《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第13話 神様もなかなか悪くない
「こっちだ!」
 俺はうろたえる黒髪の彼、おそらく月凜だと思われるの子の手を引いて走り出した。
 「おい! まてやゴラァ!」
 いかにもなヤンキーのセリフを吐きながら追いかけてくるあいつの髪は金髪で、耳には邪魔そうなピアスを得意げにさげている。
 狹い路地を抜けると、比較的広めの大通りに出た。しかし、そこには別のヤンキーが待ち伏せしており、こちらへ飛びかかってきた。
 「くなやオラァ!」
そのヤンキーはそうびながら俺たちとの距離を詰めてきた。
俺は近くにあった赤いコーンで相手の目をくらませつつ、凜の手を引いて逆方向へ走り出す。
 奧にはさっきの一味と仲間と思われるヤンキーっぽいお兄さんがいたのでもう一度別の裏路地へ。
 しかし、その裏路地では3人ものヤンキーがキョロキョロしていた。
 なんだよこれ。エンカウント率高すぎだろ……。
 「後ろにも來ているぞ、どうするんだ……?」
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 「どうするもなにも……。これじゃ手詰まりじゃねぇか……」
 凜が言うように俺たちの前にはヤンキーが3人。後ろにも後を追いかけてきたヤンキーが3人いる。つまり俺たちは袋の鼠ってわけか。
 「さぁ、兄ちゃん。その娘を渡してもらおうか」
 前にいたヤンキーの一人がニヤニヤしながら言う。お前、きっとB級映畫とか好きな質だろ。そのセリフベタ過ぎだっての。
 俺はそんなヤンキーの言葉に応じるわけもなく、無言で凜の前に立った。
 「はっ、見上げただ」
 だからベタ過ぎだっての。
 「じゃあ、あの人にやってもらうか。兄貴! お願いしやす!」
 ヤンキーがそう言うと、後ろから一つの人影が出てきた。
 そいつは明らかに周りのヤンキーとは雰囲気が違った。服裝や髪型はそこまで派手ではないものの、そいつ自が発するオーラというか何かが、俺のを粟立たせた。
 そいつは、下を向きながら近づいてきて、咥えていたタバコを棄てると、(そのタバコは他のヤンキーが回収してた。)俺を思いっきり睨んだ。
 「おいてめぇ。俺の彼に目使うとはいい度だな。……って……!」
 上から目線でをし反り返しながら威勢を張っていたそいつだったが、その様子は俺と目が合った瞬間一変した。
 顔はみるみるうちに青ざめていき、表は稽さをじるほど畏怖に満ち満ちていった。
 「このご無禮をどうかお許しください!!!!!」
 そのヤンキーは瞬時に土下座の姿勢にると、額を地面にり付けながらそうんだ。
 「「は?」」
 その場にいる全員がそう聲を揃えて言った。
 「バカてめぇら! この方がかのシューティングフレアダンサーと呼ばれる方だぞ!」
 「「こ、この方がかの、シューティングフレアダンサーなんすか ︎」」
 いや、なんだよその、シューティングフレアなんとかって。今どきの廚二の方がもうちょっといいネーミングセンス持ってるぞ。
 リーダー格のヤンキーの一言で、全てのヤンキーが俺と凜に向かって土下座した。
 「え、いや突然どうしたの?」
 俺がそう問いかけると、ヤンキーは、し顔を上げながら言った。
 「わからないのも無理はありません」
 ヤンキーはそれを皮切りに何やら語り出した。
 「私は先日のゲームセンターでの激戦、あの取り巻きに居た者です。いやぁ、あの闘いは凄かった。今でも夢に見るほどです」
 ヤンキーは子がおとぎ話を語るような、そんな無垢な瞳で語る。
 「その戦闘は私たちの中で言わば伝説となりました。そして、あなた様ともう一人のお方は私たちの神となったのです。シューティングフレアダンサーとオールゲームウィナーとして……」
 
 いや、なんだよそれ。
俺は英雄の武勇伝よろしくゲーセンでのいざこざを語る彼を見て、思わず吹き出してしまった。
 シューティングフレアダンサーって......
 「ですので、私は今天にも昇るような気持ちです。まさか神様に會えるとは!」
 そいつがそう言うと、なんだか周りの奴らも「おぉ神よ!」とか言い出した。
 こいつら、ヤンキーと思ってたらなんだかやばい宗教の信者だったみたいです。
でも、そうなると俺が神なんだよね?ちょっと憧れるかも……
 「……なんてね」
 ま、神様なんてろくなもんじゃないだろうけど、折角の機會だしな。
 俺は凜の手を引き、道の脇の木箱に乗った。
 「我はシューティングフレアダンサーである。その者たち、ひれ伏すが良い!」
 「「ははぁ〜〜」」
 俺がダメ元でそう言うと、ヤンキーは完璧に揃ったきで俺にひれ伏した。
 水戸黃門ってこんな気分だったんだろうな……
 「凜、行くよ!」
 
 俺は再び凜の手を引いて路地裏を走り出す。
 いつかと同じように、後ろからヤンキーのび聲が聞こえたが、構いはしないで走り続ける。
 し勢を崩しながらもしっかりとついてきている凜の姿を確認すると、俺は前を向いた。
 よく考えたらこれってあんまりよろしくないんじゃないか……?
 そんな考えがふと頭に浮かんだ。
 俺は狀況に流された結果とはいえ、六実小春という彼がいる。それなのに俺は、別のの子の手を引いて走っている。
 走っていることで出るものとは違う、冷たい汗が背中を伝っていったのを俺がじたとき、その聲が響いた。
 「馨くん! ストップッ!!!!!」
 その聲の主は考えるまでもなかった。あぁ、よくあるラブコメ展開なのにどうして心はこんなに沈んでいるんだろう。
 世の中の全てのラブコメ主人公に尊敬の念を送りつつ、俺は足を止めた。
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