「まさか、こんなとこで會うとはねー」

そうにこやかに話すサイドテールの、六実小春と、その橫でカフェなのに緑茶をすする月凜。

カフェにっていた俺と奇遇にも出會った二人は當然のことのように店には行ってくると、これまた當然の様に俺たちと同席した。

向かい合うようにして元々俺と勇人は座っていたが、子二人の登場により席替え、勇人は俺の隣に、子二人はその向かいに陣取った。俺、六実、凜はお互いに面識があるが、勇人だけがこの狀況では部外者に分類される。

當然、六実の疑問は勇人に行くわけで、彼は「この人は？」という目線を俺に送った。

それをじ取ってか、勇人はつらつらと自己紹介をしだす。

「オレは一年の倉敷勇人っす。どーぞよろしく」

「勇人君だね。私は六実小春。よろしくね」

「月凜だ」

慣れた様子で自己紹介する六実とぶっきらぼうな凜。

その二人の自己紹介に勇人はしたようで、彼は俺の腕をツンツンついてきた。

「先輩ってこの二人と本當に付き合い合ったんっすね」

急に羨の眼差しを向けてきた勇人に肩をすくめ、俺は六実たちに向き直る。

「でも、馨くんが男の子と遊んでるなんて珍しいね」

「ん？　あぁ、そう、だな。まぁこいつに相談あるからってカフェに連行されただけだけど」

「馨が後輩に相談されるだと……？　それは……どんな？」

何故か畏怖をにじませながらそう問いてくる凜。これには俺が答えるのもあれだろうと勇人を見遣る。

「えっと……朝倉先輩に、會長との仲を取り持ってもらえないか……と」

意外に直球でそう説明する勇人の言に六実は小さな子らしい悲鳴を、凜は緑茶に口をつけながらも眼を見開いた。彼たちのその姿に勇人も頬を掻きながら照れ笑い。

その微妙な空気を打ち消すべく俺は「六実たちは？」と尋ね返す。

「私たちは靜香ちゃんの誕生日プレゼントを買いにね」

「靜香ちゃん……？　あぁ、青川か」

そして、その言葉を皮切りに四人の間には沈黙が流れた。

誰もが、このご都合主義的な、あるいは運命的な狀況に絶句したのだ。

そして、凜以外の皆が大きく息を吸い込み――

「「「「それだあぁぁぁ！！」」」」

――と、んだのであった。

＊ ＊ ＊

誕生日。

これほど俺のトラウマを掘り返す単語はないのではないかというほど、この言葉が嫌いだ。

現在ではもう何ともじなくなったが、以前は俺も、誕生日というものになからず淡い幻想を抱いていた。

自分の誕生日の日には、學校で「いつハッピーバースデーが歌われるかなぁ」などとドキドキしたり、もしかわいいあの子に誕生日おめでとう、なんて言われたらどう返そうかなぁ、などと妄想を超展開していた俺だが、今まで一度も學校で他人に誕生日を祝われたことはない。

あ、ティアにはあるか……って、あいつはノーカウントだろ。

……なんだかそう考えると誕生日をガッツリ祝ってもらえるのだろう青川を呪ってやりたくなってきた……。

「か、馨、くん……？　それ、藁人形だけど……」

橫から六実が何やら顔を青ざめさせて俺を見ている。

と、いうのも、俺は無意識に売りの藁人形を摑み、何とも醜悪な笑みを浮かべていたのだった。

「こ、これは、まぁ……あれだな。うん、あれだ」

俺は適當に言葉を濁し藁人形を陳列棚へと戻す。というかなんでこんなところに藁人形あんだよ。

「馨、あんまり時間がないのだから遊んでいる時間などないぞ。早く靜香の誕生日プレゼントを選べ」

「……わかってるっての」

後ろから聲をかけてきた凜に目をそらしながらそう応じ、俺は再び商品を見繕い始めた。

――そう。今俺たちは、青川の誕生日プレゼントを買いに駅前のデパートまでやってきたのだ。

件のカフェにび聲が響いたあと、俺たちは綿な話し合いを行い、青川の誕生日パーティーを行うことにしたのだ。

それで、今はそれに向けての準備とプレゼントを買っている、というわけだ。

青川の誕生日は二日後らしいが、早めに準備をしておいて損はないだろう、とまぁそういうことだ。

しかし、その買いは難航しており、なかなか進まない。

俺は雑貨屋の商品を眺めながらうんうん唸っている三人に一つ提案をした。

「ここらでいったん別行にしないか？　一人一人贈りたいものは違うだろうし」

「うん、そうだね。じゃ、３０分後にここにまた集合でいいかな？」

その六実の言葉に皆一つ頷き、散らばっていく。

遠ざかる凜と六実の背中を眺め、俺は勇人に視線を向ける。

やはり、好意を寄せる相手へのプレゼントとだけあってこいつもこいつでいろいろと悩んでいるようだ。

眉間にしわを寄せ、勇人はフロアマップとにらめっこしていた。

……ま、一応フォローしとくか。

「あんま、悩み過ぎんなよ。お前がいくら悩んでも最善の選択なんてできる訳ねぇだろ」

「え？　フォローされるのかと思ったら罵倒されたんですけど……。なにこれ、超常現象っすか？」

げんなりとした様子でそう返す勇人に「ま、頑張れよ」と伝え、俺は歩き出す。

さぁて、どうするかな。……電マッサージ機にでもかかり行こうか……

俺が早速やる気をなくしていると、遠くに見覚えのある人影が映った。

小さめの軀とし青みがかった髪。

しかし、悪戯っぽい瞳には何故かが宿っていない。

一瞬迷ったが、俺は駆けて青川のもとへ。

俺の姿を瞬間、その瞳にはいつも通りのが戻るが、それは無理してそう見せていることぐらい、俺だったもう気づく。

「かおるんじゃないか。どーしたの？　こんなところで。一人？」

「まぁ、な。青川はどうしたんだ？」

「やだなぁ、かおるん。私も花の子高生だよ？　デパートにお買いものぐらい來るって」

「……花の子高生が、獨りでデパート、か」

俺のその一言をけ、青川の表に一抹の影が差す。

だが、それも見間違いだったのではないかと言うほど、素早く彼はもと見せていた微笑みを取り戻した。

「ふふっ。それをかおるんが言う？　まぁいいや。折角だから一緒に回らない？　話したいこともあるし、さ」

そう言った彼は俺の背後へ視線を向ける。

そこには恐らく、青川に送るプレゼントを選ぶ勇人の姿が……。

俺はそれを察し、いや、それ以上に多くのことを察し、敢えて彼の視線は追わなかった。

「わかった。……行くか」

「どうしたぁ？　今日はやけに素直だなぁ？」

青川はツンツンと俺の腕を突き刺しながら悪戯っぽい笑みを俺に向ける。

ったく、今は話を聞いてやろうか。

俺は心にそう呟き、一瞬瞑目した後、「で、話って？」と尋ねた。

「うん。かおるんのことだからもう大の予想はついてると思うけど……」

「倉敷勇人のことか？」

「ストレートに言うねぇ……。そ。あの子のことでかおるんに頼みたいことがあってね」

急に低くなった聲音に思わず青川を見遣る。

それを図っていたように青川は立ち止まると、俺の方へ向き直った。

し濡れているようにも見える瞳には蒼い炎が揺らめいており、その迫力に思わずじろぎしてしまう。

「はっきり言うね。――余計なことはしないでほしい」

その短い一言に、俺は息をするのも忘れてしまった。

氷の槍をに突き刺されたかのように呼吸ができなくなり、が完全に直する。

それだけの、冷やかさを彼の言葉は纏っていた。

「……なぜ？　お前、俺があいつと會ったこと……」

「知らなくても、判るんだなぁ。うまく説明できないけど」

彼は苦笑いを浮かべて首に手をあてる。

青川が言った、余計なこと。

それはつまり、俺が勇人と青川との仲を取り持とうとしていること。

並びに、俺が青川の呪いについて勇人を通じて探ろうとしていること。

それらすべてを、彼は全面的に拒絶している。

だけど、俺は――

「あっ、かおるん。私そろそろ行かないと。それじゃ、話聞いてくれてありがと」

「――っ！　青川っ！」

小走りで走り去ろうとする青川に、俺は手をばす。

しかし、俺の手は空しくも虛を摑んだ。

「いっけない、忘れてた」

だが、彼は俺からし離れたところで立ち止まり――

「私、最近、アロマキャンドルとかほしいんだよね」

と、振り返りながら悪戯っぽく微笑んだのだった。