《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第46話 帰還するも……

冷たい空気が漂う廃校舎の廊下。俺はその壁に背中を預け、ここまでの経緯を振り返っていた。

俺は朝から、六実を助けるためにサバイバルゲームをしていた。

そのことは確実に覚えている。

そして、その途中で凜と青川、ティアが參した。これも記憶に新しい。

だが……ひとつだけ、どうしても思い出せないことがある。それは、本當に本的なこと。俺が、サバイバルゲームをしていた相手だ。

六実をさらい、俺とサバイバルゲームをしていたそいつらの顔も、聲も、何もかも思い出すことができない。いや……もしかしたら、全て俺の妄想?

……それはないな。何より、いま俺がここにいること自が証拠だ。

しかし、何なのだろう、この気分は。

やけにリアルな夢を見て、現実の記憶と夢の中の記憶が混ざってしまったような覚。

自分の中の記憶が、どれも偽じみているようにじてしまう。

「とにかく、六実の探索が先……か」

妙に怠いを壁から離し、俺は恐ろしく長い廊下をゆっくりと歩き始めた。

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保健室、職員室、調理室、音楽室……それに、各クラスの教室。

ひとつひとつ確かめていくが、何処にも六実は見當たらない。

やはりここには居ないのか? そう疑い始めた時だった。

「――! 六実! それに凜と青川も!」

「馨くん……?」

3-2の教室。そこに居たのは、気を失い倒れこむ凜、青川と……

……冷たいほどの無表なまま、頰に涙を伝せる六実だった。

「どうした……? 何が、あった……?」

「……ごめんなさい……」

「え?」

ただ立ち盡くす六実に近づくと、彼は俺に倒れこむようにして抱きついてきた。

小さなは、小刻みに震えている。

「……ごめん、なさい……私が……私が悪いの……ダメ、なのに……こんな、こんな……!」

「……六実……?」

は目を真っ赤にし、顔を俯かせ、ひたすら俺のシャツを握りしめている。

「私が……私が……弱いから……っ」

「――? あ、お二人さんおはよ」

「青川! 目が覚めたのか」

その聲の方向を向けば、そこには目を覚ました青川の姿があった。その隣では凜が何やらむにゃむにゃと寢言を言っている。

「はっ! かおるん……こんなとこでそんなことをするなんて……!」

「おいお前、この狀況を見てよくそんなこと言えるな」

確かにまぁ、六実は俺に抱きついているわけで、角度によってはそういう不埒な雰囲気になっているようにも見えなくはないが、その小春は泣きじゃくっているわけで……

「……で、六実……なにがあったんだ?」

「――」

俺ができるだけらかい語調でそう問いかけるも、彼は何も言わず首を振るばかり。

青川も青川で、六実がこんな狀況だというのにふわぁ、と大あくびをかましている。

「……かーおるん。小春ちゃんにだって人に話したくないことぐらいあるんじゃないかな?」

「え?」

やけに悟った目をした青川が靜かな微笑と共にそう俺に諭す。

「大、何で私はこんなとこにいるのよ……。かおるんは何か知ってる?」

「あ、あぁ。青川は俺がしてたサバイバルゲームの加勢に來て、それで拉致されたんだ」

「前半と後半の絡脈が明らかにおかしいのはさておき……で、私は誰に拉致られたの?」

「えぇっと……すまん……忘れ、た……」

「……はい?」

俺のその言葉に、青川は思いっきり素っ頓狂な返事を返した。

まぁ、そうなるのは當たり前だろう。一緒に行していた子を拉致った相手を忘れたなんて、普通に考えてあり得ないだろう。いや、まずあるはずない。なのに……。

「誰が青川を拉致したか、それどころか俺は、誰と戦っていたかすら覚えてない」

そう斷言した俺の言葉を聞いたのち、青川は何やら呆れたように一つ嘆息。そして

「ま、當たり前か……」

がそう呟いたのは、俺の聞き間違えだったのだろうか。

* * *

あの後、泣きじゃくる六実をなんとかなだめ、俺たちは下山。

足腰が立たない六実を背負って下山した所為か、數日腰の痛みが取れなかったのは六実の尊厳のためにも他言無用とする。

しかし……

「おーい、ティア。いい加減出て來いっての。……ったく」

なんとか下山し、バスを乗り継ぎ、俺は帰宅。現在は虛しくも畫面が真っ暗なスマホに話しかけてる真っ最中だ。……おい待て。これ傍から見たら痛いってレベルじゃないぞおい。

で、だ。俺がこうやって悲しくも痛々しい狀況を送っているのは、自稱ナビゲーターティアに依存する。

あの廃校舎で消え去ってからティアはいくら呼んでも出てこない。

というか、俺はあのサバイバルゲームで戦った敵について、一切の記憶が消えてしまったのはティアのせいだと思っていたが……。

「もしかして、何か俺は大きな見落としを……? なんてな」

三流ラノベの主人公じみた獨り言に、我ながら呆れつつ俺はベッドに転がった。

と、その時だった。

けたたましい著信音とともに、握りしめていたスマホがメールの著信を報せた。

『from:青川

件名:お疲れ様

ねぇ、かおるん……。私、かおるんのこと好きかもしれない』

――はぁ?

い、いや、ちょっと待てよおい。好きだ? は? あの青川が? 俺を? いやありえないありえない。そんなことあるわけがない。と言うかあってたまるか。あーでもだけどそのこういう風に告白? とかそういうことされたならちゃんと真剣に考えてからしっかり返答するのが男としての禮儀であるわけで……。って、何考えてんだ俺は!!!

『って、言ったらどうする?』

「ふざけんなっ!!」

再び著信音と共に表示されたその文字列を見た瞬間、俺の中の乙チックなドギマギは散。

瞬時にそれは青川に対する怒りと自分に対する呆れへすり替わった。

『さぁて、かおるんの乙チックなドギマギを青川さんが華麗に散させたところで、説明に移ってあげましょうか』

「……こいつ、テレパシー使えんの?」

と、驚きつつも、こちらからの意思伝達をテレパシーに委ねるわけにもいかない。

俺は、ただ一言、『説明?』とだけ返信した。

『そ。かおるん、私から告白されたとき、思わずどきっとしたでしょ?』

何とも言えない俺は、ただ無言を返す。

『その時點で、かおるんの私への好度がし上がったんだよね。まぁ、かおるん自ではそんなに自覚ないだろうけど』

「で、なにが言いたいんだ?」

『あれれ~? 否定しないんだ。面白くないなぁ……。ま、いっか。ともかくね、男の子っていう単純な生きものは、の子に告白されただけで、そんな風になっちゃうんだよ。っと、私からのヒントはこのくらいかなぁ』

「ヒント?」

『ん。ヒント。まぁ、全てはかおるんの手腕次第なんだもんなぁ……。頑張ってよ? かおるん』

そう、意味ありげな言葉を殘し、青川からの著信は途切れた。

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