《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》56話「令嬢の謝罪とギルドマスターによる調査結果の報告」

突然現れたジョセフィーヌにルベルト子爵は呆れ顔を、俺は「なんだこいつは?」という怪訝顔を浮かべる。

急いでやってきたのか、それとも彼力がないのかはわからないが、肩で息をしながら荒い呼吸を繰り返している。

しばらくその狀態が続き、ようやく呼吸が整ってきたのかそのタイミングで彼が頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

「あの時は、迷を掛けて本當にごめんなさい! マーガレット姉様に言われて初めて気付きましたわ。自分の大切にしているものを奪われるのは、誰だって嫌なものだと……」

「ほう、どうやら俺に寄越した手紙は本だったようだな。そうだ。人間っていうのは、誰しもが大切にしている何かを持ってる。いかなる理由があろうとそれを奪うことなど許されない」

「……」

俺の言葉に、ジョセフィーヌが顔を俯かせを噛み締める。人だけでなくすべての生きというのは何かしらの目的を持って生まれてくる。それが何なのかほとんどの場合理解せずに時を過ごすが、その過程で自分が大切にしたいと思うようなものを見つけることがある。

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それはであれば本能だったり、習と呼ばれることがあり、言わば何のために生まれてきたのかという問いに対する答えだ。

それが人間である場合、生きる目的や生きるためのモチベーションに繋がるため、また明日も頑張ろうという気力が湧く原力となっていたりする。

しかし、それをいたずらに奪ってしまっては、人というのは生きている目的を見失ってしまい、それこそ自ら命を絶つこともあり得るのである。

「俺が強い神を持っていてよかったな。これが心の弱い人間であれば、自ら命を絶っていたかもしれない。そうなったら、あんたがそいつを殺したも同然だ。人の自由を奪うっていうのは、そいつから恨まれても仕方がないという覚悟がある奴だけが行うことを許された特権みたいなもんだ。なくとも俺はそう思っている」

俺の言葉に彼の顔がみるみるうちに青ざめていくのがわかった。おそらく自分の勝手な行いで、人が死んでいたかもしれないという事実に思い至ったのだろう。些か大げさな言い方ではあったが、彼が反省しているのであれば今回は水に流そう。俺は子供が仕出かしたことをいちいち取沙汰すほど、の小さな男ではないのでな。

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「まあ、今回は反省しているみたいだし、俺も別に気にしていないから水に流そう。しかしだ。一応言っておくが……二度はないぞ?」

「は、はい! わ、わかりましたわ!!」

自分の失態が許されたことに喜ぶと同時に、俺の二度はないという言葉を重くけ止め次の瞬間にはこくこくと首を縦に振るジョセフィーヌの姿があった。

これだけ脅して……もとい、釘を刺しておけば余程の馬鹿でない限りは大丈夫だと判斷し、彼に退室を促す。

「もう用は済んだだろ? これから俺は君の父君と大事な話があるんだ。何が言いたいか、わかるな?」

「は、はい! し、失禮しました!!」

そう言って慌てて部屋を出ていくジョセフィーヌに苦笑をらしながら、改めてルベルト子爵と向き合う。

々脅かしすぎたかな?」

「まあ、家の者が言っても聞かないだろうから、あれくらいで丁度いい。謝する。……ところで、先ほどの続きだが、話とは一なにかね?」

「そうだな……」

橫槍がってしまった話を改めてしようと考えた時、ふと疑問が浮かんだ。それは、どこまで話すべきかということだ。

現狀オークキングの襲來というのは、あくまでも俺の推察によるところが大きく、実際にオークキングの存在が確認されたわけではない。

不確定な報を今彼に伝えて余計な混を招くのも憚られるし、下手をすれば噓を吐いたことで罪人として捕まる可能もあった。

しかしながら、狀況証拠とはいえオークキングがいる可能は高いだろうし、もしオークキングがいた場合倒された仲間の報復にレンダークの街を襲ってくるのは間違いない。

間違いはないのだが、いかんせんどれもこれも推測の域をしておらず、オークキングの襲來があると斷定するには明らかな報不足であった。

「これはあくまでも不確定な報として聞いてほしいんだが、近々この街に魔の群れが襲ってくるかもしれない」

「な、なんだって!?」

俺の言葉に怪訝な表を浮かべるルベルト子爵。そりゃ、そんな顔にもなるだろう。出會ったばかりの人間に自分が治めている街にモンスターが襲ってくるなどと言われても普通は信じない。

増してや相手はCランクの冒険者とはいえ、人もしていない子供なのだ。オークキングの襲來などという荒唐無稽な言葉を鵜呑みにする方が、はっきり言ってどうかしていると言わざるを得ない。

「旦那様、冒険者ギルドのギルドマスターのダレン様がお見えになっております」

「……通せ」

俺が詳しい話をしようとしたその時、ドアがノックされマーカスがやってきた。まるで図ったかのようないいタイミングで、ギルドマスターの來訪を伝えに來るマーカスに室の許可を伝える。

しばらくしてやってきたギルドマスターに軽く手を上げて挨拶する。俺の姿を認めた彼が目を見開き驚いた様子で話し掛けてきた。

「坊主じゃねぇか。なんでこんなところにいるんだ?」

「たまたま今日呼ばれていてな。それと、今から例の件について話すところだったんだ」

「そうか……とりあえず、ルベルト子爵。今日はお伝えしたいことがあって參りました」

「ローランド君からし聞いたが、魔の群れが襲ってくるという話か?」

「そうです」

それからダレンの説明によると、俺がオークジェネラルを持ち帰った後すぐにオークキングを調査する冒険者を派遣したということだ。その結果、レンダークの街から冒険者の足で四日程度の距離に、オークキングを頭目とする五千ほどのオークの群れが集結しているということがわかった。

調査報告をした冒険者の見立てでは、すぐにき出すという様子はなく何かを待っているようだったということらしい。

「オークキングに五千のオークとは……間違いないのか!?」

「殘念ながら」

ダレンの口から出た言葉が信じられないといった様子のルベルト子爵が、何かの間違いであってほしいとでもいう顔を浮かべながらダレンに問い掛けるも、返ってきた答えが変わることはなかった。

それにしても、五千のオークとは……俺が予想していた數の倍はいるじゃないか。いや、ここはオークキングの存在が確認できたことを良しとして、次にどうくべきか考える方が先決だな。

「……君。ローランド君、どうかしたのかね?」

々考え事をしていた。なにか?」

「実際にオークジェネラルを倒した君の意見が聞きたい。君であればオークキングに勝てるのかを?」

「無理だな。なくとも今の俺の強さは、オークジェネラルと真正面から戦って辛勝できる程度の実力しかない。決まり切ったことだが、オークキングはオークジェネラルよりも強い。オークジェネラルに苦戦している程度の今の俺では到底太刀打ちはできないだろう」

これは、掛け値なしの俺の正直な意見だ。今の俺程度の実力では、殘っている取り巻きのオークジェネラルを相手にするのが一杯で、とてもではないがオークキングの相手など務まらない。

ただ活路があるとすれば、オークキングがオークジェネラルの純粋な上位種であるならば、理に特化した脳筋タイプで魔法に対しての抵抗力が低いはずだ。

しかしながら、上位種であるが故にその唯一と言っていい弱點を克服している可能があることは否めない。詳しいことは、実際に戦ってみないと何とも言えないのだ。

「とにかく今は、わかっている報から取れる手立てを打ちましょう」

「そうだな……」

「二人とも、すまないが俺はもう帰ってもいいだろうか?」

こういったことは、責任ある人間同士で話し合ってもらった方がスムーズに事が運ぶだろうし、何より俺に聞かせられない話もあるだろう。であれば、俺はこれで退散して自分のするべきことをした方がいい。

「ああ、わざわざ來てもらってすまなかった。ではまた」

「坊主、わかってると思うがオークのことはこちらで話し合って決めるから、それまで誰にも言うなよ?」

「ああ、そのつもりだ。じゃあ二人とも無理しない程度に頑張ってくれ」

二人に別れの挨拶を言い、ソファーから立ち上がって応接室を後にしようとしたその時、背後から聲が掛かった。ルベルト子爵だ。

「ろ、ローランド君! オークが來るからって逃げないでくれよ?」

「今回の件は俺にも責任がある。このまま逃げたら、人として最低の屑になるから逃げたりはしない。安心してくれ」

ルベルト子爵の問い掛けに肩を竦めて答えてやると、今度こそ子爵家を後にした。

悪い予は良く當たるというが、まさか本當にオークキングがいるとは……外れてほしかった。

五千のオークがレンダークの街に到著するまでおそらく最短でも五日は掛かる。調査をした時點できがなかったのは、おそらくだが俺が倒した先遣部隊とは別の部隊がいて、その部隊の合流を待っているといったところだろう。

(それを加味するなら、オークどもが街に來るのは早くて六日。遅くとも十日以には必ず現れるな)

頭の中でオークの群れの到著予想日數を計算していたその時、とある考えが頭を過る。ただ、その考えはかなり打算的というか取らぬ貍のなんとやら的なものというか、とにかく明らかに希観測的な願のような考えだ。

(何も真正面からオークどもの相手をする必要はないんだよな? ただこれを実現するには、あれとあれが必要になるか……)

頭の中でパズルのピースを組み上げるように、オークたちとの戦いの方法を積み上げていく。そして、すべてのパズルが出揃ったその時、一つのルートが完に至った。

「この狀況をなんとかするには、これしかないな……よし!」

なんとなく勝ち筋を見い出した俺は、それに向けての行に移ることにしたのであった。

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