のが頭を下げ、俺を先生と仰ぎ何故か弟子にしてくれと懇願する姿があった。
は? 弟子にしてくれだって? なんで俺が弟子なんぞ取らなければならないのか?
まだ俺だってすべての魔法を完全に極めたわけではない。世界は狹いなどという歌詞の付いた歌があったが、世界というのは狹くもあり広くもある。
俺よりも魔法に優れた人間は両手にりきらないくらいいるだろうし、俺が習得していない魔法を使える魔法使いもたくさん存在するはずだ。
だというのに、目の前のはまるで“この人しかいない”と言わんばかりの決死の覚悟で懇願してくる。……何が彼をそうさせているのだろうか?
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「悪いが、俺はまだ修行のだ。完全にすべての魔法をものにしているわけじゃない。そんな半端者が弟子などありえないだろ」
「そこをなんとか! 私がこれ以上強くなるためには先生の力が必要なんです!!」
そこから詳しい話を聞くと、彼はギルムザックと出會い魔法の研鑽を積み重ねてきたが、最近魔法の技がび悩んでいたらしい。
そのことを相談しようにも自分以上の魔法使いにお目に掛かる機會などほとんどなく、今まで自己流で訓練を積み重ねてきた。
だが、いくら訓練しようともなかなか実力が付く気配がなく、困っていたところに俺が現れたということだった。
自分以上の実力をめていることをじ取った彼は、相手が年下だろうと関係なく頭を下げ教えを請いたいと思ったらしい。
「このままでは、いずれ私はこのパーティーのお荷となってしまいます。ですから、先生に教えていただきたいのです!!」
「だから、俺自が未者なのに弟子は取れないと言っているだろうが」
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「お願いします。もし、弟子にしてくれるなら。私のを好きにしてもらって構いません」
こらこらこらこら、何を言い出しちゃってるのこの子は? 嫁り前のの子が、そんなこと言っちゃいけません!!
……おっといかん、前世の頃の自分の覚で話してしまっていた。今の俺はぴちぴちの十二歳。おつやつやであそこにまだも生えてない……って、この報は言わなくていい!!
し話が線してしまったが、今は目の前のことに集中しよう。
メイリーンの申し出に仲間たちが困する中、俺は淡々とした口調で彼に宣告する。
「そんなものに興味はない。弟子になるのは諦めろ」
「うぅ……け、結構自信あったんだけどな」
としてのプライドが傷ついたのだろうか、俺の言葉にショックをけていた。おそらく自分のプロポーションに相當の自信があったようだ。
確かに、彼のつきは付きもよく客観的に見て男好きするなのは間違いない。顔も人で非の打ち所なく、普通であれば彼の申し出は男からすればこちらからお願いしたいほど魅力的なものではある。
(でもなぁー、まだそんな気が起こらないんだよなー)
殘念ながら今の俺のからそういった求は起きないため、おそらくまだそういうことができるになっていないのだろう。
もちろん神は前世の記憶を持っているので、は反応しないが心は反応してしまう。だからこそ、ラレスタの街で初めてミサーナを見た時、初のようなときめきをじたのだろうと今になってはそう思えた。
「ちょっと、弟子くらいしてあげてもいいじゃない!」
メイリーンに対する態度に、アキーニが解せないといった合で俺に食って掛かる。
こちらとしては、弟子を取るという行為自が面倒な上に弟子を育てたところで何のメリットもない。
寧ろ有能な弟子を持ってしまうと、その噂を聞きつけた他の人間が自分も弟子にしてほしいと押しかけてくる可能が高いため、弟子をというという行為はある意味ではデメリットにしかならないのだ。
「さっきも言ったが、俺自も修行のなんだ。弟子を取る資格も余裕もない」
「こ、このぉ!」
真っ當な意見をぶつけられて思わずといったじで、アキーニが俺を張り倒そうとするが、そんな攻撃を食らうはずもなく振りかぶられた張り手が空を切る。
まさか避けられるとは思っていなかったのか、一瞬呆けた顔を浮かべたが自分の攻撃が避けられたことを理解すると、怒りの表を浮かべて毆りかかってきた。
「くっ、な、なんで當たらないのよ!」
「口で敵わないからって暴力に訴え出るとは、それでもAランク冒険者か」
「こ、こうなったら」
「やめろアキーニ! 相手はまだ子供だぞ!?」
「うるさいわね。ギルムザックは黙ってなさい」
「構わん、格の違いを教えてやる」
最初は加減していた彼も、最後にはムキになってしまい自分の得である剣を抜き放った。
さすがにそれは冗談では済まされないと思ったギルムザックが止めにるも、頭にが上ったアキーニが止まるはずもなく、俺に向かって剣を振りかざしてきた。
襲い掛かる剣を躱しながら、ギルムザックに聲を掛ける。
それに対し、アキーニはさすがにAランク冒険者だけあってそのきは洗練されている。しかし、俺には屆かない。
剣での攻撃だけでは俺に當てられないと早々に見切りを付けると、強化を発させ本気のきを見せ始める。
圧倒的なまでのスピードから繰り出される剣撃は、一度ければ俺のを躊躇いなく分斷するだろう。まあ、ければという注釈が付くがな。
「はっ、やっ」
「ほっ、よっと」
常人ではとても躱しきれない攻撃を、これまた常人では到底不可能なきで躱していく。
アキーニの攻撃を躱す度に彼の顔が焦りので染まっていくのがわかる。すでに自分が出せる最高のスピードと攻撃を繰り出しているにもかかわらず、涼しい顔で避けている俺に危機を覚えているようだ。
「な、なんなの? なんなのよー!! なんで攻撃が當たらないの!?」
「言っただろ? 格の違いを教えてやると」
「くっ」
誰に問い掛けれでもない彼のびにただ淡々と答えてやると、その顔を歪ませる。彼の実力を測るにはもう十分な時間が経ったので、そろそろこの勝負の幕引きといこうじゃないか。
「うわぁー。この化けがぁー!!」
「ほいっ、化けとは心外だな」
「なっ、馬鹿な――ぐはっ」
勝負を焦ったアキーニが大振りになったところを見逃さず、俺は親指と人差し指で彼の剣の刀をまるで蟻を摘まむように摑んだ。
そして、彼がそれに驚愕している隙を狙って勢を橫にずらし、空いている左手を彼の腹に目掛け打ち據えた。所謂、掌底である。
もちろん、アキーニが死なないよう可能な限りの手加減をしているが、それでも臓に衝撃が伝わり彼の口から唾が吐き出される。
そして、さらにを駆け巡った衝撃は彼にダメージを與えるだけでは済まず、持っていた剣を俺に預けるように手放し、そのまま數メートル吹き飛ばされる結果となった。
(ほう、あれを食らって立てるとは、伊達にAランクじゃないってところか)
吹き飛ばされた衝撃で地面にそのを橫たえることになったが、すぐさま立ち上がり戦う意思を見せる。
しかし、俺が與えたダメージが深刻なのか立ち上がることはできたものの、立っているのが一杯のようでその場からけないようだ。
俺は彼に歩み寄り、數メートルの距離まで近づくと彼が使っていた剣を掲げるようにして問い掛けた。
「いい剣だな。剣の良し悪しはわからんが、芯が通っていてとても使いやすそうだ」
「あ、當たり前だ。そ、その剣はとある鍛冶の名工が、アタイのために打ってくれた世界でたった一本の剣なんだから」
「そうか。だが、殘念なのはお前がこの剣の本當の力を出し切れていないということだな」
「そ、それはアタイが未だって言いたいのかい」
「まあ、端的にはそうだな。今からそれを証明してやろう。この剣は……こうやって使うんだっ!」
そう言い放った瞬間、俺は地面を蹴り対象との距離を詰める。そして、瞬時に振りかぶった剣を袈裟斬り・橫薙ぎ・逆袈裟斬りの順番で振ると、次の瞬間にはアキーニの首筋に剣の切っ先を當たるか當たらないかの距離で寸止めする。
「この剣はこうやって使うんだ。わかったか?」
最後にそれだけ言うと、剣を地面に突き立てる。その瞬間、周囲に生えていた木々がばたりと倒れあっという間に丸太が出來上がる。
俺以外の人間にはいつそれを斬ったのか見えておらず、目の前の景をただ呆然と見つめている。
今起こったことが信じられないのか、全員が口を噤んだままかない。そして、しばらくすると絞り出すようにアキーニの口から言葉がれ出した。
「……てくれ」
「あ? なんだって?」
「「「弟子にしてくれ!!」」」
「お前もかよ! ってか、お前らもかよ!!」
先ほどの俺の剣技と呼ぶのもおこがましい技に何かを見い出したのか、アキーニに加えてアズールとギルムザックも土下座する勢いで俺に懇願する。……勢いというか、実際土下座してるぞ。
そこからさらにメイリーンも加わり、四人全員が俺の弟子になりたいと懇願するのを俺が説得するという押し問答が続いた。
個人的には彼らを弟子に取ったところで何のメリットもないのだが、俺が予測しているオークキングの話が本當なのであれば、この先オークの大群がレンダークに押し寄せてくる可能もなくはない。
その時に備えて、こいつらを鍛えておくことは悪いことではないと無理矢理なこじつけで自分を納得させ、ギルムザックたちを鍛えることにした。
ただ、俺もまだこの世界の剣と魔法を極めたわけではないため、彼らにある條件を出すことにした。
「お前らの言い分はわかった。今のお前らに何が足りないのかそれは教えてやろう。ただし條件がある」
「その條件って?」
「一つは俺の指示に逆らわないこと、絶対服従だ。俺がやれと言ったことはやってもらうし、できないとも言わせない。そして、もう一つが俺のことを師匠だの先生だのと呼ばないことだ。お前らに強くなる方法は教えるが、ただそれだけだ。師匠でもなければ先生でもない。これが守れるなら、教えよう」
それほど難しい條件でもなかったため、四人ともこの條件に頷いた。
こうして、この世界に生まれ変わってわずか十二歳にして、弟子のような存在ができてしまったのであった。
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