《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》58話「オークの駆除と黒幕との邂逅」

「さあ、駆除の時間だ……」

森にるオークの軍勢を目に、奴らに聞こえない程度の小さな聲でそう呟く。森にすべてのオークたちが侵するのを視認すると、その森に向け一つの魔法を放つ。

「【レインミストテリトリー】」

先日新しく習得した霧魔法で、森全を雨霧を発生させる。突如として出現した霧にオークたちは一瞬戸いを見せるものの、ただの霧では何の痛もないため気にすることなく進行していく。

だが、奴らは気付いていなかった。視界と同時にオークの武である嗅覚も奪われているということに……。

俺が使ったレインミストテリトリーは、霧を発生させる魔法だが、ただの霧ではない。雨で作った霧なのである。

梅雨などの時期に雨が降っているところを見たことがあるだろうが、雨には獨特の匂いがあることに気付いたことはあるだろうか。

その匂いの正とは、とある特定の植が持っている油分が土や石などに付著した狀態で乾燥することがあり、それが雨によって細かな粒子となり舞い上がることで雨特有の匂いが発生しているらしい。

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今のオークたちの鼻はその雨の匂いしか拾うことができず、他の仲間の位置やそれ以外の存在が近くにいたところで気付くことは困難な狀態に陥っている。

とりあえず、これで奴らの視界と嗅覚を奪うことには功したが、これだけではただ見えないというだけで何の意味もなさない。

「いくぞ豚ども、ここからが本番だ……【ソーンアイビーバインド】」

『ブヒィ!? ブヒィ!? ブヒィ!?』

木魔法で木のり、棘を生やした蔦狀のがオークたちの足や腕に絡みつきその行を阻害する。突如として出現した蔦に襲われた一部のオークたちは、いきなりの出來事にパニックを引き起こす。

視界が奪われ、仲間の悲鳴が聞こえてくるが何が起こっているのかわからないという事態に、蔦の攻撃をけていないオークも困を顔に浮かべる。

不明の何かに襲われているという恐怖はオーク全に伝わり、恐慌狀態に陥る。部隊のリーダー格がその場をなんとかしようとしているが、一度パニックが起きてしまえばそれを収拾することは困難を極める。

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蔦に襲われたオークは自分たちのに一何が起こっているのか理解すらできず、ただ周囲の仲間に助けを求めるび聲を上げる。そのびから伝わってくる恐怖により、無傷のオークたちが隊列をし、先ほどまでの統率の取れたきは見る影もない。

かくいうオークキングや取り巻きのオークジェネラルですら、一何が起こっているのか理解が追いつかず。ただ目の前で配下のオークたちが悲鳴を上げるのを黙って聞いていることしかできなかった。

(ふん、この程度で隊列をすとは……知があるとはいえ所詮はモンスターというところか)

思った以上の果を上げていることに気を良くした俺は、さらに追い打ちを掛けるべく追撃の魔法を放った。

「【アイシクルプレイン】! 【フィアスストーム】! 【サンディーテンペスト】! ダ〇アキュート! ブ〇インダムド! ジ〇ゲム! ば〇え~ん!! ば〇え~ん!! ば〇え~ん!!!」

途中から某テレビゲームの主人公が使う魔法に変わっていたが、ちゃんとした魔法が発しているので問題はない。俺が使う魔法の中でも上位に位置する魔法のオンパレードに、オークたちは一匹、また一匹とその命を散らして逝く。

さすがにこれだけ目立った攻撃をすれば、今起きていることが何者かによる奇襲であることはどんな間抜けでもわかってしまうだろう。かといって、奴らに俺の位置を特定するはない。

すでに視界と嗅覚を封じ、一部のオークたちのきも阻害している。それに加え魔法による奇襲で恐慌狀態だったオークたちはなりふり構わず三々五々逃亡を始めた。

「ドウホウタチヨ、オチツクノダ! タイレツヲミダスナ!!」

(あれがオークキングか? ならば、ここは一発デカいのをぶち込んでやる!)

逃げうオークたちの中に堂々とした格の大きなオークを発見する。その周囲にオークジェネラルの姿もあることから、そいつがこの群れの頭であるオークキングだと推測できる。

総大將を発見した今、このまま何もしないわけもなく俺は魔力を一點に集中し高めていく。新しく習得した魔法の中でもかなりえげつない部類にる魔法だが、今回のシチュエーションにはちょうどいい機會なので、迷わず使うことにしたのである。

魔力の高まりが最高となり、魔法の行使が可能となった覚を覚える。その瞬間にやりと口の端を吊り上げた俺は、躊躇うことなく両手を突き出して魔法名をんだ。

「くらえ! 【パイピングホットスチームミスト】!!」

今までオークたちの視界と嗅覚を奪っていた霧が、徐々に赤みを帯び始める。それの意味するところは、急激な溫度上昇だ。

突然だが、ここで料理の話をしよう。前世の記憶を參照するが、世界には主に四つの調理法が存在することを知っているだろうか?一つは焼き、二つ目は煮る、三つ目は揚げる、そして最後は蒸すである。

焼きはフライパンや直火などで加熱する行為で大の溫度は二百五十度から四百度ほどだ。煮るという調理法は、沸騰したお湯での調理が主となり、大百度前後である。揚げるという調理法は熱した油を使用し、百度から二百度程度の溫度となる。

そして、最後に蒸すというのは沸騰した湯気や蒸気で調理する調理法だが、その溫度は沸騰したお湯と同じく百度前後である。元々煮えたぎったお湯から出た湯気を使っているのだから同じ溫度になるのは道理なのだが、今回使用した【パイピングホットスチームミスト】はこの蒸すという調理法の原理が使われている。

今オークたちが験しているのは、せいろの中にぶち込まれた狀態となっており、その熱さは相當なものであることが奴らのびから容易に想像できる。

森全を包み込む勢いだった霧が、すべて高溫の蒸気へと変貌するのだからその中にいた生は堪ったものではないだろう。それを察したのかそれともオークたちに恐れをなしたのか、小や他のモンスターの姿はオークが森にった時點ですでになかった。

の皮が焼け爛れていく痛みと熱さで、瞬く間にショック狀態へとなったオークたちが、さらにその數を減らしていく。まるで豚がゴm……いや、なんでもない。

ここまで広範囲の魔法を使って、俺自にダメージはないのかという疑問を抱くだろう。だが、その點は問題ない。周囲に風と氷の魔法を展開し、熱さ対策は萬全なのである。

この魔法は使う場面を選ぶが、型に嵌ればかなり強力な効果を発揮してくれる。今回はその機會にたまたま恵まれてとても幸運だった。

「さて、これで全滅させちゃあだめなんだよなー。ある程度は生き殘ってもらわないと」

そう、今回の目的はオークたちの絶やしではなく、戦力を削ぐことに重きを置いている。だから、オークたちにはある程度生き殘ってもらわなければならないのだ。

俺一人で殲滅しても問題はないのだろうが、それだとこの戦いを稼ぎ時だと思っている冒険者の反を買うだろうし、なにより俺には英雄願などこれぽっちもない。

力を持つと、それにすり寄ってくる者は必ずおり、そんな連中の相手をすること自が時間の無駄なのだ。だからこそ、今回はそのすり寄る対象を俺ではなくギルムザックたちにやってもらうつもりだ。

幸いなことにギルムザックたちの訓練はかなり順調に進んでおり、俺ほどではないが四人とも元々特化していたパラメータがA-にまで上昇している。スキルも訓練の合間に俺が直接相手をしたおなのか、レベルが一つ二つほど上昇している。

今回は彼らに人柱になってもらうことになっているのだ。もちろん本人たちも了承済みだ。だが、俺がこの話をすると「師匠はもっと多くの人に評価されるべきだ」と宣ったが、俺があまり目立ちたくない旨を懇切丁寧に伝えると最終的には理解してくれたのだ。まあ、主に的な説明となってしまったのはご敬だ。

今生では自分の好き勝手に生きようという目標を掲げているが、面倒事に自ら首を突っ込むほど俺はお節介ではない。かといって困っている人を見て見ぬふりをするほど人として屑でもない。

凄い矛盾しているように聞こえるだろうが、簡単に言うと目立たないように好き勝手に生きていくということなのである。……なに? そんなこと無理だって? そんなのやってみなければわからないじゃないか!

「よし、これくらいでいいだろう」

頃合いを見計らって【パイピングホットスチームミスト】を解除し、周囲に気付かれないよう魔法鞄にオークの死骸を収納していく。今持っている魔法鞄は、オークジェネラルを回収する際にギルドマスターから借りたもので、今まで返す機會がなくずっと持っていたものだ。今回は有難く使わせてもらうとしよう。

「ち、この魔法鞄でも五、六十匹が限界か……」

ギルドから借りた魔法鞄の容量は十トンしかないため、息絶えたオークを収納するにはまったく足りなかったのである。仕方なく持って帰れないオークは諦め、れられるだけのオークをれると、俺はその場を後にした。

今回の奇襲によるオークの被害は大だが、オークが三千五百から四千匹、オークジェネラルが二匹死に、他のオークたちもその多くが深い傷を殘す結果となった。

オークの被害は甚大だが、これでもオークたちが諦めることはないだろう。一度定めた標的を変えるということはしない種族……それがオークなのだから。

「さて、ギルドに戻って報告しますかねー」

「よくもやってくれたわね」

「っ!?」

突如として、掛けられた聲に周囲を見渡すと、目の前の空間が歪む。そして、そこから現れたのは、人ならざる存在である魔族のだった。

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