どすっ、という音を立てて俺は地面に座り込んだ。

とにかく、俺が今すべきことは現狀把握だ。

目的地である拠點はここから見えないが、恐らくそこまで遠くはないだろう。

現在の裝備は……とポケットを探ってみたものの、出てきたのはハンドガン一丁のみ。

殘弾數を確認するべくマガジンを銃から一度出す。

思っていたよりっていたＢＢ弾に驚きつつ、俺はハンドガンのセーフティーを解除し正面の木へ標準を合わせる。本のエアガンなど初めて握るが、今までさんざんシュミレーターで撃ってきた経験を生かせば何とかなるだろう。

かちり、わずかなが心地よく指に伝わるや否や、銃口からオレンジの弾が勢いよく出された。

木に命中したそれは、しの傷を幹に刻み、地面へ落下。

撃つ瞬間、全に伝わった振にしの高揚を覚えながらも、俺は靜かに左手を上げ、腕時計を覗く。

著替えさせられた時につけられたものだと思うが、黒の中にしの緑が混じるデザインが妙にかっこいい。

……そんなことはどうでもいい。

現在の時刻は８時２分前。

いつもなら布団の中で睡している時刻だな……としげんなりしつつ、秒針のきを俺はひたすらに見つめた。

森の中から聞こえる、葉が風に揺れる音、鳥の囀りなどは意識の中から遠ざかり、ただ聞こえるのは規則的に時を刻むカチ、カチという音のみ。

３……２……１……

「ゲーム、スタート……か」

俺はハンドガンを強く握り直し、先ほど多くの男たちが消えていった森の中へ歩みを進めた。

広場の踏み固められた土と違い、そこに在ったのはすこしった茶の土だった。

右か、左か。あるいは背後に？

思っていた以上の張に苛まれながら俺はしずつ、しずつ歩いていく。

その時。

視界の端っこに映る茂みがかさりと音を立てて揺れた。

撃――いや……！

照準を合わせるべく上げかけた腕をもとに戻し、俺は素早く近くの木に背を預ける形に隠れた。

瞬間、先ほどまで俺がいた場所にオレンジの弾が飛來する。

敵は銃を構えたまま、自分を狙っていた。それは、俺と敵との撃度の差に直結する。

突然の敵に揺し撃する自分と先に敵の位置を把握し狙っていた敵。

撃ち合えばどちらが勝つかなどわかりきっている。

それに加えてあの弾速。

恐らく俺が持っているハンドガンなどではなく、撃用のライフルだろう。

だが、そこまで距離は離れていない。

遠距離撃にも対応するライフルでこのくらいの距離しか取らないということは敵がそこまで撃に慣れていないということも同時に示している。

俺はそぉっと手ごろなし大きめの枝をぽきりと折り、それをの前に構える。

そして、自の左側へそれをふわりと投げ放った。

それと同時に自分は右側へとダッシュを開始する。

ダッシュの數瞬間後、響いた銃聲とともに弾が飛來。しかし、それは俺の後方で空気を切っただけだった。

初弾を避けれたことにしの安堵を覚えつつ、俺はダッシュを継続する。

敵がいると思われる位置を中心に、緩い弧を描くように、尚且つ盾となる木々を有効的に使える様なコースを。

「見つけた――！」

茂みの影、きらりと鈍くるを見つけた俺は、急激に進路を変えそれに直進する。

今までずっと橫にいていた俺に、照準を合わせ続けていた敵は突然自分に向かって進行してきた俺のきに対応できない。

それを裏付けるように敵の弾丸が俺から大きく外れた木に著弾した。

急に軽くじられたハンドガンを前方に片手で構え、數発発。

ひぃっ、という短い悲鳴の後、混からか敵は茂みからそのを出し、逃げ出した。

もちろん、こんな絶好の機會を俺が見逃すわけがない。

一度停止し、しっかりと両手でハンドガンを構える。

目標はただ逃げていく一人の男。

俺はゆっくりと引き金を引き、出された銃弾がしっかりと敵の背中を捉えた。

「ぐはっ」

著弾の衝撃で彼はを反らせたのち倒れ込んだ。

心の中でぐっ、とガッツポーズをした後、俺は彼のもとに駆け寄った。

「一つ取引がある」

ハンドガンを彼に向けたまま、俺はできるだけ低く、冷たい聲でそう言い放った。

「話すことなんかねぇ……さっさと殺せ！」

「殺さねぇよ。お前、六実のこと好きか？」

「も、もちろん！　彼のためなら溺死でも焼死でも落下死でもなんでもできる！」

六実という言葉が出てきた瞬間、彼は急に元気になり、熱く様々な死に方を語り始めた。ちょっと怖い。

しかも、そんなこと本人の彼氏の前で言えるなんてな……

こんな風に人を変えてしまうなんて、六実、恐ろしい子。

「じゃあ、お前は六実にしでもよく思われたいよな？」

にやりと口元を歪めてそう言うと、彼はぶんぶんと強く首を縦に振った。

「なら、俺がそれに協力してやろう。つまり、六実にお前のことをよく言ってやる」

「ほ、ほんとか！？」

「あぁ。お前の裝備をすべて俺に渡してくれればな」

俺がそう言い終えるや否や、彼は全ての裝備を外し、俺に差し出した。

まともな判斷力を持った者ならこのような行に走ることはないだろう。まともならこんな、仲間の首を絞めるようなことするわけがない。

だが、六実は人の判斷力をも鈍らせるのだ。

六実、やっぱり恐ろしい子。

ともかく、これで貧弱な裝備をしだがましにすることができた。

彼から得ることができたのは、一丁のライフルと一つの手榴弾。

ライフルはスコープの付いたスナイパー仕様。手榴弾は恐らく時限式で、発時にＢＢ弾をまき散らすのだろう。

武をくれた彼に別れを告げ、俺は再び歩き出す。

しかし、神様とやらは俺に靜かな時間など與える気はないようで……。

ざざっ、と俺の後ろから幾つもの足音が聞こえた。

――しまった……！　気を抜い――

「かおるーっ！」

「かーおーるん！」

「おにぃーさまぁ！」

瞬間、聞こえたのは俺に対する銃聲、ではなく三人のの子の真に迫った、あるいは甘ったるい聲だった。

「凜、それに青川！？　あと……ティア、か」

「馨！　お前大丈夫なのか！？　謎の集団に拉致され、その挙句服をがされ――」

「大丈夫！　いろいろと大丈夫だから！（俺の貞とか……）」

俺の肩を両手でつかみ、前後にがんがんと揺さぶる凜をとりあえずなだめ、今一度彼らに向き直る。

「というかお前ら、なんでここが？」

「かおるんの妹ちゃんから連絡があったの。『お兄様が大変だぁ～～！』って」

「いやまぁ、それは大予想ついてたけど……」

俺はえっへんと平らなを張る金髪、ティアを見遣った。

「お前、どうやって俺の場所を……？」

「そりゃあ、お兄様のに――じゃなくて、私ののなせる業ですよ♪」

「おい今なんて言いかけた」

なんかやばいことを言いかけたこいつは紛れもなくいつも俺のスマホの中にいるティアだ。

しかし、今の容姿はいつもと異なり、金髪のお嬢様風。

彼のこの容姿は、以前、六実、凜と遊園地に行くことになった時に俺の妹として同行するため作った容姿だ。作った――というのも、彼は姿をどのようにでも変えることができるのだ。

いや、良く考えたらなんなんだろうな、こいつ。

今まで散々とんでもないことをやらかしてきやがったから姿を変えることぐらい何でもない事のようにじていたが、相當すごいよな。

……保健所とかに連絡して引き取ってもらうべきだろうか。

「で、馨はこんなところで何をしているんだ？　……！　もしかして、野外プレ――」

「なわけあるか！　……六実だよ。この山のどこかに、六実が捕まってるんだよ」

し、視線を下げてそう言う俺の雰囲気をじ取ったのか、彼らは驚いたように目を見開き、その後俺に憐れみにも似た視線を向けた。

「かおるんは彼を助けに行ってるんだよね。なら私たちがすることは一つじゃん」

「そうですね」

「あぁ、そうだな」

彼たちはお互いにアイコンタクトを取り、そして――

『私たちも手伝うよ』

何一つ曇りない、き通った笑顔でそう言ったのだった。