《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》01
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ここは王都キルクにある王城の一室。
「ミレイネ、騒がしいが何事か?」
メイドのミレイネから注がれた紅茶を優雅に飲みながら気溢れる妖艶な魔リーザロッテが部屋の向こうに意識を向ける。
「私も詳しくは聞いていないのですが、先日港灣都市エリアスにて魔獣の襲來と倉庫街の壊滅が起きたようでございます」
「エリアスで魔獣とな。あそこの海は靜かなものであっただろう? 妾も何度か訪れたことがあるがあの海は平和そのものだったがな」
時間を持て余している悠久の魔リーザロッテもエリアスには気晴らしに何度か足を運んでいる。
魔獣の襲來などの騒な騒ぎと縁がない街だと認識していたリーザロッテだったが、外の騒ぎを聞くにミレイネの報告も何かの間違いというわけでもなさそうだ。
「はあ。やっとキルクから騒ぎの種が出ていったかと思えば、次はエリアスとはな。まさかあの馬鹿者、エリアスに行っていないだろうな」
ミレイネにはリーザロッテが言う馬鹿者が誰を指しているのか見當もつかない。
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黙してテーブルの上を拭くミレイネにリーザロッテが尋ねる。
「その報告はどこで聞いたのだ?」
「私も同僚から聞いたのですが、元はブランディ侯爵からの報告のようでございます」
ミレイネのその言葉にリーザロッテはため息を深くつきながら頭を抱える。
「今度はエリアスか。本當にあいつは疫病神だな……」
それからリーザロッテはミレイネの見聞きした話に耳を傾けた。
魔獣の襲來においてはエリアスの領主アラベッタ=エリアスが陣頭指揮を執り、その場に居合わせたエインズらが撃退。加えてエリアスの『海の番人』クラーケンも討伐したのだという。
それなりに被害を被りながらも復興に向けてかんとした矢先、資の保管場所でありながらエリアスの要である倉庫街が何者かによる破によって壊滅してしまったようだ。
「なるほどな。これは王國全土への大打撃となってしまうな」
「ヴァーツラフ國王陛下並びにエリオット宰相が事態の収拾に奔走しています。ですがおそらく……」
「資の流通が長期に渡り滯ってしまうだろうな」
一枚巖ではなくなりつつある今の王家と貴族の関係。ヴァーツラフが責任追及を免れることはないだろう。
政治バランスは間違いなく王家にとって悪い方向へ傾くだろう。
(だとするなら今回の騒ぎ、エインズは巻き込まれた側であって引き起こした者が他にいるか? もしや……)
紅茶の風味を楽しめる気分ではなくなってしまったリーザロッテは、ミレイネにワインとグラスを持ってこさせるよう目配せをした。
考え込むリーザロッテを橫に、ティーカップとポットを下げてワイングラスをリーザロッテの目の前に置くミレイネ。
ミレイネの一月の給金よりも高価なワインがグラスに注がれる。
注ぎ口からわずかに垂れるワインをミレイネが拭っていた時、部屋のドアがノックされた。
ミレイネはリーザロッテを窺うが、リーザロッテはノックの音に気付いていないようだ。
「どなたでしょうか?」
ミレイネがドアまで近づき、外の人間を確認する。
「キリシヤでございます。リーザロッテ様はいらっしゃいますか?」
「……キリシヤ様、々お待ちを」
リーザロッテに聲をかけようか逡巡したミレイネだったが、彼の目からしてもキリシヤには優しすぎるリーザロッテならばキリシヤの室を拒まないだろうと判斷して中から靜かにドアを開けた。
「ありがとう、ミレイネ」
部屋の中にったキリシヤはドアを開け放ったミレイネに禮をする。ミレイネは橫に避けながらお辭儀をした。
「リーザロッテ様、お忙しいところ失禮いたします」
考え込んでいたリーザロッテもキリシヤのき通った綺麗な聲に気づき、顔を向ける。
「來ていたのかキリシヤ。どうしたのだ?」
「お聞きになられましたか、リーザロッテ様」
「エリアスのことか? それなら先ほどミレイネから聞いた」
ミレイネが椅子を引き、キリシヤはリーザロッテに向かい合う形で腰を下ろした。
「エリアスにエインズさんがいらっしゃって助かりました」
「そうだな。今回、やつはただ偶然騒に居合わせただけのようだからな。住民の被害が最小限に食い止められたのも不幸中の幸いというものだ」
リーザロッテがキリシヤに何か飲むかと尋ねると、長居はしないと斷った。
ミレイネは小さなグラスに水を注ぐと、キリシヤの邪魔にならないところに靜かに置いた。
「エインズさんの魔はすごいのですね。あれだけ苦戦していたクラーケンの討伐もあっさりとやってしまうのですから」
「討伐だけであれば容易いだろうよ。だが、海の生態系に影響を與えないよう留意するならば確かに王國の魔法士では容易ではないだろうな」
それはリーザロッテも同様である。討伐だけを考えるならば片手間に済ませてしまうことができる。
悠久の時を生きるリーザロッテは積極的に俗事に関與しようとしない。彼なりの行理由があって初めて俗世に関與するのである。
「エインズさんの右腕、あれが魔なのですよね。リーザロッテ様は知っているようですが、実際のところあの魔はなんなのですか?」
キリシヤは魔學院の騒の際に、実際にエインズの右腕を確認している。
そしてそれが魔法ではない異次元の力、魔であることも。
魔からキリシヤを遠ざけたかったリーザロッテだが、ここまで魔に関わってしまったキリシヤに今更隠す必要もない。
それでも後悔しているのだろうか、リーザロッテは諦めも混じったため息を一つこぼしてから口を開いた。
「エインズの右腕、あれはあいつの第二の魔。その源は手にれることにある。あいつがむ取得可能なものは全て手にすることができる、理を歪める魔」
「手にれる、ですか?」
キリシヤは右腕のその萬能に一瞬驚いたが、自らが持った右腕へのイメージとの乖離に首を傾げた。
「第一の魔は右目。見たいというから生まれた魔。そして自らが見たものを手にしたいというから生まれた第二の魔『奇跡の右腕』」
「リーザロッテ様、待ってください。それだと一つ腑に落ちないことがあります」
「なんだ?」
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