《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第7話 何も、わからないけれど
 ヤンキーとの壯絶な鬼ごっこをおえた俺と六実は、モールを見て回ることにした。
 洋服店では、六実が俺をトータルコーディネートしてくれた。俺も、気合をれて選んでみたのだが、とても優しく卻下された。
 次に、ペットショップに行った。犬や貓、ハムスターなどと戯れる六実の姿はもう可らしすぎて抱きしめたくなるほどだった。
 その次に向かった喫茶店では多くのことを語り合った。彼は、一人暮らしということや、俺は昔バスケをしていたこと。
 様々なことを、笑い合いながら語り合った。
 他にも、本屋や、スポーツショップ、雑貨屋など、本當に々なところを見て回った。
 楽しげに、今、俺たちは幸せだと誇張するように。
 六実はずっと、絶え間なく笑っていた。そう、笑っていたのだ。でも、俺が六実の笑顔を見ることは葉わなかった。
 
    *   *   *
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 これからすぐにでも闇に染まるだろう空は、オレンジと紫のグラデーションで彩られている。
 本當に、あの時と同じような空だった。
 違うのは、俺がその空にあの時より遠いということと、ここは観覧車の中ではないということだ。
 そして、同じなのは……側に、一人のの子がいるということ。
 俺たちは、夕暮れ時になるまで、ショッピングモールを遊び盡くした。そして、ちょうど今店から出てきたところだ。
 「あー、楽しかった〜!」
 そのの子、六実は、満足げにそう言いながら背びをした。
 その姿を見ると、思わず微笑みが零れてしまう。
 それを見た彼は俺に倣ってニコッと笑顔を返してくれた。とても、綺麗で、儚げで、可くて、すぐに壊れてしまいそうな。
 「じゃ、行こっか」
 六実が俺の手を握ってくる。
 その手からは、相変わらず熱が伝わってきていたが、ひどく、それは冷たかった。
 
 こくり、と頷いた俺は靜かに、バス停までの道を歩き始めた。
 青春の疾走。
 その言葉が急に脳裏に浮かんだ。何時間しか経っていないのに、何故かあの覚が遙か昔のことのように思える。
 「馨くん」
 六実が前を見たまま話しかけてきた。
 「今日、楽しかった?」
  それは、ゆっくりと、落ち著いた聲だった。
 「……あぁ。 楽しかった、と思う」
 俺は、言葉を探るようにしてそう返す。
 「……やっぱり、馨くんはやさしいね」
 予想外の言葉に俺は思わず六実の方を見る。
 「やさしい。本當にやさしいんだと思う。……私なんかと違って」
 彼は、よく教室で見せていた、あの顔をした。
 すべてを諦めてしまったような。そんな、哀しい顔。
 「そんな顔、するなよ」
 前だけ向いていた六実が、やっと俺の方を見た。そして俺はふっ、と自分を嗤ってから話し始めた。
 「俺、5年前、ある誓いを自分の中で立てたんだよ。バカみたいな誓いなんだけどな」
 六実は、相変わらず、哀しそうな目で俺を見ている。
 「その誓いっていうのが、絶対に俺はもう傷つかない。って誓いなんだ」
 六実はきょとんとした表で俺を見直した。
 「まぁ、その後何回か、それを破ることもあったけど、その誓いのおかげで俺は今こうして正常に生きてる」
 これは大袈裟でもなんでもなく、事実だった。
俺はかつて、ある大切な人を失った。
 その時、誓ったのだ。もうこんな思いはするまい、って。
 だから、俺は、人との関係を深めない。結局損するのは俺なのだ。
 もし、俺があの誓いを立てず、そのまま生きていたらどうなっていたか。
 恐らくだが、俺の心はズタボロになり、挙げ句の果てには、人の好度を上げまくって、リセットを自分からしまくっていたかもしれない。
 もしかしたら、いつかこれにも慣れれるんじゃないか、なんて信じて。
 しかし、人の好度を上げるということは、その人に対する自分の好度を上げることと同義だと俺は思う。
 したがって、人との関係を失う、というのに対して慣れることは不可能なのだ。
 俺は六実が何に苦悩し、あれほどの哀しい顔をするのかわからない。
 だが、わからなくても、知らなくても、俺が、このくらいのことを言うのは許されると思う。
 
 「だからさ。もっと楽に生きていいと思うよ?」
 
涙。
六実の頬を一滴の涙が伝った。
き通っている、とても綺麗な涙が。
「何言ってるか、私にはわかんないよ……」
 六実は、あふれる涙をこらえながら、そう聲を絞り出した。
 そして、手で涙を必死に拭いながら、彼は後ろを向いた。
 俺は、六実の正面に回ろうとしたが、來ないで……という聲にそれは遮られた。
 「泣いてる顔、見られたくない……」
 5分ほど経っただろうか。
 泣きじゃくっていた六実はふぅー、と息を吐き出すと、勢いよく俺の方を向き、微笑んだ。
 「もう大丈夫!  さ、帰ろうか」
 「あぁ」
 彼の微笑みには、哀しさも、諦めもじられなかった。
 ただ単純な、心の底からの微笑み。
 まさにそんなじがした。
 その後、談笑しながらバスに乗り、同じバス停で降りた俺たちは、そこで別れた。
 それにしても……
 「俺はなんて恥ずかしいこと言ってんだ〜!!!!!」
 俺の聲が閑靜な住宅街の靜寂を破った。
 いや、出會ってから3日のの子にだぞ?
 「もっと楽に生きていい」だよ?
 死ね俺! マジで消えろ!
 「なんですか?うるさいですよ〜。死んでくれませんか?マジで消えてくれませんか?」
 「あぁ。殺してくれ消してくれ」
 俺はポケットからスマホを取り出すと、ティアに話しかけた。
 「お前、どうせ聞いてたんだろ?」
 目ざといこいつのことだ。こんないいネタを聞き逃すはずがない。
 「え?なんのことですか?「もっと楽に生きていい」なんて聞いてませんし録音もしてませんよ?」
 「わざわざ録音までしてんのかよ……」
 しかし、いつものようにティアと話していると、幾分か気は紛れた。
 あんなこと言ってしまったが、俺は彼について何もわかってないし、狀況は何も変わっていない。
 しかし、だ。
 このことで彼の気がしでも楽になったなら、あんな恥ずかしいことを言った甲斐もあるというものだ。
 だが、そうすると……
 「ティア! 六実の好度を教えてくれ!」
 もしかしたら六実の好度が上がっているかもしれない。
 そうしたら、俺と六実の関係は消えてしまう可能が出てくる。それだけは防がなけれ……
 「あ、17パーセントですね。心配には及ばないみたいです」
 「なんでだよっ!」
 おい!どうなってんだ!
 お買いデートして、帰りがけには彼が泣くほどいいこと言ったのに好度下がってんじゃねぇか!
 まったく……
……彼の好度が上がってないのは明らかにおかしい。
 
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