《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》51話「オークの解で、また一つやらかす」
街へと戻って來きた俺は、すぐに冒険者ギルドへ向かう。付カウンターにいるニコルに一言聲を掛け、解場へと向かう。
解場にると、すぐに俺を見つけたボールドがやって來る。……相変わらず頭のまぶしいおっさんだ。
「おう坊主、戻ったか。で、オークはどこだ?」
「回収してきたぞ。ここに出してもいいのか?」
「いいぞ」
ボールドの了承を得たので、その場にオークの群れとオークジェネラルを取り出していく。広々とした解場に、所狹しと醜い顔をした豚顔のモンスターたちが並べられていく。
オークを取り出したことで、他の従業員たちも気合をれる者、口をぽかんと開けて呆然とする者と多種多様だ。そんな従業員たちに活をれるようにオールドの檄が飛ぶ。
「よーし、お前ら仕事だ! 今日は家に帰れると思うなよ!!」
(ブラック企業かよ……)
冒険者ギルドの労働基準法は一どうなっているのかという考えが浮かぶが、今いる世界が異世界だったことに思い至り、前世に染まった価値観を払拭するべく頭を振って切り替える。
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時刻はまだ晝前で、時間的に余裕があるのでどうしようかと考えていたところ、いいことを思いついたためボールドに聞いてみた。
「おっさん、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「実はオークの解の仕方を教えてもらえないかと思ってな。まだオークは解したことがなくて」
「おう、いいぜ。解要員が増えるのはこっちとしても助かるからな!」
そんなわけで、ボールドにオークの解法を教わることになったのだが、解方法としては特に難しい技を要することはなかったためすぐに覚えてしまった。
主なオークの素材はと骨であり、種族的な素材としては睪丸が高値で取引されるとのことらしい。し気になったので聞いてみた。
「なんでそんなものが高く売れるんだ?」
「なんでも滋養強壯や力増強に効く薬の材料になるとかで、その薬が貴族に馬鹿高い値段で売れるらしいぞ」
「バ〇アグラかよ」
「なんだそりゃ?」
「なんでもない。こっちの話だ」
オークの睪丸は力剤として貴族の間で発的な人気となっているらしい。しかし、オーク自の安定した供給ルートが確保できないことと、力剤を調合できる薬師がそれほど多くないという理由から、需要はあっても供給が追いつかず、値段が高騰する原因となっているとのことだ。
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「まあ、そんな薬に頼らなくても、俺は常にびんびんだがな! がはははははっ」
「……そりゃあ、それだけハゲてりゃなー」
「だらかハゲてねぇって!!」
などとおっさんの下ネタを軽く流しながら解作業を進めている従業員に目を向けると、を切り分けるのにかなり苦労している様子だ。オークのはかなり強靭な脂肪に包まれており、並の解ナイフでは刃をれることすら難しい。俺が持っている解ナイフを突き立てたところ、全く歯がらなかったため、解場にあった鋼製のナイフを貸してもらっていた。
「くっ、これじゃあ日が暮れてしまう」
「はは、だが無理矢理やると素材が駄目になっちまうからな。ここは地道に――」
「ふんっ、おおー切れる切れる。よし、これならすぐに解できるな」
「……」
このままでは埒が明かないということで、風魔法を鋼の解ナイフに纏わせ切れ味を向上させる。すると、今まで刃を通すのに苦労していたのが噓のように刃が通るようになり、一時間以上掛かっていた作業がものの十分ほどで終わってしまった。
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その景を目の當たりにしていたボールドは、信じられないものを見たという表を浮かべて固まっている。筋質なつきと頭髪がないということが相まって、まるでギリシャの彫刻のような蕓をじてしまう。
「ぼ、ぼぼ、坊主? い、一なにをしやがった?」
「切りにくかったんでな、風魔法を使って切り易くした」
「そ、その魔法、俺のナイフにもかけることはできるか?」
「できるぞ。ほい」
俺が使ったのは、ナイフ自に風魔法を纏わせてナイフの切れ味を向上させるという単純なからくりの魔法なので、自分以外の使うナイフでもこの魔法は使用可能だ。
そのことを告げると、言葉を詰まらせながらも真剣な表で頼んでくるボールドを不審に思いながらも、彼のナイフにも同じ魔法を使って切れ味を上げてやった。
「こ、こいつぁすげぇ!! あのオークがまるでスライムを切るみてぇに切れやがる。これなら夕方までには解が終わりそうだ!! がはははは!!!」
さすが本職の解職人とだけあって、俺よりも手際良くオークの解を終わらせていく。ボールドがいきいきする度合に比例するかのように頭部が輝いていたのは気のせいではないだろう。
それから、その様子を見ていた他の解作業員たちも魔法をかけてほしいと頼んできた。斷る理由もないため、その場にいた全員のナイフに魔法をかけてやると、ボールドと同じように騒ぎ始めたが、すぐに作業に集中し手早く解をこなしていった。
結局のところ俺が三匹目オークの解を終えたところで晝時になったので、解を教えてくれた禮を言い、晝食を食べるタイミングで殘りのオークは彼らに任せることにした。
俺が晝を食べると言い出したのがきっかけとなり、他の連中も晝休憩を取るということになり、冒険者ギルドの酒場で晝食を食べることになった。
解で付いた汚れを水魔法で綺麗に洗っていると、なぜか視線をじたのでそちらに顔を向けると全員が目を丸くして俺の様子を見ていた。
「なんだよ?」
「ぼ、坊主? それはどうやってるんだ?」
「水魔法で洗っているだけだが?」
「それ、俺たちにもかけられるか」
「ああ、できるぞ」
解の時と同様全員に水魔法で洗浄してやり、解によって汚れていた場所も綺麗に洗い流しておいた。それを見た全員が呆然としていたが、そんなことよりも腹が減っていたので固まっている連中を放っておいてギルドの酒場へと向かった。
「やっと晝飯が食べられるわー」
「あら、ローランドさんも今から晝食ですか?」
「ああ、ニコルたちもか?」
「はい。よければご一緒してもいいですか?」
「ああ、構わない」
酒場に向かう途中ミリアンやニコルも含めたギルド職員たちと出くわし、彼らも晝食を食べるところだったので、一緒に食べることになった。開いている席へと座り、注文を取りに來た給仕のに適當に注文を終えたタイミングでボールドと他の解作業員たちもやってきたのだが……。
「おう、おっさん。もう先に注文して――」
「坊主! いや、ローランド!! 俺んとこで解屋の仕事をしろ!!」
「……なんだいきなり?」
「お前の能力は解に使うべきだ。だから俺のもとで解業員として働け――ぐぼぁ」
「ん?」
勢いよく迫ってくるはずだったボールドが、何かに毆られたように俺の目の前でつんのめる。どうやらボールドを毆ったのはニコルだったらしく、拳を振り抜く構えから両拳を腰に當てると、未だに床に伏しているボールドに言い放つ。
「ボールドさん、その件に関しては本人の意思を尊重するという結論になりましたよね? なにナチュラルにまた勧してるんですか」
「そんなこと決まってるじゃねぇか! こいつには解の才能がある。天才と言っていい! だから、俺の持ってる解技のすべてを叩き込むことにしたんだ!!」
「なにを言うかと思えば、頭だけじゃなく中もハゲになったんですか?」
これ以上ないほどのジト目を向けるニコルに対し、ボールドも一歩も引くことなく反論する。
「な、なんだと小娘! 俺はハゲてねぇと何度言えばわかるんだ!!」
「髪がないじゃないですか! それをハゲと言わずしてなんだと言うんですか!!」
「とにかく、ローランドは解の仕事をしてもらう!!」
「そうはいきません! ローランドさんには今まで通り冒険者をやってもらいます!!」
そこから再びニコル対ボールドの戦いが始まったが、今回はそれだけではなかった。なんと俺の魔法を見ていた解作業員たちも俺が解の仕事をすべきだと主張し始め、俺のことを知っているギルド職員たちがそれに反論するように言い爭いを始めたのである。
狀況はギルド職員VS解作業員というギルドの一部署同士の抗爭にまで発展した。その騒ぎに巻き込まれた冒険者たちが困の表を浮かべながらも、この狀況に介することなくり行きを見守っている。その中にはどっちが勝つかという賭けまで始めようとする者もいて、一種のお祭り騒ぎへと発展することとなってしまった。
「か、カオスだ……」
その中心人といっても過言ではない俺はと言えば、その景を黙って傍観していた。止めにるべきなのだろうが、今回に関してはニコルとボールドの個人的な口論だけではないため、俺だけでは止めることは難しい。
そうこうしている間に、注文した料理がテーブルに並べられたため、とりあえず晝食を食べながら騒ぎが収まるのを待つことにする。こんな狀況で晝食を食べる俺も俺だが、何事もなくテーブルに料理を並べる給仕もかなり肝が據わっていると心する。
そんな中、冒険者ギルドにやってきた俺の顔見知りが騒ぎを聞きつけてこちらに向かってくる。そう、ギルムザックたちだ。
メイリーンの修行を終え、街に戻る道中にへばりきった三人がいたため、とりあえず弱めの強化なら使ってもいいと新たに指示を出しておいたのだが、意外に早く帰ってきたらしい。
「ああ、せんせ――じゃなくて、ローランド君。この騒ぎは一」
「実は……」
騒ぎの中心で一人もくもくと晝食を食べていた俺を見つけた四人が俺のところにやってきたので、事の顛末を話してやると、それに憤慨した四人がニコルと口論していたボールドに食って掛かった。
「ボールドの旦那! ローランドの坊主を解屋にするっては本當か?」
「ああそうさ、あいつはいい解になる。俺の目に間違いはない」
「そ、それは斷固阻止させてもらうわ! 師しょ――あの子は冒険者をするべきなのよ!!」
「僕も反対だね」
「せんせ――ローランド君は冒険者です。解作業員になるなんて間違ってます」
「悪いがボールドの旦那。今回ばかりは俺も反対だ。ローランドの坊主は、冒険者こそ相応しい」
「ふっ、よろしい! ならば戦爭だ!!」
そこからさらにAランク冒険者のギルムザックたちが加わったことで、狀況はますます悪化した。誰も止める者がおらずただ見ていることしかできない俺はといえば、草食のように晝食のサラダをはむはむと食べている。
続いてメインディッシュのダッシュボアの焼を頬張りながら、黒パンを齧る。の旨味とパンの風味が絶妙にマッチして、なかなかいい味のハーモニーを奏でている。
最後に薄味だが沢山なスープを啜りつつ、周りの喧騒をBGMに晝食を楽しんでいると、突如として怒聲が響き渡る。
「いい加減にせんかぁぁぁぁああああああ!!!」
その聲はギルド全を揺るがすほどに大きく、晝食を食べていた俺も一瞬びくりと肩を震わせた。聲を発した犯人がいる方に視線を向けると、鬼の形相をしたギルドマスターが立っていた。
そのあまりの怖さに、一般のギルド職員や解作業員たちは聲も出ないといった狀況で、あれほどまでに騒いでいたのが噓のようにギルドが靜寂に包まれていた。
「なんだこの騒ぎは、説明しろ!!」
「実はねー」
ギルドマスターの問い掛けにミリアンが淡々と説明していく。ちなみにミリアンはこの騒ぎに參加しておらず、俺と一緒に晝食を食べていた。マイペースにもほどがあると思ったが、俺もこの狀況で晝食を食べていたので人のことは言えないだろう。
彼が説明の容を聞いていくうちに、ギルドマスターの眉間にみるみる皺が寄っていく。はっきり言って、明らかに怒っている。
すべての話をミリアンから聞いたギルドマスターは、ボールドの首っこを引っ摑むと他の人間に指示を出し始めた。
「ニコルとミリアン以外の職員たちは、晝休憩後すぐに仕事に戻るように。あと坊主とギルムザックたちは、このあと俺の部屋に來てくれ。いくぞハゲ丸出し男」
「ちょ、ちょっと待てよダレン! 誰が丸出しだ。俺はハゲてねぇって言ってんだろうが!!」
「いいから來い! それともこの場で二度と髪が生えてこないにしてやろうか……?」
「ぐっ……行きます」
ギルドマスターの尋常でない雰囲気を察したのか、大人しく連行されるボールド。その後ろを追いかける形で、俺とニコルたちとギルムザックたちが付いていく。
執務室に到著すると、まずはボールドとニコルに対して大説教が始まった。主にその矛先はボールドだったが、ニコルにも完全に非がなかったわけではないので、なからず叱責されることになった。
それから三十分ほど説教が続いた後、一度説教を切り上げ今日のことを報告することになった。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記
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