《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第54話 それは足音を潛めやってくる
何故、こんな結果になってしまったのだろうか。
俺は、自室のベッドに寢転び、今までのことを振り返っていた。
あのチャラ男こと勇人が青川に告白してからの數日間。俺がとった行は本當に最善の行だったのだろうか。そんな風にいつまでも同じことを考えてしまう。
青川の誕生日。
彼と抱き合いながら靄に紛れ、消え去った勇人のことは、俺と青川以外誰も覚えていなかった。
そう、直前まであのパーティー會場で勇人本人と共にいた六実や凜さえもだ。
さらに、後日々な方法を用いて導き出した倉敷勇人宅へ訪ねてみたところ、勇人の母だと思われるも彼のことを一切覚えていなかった。
そして、俺も。
俺は、あの日の出來事を細かくノートに記録を取り、それを読み返すことで何とか記憶を保っているが、気を抜けば、それはするすると頭の中から逃げ出してしまいそうなほど、不確かなものだった。
そして、俺はこうもじていた。
これは、誰かが倉敷勇人という人間がいた事実を誰かが意図的に隠しているようだと。
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倉敷勇人の消滅。
それは、青川にかけられた呪いが発したために起こった現象だと考えて間違いないだろう。そう考えれば、その勇人の存在を隠そうとしているもの、それは呪いをかけた誰か、となる。
しかし、何故?
なぜ勇人の存在を消すことが呪いをかけたものにとってどんなメリットになるのだろうか。
そもそも、この呪いとは何なのだ。
俺や青川の自由を奪い、縛り続けるこの呪いは、一誰が、何のためにかけたものなのか。
……いいや、考えるのはやめよう。
今まで、何千、何萬回も自分にこの問いをぶつけて來たではないか。そして、それに対する答えはいつも、「わからない」の一つだけだった。
今更、この呪いについて深く考えるのは不というものだろう。
俺は深く嘆息し、ベッドから起き上がった時、俺のスマホが煩く喋り出した。
「馨さーん、電話ですよぉ。しの小春さんからですよぉ」
その、呆けたような聲の主は、もちろんティアその人である。
あの、勇人が消えた日から數日後、こいつは當たり前のように俺のスマホの中にいた。
姿をくらましていた理由をどれだけ訊こうと彼は一切話さず、はぐらかすばかりだ。
……とにかく、今は電話に出よう。
俺はティアにサンキュ、と聲をかけてスマホをとった。
「もしもし?」
「あ、馨くん? ごめんね、こんな夜遅くに」
スピーカーを通じて聞こえてくる聲は、聴くものの心を安らげる六実の聲に間違いなかった。
あぁ、疲れた心に六実聲が染み渡る……。
かおるのHPはぜんかいふくした!!
「で、どうしたんだ? 急に電話なんて」
珍しいな、嬉しいじゃんか。今後もどんどん電話してくれていいんだぞ? という最後の一言を飲み込み、俺は六実に聞き返す。……あのね、六実相手に平靜を保って會話をするってかなり至難の業なんだぞ? 普段の俺なら「え、あ、その……ごめん」とか言って速攻切っちゃうレベル。
「そのね、明日の晝休みなんだけど、クラス委員は生徒會室に集合だって。文化祭の話し合いだって」
「文化祭、か……」
文化祭。
それは世界のぼっちが最も嫌う學校行事ではなかろうか。
「クラス一丸となって……」やら、「力を合わせて……」などという言葉が恐ろしい頻度で出てくるこの手の行事に対し、ぼっちは無條件に嫌悪を覚える。(俺調べ)
というか、明日の晝休みのことをわざわざ電話で伝える必要があったのだろうか……。
「えっと……明日學校で伝えようとも思ったんだけど……」
俺のそんな思惟をじ取ったのか、六実は気遣わしげにそう言う。
あぁ、なるほど。
六実はつまり、學校で俺と接することで、俺が六実に心酔している連中から危害をけることを案じたのだろう。し前、多くの生徒から六実が理由で廊下を散々追っかけまわされたこともある。六実はあの時のことなども考え、こうして配慮してくれているのだろう。
……いい子過ぎて泣けます。でも、學校で六実に避けられるみたいな形になるのはもっと泣けるんですけど……。
とまぁ、そんなこと言って六実の気遣いを無礙にするほど俺も馬鹿じゃない。すまん、気を使わせた、とだけ俺は彼に返した。
「ううん、迷かけてるのは私の方だから……ごめんね、私のわがままに付きあわせちゃって」
「わがまま?」
「うん。……その、人になってほしい、っていう」
「んなもんわがままなんかじゃねぇだろ。六実に告……あんなこと言われた時點でこういう風になるってのはわかってたし、俺はそのうえで首を縦に振った」
告白、という言葉を口に出すのが恥ずかしかった俺のことはともかく、彼が謝る理由なんて一つもない。
言葉の通り、男子生徒からける妬み嫉みは予想していた。
……まぁ、子からまでけるとは思っていなかったが……。
「……ありがと。ばいばい」
そして、聞こえてきたその呟きにも似た一言は、とても短く、とても小さかった。
その後、ぷつりという切斷音。
俺は、終わってしまった彼との會話の余韻に浸るように一つ嘆息した後……
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺の馬鹿っ! 何恥ずかしいこと言ってんだ!! あほかっ! 馬鹿かっ!」
俺は、そうびながら、ベッドの上でのた打ち回り、悶絶した。
いや、まぁ普通ならここまでならないだろうね。
確かにの子に語っちゃったりしたら恥ずかしいけど、普通はまぁここまでじゃない。
じゃあ俺がなぜここまで悶えているかって? そんなの決まっているだろ。
『んなもんわがままなんかじゃねぇだろ――』
「ティアァァァァッ!!」
俺が睨みつけるその先、そこには笑いを必死に噛み殺しながら、音聲ファイルの再生ボタンをタップするティアの姿があった。
そう、俺がこんな恥ずかしさに悶えている理由は、こいつ、ティアがすべてあのセリフを録音しているはずだったからだ。
「いや、マジで消してくれ! それは、それだけは……!」
『――俺はそのうえで首を縦に振った』
「やめてくれぇぇぇ!」
いつもは空恐ろしいほど靜かな朝倉家は、その夜一晩中騒がしかった。
* * *
……眠い。
…………とにかく眠い。
………………寢かせてくださいお願いします。
「朝倉っ!」
「はいっ! 起きてます!」
俺は、突然かけられたその聲に勢いよく返事し、さらに勢いよく起立した。
今は多分授業中。恐らくこの選択肢が最善なはず……。
と、思いながら視界のピントを合わせると、そこには俺を見つめる呆れ顔の教師が。
「いや、今更お前が寢てようと、踴りだそうと叱る気にはなれんのだがな……。この問題、お前ぐらいしか解けないだろうからぱっとお願いできるか」
「はぁ……」
踴りだそうと……の部分に多の疑問を覚えつつ俺は黒板の前へ。
クラスメートのしらーっとした目線が熱い……。そんなに見つめられると溶けちゃう!
なーんて馬鹿なこと考えながら俺はすらすらと黒板に答えを書き連ねる。
「ありがとう、朝倉。……はっきり言って俺もよくわからなかったんだ……」
「……そーすか」
おい、お前教師だろうが。生徒に答え教えてもらってどうすんだよ。
そんなこと言葉にできる訳もなく、俺はただ席に戻り、睡眠を再開した。
……教師に寢るのを許可されるって……マジ最高だな。うん。
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