《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》54話「領主の屋敷へ」
オークキングに備えての修行を開始してから二日後、俺は今大きな屋敷の前に立っていた。
貴族や有力商人たちが住んでいる居住區を抜け、その中心部に居を構える屋敷がある。この街の領主ラガンフィード家の屋敷だ。
この二日間はオークキングに備えての修行に打ち込み続けており、いくつかのスキルがレベルアップしている。
ちなみにギルドに預けていたオークジェネラルとオークは即日解され、商業ギルドへと納品されている。
言うまでもないことだが、俺がオークジェネラルを倒しCランクに昇格したことはその日のうちに知れ渡り、冒険者だけでなく街の人々の間で噂となっている。
そんなオークジェネラルとオークの買取金は一部の素材を除いて買い取られ、合計で大金貨三枚と中金貨六枚という破格の値段が付いた。
一度の取引で日本円にして三億六千萬円が転がり込んできた形になったのだが、額が大きすぎていまいち実が湧かないのが正直なところだ。
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一番イメージしやすい例えで言えば、三億円の寶くじに當選したというのがわかりやすいだろうか。
Dランクモンスターであるワイルドダッシュボアの買取金が、小金貨十二枚と大銀貨四枚の千二百四十萬円であるなら、それよりも上位のランクに分類されるオークとオークジェネラルの買取金としては妥當なのだろうが、それにしたってあまりにもあまりな金額である。
俺が前世でサラリーマンをしていたことは話しただろうが、確か俺が一生掛けて稼ぎ出した金額が今回のオークとオークジェネラルの買取金と同額だったはずだ。前世の俺の一生とはなんだったのだろうか?
まあ、そんな取り留めのないことを今考えたところで仕方がないことなので、無理矢理に納得させることにする。……納得はしていないがな。
余談だが、オークジェネラルとオークの素材の一部は俺が持っていたりする。骨や睪丸などの素材は必要ないが、希価値の高い魔石や上質なは高級食材として食べることができるので、一部を手元に殘すことにしたのである。
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俺の姿を見つけた二人の門番が、警戒のを浮かべたままこちらを睨みつけている。
領主に呼ばれたとしてはここで帰るわけにもいかないので、覚悟を決めて門番に向かって歩いていく。
「なんだ小僧。ここはお前のようなガキがくる場所じゃねぇぞ?」
「道に迷ったんなら、ここから引き返して突き當りを左に行けば大通りに出るぞ」
二人の門番は若い二人組の男で、俺が抱いた第一印象はそれぞれ正反対だ。最初に口を開いた男は軽薄そうな雰囲気で、つきは鍛えられてはいるものの明らかに格が捻じ曲がっていた。
一方もう一人の男は、和な雰囲気を持ったイケメンで俺を迷子か何かと思い、親切にも大通りに出る道を教えてくれた。その見た目に相応しいほどの量を持った敬意を払うに値する人であった。
「領主様に呼ばれてここへ來た。取次ぎを願いたい」
「はっ、オメェみてぇなガキが領主様に呼ばれただって? 吐くならもっとマシな噓を吐きやがれってんだ!」
「いい加減にしないかアンダードゥーク! もしこの子の言っていることが本當だったらどうするんだ?」
「このガキの言うことを信じるってのかよ。お人好しもそこまでいくと大したもんだな! ええ、コンセス」
なるほど、格が悪いのがアンダードゥークで良識人がコンセスだな。よし、覚えたぞ。
とりあえず、いつまでも彼らの相手をしている暇もないので、この場を解決する方法を実行する。
「おい、そっちの口の悪いの。ここの屋敷の家令を呼んできてくれ。確か、マーカスという名前だったはずだ」
「な、なんだとクソガキ! 誰が口が悪いだ!!」
「お前だよお前。つべこべ言わずにさっさと呼んで來い。それともそんな子供でもできることができないとでも言うのか?」
「くっ、あとで覚悟しとけよ……」
何を覚悟するのか知らんが、とっととこの狀況をなんとかできる人を呼んできてほしいものだ。
アンダードゥークがマーカスを呼びに行くと、コンセスが相方の言を詫びてきた。
「アンダードゥークがすまない。俺はこの屋敷で兵士として働せてもらっているコンセスだ」
「ローランドだ。冒険者をやっている」
「っ!? き、君があの【ジェネラルキラー】か……」
「【ジェネラルキラー】?」
おいおい、俺の通り名は【ワイルド狩り】じゃなかったのか? 初耳なんだが?
コンセスの説明曰く、俺がオークジェネラル一人で倒したことで新たに【ジェネラルキラー】などというとんでもない通り名が付いたらしい。
「人してない冒険者の中にとんでもない逸材がいるとは聞いていたが、まさかそれが君だったとは……」
「まあ、り行きだがな」
俺が今噂の冒険者だと知って、目を見開き驚愕の表を浮かべている。俺としては有名になりたくて行しているつもりはさらさらないのだが、どうやら人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、そういった報は知らず知らずのうちに拡散してしまうもののようだ。
前世でもSNSと呼ばれるものによって、個人の報が拡散され公になってしまうということを聞いたことがあるが、どうやらこの世界ではSNSがない分人伝による報拡散技が発展しているらしい。
マーカスが來るまでにコンセスから聞いた話では、人の噂や國の勢などありとあらゆる報を売り買いする【報屋】という存在もいるようで、何か知りたいことがあればそいつらに頼めば教えてくれるらしい。
「でも、馬鹿高い報料を吹っ掛けられるから、知りたい報は自分で調べた方が安上がりでいいかもしれんぞ」
「まあ、そういう連中がいるということは頭の隅にれておこう」
そんな話をしていると、ようやくアンダードゥークがマーカスを連れてきたようなので、コンセスとの話はそれでお開きとなった。
俺の姿を認めたマーカスが、初めて會った時のように恭しく一禮し、挨拶をする。
「ローランド様、ようこそおいでくださいました」
「手紙に記載されていた指示に従い、こちらに赴いた。さっそく案してくれ」
「承知しました。では、こちらへどうぞ」
「えっ?」
マーカスの言葉に思わず、困した聲をアンダードゥークがらす。どうやら、彼の口から“俺を追い出せ”という言葉が出ると思っていたみたいだが、殘念。本當に俺はここの領主に呼ばれたんだよなー。
屋敷にる前にアンダードゥークの態度に思うところがあったので、踵を返し彼に向き直った。
「アンダードゥークとか言ったな」
「な、なんだよ?」
「お前のその態度は、貴族の家に仕えるとしては些か頂けない。貴族の家に仕えるのであれば、自の行が巡り巡って仕えている主人に害を及ぼすことがあるということを知れ。俺でなければ、その首が飛んでいるということもな……」
「ひ、ひぃ」
アンダードゥークに対し、加減をした殺気を飛ばしてやるとまるでの子の悲鳴のような聲を上げる。
どうやら込めた殺気がし強かったらしく、マーカスとコンセスもそのを強張らせているようだった。
弱い者いじめをするつもりはさらさらないので、すぐさま殺気を解いたが俺の殺気に當てられたらしく、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。
「し遊びが過ぎたようだ。二人とも申し訳ない」
「いえ、お気になさらず……」
「こ、こっちも問題ない……いや、ないです」
「……では、改めて案を頼む」
「畏まりました。ではこちらへ」
俺の行に最初は戸いを見せていたマーカスだったが、そこは場數を踏んでいるらしく、すぐに冷靜さを取り戻すと俺を屋敷へと案し始めた。
案の道中、先ほどの俺に対するアンダードゥークの態度を謝罪してくれたが、こちらとしてはそれほど気にしていないのであれを再教育した方がいいという助言をするだけに留めた。
「あの者には常日頃から言い聞かせているのですが、もともと素行が悪く長年染みついた分を捨てることは難しいようでして……」
「それは仕方のないことだとは思うが、いずれそれが領主様にとっての足枷になることだってある。そのことゆめゆめ忘れない方がいい。特に敵対している貴族派閥があるのなら尚更だ」
「……肝に銘じておきます」
などと忠告をしつつ、しばらくして屋敷の玄関へと到著する。近くで見るとさらにその屋敷の大きさが際立っており、レンダークの街で見た建の中でも一、二を爭うほどだ。
造りとしては木造の中世ヨーロッパ風の屋敷で、外観は以前住んでいたマルベルト領の屋敷よりも豪華な造りという印象をけた。
「ではこちらへ」
屋敷の中にると、外観に負けず劣らず落ち著いた雰囲気の貴族が住むに相応しい裝だった。所々に設置されている調度品は、どれを取っても一級品のそれであり、手抜かりはない。かといって、ただ金をつぎ込んだだけの下卑たものではなく、ちゃんとその場所に見合ったが置かれている。
そして、俺を出迎えるためなのだろう。見習い以外の給仕服にを包んだメイドたちが、一糸れぬきで一禮する。
『いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました』
きのみならず、出迎えの挨拶の聲も揃っており、はっきり言ってやり過ぎなくらいだ。しかし、決して恩著せがましくなく寧ろ心地良ささえじてくる。
「出迎えご苦労」
ただ一言それだけ口にすると、マーカスを伴って応接室へと向かったのであった。
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