《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》59話「ローランドVS魔族の」
「魔族か……まさかオークキングの一件に魔族が絡んでいたとはな」
そう呟きながら顔を歪める俺の視線の先には、禍々しい雰囲気を纏ったがいた。全をボンテージのようなものを裝備し、その姿は妖艶だ。
艶のある褐のに長い銀髪、頭の側面に生えた二本の角は彼が魔族であるということを如実に語っている。
はこちらに向かって口端を歪めながら見下したように言い放つ。
「まさかあなたのような人間の子供に、あんなことができるなんてねー。お姉さんびっくりだわー」
「そんなことを言いに來たのではないのだろう? 要件は……邪魔者の排除ってところか」
「頭のいい子供は嫌いじゃないわよー。それじゃあ、始めましょうか?」
そう言うと、彼はにめた魔力を解き放つ。圧倒的なまでのその力に心焦りを覚えつつ、目の前の魔族を鑑定するが……。
【名前】:?????
【年齢】:?????
【別】:?????
【種族】:?????
【職業】:?????
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力:?????
魔力:?????
筋力:?????
耐久力:?????
素早さ:?????
用さ:?????
神力:?????
抵抗力:?????
幸運:?????
【スキル】
?????
得られた報は、何もわからないというものであった。この狀態になる可能としては、二つある。
一つは鑑定する側の能力とされる側の能力に圧倒的な力の差があるということだ。所謂格上相手に鑑定系の能力が通用しないというわかりやすい結果だ。
もう一つは、相手が自分の能力を隠したり偽証したりできるスキルを持っている場合だ。今回の場合は十中八九前者であることは確実だ。
(このタイミングでボスクラスが出てくるとはな……ゲームじゃ負けイベントなんだろうけど。こりゃ本気出さないと死ぬな)
そう心で悪態を吐きつつ、全力で強化を展開する。その姿に気を良くしたが、顔に張り付けた笑みをさらに深める。
「あら、そのレベルの強化が使えるのね。なら、死ぬことはないかしら。じゃあ、々わたしを楽しませて頂戴!!」
そう言うと同時に、地面を蹴って突っ込んでくるの突進を紙一重で躱す。によって起こされた目の前の狀況に目を丸くしつつも、次の攻撃に備える。
が蹴った地面が深く抉れており、突進の風圧によって深く生えていた木々が吹き飛んでしまった。これが魔族の圧倒的な力だと言わんばかりに……。
「ふーん、避けるのは上手みたいね」
「逆だろ? あんたが當てるのが下手なだけだ」
「へぇー、じゃあこれはどうかしらねっ」
がそう口にした瞬間、彼の手に魔力で作った球が出現する。そして、それをそのままこちらに向かって放ってきたまでは理解できたが、次の瞬間俺はそれを躱すことに意識を集中させる。その球の威力がとんでもないことを瞬時に見抜き、避けるという選択肢しか取れなかったからだ。
しかし、彼の手から放たれる球の數はかなりのもので、一発二発ほど被弾してしまう。
「ち」
「どうやら、これは避けられなかったみたいね」
「下手な鉄砲も數を打てば當たるってやつだな」
「いつまで強がっていられるかしらね?」
それから彼の打ち出す球を避ける戦いが繰り広げられるものの、確実に被弾を重ねダメージが蓄積していく。こちらも全力で強化を掛けているが、それでも被害を最小限にするので一杯だ。
(くそう、化けめ! この俺が手も足もでないとは)
このままでは、ただあのの放つ球の的にされるだけだと思い、一つの魔法を使用する。
「【フローズンコキュートス】!!」
俺が今使用できる魔法の中で、最も威力の高い魔法を放つ。を中心とした極寒の牢獄が彼を包み込み、そのを凍らせる。後に殘ったのは、氷の中に閉じ込められた彼のだけであったが、その程度ではその場凌ぎにすらならず、氷の牢獄はいとも容易く瓦解する。
「人間の子供にしてはなかなかの威力だったけど、殘念ー。わたしには通用しなかったわね」
「そのようだな」
「で、どうする?」
「どうもしない。あれで仕留められないなら、今の俺にあんたを殺すはない」
「そう……じゃあ、これで最後にしてあげる」
そう言って彼の背から蝙蝠に似た翼が生え、空高く飛び上がる。そして、右腕を天高く上げるとその手に魔力の球が出現する。それはどんどんと大きくなり、最終的に直徑四、五メートルほどにまで膨れ上がった。
その球に込められている魔力は想像を絶するほど強大であり、そんなものをまともにくらってしまえば、俺のは跡形もなく消え去ってしまうだろう。かといってあれをどうこうできる力など今の俺にはない。
諦めてその場にへたり込もうとするのを、寸でのところで押し留める。俺は彼に敗北したが、心まで屈するわけにはいかない。
(俺にもうし時間があれば、あいつに勝てたかもしれないが……それを言ったところで負け惜しみだしな)
どんな言い訳を述べたところで、それはただのたらればでしかなく、不確定なものでしかない。であれば、潔く諦めて彼の攻撃をけてやろうではないか!
そう覚悟を決めたところで、ふと彼の背後が歪む。どうやら、誰かがやってきたらしい。
「ヘラ、何をしている?」
「見てわからないの? 今止めを刺すところよ」
やってきたのは、と似たような種類の服をに纏った男だった。彼と同じく褐のに二本の角を生やしている。
「そんなことを聞いているのではない。魔王様からの招集が掛かっているはずだ。こんなところで、油を売っている暇はないと言っている。今すぐ來い」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? 今からあの坊やに止めを!」
「駄目だ。魔王様の招集は絶対だ」
「この頭でっかち! ち、仕方ないわね……坊や、命拾いしたわね! 今回は見逃してあげるわ。々次はわたしの邪魔をしないこと――」
「いいから來い」
の去り際の言葉が終わる前に、男の魔族は彼を歪んだ空間に押し込んだ。そして、こちらを一瞥すると「ふん」と鼻を一つ鳴らし、彼と同じく歪んだ空間へと消えていった。
「助かったのか?」
誰にともなく呟いた言葉が周囲に響くも、それに答えてくれる者はいない。絶絶命の危機からしたことで張から解放され、その場にへたり込む。
初めて自分の力が通用しないとじた相手を目の前にして、湧き上がってきたは恐怖ではなかった。
相手の力の方が上という屈辱と、自分よりも強い存在がいるということに対する悔しさであった。
その場にへたり込んだあと、拳を何度も地面に叩きつけ己の不甲斐なさを噛み締める。初めての敗北に拳が白むほど力強く握ってしまう。
「この屈辱、絶対に忘れんぞ……」
三十分か一時間ほどその場にへたり込んでいたが、いつまでもそうしてるわけにもいかず、俺は立ち上がってしばらくの間力なくとぼとぼと歩き始めた。
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