まったく、とんだ出費だ……。

 俺は壊したスマホを攜帯ショップで買い換えた後、街をふらふらと歩いていた。

 様々な店が立ち並ぶこの通りは常にがやがやとした騒めきに包まれている。ティッシュ配りのお姉さんを華麗にスルーした俺は、財布の中を確認して肩を落とした。

 現在の我が財政は実に危機的な狀況となっている。殘金は千円札が一枚のみ。それとレンタルビデオ店のカードと、コンビニのポイントカードしか財布にはっていない。

 もう一度俺がため息をついたとき、買いたてのスマホが振し、通知音が鳴った。

 「機種変更完了です♪  これからも馨さんをナビゲートさせていただきますのでよろしくおねがいします！」

 そのスマホのディスプレイにはあざとく敬禮しながらウィンクする可らしいキャラクターが映っていた。

 「あぁ、よろしく。ところで、前々から思ってたんだがそのナビゲートってなんなんだ？」

 俺は素直な疑問をティアに向けてみた。

 「はい、私は馨さんを良き未來へ導くためのナビゲートをさせていただいています。まぁ、のキューピッドってところでしょうか？」

 「え？  お前にのアドバイスとかしてもらったことないんだけど……」

 「何言ってるんですか馨さん！ いつも好度を教えてあげてるのはだれですか？」

 ティアは恩著せがましく鼻をふふんと鳴らしながら威張ってきた。

 「はいはい、ティアさんですよ」

 俺はなんだか面倒くさくなったので、そうやって會話に終止符を打った。

 そのときだった。

 「うわっ！」

 「きゃっ！」

 俺のに軽い衝撃が走る。

 その衝撃の原因は、実にラブコメ的だった。

 走って來たの子が俺のにぶつかったのだ。(パンは咥えてなかったが)

 し時間をおいて、そのの子は俺のに埋めていた顔を上げた。

 そして、俺の顔を見るや否や驚いた表を見せて、こう言った。

 「私を……私を助けてくれ！」

    ＊    ＊    ＊

 で、俺は路地裏に引きずられてきた訳だが……

 顔近いって、顔！

 だれにも見られないところで話がしたい、なんて言われてこの路地裏に來たのだが、あまりにも狹すぎる！

 そのせいで、彼と俺はを寄せ合い、顔を付き合わせるような形になっている。

 彼の顔は実に整っており、六実とも張りあえるほどびかわいい。

 髪は艶やかな黒髪の長髪で、服裝は薄い青のロングスカートに藍のカーディガンという出で立ちだ。

 紅しているように見える頬を隠すように俯く彼をしばし見つめ、俺は確信した。

 こいつは月凜だ。

 月凜と俺は小學校時代からの付き合いだ。いや、正確に言えば、付き合いだった。

 すなわち、俺は凜との関係を一度リセットしているのだ。

 中學校の卒業式のこと、俺が特別な関係をんでしまったばかりに……

 「そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいぞ……」

 凜が先ほどまでに増して俯きながら、恥ずかしそうにそう言った。

 「っ！ あ！ すまん！」

 俺は慌てて目を逸らすと、しょうがなく、目線をビルの隙間から見える空へ向けた。

 まさか、こんな偶然があるとは……

 過去にリセットを起こした子と再び出逢い、路地裏でなんだかいい空気になる。

 客観的に見るととても素晴らしいシチュエーションのようだが、本人から言わせていただくと、もどかしいの一言である。

 昔の楽しかった日々のことは彼は忘れている。それなのに俺の方はそのことを覚えている。

 このなんとも言えない気持ちを吐き出せたなら、どれだけ楽になるだろうか。

 「あの、そろそろ事を聞いてもらってもいいだろうか？」

 「あ、あぁ。わかった」

 彼の一言によって俺の思考は遮斷された。

 「実は私は、ある輩に追われているのだ」

 「ある輩？」

 俺が聞き返すと彼はとても怯えたように言った。

 「あぁ、そうだ。本當に恐ろしい連中でな。何もかも自らののままに手にれようとする」

 そんな恐ろしい輩がこのご時世にいるのか、と俺はし戦慄を覚えた。

 だが、俺が思うより早くそいつは現れた。

 「みぃつけた〜」

 狹い路地のり口で笑っているそいつは、じゅるりと舌でを舐めるとこちらに向かって走り出した。