《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第22話 鉄塊との戯れ方
 「第24回朝倉ティア爭奪戦! 最初の挑戦者は誰だ〜!」
 「はい! 六実小春いきま〜す!」
 急にキャラが変わったティアのタイトルコール(なのか?)に六実が手を挙げて元気に答えた。というか24回ってなんだよ。23回分サバ読みすぎだろ。まぁ面倒臭いからツッコまないけどさ。
 「わかりました、では小春さんよろしくお願いします♪」
 「うんっ、よろしくね、ティアちゃん」
 傍から見れば姉妹のような二人が手をつなぎ、歩いていくのを俺と凜はし離れて見守る。隣の彼が「羨ましい……」とか「私も手を……」とか言ってたのは多分気のせいなので無視します。
 「じゃあ、何か乗りたいのとかある?」
 「うーん……やっぱりせっかくなのでジェットコースターに乗りたいです!」
 「え……」
 ニコニコとティアに尋ねた六実だったが、ジェットコースターという単語が出た途端、顔からの気が引いていった。
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 「あれ? 小春さんジェットコースター苦手でした? それなら別の乗りでも……」
 「ううん! 全然大丈夫だから! ほら、行こ?」
 そう言って六実はティアの手を引いてジェットコースターへ向かった。六実さん、足震えてますけど大丈夫ですか?
 全くと言っていいほど混んでいなかったそのジェットコースターは、待ち時間ゼロで乗ることができた。せっかくの遊園地でジェットコースターに乗らないのもあれだと思い、俺と凜も六実とティアの後ろの座席へ。
 「凜は大丈夫なのか、こういう絶系」
 「もちろんだ。このくらいのもの余裕だ」
 凜は得意げにを張って俺の問いに答えた。それはよかったが、前の彼は……
 「ティアちゃん、落ちたりしないよね? 壊れないよね? 私飛んでいかないよね?」
 「大丈夫ですから。落ち著いてください」
 前の座席では半泣きの六実をティアがなだめていた。さっき姉妹みたいだとは思ったが、これじゃティアが姉なんじゃないか?
 そうこうしている間にジェットコースターは、ガタンという音とともにスタートを告げた。
 まずはお決まりの上り坂だ。ガタガタと音を立てて登って行くこれには俺も恐怖心がし湧いてくる。
 「なんだ? 馨も怖いのか?」
 「なわけないだろ。そっちこそなんだか震えてないか?」
 「そ、そんなわけあるものか!」
 そんな他もない會話をしているうちにも俺たちは頂點へ到達した。
 ニコニコと恐怖のかけらも見せないティア。
 もう泣き出しそうなくらい震えている六実。
 恐怖を悟らせないよう必死にこらえている凜。
 様々な思いを乗せ、遂にジェットコースターは……!
 ……進みださなかった。
 ……つまり、俺たちはコースの最高點に取り殘されたということだ。
 それを理解するにはいくらか時間がかかったが、1分もすれば総勢4名の乗客全員が狀況を把握した。
 「どうしましょう、この狀況……?」
 苦笑いできくティアに応える聲はなく、ただ時間は過ぎていく。
 下からメガホンでぶスタッフさんによると、機械系のトラブルらしい。
 俺がはぁ、と重いため息をつくと他の3人も呼応するようにため息をついた。
 「ティア、どうにかならないのか?」
 「はい、攜帯の方に戻ればなんとかなりますけど…… 今それはできませんし……」
 「待つしかない……か」
 皆、恐怖や落膽や、しの安堵に肩を落としている。
 
 「ねぇ、ティアちゃん、しりとりしよっか」
 「……はい?」
 六実の予想外な発言にさすがのティアも聞き返した。
 「はい! じゃあしりとりのり! りんご!」
 強制的に始まったしりとりにティアが困を見せながらも続ける。
 「ご、ご……ごま!」
 「ま、ま……マレーシア……」
 ティアに続けた凜から俺にターンが回ってくる。
 
 なんでこいつらこんな狀況でしりとりしてるんだろう? 面倒臭いしさっさと終わらせてしまうのが得策だろう。
 俺はそう心に決著つけて、こう言い放った。
 「じゃあ……あんぱん」 
 「えっと、「ん」ね? ん、ん……ンジャメナ!」
 「ちょっと待て! 最後に「ん」がついたら普通負けだよな!」
 
 俺の速攻で終わらせてしまおうという策略は六実によって平然と切り捨てられた。というかンジャメナってアフリカの都市名だよな。六実さん意外と博識なんですね。
 まぁそんなじでしりとりはどんどん進んでいき、俺と六実だけを殘して二人は落した。ちなみに俺が生き殘っているのはいくら「ん」が最後につく言葉を言っても六実さんがしっかりつないでくれるからです。
 「ん、ん……ンジンガ・ンベンバ!」
 俺の「ん」攻撃にも屈さず六実が返してくる。ちなみにンジンガ・ンベンバとはかつてコンゴ王國の王様だった人だ。って、俺の知識量もすごいな……
 「ば、ば……バルーン」
 「ん、ん、ンギュア基地!」
 ンギュア基地 ︎ どんだけマニアックなんだよ。カービィ相當やりこんでる人じゃないとわからないだろそれ。
 まぁ、そんなじでしりとりは進んでいき、遂に最終局面へと差し掛かった。
 「ぽ、ぽ……ぽんかん!」
 「また「ん」 ︎ もう無いよ〜」
 いや、普通の人は最初から一個もありませんから。
 そう俺が心で突っ込む間も彼は真剣に「ん」から始まる言葉を探していた。
 ちなみに凜とティアはなぜかスヤスヤと寢息を立てている。ジェットコースターで寢るなんて彼らが史上初なのでは無いだろうか……
 「あ!わかった!」
 散々考えた末に六実は答えが出たようで、元気よく立ち上がって俺の方を向いた。
 「しりとりって最後に「ん」付いたら負けでしょ? だったら馨くんの負けだ!」
 えぇ…… 散々「ん」から始まる言葉言っておいてその結論に至るんだ……
 ある意味嘆している俺なんか気にしていないようで、彼は無邪気に飛び跳ねながら喜んでいる。
 飛び跳ねて、いる……?
 その瞬間、止まっていたジェットコースターが進みだした。機械系の問題が修正され、再スタートしたのだろう。
 「えっ、ええ ︎」
 突如進みだしたジェットコースターに六実は慌てふためいている。また、立っているので拘束ははめていない。
 「きゃああああぁぁぁぁ!!!」
 「つかまれ!」
 突如発進したジェットコースターはとてつもない速度で坂を下りだす。
 それに伴い宙に投げ出された六実の手を俺は片手で捕まえた。
 そんな俺たちのことをジェットコースターが気にかけてくれるわけもなく、どんどんスピードは増していく。
 「絶対離すなよ!!!」
 「うん!!! 離さない! 絶対離さない!!!」
 風を切る音に負けないくらい大きな聲で六実と俺はんだ。六実の瞳からこぼれ出る涙は風にさらわれ後方へ飛んで行っている。
 風にたなびく髪が俺の顔に當たって鬱陶しい。……今回は噓ついてません。こんな狀況でいい匂いなんて分かるわけないです。
 六実の手を摑む俺の腕も結構辛い。殘りの二人に手伝ってもらおうかとも思ったが、睡中で起きる気配はなかった。
 しかし、俺の拘束も外れてくれたのは不幸中の幸いだ。おかげで六実をうまく捕まえることができたし今もを乗り出して彼をつかむことができている。まぁ足で飛んでいかないように踏ん張るのはきついが……
 ジェットコースターは六実を振り落とそうとしているかのように激しく上下左右に揺れる。
  ちょっと本気でやばい。マジで腕がもげそう。でも……!
 たとえ腕がもげたとしても、この朽ち果てようとも、俺は彼を守る!
 そんな廚二っぽいセリフを頭から追い出して俺は六実を自分の方に引き寄せた。
 そのまま六実のを車の中に引きれる。
 「うわっ!」
 
 六実を引き込んだは良かったが、彼のが勢い余って俺に突っ込んでしまった。
 俺にに埋まる六実が顔を上げた瞬間、俺と目が合った。
 綺麗な瞳、だな……
 俺は彼の瞳を見てひとりごちた。彼は頬をし赤く染め、ぼーっとしている。
 
 「まったく、あんな大変なことがあったのにこんなことをしているとは……」
 俺が突然の聲に顔を上げるとティアが意地悪そうな笑みを浮かべて立っていた。
 「は? なんのことだ……って……!」
 俺は自分の現狀を確かめてその言葉の意味を悟った。
 倒れこんでいる俺の上に六実が覆い被さっており、足は絡めあっている。さらにしっかりと見つめ合っていたとくればティアの誤解も理解できる。
 「いや! 違うのティアちゃん。これは、その……」
 六実の必死な弁解もティアには屆かず、先ほどと変わらずニヤニヤしている。
 そんな中、凜だけが気持ちよさそうにむにゃむにゃ言っていたのだった。
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